昭和38年

年次世界経済報告

昭和38年12月13日

経済企画庁


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第2部 各  論

第5章 共産圏

3. 東西貿易の推移

62年の東西貿易は,西側の輸出が52億ドル,同じく輸入が55億ドルで,前年にくらべ輸出が6.5%,輸入が11.4%増加したが,61年の伸び率(輸出10.9%,輸入14.3%)を若干下回った(第5-23表参照)。しかし62年における自由世界の貿易総額の増加率(輸出5.0%,輸入6.2%)を超えており,61年に引続き自由世界の貿易に占める東西貿易の比重は増大し,輸出入とも約4.2%となった。

自由世界を工業国と非工業国(ただしキューバを含む)に分けてみると,62年には共産圏と非工業国との貿易は,ソ連の非工業国からの輸入の場合を除いて,すべて工業諸国との貿易を上回る伸びを示し,東西貿易に占める非工業国の比重は増大した。これは,近年ほぼ一貫してみられる傾向であって,58年に非工業国は共産圏に対する西側の輸出の25%,同じく輸入の29%を占めていたのに対して,62年にはそれぞれ輸出の31%,輸入の38%に達している。

このような非工業国の対共産圏貿易の著増は, 一つには,共産圏諸国とキューバとの貿易が激増したことを反映するものであるが,工業国間貿易の拡大が工業国対非工業国ないし非工業国相互間の貿易の拡大を上回るという世界貿易の一般的趨勢からみて注目に値する。

自由世界工業国の共産圏貿易では主として,機械その他の工業製品を輸出して,原料および食糧を輸入し,また非工業国の共産圏貿易では, 一次産品を輸出して資本財その他の工業製品を輸入するという貿易パターンを示している。

ソ連,東欧の場合には経済構造の高度化と工業化の進展にともなって貿易構造も変化し,資本財の輸出と飲・食料の輸入が相対的に急速に伸びている。中国(本土)についても,長期的趨勢としては非工業国向け工業製品輸出の比重増大がみられる。また共産圏諸国の経済援助の効果もあって,非工業国と共産圏との貿易は大幅に拡大している。これにくらべると,工業国の場合は,ココムの輸出制限は漸次緩和されつつあるものの, 一次産品の輸入に問題があるため,共産圏貿易の伸びは比較的小幅に止まっている。

とくに中国(本土)の場合60年以降は資本財輸入と一次産品輸出の減少によって工業国との貿易が停滞していることが,その比重を縮小させているのである。

(1) ソ連,東欧

ソ連の自由世界との貿易は62年にも圏内貿易より大幅に増大した。工業国との貿易も対西欧輸出8%,輸入16%増(ソ連の統計では輸出9%,輸入18%増)また日本からの輸入約2.3倍(輸出は横ばい)とかなり伸びたが,低開発地域との貿易はとくに大幅に増大し,なかでも対東南アジア貿易は輸出48%増,輸入20%増と著増を示した。

東欧の場合は西欧との貿易が対西側貿易の60%を超えているのであるが,62年にはその増大は比較的小幅(輸出6.6%,輸入3.4%)であった。これに対して低開発国との貿易の拡大が目立ち,対東南アジア貿易では輸出16%増,輸入23%増,対中東貿易では輸出17%増(輸入は減)を示した。

つぎにソ連と自由世界との貿易を各国別にみると,工業諸国との貿易は輸入の伸びが大きく,とくに日本からの輸入は機械,船舶,鋼材を中心として2倍以上に激増し,輸出の横ばいにもかかわらず,輸出入合計で自由圏の貿易相手国中,61年の第6位から62年には第4位となった。そのほか西ドイツとの貿易は輸出(銑鉄,木材),輸入(鉄鋼とくに鋼材,鋼管,銅)ともに伸び,フランスからの輸入も機械類,消費財を中心に増大した。これに反し,イギリスとの貿易は輸出入とも減少し,イギリスは相手国中61年の首位から3位に落ちた(第5-24表参照)。

ソ連の工業諸国からの輸入のうちでは機械類が大半を占め,その主なるものは食品工業,化学工業,木材工業,軽工業などの機械設備および船舶であるが,62年には前年にくらベイギリス,西ドイツ,イタリアからの輸入は減ったのに反し,日本,フランス,フィンランドからの輸入は大幅に増加した(第5-25表参照)。

他方,ソ連の主要輸出品であり,かつ東西貿易拡大の一つの要因ともなっている原油の輸出は,62年には前年にくらべ日本向けでは多少減ったのに反しイタリア,西ドイツ向けにはかなり増大した(第5-26表参照)。

ソ連と低開廃地域との貿易では61年に引続き輸入は微増に止まったが,輸出はインド,インドネシア,ブラジル向けがかなり増大した。とくにインドに対しては機械,鉄鋼を中心に伸び,これらの商品グループだけで輸出額の75%を上回った。これに反してアラブ連合との貿易は輸出(機械は著増,原油,鉄鋼が減少),とくに輸入(綿花)が大幅に減少した。

(2) 中国(本土)

中国(本土)では62年に輸出は約9%増加したが,輸入は約9.5%減少し貿易収支は依然入超ながら,かなり改善された。輸出の増大は農業生産の好転によって主としてアジア,アフリカ市場向け,一次産品および軽工業品の輸出がじょじょに増加し,また西欧諸国に対しても不均衡是正のための輸出努力が行なわれたためである。なお,外貨取得源としてその動向が注目されてきた銀売却は,62年に入って目立って減少した。一方,緊急食糧輸入は前年にくらべかなり減少したが,すでに65年までの長期契約が締結されているので年間平均500万トン弱の小麦および雑穀が引続き輸入される予定となっている。なお主要輸入相手国のカナダでこのほど決済条件が緩和され,延払いの償還期間が従来の1年から1.5年間に延長された。

西欧諸国からの資本財輸入は61年以降大幅に減少し,62年にもさらに減少したが,輸入品目も従来の鉄鋼,非鉄など基礎財の輸入に代って,化学肥料,農薬,農業機械など主として農業増産に直接役立つものに切換えられた(第5-27表参照)。

63年に入って,少なくとも上半期までは目立った変化はみられない。香港,シンガポール向け輸出は前年に引続き増勢を示しているが,対西欧貿易では,フランス,イタリアで微増したほかは停滞的である。しかし,工業見本市の開催,貿易使節団の交流など貿易増大に向う気運は下半期以来次第に高まっており,最近日本のビニロン・プラントの成約に続いて,イギリスの合成アンモニア・ブラント,オランダの尿素プラントの成約もみられた。中国(本土)側も将来の輸出余力の増大とにらみ合わせて,長期契約に関心を示しており,要は緊急食糧輸入の動向,輸出余力の増大,対ソ借款返済などの時期にかかっているといえよう。

一方日本の対中国(本土)貿易は60年後期に入って再開され,62年にはかなりの回復を示した。同年11月には民間綜合貿易に関する覚書が締結され,貿易は順調に拡大している。また63年9月にはビニロン・プラントの延払い輸出が決った(第5-28表参照)。

しかし,二国間均衡をたて前とする貿易方式のもとでは,貿易拡大のためには差し当って輸入物資が限定され,たとえばこのほど調印された民間総合貿易の第2年度の協定でも,鉄鋼原料の買付を次第に増加する予定となっているが,この問題については中国(本土)側の供給力,品質といった点に問題が残されており,またビニロン・プラントに続いてプラント輸出の問題があるが,その場合にも信用残高の累増,決済条件,金利調整などの点で解決すべき課題が残されている。

(3) 自由圏諸国と東西貿易

つぎに西側から62年の東西貿易をみると,世界貿易に占める東西貿易の比率はいぜん低水準ながら,輸出入ともそれぞれ4.2%(61年には輸出4.1%輸入4.0%)と前年水準を上回った。各国別にみると,西欧諸国では,イギリス(輸出3.6%,輸入4.0%)フランス(輸出4.2%,輸入2.9%),西ドイツ(輸出4.0%,輸入4.1%),イタリア(輸出5.5%,輸入5.8%)と,フランスをのぞいて各国とも前年水準をやや下回ったが,低開発国では総じて前年水準を上回り,貿易総額に占める比重も比較的高い。一方日本の貿易総額に占める比率は,輸出4.3%,輸入4.0%(61年には輸出2.4%,輸入3.7%)と前年にくらべ比重が高まり,62年において初めて西欧諸国の水準に達した(第5-29表参照)。

63年に入っても,少なくとも第1・四半期までの実績では,イギリスの輸出と,イタリア,フランスの輸入が前年同期にくらべて目立った伸びを示したほかは,西欧諸国ではそれほどの増加はみられなかった。日本では前年の増加傾向がそのまま続いている。しかし下半期に入って,各国とも共産圏諸国との間に貿易使節団の交流,工業見本市の開催などを行ない,またEEC理事会で対ソ関税引下げ案を提示するなど,東西貿易に対し積極的な動きを示し始めた。アメリカもホワイトハウスにおける輸出拡大会議やホッジス商務長官の言明にみられるように東西貿易の増大を強調するようになり,このほど,ソ連,東欧に対し穀物輸出に踏み切った。このように東西貿易に対する各国の姿勢は積極的になったが,それは,共産圏の将来の市場性と高い成長率とが輸出競争激化の自由主義諸国に対し大きな関心をあたえ,また東西対立の緩和と平行して,ココムの輸出制限が次第に緩和されつつあるためである。