昭和36年

年次世界経済報告

経済企画庁


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第2部 各  論

第3章 東南アジア

1. 1960~61年の経済動向

1960年の東南アジア経済は前年に引きつづき拡大を示した。59年の経済が前年の不作とインドの工業発展テンポの鈍化から目ざましい立直りをみせたのに対し,60年は農業生産でいくぶん増加を示し,工業生産でも,とくにインドの拡大テンポの上昇が目立った。

一方,60年の貿易も輸出では対前年比6.9%増,輸入では14.9%増といずれも前年を上回り,60年末の金外貨準備も前年末の水準を大半の国で上回った。

しかし,60年下期の状況は上期ほど明るくなかった。輸出は第3四半期にはいって減少傾向に転じ,輸入も同四半期から微減傾向を示すようになった。

農業生産も60/61収穫年度とほぼ同水準ないしはわずかに下回ると推定されており,鉱工業生産も60年下期から61年初めにかけていくぶん上昇テンポの低下がうかがわれる。

(1) 生  産

1)引きつづき増加しか農業生産

1959/60収穫年度の農業生産を第3-1表によってみると,台湾が悪天候によって前年度を1,7%下回ったのを例外として,セイロンが横ばい,他はいずれも増産を記録した。

イ)食用穀類

まず穀物類のうち最も重要な米の生産についてみると第3-2表に示したように,地域全体では59/60年度に1億4,483万トン,60/61年度に1億7,672万トンと,前年度をそれぞれ3.2%,3.1%上回った。米輸入国のうちで59/60年度に減産を示したのば,インド,セイロンで,米輸出国としては台湾である。インドの減産は冬作播種期における悪天候,成育期における干害が主因で,単位面積当たりの収量は前年度を3.3%下回った。セイロンの減産は収穫面積が前年度を5%下回ったためで,土地生産性は約4%上昇した。台湾の減産は悪天候が原因である。これに対し,著しい増産を示した国のうち,土地生産性の上昇に負うところが大きかったのはマラヤ,ベトナム,パキスタン,カンボジアで,また収穫面積の増加が目立ったのはカンボジアであった。なお,パキスタンの収穫増もかなり大きく,これはジュートの作付け面積を犠牲にして行なわれた。一方,ビルマでは56/57年度以来,米増産5力年計画が実施されており,これまで30万ヘクタール以上の米田が開墾されたという。カンボジアの増産も灌漑,排水施設の拡充に一部の原因がある。60/61年度については,収穫面積,土地生産性の動きについて不明の国が多いが,概して増産を予想されており,台湾も前年度の不作から立直りを示している。なお,フィリピンの生産は,過去3年来着実に増加してきており,事実上米の輸入国から自給国への転換に成功したといえる。

なお,米以外の穀類や主食品の動きは,59/60年度までしかわからない品目が多いが,小麦は59/60,60/61年度とも1,900万トン程度で58/59年度を約17%上回り,とくに59/60年度ではインド,パキスタンの増産が目ざましい。これ以外には59/60年度に,さつまいも類,カッサバが若干増加,とうもろこしが横ばいを示したほか,粟,もろこし類,じゃがいもではいくぶん減少がみられた。とうもろこしで増産が目立ったのはタイであって,盛んな輸出需要を反映して,59/60年度には対前年度比70%増,60/61年度には27%増と着実な増産を示している。

60/61年度の食用穀類の生産実績は,前述のように大半がわからないが,全体としてみると横ばいないしは微減にとどまると推定されている。

ロ)商業作物

1960年における天然ゴムの生産は180万トンと前年を5%下回った。上期においては高値に刺激されて生産も前年水準を上回っていたが,下期にはアメリカの景気後退による値下りから減産をみた。国別にみると減産を示したのは主としてインドネシア(18%減)で,とくにこの国の小規模ゴム園の生産は前年を25%(約12万トン)下回った。一方,マラヤの生産は前年を上回ったが,これは新樹植替えの進展によってとくに大規模ゴム園の生産性が高まったためである。近年天然ゴムに対する需要の伸びは合成ゴムの進出によって圧迫を受けてきているが,天然ゴムの価格競争力をつけるために,域内のゴム産出国は採取率の高い品種の新規植付けならびに植替え作業に努力してきている。この点でインドネシアは最も遅れているので60年の減産が目立った。

このほか,59/60年度の茶,綿花,ジュートについてみると,いずれも減産を記録しているが,茶については北部インドとパキスタンの茶栽培地域の干害が主因で,60/61年度には58/59年度の水準まで回復すると推定されている。

セイロンでの茶園植替え計画は緩慢ながら進んでおり,当地域の茶生産国(は国内需要増に対処するためにも増産体制を整えている。綿花についてはインドとタイにおける悪天候,ジュートについてはパキスタンとインドで成育期と収穫期に悪天候がつづいたことが減産の理由としてあげられるが,同時に,植付け期のジュートの価格が米価にくらべて不利であったことにも原因がある。もっとも,綿花,ジュートとも60/61年度にはかなり回復し,とくに綿花については増産が期待されている。

油料種子は,概して59/60年度に前年度を下回った。60/61年度には大半が回復を示しているが,大豆を除けば58/59年度の水準を回復していない。

砂糖の生産は60年に前年を4%上回ったが,主要生産国のうち,インドネシア,フィリピンは減産を示しており,インドにおける増産が目立った。コプラでは,フイリピン,マラヤが増加を示し,他の生産国でも概して増産となった。

2)躍進をつづける工業生産

当地域の鉱工業生産は,1958年に伸び悩みをみせたが,その後再び上昇速度を高め,1960年には,前年を約12%上回った。61年については,第1四半期について暫定数字しか得られないが,これによるといくぶん伸び率の鈍化がみられる。しかし当地域の工業生産において圧倒的比重を占めるインドは,1958年の停滞を脱して力強い伸びを示している。鉄鋼,自動車,ディーゼル・エンジンのような新興産業だけでなく,58年に後退した綿業の生産も緩慢な拡大をつづけてきている。またインドの製鉄業は3大国有製鉄所の操業が59年末以来つぎつぎに始められた関係もあって大幅に伸びているが(60年の対前年増加率28%),同時に資本設備工業や軽機械工業の成長を刺激している。なおインドの国有製鉄所が完全操業にはいるには今後1年余りかかるので61年の鉄鋼生産は大幅に伸びると予想される。

なお,第3-4表は59年から60年にかけてみられた主要品目生産の増減に対し,域内諸国がどの程度寄与したかを示している。

第3-3表 東南アジアの工業生産

(2) 貿易の動向

1)輸  出

1960年おける東南アジアの輸出は,76億1,600万ドルと前年を6.9%上回った。これを他の低開発地域とくらべてみると,食料を主要輸出品とするラテン・アメリカが3%増,石油輸出地域としての中近東が8.5%増,東南アジアと比校的似た輸出構造をもつアフリカが4.2%ふえ,中近東にいくぶん劣っていたとはいえ,低開発地域としては高い増加率を示した。

国別でみると,最も高い伸び率を示したのは韓国(対前年68.4%増)で,これについで北ボルネオ(28.1%),パキスタン(22.4%),ホンコン(20%)等であるが,減少を示したのはサラワク(8%)とインドネシア(3.8%)だけであった。

四半期別に輸出の推移をみると,第3-5表からわからように,60年第1四半期にわずかに減少をみせたものの,第2四半期には対前期5.0%増と前年来の増加傾向を維持するかにみえた。しかし第3四半期にはいるとアメリカの景気後退とヨーロッパ経済の拡大鈍化を反映して減少に転じ,第2四半期を9.0%下回るに至った。この減少傾向は61年第1四半期までつづいたが,第2四半期にはいくぶん持直し始めたかにみえる。

一方,当地域諸国のうち,13カ国(ビルマ,セイロン,パキスタン,マラヤ,シンガポール,サラワク,ホンコン,台湾,カンボジア,ベトナム,フィリピン,タイ)について総合した輸出単価と数量指数をみると,60年の単価は前年を5.1%,数量は2.5%上回った。

つぎに,60年に輸出が上昇から減少に転ずる過程を仕向け地別,商品別にやや詳しく振り返ってみよう。

イ)仕向地別動向

東南アジアの輸出が60年第3四半期に至って減少に転じたのは特にアメリカおよびイギリス向け輸出が激減したためであった。対エカフェ,欧大陸向け輸出も第1四半期から第3四半期にかけて拡大テンポが鈍化したが,アメリカ向け輸出は60年第1四半期に対前年同期比28%増であったものが,第3四半期には前年同期を15%下回るに至った。また,イギリス向け輸出は第2四半期に早くも前年同期をわずかに下回り始めたが,第3四半期には前年同期を11%下回った。一方,日本向け輸出は第1四半期に対前年同期比26%増であったものが第3四半期には前年同期水準にまで落ちた。

第3-1図 仕向け地別輸出額の推移

ロ)主要商品別動向

当地域の主要輸出品のなかで,60年に輸出額の伸びが著しかったのは,第3-6表からも明らかなように綿製品,錫,とうもろこし等であった。このうち,綿製品の輸出額増加の主因としては品質改善による価格上昇,ジュート・同製品は不作による価格暴騰,石油はインドネシアからの輸出数量増加,とうもろこしはタイからの輸出数量増加をあげることができるが,つぎに,ゴム,錫,茶などの主要品目の輸出の推移を主要輸出国の輸出額・数量・単価指数をもとにして観察してみよう。

i)ゴ  ム

1960年における世界の天然ゴム消費量は5%減少した。これは第3四半期に起こったアメリカの景気後退と,ヨーロッパにおける自動車産業の不振が主因であるが,同時に,ヨーロッパ,日本,共産圏における合成ゴムの代替進出も大きく,おもな消費国のうちともかくも天然ゴムの消費をふやしたのは日本とインドだけであった。

一方,東南アジアの天然ゴムの輸出単価は上期まで減産期であった関係もあって上昇してきたが,下期にはいるとアメリカの景気後退が始まり,これが産地の増産期に重なったため下落をつづけた。しかし上期における騰貴幅が大きかったので,主要輸出国(マラヤ,インドネシア,タイ,セイロン,ベトナム)の輸出単価は60年に前年を6.5%上回ったが,輸出数量は前年を下回った。

第3-2図 ゴム輸出の推移

ii)錫

58年以来回復をつづけてきた錫の価格は60年中に安定した水準を維持し,当地域の主要輸出国(マラヤ,インドネシア,タイ)の輸出単価は前年を1%上回った。

一方,輸出数量は,国際錫理事会による輸出割当ての漸増につれて増加をつづけ,60年第4四半期に実施された割当て廃止とともに著しい増加を示した。この結果,上記主要国の輸出数量は60年に前年を47%上回った。しかし,国際錫理事会の輸出規制は錫産地の保全と,開発意欲をくじいてしまったため,61年にはいっても,産地の生産が思うようにふえず,最近では錫価格の暴騰が起こっている。

第3-3図 錫輸出の推移

iii)ココナット

世界のコプラとココナット油の約7割を供給している当地域の生産は60年にかなり増加した。当地域の主要輸出国(フィリピン,セイロン,インドネシア)の輸出数量も西欧向けを中心に増加し,60年に前年を9%上回った。

これに反し価格は,他の競合油脂の圧迫もあって下落傾向をたどっており,60年に前年を14%下回った。

第3-4図 ココナット輸出の推移

iv)茶,

60年における世界の茶の需要は人口の増加によって若干増加したが,生産は前年とほぼ同水準にとどまったため茶の価格は60年中に微騰を示した。

一方,当地域の主要産出地域のうちとくに北インドで減産をみたため,当地域の輸出量もわずかに減少した。インド,セイロンの2大輸出国と台湾を含めた総合指数でみると,主としてインドの輸出減によって,上記3カ国の輸出量は60年に前年を3%近く下回った。

一方,価格は堅調を維持し,60年に2%の上昇をみた。

第3-5図 茶輸出の推移

v)米

域内貿易品目として特殊な性格をもつ米の輸出量は,米輸入国の生産の増減と逆比例して変動する性格をもっている。60年にはインドを中心にアメリカから大量の食糧援助が与えられることになったが,中共の不作によって,域内輸出国に対する圧力をやわらげた。

このため台湾が不作によって輸出供給力を減じたにもかかわらず台湾,ビルマ,タイ,ベトナムを総合,した輸出数量は,60年に前年を2%上回った。しかし,60年第3四半期までつづいた価格下落により,これら諸国の60年全体としての輸出単価は59年を10%下回った。

第3-6図 米輸出の推移

2)輸  入

当地域の輸入は60年に94億4,900万ドルと前年を14.6%上回った。この増加率を他の低開発地域とくらべてみると,ラテン・アメリカの対前年比3.8%増,中近東8%増,アフリカ10.4%増のいずれをも上回っている。

国別にみると減少を示したのはサラワクとセイロンだけで,パキスタンの対前年比85.3%増を最高として軒並みに増加を示した。このような増加の背景には外貨事情でとくに苦しいインドとセイロンを除けば,ほとんど軒並みに輸入制限が緩和されたことがある。

四半期別の動向を第3-7表によってみると,60年第3四半期から微減傾向を示しているが輸出の減少テンポほど高くない。

輸出の場合と同じく60年につい,て13カ国総合の輸入単価と数量を前年とくらべてみると,単価が2.1%の上昇,数量が10.6%の増加であった。単価を国別にみると概して60年に前年水準を上回った国が多いが,インドで前年と同水準,韓国,セイロンで下落したのが例外であった。国別の数量も60年に前年を上回った国が多いが,セイロンでは5.6%減少した。

相手国別には60年第3四半期までしかわからない。60年について各四半期の水準を前年同期とくらべてみると,日本からの輸入が60年第1四半期の20%増から第3四半期の34%増と増大テンポを高めているが,これ以外の地域からの輸入は,いずれも増加テンポが落ちており,とくに日本を除くエカフェ地域からの輸入は第1四半期の51%増から第3四半期にはわずか2%増また主要商品グループ別にみると機械・輸送設備類と燃料を除く非食用点料の増加率が高く,一方,増加寄与率でも機械・輸送設備類のそれがずばぬけて高い。これは当地域の輸入増大期には資本財の輸入がふえるという近年の傾向を裏書きするものであるが,同時に,域内諸国の経済開発意欲の一端をここにうかがうことができる。

第3-7図 相手国別輸入額の推移

3)交易条件の推移

東南アジア諸国のうち13カ国全体の60年の商品交易条件は2.9%改善した。

これは輸出単価が60年に5.1%よ昇したのに対し,輸入単価の上昇が2.1%にとどまったためである。また国,別にみると,60年に前年より悪化したのは,ベトナム,フィリピン,台湾とおそらくはビルマだけで,他は改善した。

また13カ国全体の交易条件を四半期別にみると,年初から年末にかけて悪化していく傾向がみえ,前年同期比でみて60年第1四半期に7%上回っていたものが,第4四半期には1%程度しか上回っていなかった。

4)国際収支と金外貨準備の動向

当地域のうち,60年の国際収支統計が得られるのはわずか9カ国にすぎず,の輸入額このほかパキスタンについて上半期の数字が得られるにすぎない。

まず,の第3-10表によって財貨およびサービスの貿易をみると,59年にくらべ改善を示したのはタイとベトナムにとどまり,地域全体としては輸出の伸びを輸入のそれが上回ったため貿易尻は悪化した。

一方,贈与の純流入は,インド,インドネシア,タイを除けば増加し,地域全体としても増加したと思われる。長期資本の純流入額はインド,台湾,タイ,ベトナムを除いて減少したが,とくにインドに対する純流入額が大きいので,地域全体としては増加したと思われる。つまり,60年の東南アジアは,56年にくらべ貿易尻で悪化したにもかかわらず,贈与,長期資本の純流入がふえたため,金外貨準備も約1億ドル増加した。

第3-8表 主要品目グループ別輸入額の対前年増加率と増加寄与率

第3-8図 東南アジアの貿易関連指数の推移

第3-9表 東南アジア主要国の商品交易条件指数

弟3-11表 金外貨準備