昭和36年

年次世界経済報告

経済企画庁


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第1部 総  論

第5章 国際通貨と国際決済問題の展開

4. 国際通貨金融政策の将来

国際決済問題の根底には,前述したような経済の実体が横たわっている。

現在において問題となっている諸問題解決のためには,このような実体を改造しなければならないことはいうまでもない。すなわち各国国際収支差の短期的変動が大きいのを直すとか低開発国の貿貿易構造,産業構造が恒常的経常赤字の原因となっているのを改造するとかである。しかしまた国際通貨金融政策は,このような構造の存在を前提とした上で,(あるいはそれがあるからこそ)いかにして円滑に国際取引が行なわれるようにするか,換言すれば経済の実体によく奉仕させるかという見地から考えなければならないこともまた事実である。

この点からみれば,(1)恒常的黒字国のためこむ余分存外貨準備を吐き出さぜるような制度を作ること,(2)国際流動性増大の必要量に応じた信用造出を適度に行なっていくこと,(3)各国の金利政策あるいは中央銀行の為替操作の国際協力を促進して短期資金の移動をうまく調整することが必要であろう。

トリフィンの構想は,各国の余剰流動性を吸収してバンコール1)にかえこれを流動性不足国に回すとともに,年々バンコールを増発して信用を造出するという点で,(1),(2)の問題にこたえようとするものである。しかしバンコールの増発は非工業国の体質改善のための有効な施策が伴わなければ不換紙幣の乱発と同じ結果になるおそれがあり,現段階では中々実現がむずかしい。

現在おそらく最も常識的な手段と考えられるのは,IMFの機能を拡充強化し,また国際通貨としても単にドル・ポンドだけでなくこれの補完として各種の交換可能通貨を使用することであろう。これによって各国とくに欧大陸の余剰流動性を吸収できれば,今後しばらくの間は,各国国際収支の短期変動の影響を緩和するとともに世界貿易の伸びをまかなうに足るだけの信用を造出できるものと思われる。IMF総会で採用ざれたヤコブソン方式は,ややこの線に沿うものである。

つぎに短資の移動は主として金利差によって起こるが,各国の金利政策が従来のような考え方によって運営されるばあいには工合の悪いことが出てくる。すなわち,不況の場合には金利を下げて流動性を増し過熱の時は逆にして流動性を切るという政策が従来の常識であったが,資本取引が自由な時代になると海外との短資の移動によってむしろ逆の効果が出る。国内景気抑制のために金利を上げると短資が流入しすぎて逆に流動性が過剰となったり,景気振興のために金利を下げると短資が流出して流動性が不足となるような場合が多くなる。これと経常収支のフラクチュエーションが合成されると,国際収支の変動は激しくなる。これが投機と結びついて国際決済機能に悪影響を与えるので,金利の操作はむしろ国際間の短資移動を調整して国際決済上最も害の少ない状態を保てるための政策手段としなければならない。これは各国の景気局面からみると,好ましくないと思われる金利水準を現出するかもしれない。しかし最近の欧米では,国内面と国際面に矛盾を生じた場合には,国際面に重点をおいて金利政策が運営されるようになってきており,このような協調が推進されることは国際決済機能を円滑にさせるという点で非常に望ましいことである。

〔注〕


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