昭和36年

年次世界経済報告

経済企画庁


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第1部 総  論

第3章 地域化と国際分業の進展

2. 閉鎖的ブロック経済と工業国経済圏

地理的に近接した諸国あるいは本国と植民地がブロック経済圏を形成して域内の発展をはかる試みは昔から存在した。しかしこのばあいは,大部分は工業国と原料供給国の結びつきが主体であり,お互に自国商品の市場を拡大するとともに,域外諸国からの同種商品に対する差別を設けることによって域内産業の保護をはかることをねらいとしていた。また西欧諸国は歴史的に,ほとんど同種類の産業と同程度の発展段階を持っているため相互の競争は激しく,商品,資本,人間の交流は事実上非常に活発であったが,国境の存在からくる障壁を取り除こうとする努力がとくになされたことはなかった。

それが1930年代の大不況のあとでは国境の障壁はいよいよ高くなり,戦争と戦争直後の時代を通じて西欧市場は寸断されてしまった。欧州経済協力機構OEECは,経済復興のための手段としてまず域内貿易自由化を採り上げて着々とこれを実施し,石炭鉄鋼共同体は,石炭と鉄について国境を取り払うという方向を実現した。これがやがて欧州共同市場という形に移行することになったのである。

共同市場はその構成要素をみてもわかるように,ほとんど同質的な工業国の集団である。したがって前述したような経済ブロックの場合におけるような自国産業の直接的保護という利益は持たない。域内関税の撤廃と貿易制限の撤廃によって確かに市場は拡大するが,同時に競争もまた激烈になる。弱い企業はどんどん整理されてしまう。この種の経済圏を支配する法則は保護ではなくて競争である。資本家にとって競争のない世界は天国のようなものなのに,何を好んでこういう地域統合を促進しようとする風潮が生まれるのであろうか。

これを説明するためには,長期的には工業製品需要の所得弾力性が高いことに注目しなければならない。分断されていた市場が統合されると,従来は国境の障壁があるために買えなかった商品が自由に買えるようになるために,需要が増大する。これとともに分業の発展から,同一の生産資源の利用によって今までよりも多くの生産が行なわれ所得が増加する。所得の増加は,つぎの時期には‐所得弾力性が高いために‐工業製品に対するさらに大きな需要増大をもたらし,需要増大と競争激化は旺盛な投資を生んで,連鎖反応的に経済が拡大するのである。したがってここでは,競争の激化自体も発展要因となる。工業国と原料供給国の経済ブロックでは,工業国間のブロックが相互の需要を刺激すると同時に競争がこれに拍車をかけるような効果は期待できない。すなわち,相互の需要増大には役に立たないとともに競争の刺激がない。したがって今日の経済では,本国と植民地というようなブロックは経済成長については昔のような大きな意味を持たないのであって,戦後植民地をほとんどすべて失ってしまった日独伊等が高度の成長をとげていることはこれの証左といえよう。

以上に述べてきたことを要約すれば,現在においては,一般に経済成長率は1次商品生産→工業生産→工業製品の自由貿易→工業国の統合,という段階を追って高くなってくるとみてよかろう。


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