昭和41年

年次世界経済報告

昭和41年12月16日

経済企画庁


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第4章 新局面を迎えた国際資本移動

1. 最近における国際資本移動の特徴

1965~66年にみられた国際資本移動の特色としては,ほぼつぎのような点をあげることができよう。その第1は,国際収支難に悩むアメリカとイギリスの資本輸出規制の強化である。従来,この両国の国際収支対策は,経常収支の改善や証券投資の規制を中心としていたが,それも十分な成果をあげることができなかったため,65~66年には民間資本輸出,とくに直接投資を規制した。第2は,それにもかかわらず,アメリカの直接投資(現地における資金調達を含む)は増大し,とくにヨーロッパ諸国ではアメリカの大企業に対抗する国際的規模の企業育成,ないしは企業合併による経営規模の拡大現象がみられるに至ったことである。

第3は,本国からの資本持ち出しを規制されたアメリカ企業はヨーロッパの資金を獲得,利用するため,ユーロ・ダラーに着目して,巨額の社債を発行し,ヨーロッパにおける長期資金の多くを吸収するに至ったことである。

そして,こうしたアメリカ企業の割り込みによって,ヨーロッパ資本市場の新規外債発行額は初めてアメリカのそれに接近するにいたったが,その半面,金利は上昇した。

第4は,南北の資本移動についてはアメリカ,イギリスの国際収支難から近年低開発国援助の公的負担を圧縮する傾向にあることである。IMF統計によれば主要先進国による65年の低開発国向けネットの長短期資本輸出は64年に比べて微増にとどまった。一方,低開発国の既往債務の元利払いはしだいに増大し(65年は前年比2億ドル増),64~65年では低開発国商品輸出の9.1%を占め,国によっては世界銀行債の新規借用よりも,世銀債務の元利払いのほうが多いことさえあるといわれる。

第28表 民間資本収支

世銀が低開発国に長期資金を提供する方向を確認したのはつい先年のこどであるが,それさえも世界的高金利に災いされて,最近貸出金利の引き上げを迫られる情勢になった。65年以来世銀はその収益中から7,500万ドルを第2世銀へ振替えて長期低利の援助金融財源を強化したが,それでもなお不足するので現在では増資の必要が叫ばれるにいたった。一方,66年9月のIMF総会では,低開発国の輸出補償融資について合意に近づき,また66年9月世銀は65年に承認された権限にもとづいて,国際金融公社(IFC)に1億ドル融資することを発表したが,漸進的とはいえ,南北の資本移動は促進されつつある。東南アジアにおいてはアジア開発銀行が66年11月に創立され,約10億ドルの原資をもって資本不足のいちじるしいこの地域の開発金融に乗り出すことになったが,払い込みの終了は4年後となり,しかも実際に使える交換可能通貨は4億ドルにみたないところに問題を残している。

第5に東西間においては,西側民間企業の社会主義圏内での活動が制約されているため,長期資本移動ははばまれているが,近年は延べ払いベースによる民間の対共産圏プラント輸出が急速に増大する傾向にあり,またそれを支援するための長期輸出金融がアメリカでも考慮されるにいたつた。すなわち,イギリス,西ドイツの有力企業はすでに先年から共産圏へ進出していたが,66年にはいってからは5月のフィアットのソ連に対する乗用車製造プラントの輸出(約8億ドル),10月ルノーのソ連モスクビッチ自動車工場に対する備品,技術輸出(約5000万ドル),ルーマニアに対する年産5万台,ブルガリアに対しては1万台のプラント輸出などが発表され注目をひいた。他方,ジョンソン大統領は66年10月初め,東西貿易関係改善手段の一つとして輸出入銀行の輸出金融保証を従来の東欧2ヵ国(ルーマニア,ユーゴ)から他の4ヵ国(ポーランド,ハンガリア,チェコ,ブルガリア)に拡大し,フィアットの対ソ・プラント輸出に必要とされるアメリカ製機械にもこの保証が与えられることになった。

以上は65~66年にみられた長期資本移動の新しい動きであるが,とくに注目されるのは欧米企業の海外進出である。以下においては,アメリカ企業の対欧直接投資の現状と影響,およびドル防衛による西欧市場への影響などを検討してみよう。


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