昭和39年

年次世界経済報告

昭和40年1月19日

経済企画庁


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第2部 各  論

第1章 アメリカ

1. 1963~64年の景気動向

(1)1662~63年

1963年のアメリカ経済は,62年より引き続いて順調に推移し,国民総生産は5,893億ドルに達した。これは,63年初めヘラー大統領経済諮問委員長が63年央に減税の実施されることを予定して推定した同年の国民総生産の高い数字(5,830億ドル)をも上回った。62年第4・四半期から63年第4・四半期までの総生産増加額は324億ドル(時価)に達し,不変価格で測った伸び率は3.9%に達した。また61年第1・四半期に景気循環の底をついて以来64年第2・四半期までの伸び率は5.7%(実質,年率)に達したが,これは49~53年の景気循環の上昇期を除けば,第二次大戦後かつてみられないほどの拡大速度であり,また,49~53年には朝鮮動乱による軍事支出が大きな上昇要因になっていたことを考えると,今回の好況局面における上昇速度はかなり著しいものであったといえよう。

国民総支出の主要構成項目を寄与率でみると(第1-1表参照),62~63年の増大に最も大きく貢献したのは個人消費支出であって,その強さは61~62年の場合をも上回っており,とくに耐久財,サービス支出の増大が注目される。これに対して,在庫投資や政府購入は前年以下の寄与率となったが,設備投資,非農住宅建築,純輸出は前年程度の寄与率を示した。

一方,工業生産指数は,63年には5.1%増大した。自動車のモデル・チェンジが例年より早めに行なわれ,鉄鋼消費財産業の在庫の食いつぶしなどから8月中旬まで鉄鋼生産が低落気味であったため,8,9月には小幅な停滞を記録したものの,63年12月の水準は前年同月を6.5%上回った。

このような力強い好況を示す別の指標としては,63年夏に民間雇用数がはじめて7,000万人台を越え,年間の1人当り可処分所得もはじめて2,100ドル台に乗せ(前年比実質2%増),乗用車売上台数(輸入車を含む)は,これまでの最高記録(1955年)を越え,非農住宅着工件数は160万戸を突破したことなどがあげられる。こうした情勢のもとに法人利潤は新記録をつけ,64年の設備投資の増大をもたらす一因となった。

ただ,こうした好況のなかでも失業率は62年の5.6%から63年の5.7%に微増した。これは,雇用者数のふえた反面では新規労働力の供給がふえ,一方ではオートメーションが進行したためで,アメリカが,ここ数年来未解決のまま抱えこんでいる難問題である。それにしても,既婚男子の失業率は減少し,また,失業による因窮者も前年ほど広い地域にはわたらなかった。

(2)1964年上期

つぎに,1964年の景気上昇について概況を説明しよう。国民総生産は,64年第1・四半期にはじめて6,000億ドル台に達した。ジョンソン大統領は年頭の経済教書で64年の見通しを6,230億ドル(上下各50億ドルの幅をおく),実質成長率を5%と推定したが,その後の動きは政府目標の実現を示唆している。この成長率は63年の3.4%よりもかなり高い。ところで,アメリカ景気の現段階をみるため64年第2・四半期の国民総生産を過去の同じ四半期と比較して現状の位置づけをしてみると,64年第2・四半期は前年同期水準を5.2%上回り,前年同期の対前年増加率よりも高くなっている(第1・四半期は61年において景気後退の谷になっているので,比較に適当でない)。

63年後半に一時小幅に停滞した工業生産は,その後再び活況をとりもどし現在にいたるまでかなり好況を続けている。64年上期の国民総生産は前年同期水準を5.6%越え,また工業生産指数は6.1%上回っている。

いま景気の長さを景気の基準日付でみると(第1-2表参照),現在進行中の景気拡張期は,61年2月に底入れして以来,すでに40数カ月を経過し,第二次大戦後の平和時としては最も長期的な上昇過程にある。しかも,現在の見通しでは,以上のようなかなり急速な上昇速度が,年内から65年央ぐらいまで続くとみられている。

こうした拡大を支えた原因は種々あるが,そのうち最も重要なものは①消費者支出の堅調,②雇用の増大,③政府支出の増加,④旺盛な工場・設備投資の増大などで,在庫はさほど大きな役割をしていない。

63~64年第2・四半期における主要構成項目別の寄与率をみると(第1-3表参照),個人消費支出の寄与率は63年にピークに達したが,64年にはやや衰え,サービス,耐久財支出の衰えが目につく。政府購入とくに軍事支出が好況のさなかにあって大きな浮揚力となっているのは,秋の大統領選挙と関係があるかもしれないが,純輸出が大きく好転しているのも注目される。工場・設備投資は力強く増大したが,61,62年にかなりの寄与率を示した非農住宅建築はもはや大きな浮揚力ではなくなった。64年第2・四半期の在庫投資は中立であったが,63年同期がマイナスであったのにくらべればやはり好転といえよう。


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