昭和41年

年次世界経済報告

昭和41年12月16日

経済企画庁


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第1章 1966年の世界経済の動向

1. 1966年世界経済の展開とその態様

(1) 世界経済の拡大と日本経済

1966年の世界経済は,全体として拡大基調を持続した。この1ヵ年間の世界経済の,工業国を中心とした拡大テンポはかなり高率であった。経済協力開発機構(OECD)調べによるとOECD全体の66年の実質経済成長率は5%程度と見積られているが,この66年の成長率は,65年とほぼ同程度で,戦後で最も高い60年代前半の平均成長率(4.9%)を若干上回っている。

しかし,66年中の主要国の景気局面は,第3図にもうかがわれるようにきわめて多様で,経済の拡大テンポには強弱の差がみられた。すなわち,アメリカが長期繁栄のなかで景気の過熱化傾向が生ずる一方,西ドイツ経済は,過熱抑制策がとられてから景気の沈滞が続き,イギリスでは,ポンド危機に遭遇して引締め政策がとられ景気の停滞が続いている。フランス,イタりアは,65年の景気回復から,さらに順調な上昇局面に移り,やや遅れて日本も景気上昇過程にはいっている。

こうした主要国別の景気局面にかなりの差異がみられたが,アメリカ,イタリア,フランス,日本の景気上昇力の高まりは,他の主要工業国の停滞をカバーして工業国全体の拡大率を高いものにした。66年におけるOECD全体の実質国民総生産増加の実に約8割までは,これら4ヵ国の経済拡大によってもたらされたものであった(第1図)。

いずれにせよ,世界工業国全体として高率な経済拡大が続いたことは,世界貿易の拡大にとって好環境をあたえた。アメリカ,西欧を中心とした工業国相互間の貿易が拡大したばかりでなく,低開発国の工業国向け輸出も66年にはいって増勢を高めた。そのうち,日本の近隣諸国の輸出も増加基調にあり,最近ではその輸入も増勢を取り戻し始めている。

このような世界貿易の拡大は,66年の日本経済にとって,海外需要の拡大という面と,国際収支の黒字基調をベースにした有効需要補給による国内均衡策の推進といった両面から,景気の立ち直りと順調な上昇にとって,非常に重要な原因としてはたらいてきた。しかしながら,半面,アメリカを中心とした工業国の需要水準の高まりのなかで,66年には欧米におけるいちじるしい高金利現象が急速に表面化して,わが国の国際収支にとっても,資本取引の面で,若干のマイナスの影響が現われたことは否定できない。

第2図 アメリカおよびその他のOECD諸国の工業生産

日本経済は年々世界経済との関連を強めているが,66年の国際的影響をふり返ってみても,世界経済の動向が日本経済にあたえる諸影響は,プラスの面でもマイナスの面でも,従来より強められた。そういった観点から,以下においては最近1ヵ年の世界経済の動きと,その主要な特徴について逐次検討を加えていくことにする。

第4図 世界のディフュージョン・インデックス

(2)アメリカ景気の高揚

1)長期好況と民間設備投資の累増

1966年中の世界経済拡大の重要な幹をなしたものは,アメリカ景気の高揚であった。

アメリカ経済は,61年2月以降現在まで実に6ヵ年に近い長期好況を継続しているが,66年の成長力は65年に比べてむしろ高まりを示している。実質国民総生産の成長率は,65年は5.8%であったが,最近3・四半期間のそれは年率にして約6%の高さを示している。また工業生産指数も,65年は8.3%の上昇であったが,最近9ヵ月間では年率で9.5%に達している。長期好況下の産業発展は,工業ばかりでなく,商業,サービス業,農業にも及び,わずか例外的に住宅建設産業が不振を続けているにすぎない。

このアメリカ景気の長期的活況は,いわゆるニュー・エコノミックス(新しい経済政策)に裏づけられたケネディ政権以来の成長政策によって培われてきたものであったし,66年にはいってからの有効需要の動きをみても,住宅を除けば,消費,投資,輸出等,各需要にわたって活発であった。しかしこれらの有効需要中で,過去の上昇期と比較してもいちじるしく特徴的なパターンを示し,もっとも重要な経済拡大の要因の一つとなったものは,民間設備投資の長期的増大であった。

民間設備投資は62年以降一貫して目立った増勢をたどっているが,この設備投資の増大は,長期的な労働コストの低下傾向と期待利潤の増大によって裏づけられている(第5図)。すなわち従来の景気循環過程では,好況の持続期間も短かかったし,労働コストも増嵩する動きをみせていたのに,今回の長期好況のなかで労働コストは低位に推移している。このことは経済の長期繁栄下の資本の完全稼働化のスケール・メリット(設備大規模化による経済効率の向上)を目ざした企業の設備投資の効果が戦後いずれの時期よりも大きいことを物語っている。コスト切下げからうまれる期待利潤が大きいから,企業の投資意欲も強く,資本財を中心とした工業生産の上昇力を継続的かつ大幅なものとしてきている。

66年の民間設備投資は16~17%の増大と予想されており,後述するような高金利と資金市場のひっ迫にもかかわらず投資意欲は旺盛で,業種別にみても設備投資の増勢は機械工業や生産財にとどまらず,全般的に強いものがみられる。

2)ベトナム軍需の増大

民間設備投資とならんで1966年におけるアメリカ景気を高揚させたもう一つの大きな要因は,ベトナム戦局の拡大に伴う財政支出の増大であった。ベトナム関係戦費は,すでに65年後半から拡大しつつあったが,66年にはいってからその増勢はいっそう目立つようになった。国防省のベトナム関係軍事支出は,66財政年度(65年7月~66年6月末)は約50億ドルであったが,67財政年度には100億ドルを超える動きにある。

第6図 アメリカの業種別設備投資

国防費増加の国民総生産増加に占める寄与率は66年にはいって急速に高まり,第1・四半期13%,第2・四半期23%,第3・四半期31%と増大して,この1年間にアメリカ景気高揚に対する財政刺激が一段と強まったことを示している。66年1~9月における軍需品の新規受注高は前年同期よりも25%も増大した。また,アメリカのアジア地域に,おける直接的軍事支払額は,最近1年間に約4割の増大を示している。

第7図 ベトナム・エスカレーションによるアメリカ軍事支出の増大

このような軍需発注の増大は,すでに景気高揚期において供給力の限界に近づきつつあった国内産業,とくに金属工業,機械工業の需給をいっそうひっ迫させる需要圧力としてはたらいているようである。鉄鋼会社の軍需関係売上げは,66年上期には前年同期比45%の増加を示し,また,銅,アルミニュームなどについては,生産のうちの十数%が軍事物資調達に向けられていると伝えられている。そして,ベトナム軍需の影響を受けている製造業者について,物資不足や人手不足を訴えるものも,しだいに増加する傾向を示している。

第1表 主要金属工業の軍需生産枠

3) 過熱化対策の進展

このように,民間設備投資ブームの進展のうえに,ベトナム軍需増大に伴う財政刺激の加速作用が加わったために,アメリカ景気の高揚は66年においてついに過熱化の様相を強めるにいたった。旺盛な需要を賄なうために,資本,労働力はフルに動員され,生産力ギャップは急速にせばまった。

66年第1・四半期の実質国民総生産は年率6%と,当初予想をはるかに超える増大を示し,失業率も2月以降は,すでにニュー・エコノミックスの完全雇用目標とされていた4%水準を割って,4月には3.7%にまで低下し,その後も4%水準を下回る状態を続けている。物価も,“インフレなき長期繁栄”という61年から65年秋ごろまでの様相とは打って変って,卸売,消費者物価とも騰勢に転じた。国際収支も66年々初の黒字予想を裏切って大幅な赤字基調を示した。

第8図 アメリカの国民総生産と供給能力

こういった情勢下で,政府は急拠,消費税減税の延期,源泉徴収税率の引上げ,法人税納期の繰上げの諸措置を講じ,投資と消費の自粛を要請した。

第2・四半期の実質国民総生産の伸びは一時的に鈍化したが,過熱的基調は基本的には弱まらず,6月以降の市中金利は金融市場のひっ迫を背景として,急速な上昇を示し,企業の借入れコストは,実に30年代以来の最高水準を記録した。このような事態に対処するため,連邦準備制度は銀行の貸付け可能資金の増加を適度に抑え,インフレ圧力を抑制するための金融政策を補強することを狙いとして,6月下旬,定期預金準備率の引上げ(4→5%)を行なった。

しかも,その後の景気情勢には,なお需要の増勢に衰えがみられず,金利の上昇が続き,金融政策のみで過熱化を回避するには不十分であることがしだいに明らかとなった。そのため9月初旬には,大統領教書が発表され,投資減税および特別償却制度の停止,連邦政府支出の一部削減,政府機関の新規証券発行規制など,財政上の引締め措置がとられるにいたった。

近年の世界経済の拡大において,アメリカ経済がとくに大きな役割を演じてきただけに,今後のアメリカ景気の成り行きは,たぶんに注目されるところである。

(3) 西欧景気の動静

アメリカ景気が過熱化傾向を帯びながら上昇を続けたのに比べて,1966年における西欧景気の様相は,主要国別にみるところでは,かなりまちまちであった。しかし,景気局面の違いによる国ごとの強弱要因が交錯しながらも,西欧経済全体としては,ほぼ65年を若干上回る拡大テンポを示した。

最近1ヵ年の西欧の鉱工業生産指数は第9図にもみられるように,国別の伸び率には強弱の差をみせながらも,OECDヨーロッパ総合では5.2%の拡大を示している(65歴年は4%増)。

1) イギリスのポンド危機克服策の推進

64年秋のポンド危機から一時的に立ち直ったイギリス経済は,66年春ごろらまたもやポンド危機に見舞われ,ポンド防衛のための引締め政策の展開下で,景気の停滞傾向が現われるにいたった。今回のポンド危機が,従来と比較してもかなり深刻であることは,ポンド危機発生の時間的間隔がしだいに縮まる傾向をみせ,また引締め政策後のポンド相場の立直りの速度も従来の場合よりも鈍くなっている点,などにも現われている。このような事情を反映して,8月にマレーシアではマラヤ・ドルのポンドリンクから金リンクヘの移行を表明し(67年6月から実施),10月にはビルマがスターリング地域からの脱退を決定した。このような諸般の事情は,イギリス経済がより抜本的な体質改善によってポンド危機を克服する必要性の増大を物語るものである。

第9図 西欧の鉱工業生産の推移

第10図 緊縮政策後のポンド相場

イギリスの主要産業の労働生産性をみても,他の欧米諸国よりも,少なからず遜色があるようである,(第2表)。

こうした事情を背景として,66年中にとられたポンド危機克服策の展開は,従来になくきびしいものであった。

7月の「危機レート」7%への公定歩合の引上げと金融引締めに加えて,重点産業への重点的雇用配分をはかろうとする選択的雇用税の新設や,価格,賃金,配当の凍結実施などの体質改善措置が断行されたこと,欧米の貿易自由化環境のなかで,財政金融政策や産業再編成政策によって危機に処する態度が鮮明にされたことは,今回のポンド危機対策の大きな特徴をなすものである。

国内の引締め措置が相ついで打ち出される一方,6月および9月には,国際決済銀行および日本を含む11ヵ国の資金援助および米連銀とのスワップ枠拡大などによるポンド支援のための一連の国際金融協力が行なわれた。

緊縮政策の滲透によるデフレ効果は8月ごろから現われはじめ,景気の停滞的様相がしだいに強まりつつある。とくに,失業者の増勢には政府見通しを上回るものがあり,またデフレの最初の打撃が,イギリスの最大の輸出産業であり,かつ成長産業である自動車や耐久消費財産業に強く現われていることなど,問題解決の容易ならぬことを示している。全体として失業者を大量に発生させずに内需抑制によって解放された資源や労働力を輸出増大面にすみやかに転換していくことが政府のねらいであるが,国際収支改善策と産業構造改善策を併せ持った緊縮政策下のイギリスの前途には,なおきびしいものがある。

2) EEC景気の諸相

つぎに西欧大陸諸国の景気情勢をEECを中心にみよう。

最近のEEC諸国の景気の様相は,需要の代表的先行指標である受注動向(製造業総合)に,もっとも集約的に反映されている。EEC事務局の調査による国別域内企業の受注動向指数でみると(第11図),①西ドイツでは64年夏の金融引締め以降,とくに65年後半から66年前半にかけて明瞭な需要沈静化の推移を画いている。②ベルギー,ルクセンブルグについては,65年後半に回復に転じたあと,66年の需要基調はいくぶん弱含みである一方,③フランスとイタリアについては,64年中需要の減退を示したあと,65年春ごろから景気立直りが顕著となり,66年には順調な上昇過程をたどっている。これらを総合したEECの66年中の全体的な動きは,フランス,イタりア両国のかなり強い上昇力に支えられて,需要の拡大基調を65年よりも総じて強めている。

西ドイツの製造業受注の減退は,主として国内の設備投資基調の弱まりによってもたらされたものであって,消費や輸出の基調は底固さを示している。66年の工業生産の動向をみても,資本財およびこれに関連する鉄鋼の生産が少なからぬ減退を示している半面,消費財生産は,自動車,合成化学製品,玩具,装飾品などで根強い増勢を示している。一方,景気調整策の滲透効果によって,労働需給のひっ迫はいくぶん緩和され,物価にもしだいに落着きがみられるようになった。工業品生産者価格は全部門について安定化傾向をみせ,消費者物価の上昇も小幅になっている。輸出は,海外需要の拡大持続と,国内景気停滞のため企業の輸出努力の高まりなどを反映して好調を続けている。貿易収支の改善を中心として,国際収支も66年年央から黒字に転じている。このように,最近の西ドイツ経済は対内,対外均衡が達成される過程にあるが,金融引締めの下で景気後退が深まり,引締め緩和への政策転換が民間から強く要求されている。

第12図 西ドイツの物価と国際収支指標

フランス・イタリアは,順調な経済拡大の過程を歩んでいる。最近1ヵ年間の鉱工業生産は,フランスが4.2%増(65年0.2%増),イタリアが10%増(65年5%増)で,それぞれ前年の伸びを大幅に上回っている。また,消費者物価の最近1ヵ年の上昇率も65年よりも鈍化し,国際収支は大幅な黒字を継絖している。設備投資は緩やかながら着実に増加している。また両国とも経済構造の近代化,国際競争力強化,社会開発,物価安定化などを目標とした新しい経済計画の出発に当たっており(フランスの計画初年度66年,イタりアは67年),加えて内外均衡が達成されつつある情勢から,財政支出の65年までの緊縮色は目立って緩和される方向を示している。

オランダでは,64年以降の高度成長が66年にも引き続いている。高度成長の中心となったのは,民間の近代化投資と政府の社会資本投資であって,天然ガスの開発や,ロッテルダム,コーロポート周辺の石油化学工業の発達も大きな投資誘因となっている。しかし高度成長のなかで,インフレ傾向と国際収支赤字が強まり,過熱化対策が問題となるにいたっている。

第13図 フランス,イタリアの安定化指数

(4) 低開発国の経済事情

65年の低開発国の農業生産は,東南アジアやアフリカの不振のため64年に比べて1%増にとどまり,一部の国でば食糧危機が深刻化した。これに対して,工業生産はラテン・アメリカを除く他の地域はかなりの伸びを示し,65年は6.7%増となったが,64年よりはかなり鈍化した。また貿易は,65年は輸出・入とも伸びが鈍化したが,66年にはいると輸出は増勢が強まった半面,輸入は引き続き伸び悩んでいるため,従来の大幅な貿易ギャップはかなり改善された。

しかし国別にみると,いぜん国際収支の逆調と激しいインフレーションに悩む国も多く,対外不均衡を基因として経済活動が停滞している国も少なくない。そのうち,東南アジア地域についても各国間の明暗の差はとくに目立った。

もっとも暗い様相を示したのは,インド経済であって,66年央に36.5%の為替平価の切下げが行なわれたが,これは,①数十年来の大干ばつのために食糧危機が深刻化したことのほかに,②従来からの輸出不振による外貨ひっ迫と,輸入抑制による物資不足,物資の欠乏とインフレがもたらす経済停滞の悪循環が限界に達し,③こうしたインド経済の悪化によって,世銀を始め債権国からの借入れも思うにまかせなくなったからであった。平価切下げと同時に,経済効率を高めるための直接的輸入規制の緩和や輸出振興措置がとられた。また,インドネシアも,政紛後の経済的混迷状態が続いている。

第14図 東南アジアの生産・貿易の推移

しかしながら,一方,東南アジアのうちでも日本の近隣諸国の経済情勢は,このところかなり急速に好転する動きを示している。

韓国では,わが国との国交正常化や,アメリカの好況,ベトナムの特需の増大の影響をうけて,この1ヵ年の輸出は急増を示し,一方豊作による農産物増産や金融引締めの効果もあって,物価も為替レートも近年にない安定傾向を示し始めた。66年の鉱工業生産も,順調な拡大の過程を歩んでいる。

台湾の経済は65年には糖価の値下りや渇水による電力不足のため若干低下したが,66年にはいって工業,農業とも着実な拡大を示し,アメリカ向け輸出などに支えられて国際収支も順調な黒字基調にある。そのほかタイ,フィリピンなども,輸出増大による順調な国際収支基調に支えられて,経済の拡大率は高まっている。

以上の,東南アジアの一部諸国の好転は,よかれあしかれ,ベトナムの影響をうけているもようで,たとえば,タイではベトナム情勢を反映した特需収入の増加を主因に外貨準備が急増した半面では,それが国内インフレを促進する一因となってきたことから,8月にバーツの切上げが実施された。

(5) 社会主義国経済の好転

社会主義国の経済は,ソ連,東欧,中国など,64,65年には農業生産の不振もあって成長率は従来よりも低下したが,66年にはいっていくぶん好転し始めている。ソ連,中国とも東西貿易が目立って拡大しているのが近年の傾向である。

1) 拡大に転じた中国経済

中国経済は1960~61年の経済規模の縮小から立ち直って,徐々に回復を示してきたが,昨年工業生産は後退以前のピーク時の水準に近づき,農業生産もピーク時にはおよばなかったが,かなりの回復を示した。66年にはいっても,経済の好調が続き,1~8月間の工業生産は前年同期比で20%の増加となった。第3次5ヵ年計画(1966~70年)の発足によって,農業関連産業(肥料,農業機械)のほか,エネルギー,鉄鋼,機械など基幹産業にも生産増大の高まりがみられる。また農業生産も緩慢な上昇を示しており,とくに水稲,綿花,家畜の増産がいちじるしい。

固定投資の伸びは66年1~8月に前年同期比,18%の増大を示し,電力,石炭,非鉄金属,セメント,肥料などの設備の拡充に重点がおかれた。しかし緩慢な農業生産の上昇,人口の増加,国防費の増大などの諸要因によって,国内貯蓄の増大はかなり制約されている。

2) ソ連経済の回復

ソ連公表の国民所得統計によると,1965年の成長率は6%で,これは63年についで小幅であった。これは,工業生産が8.6%増と計画を上回ったものの,農業生産が63年同様穀物の不作のため横ばいに終ったからである。

66年にはいって,工業生産は引き続き拡大し,1~10月には前年同期比8.5%増で,年間計画の伸び率を上回ったが,電力,化学,食品などの部門の拡大テンポは多少鈍化している。その半面,農業は不振から回復し,穀物収穫高は記録的な水準に達した。

66年から発足した新5ヵ年計画は,国民所得の年平均増加率6.7~7.1%と過去5ヵ年の実績を上回る成長を予定する一方,重工業優先政策を続けながらも,軽工業と農業にかなり重点を移している。また,この期間には利潤原則の導入など計画・管理制度の改革が実施され,経済の効率化が進められることになっている。

以上でみたように,最近1ヵ年の世界経済は,先進工業国の高い成長を牽引力として拡大し,貿易交流を媒介としながら,逐次その拡大効果を低開発諸国にも均てんしていく過程にあったとみられよう。

しかし先進国経済も,かなり高い成長の継続と需要圧力によってインフレの悩みを強めている。

第15図 中国の工・農業生産の推移

西ヨーロッパは,前述のようにフランス,イタリアは物価の安定化傾向を示したけれども,その他の国ではたおインフレ圧力は強く,西欧全体としてみても,またアメリカでも,66年において成長率も高かったが,物価,賃金の騰勢が目立つにいたった。

第16図 ソ連の経済成長率

先進国が対内的に物価上昇に悩まされていると同時に,対外的に国際収支の赤字に悩む国がふえてきたことも注目しなければならない。

先進国中のほとんどの国が60年代にはいってから国際収支調整策を余儀なくされてきたし,現在でも,アメリカ,イギりスの基軸通貨国をはじめとして,カナダ,オランダ,ベルギー,デンマーク,スウェーデン,あるいはオーストラリア,ニュージーランドなど,国際収支対策に悩まされている国は多い。

しかも,66年において,従来のインフレ傾向に加えて,欧米を中心とする国際的な高金利現象の波及(インターナショナル・エスカレーション・オブ・インクレストレート)が顕著に表面化した。物価や賃金が上昇するばかりでなく,金利までもいちじるしく騰貴したことは,いままでにもまして,先進国のインフレ対策が重要性を増しつつあることを示している。

第17図 欧米の経済成長率と物価上昇率