昭和39年

年次世界経済報告

昭和40年1月19日

経済企画庁


[次節] [目次] [年次リスト]

第2部 各  論

第3章 東南アジア

1. やや明るさを増した東南アジア経済

国連の推計によると,1963年における低開発国全体の成長率は4%前後(実質)であり,東南アジア経済もほぼ同様の伸びを示した。

また,東南アジア主要国の国民総生産は,60年に比較的高い増加率を達成したのち,伸び悩み状態にあったが,63年にはいって多少の増勢回復をみたものと思われる。

しかし急速な人口増加を考慮すれば,この程度の成長率では生活水準の向上や雇用増大がさほど進んだことにはならず,かなりの国ぐにの経済にみられる諸困難が緩和されたとはいえない。

とくに62年より引き続いた農業生産の不振が大きな影響を与え,これが全体としての経済成長をおさえただけでな,1人当り食糧生産が2年間低下し続けたことから,国によっては食糧難が拡がり社会不安が醸成されてきた。

他方,63年の東南アジア経済に明るい側面を与えたものは貿易の拡大である。62年はじめから上昇に転じた輸出は,先進工業国における好況の持続と東南アジア域内貿易の活発化によって著しく増勢を強めた。このため鉱産原料および農産加工品の一部では引き続いて大幅な生産増加が起こり,また製造工業部門も好影響を受けたものとみられる。輸入も前年を上回る伸びを示したが,これは工業化の進行とインフレ圧力の上昇に伴う輸入増に加えて,食糧不足の激化した国ぐにが穀物輸入を大量に行なったためである。

輸出の増加率が輸入のそれを大幅に上回ったので,貿易収支の赤字はかなり縮小し,援助,外資の流入もあって対外準備は増大した。

鉱工業生産は,63年にもいっそうの伸びを示し,重工業,軽工業いずれの部門もかなり急速な拡大をみせたが,鉱業の増産テンポはやや鈍化した。

通貨量は依然として増大を続け,軍事費の負担が大きい国ぐにと農業が不振であった国ぐにではインフレ圧力が強まり,食糧価格を中心とした物価上昇がやまず,都市住民の生活難に拍車をかけている。

64年にはいって輸入が増勢を維持している反面,輸出は西欧,日本向けの著しい増勢鈍化,社会主義国向けの減少を経験した。対外準備の増勢は第1・四半期まで持続したが,第2・四半期には多少の減少を示したものと思われる。

63/64年度の農業生産は拡大したけれども,食糧の不足は依然として続き,物価の上昇傾向が強まってきている。他方,61年以来増勢を強めてきた鉱工業生産は,64年上期にいたって伸び率の低下をみた。鉱業,軽工業,重工業のいずれも増勢の鈍化を示したが,電気,ガスの生産はむしろ上昇テンポを高めた。

第3-1図 東南アジア諸国の実質経済成長率

(1)農業生産の不振

1963年の農業生産は世界的に不振であり,基礎食糧の生産は横ばい,低開発国産品であるコーヒー,油料種子,天然ゴム,ジュート,ヘネケンなどは減産を示した。低開発地域の穀物生産は,ラテンアメリカ,北アフリカ,中近東では良好であったが,東南アジアの生産量は62年を越えなかった。

工業が未発達で農業に頼らざるをえず,しかも,人口の4分の1が飢餓に悩まされている東南アジアでの2年間連続の農業不振が,いかに深刻な影響を及ぼしたかは想像できるところである。貿易の拡大,工業生産の上昇といった明るい側面をもちながらも,農業生産,とくに食料生産の停滞がかなりの国で経済危機を招き,社会不安を激化させた。

食糧生産の8割近くを占める穀物の産出は,62年とほぼ同一水準にとどまり,米作は横ばい,59年以来増勢を持続してきた小麦は,3.8%の減少をみた。砂糖,茶などもかなりの減産となり,油料種子は再び横ばい状態が続いた。他方,カサバ,イモ類は引き続き増産を記録し,53~57年水準を5割も上回った。食糧以外では,ジュートなど繊維原料,天然ゴムの生産がかなり減少し,農産原料は全体として3%低下した。

1)食糧生産の停滞

1963年(農業年度,以下同じ)に食糧生産が低下して危機的様相を呈したのはインド,韓国であり,パキスタンの減産も大きい。

インドでは,西ベンガル州,U.P.州などガンガ河流域の米作地帯が天候不順に見舞われ,62年に増産をみた小麦,大麦も減産となった。雑穀類,イモ類の生産は増加したけれども,全体としての食糧危機を防ぐには足らず,食糧の出回り不足と価格騰貴をきたし社会不安を引き起こした。

パキスタンの小麦生産は増加し,雑穀も増産したものが多かったが,東パキスタンの洪水が米作にひびき,食糧全体では63年は3%の下落となった。そのため主食である小麦などの価格が急激に騰貴し,穀物輸入を激増させた。

韓国でも,天候不順と病虫害のため大麦の大減産をきたし,その他の穀物および油料種子も減少した。そのため62年秋の米の不作によって起こりつつあった食糧価格の騰貴が拍車をかけられ,63年央には食糧危機状態となって米価が暴騰した。

これら3国の食糧危機を緩和するため大量の穀物が輸入されたが,主たる供給は,贈与によるものを含むアメリカの余剰農産物であった。

このほか,マレーシヤ,ネパールでは食糧生産は横ばいであり,セイロン,中国(台湾),インドネシア,ビルマ,タイ,ベトナムなどでは増産となった。

このうち,インドネシアでは米作が63年に8%も増大したが,62年の水準が著しく低かったので,60~61年水準をわずかに上回るに過ぎず,食糧価格は暴騰を続け,依然として大量の食糧輸入を必要とした。

セイロン,マレーシヤも米の輸入を増加した。

その他の国ぐにの米の増産は,東南アジア域内の食糧不足国に対する輸出の増大をもたらし,またフィリピン,中国(台湾)では,砂糖の生産が増加し,国際砂糖価格の騰貴を満喫することができた。

第3-1表 低開発地域農業生産の増加率

第3-2図 東南アジアの農業生産

2)東南アジア農業の現状と食糧増産対策

独立後の東南アジア諸国は経済開発に力を入れ,工業面ではかなりの成果をあげてきた。しかし農業生産は停滞的で,目標とされる食糧自給度の向上は実現しそうにない。そのうえ天候の変化に左右される度合いが著しく高く,年ごどの変動が激しくて国民経済全体に大きな影響を及ぼしている。これらの諸困難を克服して増産を達成するためには,潅漑施設の拡充,肥料増投,改良種子の採用などが必要である。技術的にみる限り,東南アジアの食糧の生産性を2倍にすることは可能であるといわれている。

東南アジアのほとんどの国で,技術的改良とそれを裏打ちするための農村金融の強化,協同組合の普及,農地改革などの政策が打ち出されかなりの実施をみたが,効果はあまり上がったとはいえない。これらの諸施設も,伝統的農法を固守する旧い農村社会の殻をつき破って,十分な改善と進歩をもたらすにはいたらなかった。近年の農業生産の停滞と,それが,経済全体の拡大の足伽となっている事実から,農業にもっと開発努力を集中すべきであるという意見が強まりつつある。

3)輸出農産原料の減産

1963年の国際ゴム相場は低迷を続け,世界の天然ゴム生産量は2.5%減少し,東南アジア全体でも2.7%の減産をみた。世界の天然ゴム生産量の4割を占めるマラヤでは,7%の生産増があったが,インドネシア,タイなど他の主要生産国の減産がこれを相殺した。輸出先の先進国で合成ゴムの進出が続き,天然ゴムの地歩が失われつつある。

繊維原料では,ジュートが大幅な減産をみた。主要生産国であるパキスタン,インド,タイは,いずれも生産を低下させた。

他方,インド,パキスタンでば,好天に恵まれて綿花生産は大幅な増産となり,パキスタンは綿花輸出を62年の2倍に増加させた。その他の国ぐにでは,綿花生産は若干減少した。

(2)鉱工業生産の伸長

低開発国全体としての鉱工業生産の増加テンポは,1961年以来鈍化してきている。鉱業,製造業いずれにもこの傾向がみられるが,製造業ではとくに重工業にはっきりとあらわれている。

このなかで,東南アジアの鉱工業生産は上昇の一途をたどっており,61年の7.4%増が,63年には10.6%増となってきている。鉱業生産は62年に9%伸びてから,63年には6%へと増勢を鈍化させ,逆に製造業は63年に増産の幅を大きくした。電気・ガスは,依然として重工業と同じ高い増加率を示している。

1)鉱業生産は増勢鈍化

1963年における鉱業生産の増勢鈍化は,錫鉱石と原油の減少によるものである。石炭は12%,鉄鉱石は10%の増産となった。

錫鉱石の減少は,インドネシアの産出縮少の結果で,マレーシヤはじめ他の国ぐにでは増産が続いた。インドネシアの減産は,年初に生産地バンカの錫鉱山が洪水に浸されたためもあるが,54年以来減少傾向が続いており,一般的な経済状勢の悪化,およびマレーシヤ紛争による市場の変更が悪影響を与えたものとみられる。

原油では,インドネシア,ブルネイの二大産出国がいずれも減産であった。

鉄鉱石では最大の産出国であるインドが10%の増産を示し,マレーシヤの増産も10%近い。これはいずれも日本の大量買付けが刺激となっているが,国内に建設されつつある鉄鋼業からの需要もしだいに増加している。

一方,フィリピン,タイは逆に減産した。

インドは,石炭の産出量を第3次5カ年計画の終わる66年までに1億トンにする目標でいくつかの増産計画をたてており,63年には8.8%増加して6,681万トンとなった。第二の産出国パキスタンはインドの6分の1の生産量であるが2.5%増産し,これにつぐ韓国,中国(台湾)はそれぞれ18%,および6%の増産となった。

その他,天然ガスの生産ではインドネシア,パキスタン,中国(台湾)いずれも増加した。なかでも,インドネシアにつぐ産出量をもつパキスタンは17%の増産をみた。

第3-3図 地域別鉱工業生産

第3-2表 東南アジアの鉱業生産

2)製造工業の拡大

1963年の工業生産の伸び率をみると,軽工業の増勢が高まり,重工業は前年と同じテンポの拡大を示した。両者の増加率を比較すれば,依然として重工業の方がかなり高い。

食糧生産の不振を反映して,食品加工業(タバコを含む)は4%の増産にとどまった。インド,パキスタンでは減産を示したが,砂糖ときのこかん詰の大量輸出を行なった中国(台湾)や,アメリカ向け砂糖輸出を激増させたフィリピン,それに63年秋に米の豊作を記録した韓国などでは生産指数はかなり上昇した。

東南アジアの工業生産で,食品加工業につぐ比重を占める繊維産業は,約6%の増産となった。前年来,繊維生産の伸びがはかばかしくないのは綿製品の不振によるものであって,63年の綿糸生産は3%増,綿布その他綿製品は3%減少した,これに対し,ジュート製品が5%伸びたほか,新規に導入された化学繊維,合成繊維の生産が著しく拡大した。

綿業の不振の主因は先進工業国の輸入制限にある。イギリスは62年にインド,パキスタンおよび香港からの綿製品輸入の制限を3年間延長した。

63年には中国(台湾)からの輸入にも制限を課したが,その水準は61年実績の12分の1にしかならない。またアメリカは,中国(台湾),香港,韓国,フィリピンに対し繊維品の輸入制限を課している。そのうえ,従来市場としてきた低開発国で繊維産業が起こり輸出が困難となってきた。

第3-3表 東南アジアの工業生産

化学繊維,合成繊維の増産が著しいのは,インド,パキスタン,韓国のナイロン,中国(台湾),フィリピンのレーヨンなど,工場を新設して国内需要を満たし,輸出にも乗り出そうと努力してきた結果である。

そのほか,木製品はインド,フィリピンなどでかなりの増産があり,紙の生産もインドで28%伸びた。

低開発国で,需要もあり比較的建設し易い工業にセメントの生産があるが,東南アジアでもかなりのテンポで発展してきている。しかし,63年の伸びは2%にも満たなかった。これはインド,パキスタン,中国(台湾)など,大口生産国でのかなりの増産がみられた反面,伸び悩みや減産を示した国が相当数にのぼったためである。

63年の化学品の生産は18%増大した。その中心は化学肥料であり,東南アジアの二大農業国,インド,パキスタン,および集約的農業の建設に成功した中国(台湾)の生産高が比較的大きかった。インドでは,その高い増加率にもかかわらず,計画目標に到達できずにおり,使用量の半分近くを輸入に頼っている。

金属生産の上昇は15%と高率であったが,その中心は鉄鋼業で,最大生産国インドが粗鋼600万トンを生産し前年を17%上回り,中国(台湾)は19%伸び,その他韓国,パキスタンもそれぞれ増産を示した。

機械など金属製品も,15%の増産を記録した。インドでは,パンジャブに新設した工作機械工場の生産の伸びが大きく,他の機械類の増加も大きかった。韓国では,乗用車や自転車の生産は大幅に増加したが,一般機械は生産的投資の減退のため減産した。中国(台湾)の金属加工業も,かなりの増産を示した。

第3-4図 鉱工業生産の推移

3)1964年上半期の鉱工業生産

1964年上半期における東南アジアの鉱工業生産数は,前年同期を6%上回っており,63年の増加率よりかなり低くなっている。そのうち鉱業生産の伸びは5.5%,製造業のそれは6%であって,とくに,製造業の成長の鈍化がうかがわれる。また,電気・ガスの伸びは16%に達し増勢を強めた。

工業の各部門別にみると,食品加工業が回復し,繊維品,紙が伸び率を高めたほかは,増勢が鈍化し,とくに重工業部門の増産テンポが落ちた。これは,比較的に工業が発達しており,東南アジアの工業生産に大きな比重を占めるインド,韓国などで生産の上昇テンポが鈍ったためである。

第3-5図 相手地域別貿易の増加率

(3)貿易の伸長と国際商品相場の動き

1963年における低開発国全体の輸出は高い増加率を示し,64年上期にも増勢は持続している(年率9%)。このような輸出の増大は,先進工業国の景気上昇に負うところが大きく,西欧,日本向けの伸び率が高い。とくに63年においては,低開発国輸出の大宗である一次産品の顕著な価格上昇が輸出額を高めた。

低開発国の輸入は,63年には従来の低い増加テンポが続き,62年を2.3%上回ったにすぎず,むしろ,64年にはいってから増勢を強めた。このような輸出入の動向から,低開発国の貿易収支の赤字幅はかなり縮少してきた。

東南アジアの輸出も,63年には低開発国全体の傾向と同様に1割以上の増大を示したが,64年にはいって増勢は鈍化した。東南アジアの輸出価格は,この間ほとんど上昇をみていない。輸入は63年上期から増加テンポを高め,前年比6%増となった。64年第1・四半期にも同程度の拡大率を示したのち,第2・四半期には前年同期の水準を下回った。

1)国際商品相場の上昇と輸出価格

低開発国輸出の85%は一次産品で占められているが,その輸出価格は1957年以来低落傾向にあり,低開発国に与える打撃が憂慮されてきた。この一次産品の国際相場は62年第3・四半期を底として上昇に転じ,低開発国の輸出額を押し上げることとなった。62年第3・四半期から64年第1・四半期までの間に,一次産品価格は9%上昇した。上昇傾向は,農産物とくに食糧で著しく,64年第1・四半期まで上げて,以後低下しはじめたが,逆に,鉱産物価格は62年以来,横ばいに推移し,63年末にいたってようやく上昇傾向にはいった。

63年を中心とする農産物価格の騰貴は,主として供給側に起こった諸事情を原因とするものであった。62年に多くの国々の農業が不振であったのに加えて,かなりの温帯産品の生産は63年にも低く,いくつかの熱帯産品も天候不順に会って減産した。

需給バランスは,とくに食糧で大きく変化したが,原料品についても,先進工業国における鉱工業生産の上昇が需要を高めたこともあって,価格を上昇させる結果となった。

食糧価格の騰貴は,砂糖,ココア,バター,トウモロコシ,豚肉が著しく,繊維のなかではサイザルと羊毛の値上りが大きかった。しかし,価格上昇は広範囲の品目にわたっており,62年から63年の間に価格が下落したものは,世界貿易にはいりこむ国際商品の3分の1に達しなかったといわれる。

他方,鉄鋼業の増勢鈍化によって,鉄鉱石などの製鉄原料は値下りし,合成品の進出におびやかされるゴム,皮革,ジュートも価格の低落を経験した。

この国際商品相場の上昇は低開発諸地域の輸出価格を高めた。とくに,上昇をみた地域はアフリカとラテンアメリカであり,ココア,砂糖の急騰が響いている。これに対し東南アジアでは,ジュートとゴムの大幅値下りが他の品目の騰貴を相殺して,輸出価格の平均は横ばい状態にとどまった。

64年にはいってからも,第1・四半期までは従来の傾向が持続したが,その後農産物の価格は低下しはじめた。これに代って,錫,銅,鉛,亜鉛など非鉄金属が,工業国の経済上昇を反映して続騰することとなった。

第3-6図 ロイター世界商品相場指数

第3-4表 一次産品輸出価格指数

第3-5表 輸出価格

2)輸出の拡大

東南アジアが1963年に達成した輸出増加は,このように価格の上昇によるものでなく,輸出数量の拡大によるものであった。輸出品目では,食糧農産原料,鉱産物といった一次産品だけでなく,工業製品も輸出の伸長をみたものと思われる。食糧では米,砂糖,農産原料では木材,綿花,植物油,鉱産物では鉄鉱石,マンガン鉱石が大幅に伸びた。

相手地域では,先進工業国向けが62年よりさらに高い増加率を示し,とくに日本向けは3割も増大した。従来高かった社会主義国向けの伸び率はやや鈍化した反面,東南アジア域内貿易は7%増大している。

他方,国別にみると,一次産品価格の上昇が異常な輸出額の増大を招いた国もある。価格騰貴の著しかった品目は,砂糖,コプラ,ヤシ油であったので,これら品目の大口輸出国であるフィリピンは63年に輸出を30.8%も増大させることができた。64年にはいって,これら品目の輸出数量は低下し,砂糖については値下りをみたので,輸出の増加テンポは著しく鈍化した。また,台湾は最大の輸出品目である砂糖の値上りで,63年の輸出増は52.3%にも達した。

マラヤ,パキスタン,タイの輸出価格はかえって低下し,セイロン,インドは62年と同一の価格水準にとどまった。しかしこれらの国も,セイロンを例外として,63年にはかなりの輸出増を達成した。もっとも64年にはいると,これらの国ぐにも輸出の減退を経験したものが多かった。

64年上期には,東南アジアの輸出は前年同期比2.1%増の水準にとどまり,低開発国全体の10.6%増とは著しい対照を示している。

この原因の一つはマレーシヤ紛争の激化によるシンガポールおよびインドネシアの輸出減少であるが,砂糖その他の値下りで影響を受けたフィリピン,米輸出の減退をみたビルマ,またインド,パキスタンなども輸出が不振であった。相手地域では西欧,日本向けの増勢が著しく鈍化し,社会主義圏向けは減少さえ示した。アメリカ向けは,逆に増勢を強めている。

3)輸入の増加

東南アジアの輸入は1963年に5.6%と増勢を強め,64年第1・四半期にも前年同期を6%上回る拡大を示した。しかし第2・四半期には前年同期を2.5%下回っている。

輸入価格にはさほどの変動は認められず,輸入数量は増加しているが,これは,工業化やインフレに伴う輸入増に加えて食糧不足から食糧輸入が激増した国があったためとみられる。ただし輸入については,従来から制限措置が厳しく,パキスタン,フィリピンなど制限緩和を行なった国や,インフレが著しい韓国などの輸入は大幅に増加した。これらの国も,本年にはいってからは対策の強化があったりして,減少に転じたものが多い。

相手地域では,北米からの輸入が激増した。資本財輸入に加えて援助などによる穀物輸入の増大があったためである。62年に減少した西欧からの輸入も増大に転じ,日本からも1割以上の輸入増を行なった。社会主義国からの輸入の増勢は鈍化したが,なお13%と伸び率は高い。

63年に輸出増大の著しかった一次産品輸出国について,輸出増の効果が64年にはいって明瞭にあらわれ,国内生産の上昇と輸入増が起こっているとみられるが,東南アジア諸国では鉱工業の伸び率は,むしろ鈍化気味であり,一,二の例外を除き,63年に輸出増の大きかった国の輸入がとくに増大しているとはいえない。

(4)金外貨準備の増加

低開発国全体についてみると,輸出が好調な反面,輸入の伸びが小さかったので貿易収支の赤字は縮少し,外国援助,外資の引き続く流入などもあって,1962年第4・四半期以降64年第1・四半期まで,金外貨準備は増加を続けてきた。

東南アジア諸国についても同様の傾向がみられ,62年第3・四半期末の3,035百万ドルから,64年第1・四半期末の3,550百万ドルまで金外貨準備は増大した。もっとも64年第2・四半期には若干減少した模様である。輸出増加の大きかった中国(台湾),フィリピンでは,金外貨準備の増加率が最も大きく,63年1年間に中国(台湾)は91%も金外貨を増加させた。フィリピンの増加率も47%に達したが,水準としては著しく低く,166百万ドルにすぎない。これに対し,輸出が急激に減退した唯一の国セイロンは,金外貨準備は逆に縮小している。

その他の国ぐには,いずれもかなりの金外貨準備の増大を経験した。もっともその多くが慢性的な外貨危機に悩まされてきており,金外貨蓄積の水準が異常に低いので,その増加が直ちに輸入増をもたらすことは考えられない。

(5)金融財政とインフレーション

東南アジア諸国の通貨は二,三の例外を除いて著しく弱い。その原因は,国内通貨の膨脹が急速で物資の供給がこれに伴わず,インフレ圧力を高めていること,および輸入額が輸出額をはるかに上回り,国際収支難が慢性的に続いているためである。

前者については,多数の政府が経済開発の主体となり,財政支出で投資資金をまかなうため,赤字財政に訴える点も大きいが,隣国との緊張関係から膨張を続ける軍事費も問題を投げかけている。

また後者については,野心的な開発計画を遂行するため,資本財輸入,原材料輸入を激増させてきたことが原因である場合が多い。

63年にもインフレーションの著しい高進を経験したインドネシア,韓国,ラオスの3国について,巨額の軍事費負担が意味するところは明白である。

また,中印国境紛争以来軍備の拡充に努めているインドや,カシミール問題をかかえたパキスタン,マレーシヤ紛争にまき込まれたマレーシヤ,その他南ベトナム,タイ,中国(台湾)など,ほとんどの国が軍事費の重荷を負っている。

開発計画についても同様であって,低い生活水準,急速な人口増加といった問題に直面して,ほとんど全部の国が経済社会開発計画をもち,工業化を進めてきた。もっとも,開発計画の実施が必ずしもインフレーションや国際収支難を招くとは限らず,長期にわたって通貨の安定を維持してきたマレーシヤ,タイは赤字財政を行なわず,貿易収支もほぼ均衡している。

財政は赤字を続けながら,民間部門に対する銀行貸出しを制限し,公定歩合を高い水準に置くなど,63年には金融政策を,物価上昇に直面して引締め基調とした国が多かった。また,財政赤字を削減する努力をした国もある。

1963年以来,物価の上昇に悩まされてきた国にはインドネシア,韓国,ラオスのほかインド,フィリピンがあるが,これらの諸国の示した物価上昇の特徴は,農業生産の不振とからんで,食糧価格の騰貴が中心となり主導力となった点である。

低生活水準の場合,エンゲル係数が極めて高く,都市化の急速な進行や所得増加がそのまま食糧需要にはねかえること,人口増加が急速であること,流通機構が前近代的であることなど,低開発経済の特徴がインフレーションにおける食糧の役割を強調することとなった。これら諸国の多くで,財政・金融の引締め政策により通貨供給の膨張が鈍化しても,なお物価の上昇が続く事実はこのことを示している。

第3-6表 各国生計費の推移

(6)経済見通し

以上みてきたように,東南アジアを含め1963年の低開発国経済は最大の産業である農業の不振に悩まされた反面,輸出を大幅に伸ばすことができた。

64年には,農業生産が好転したものの1人当り食糧生産は増加せず,食糧不足はむしろ強まったものと思われる。

輸出は,64年上期末では増勢を続けているが,輸出価格の上昇は鈍化ないし停止した。

1964/65年度の農業生産の結果がよほど良好でないかぎり,65年にも食糧不足が緩和される見込みは薄い。

他面,先進工業諸国の輸入見通しは明るくないので,低開発国輸出の大幅増加は期待できないであろう。

鉱工業生産の増勢を維持するためには輸入の拡大が必要であるが,先進国からの援助に頼るか,外貨準備の流出を甘受するかしかない。低開発国の経済困難はなお続くものと思われる。


[次節] [目次] [年次リスト]