昭和35年

年次世界経済報告

世界経済の現勢

昭和35年11月18日

経済企画庁


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第2部 各  論

第3章 東南アジア

3 展  望

(1) 1961年の貿易動向

1960年における東南アジアの輸出は第2四半期から増勢鈍化のきざしをみせ,昨年来増加してきた金・外貨準備もようやく頭打ち状態を示すに至った。

本年下半期の輸出は,主要商品相場の動きからみて頭打ち傾向にあると思われる。主要商品のうちジュートはパキスタンにおける減産を反映して高値を示しているが,その他の商品については,錫,綿花などの一部をのぞき世界の消費動向も増勢の鈍化ないし減少傾向を示し,その相場も軟化傾向にあるといえよう。このような商品の動きは,アメリカの景気後退,西欧景気の拡大テンポの鈍化予想から生じているだけでなく,コプラの割高による代替品の進出,ゴムに対する共産圏の買付け停滞などもひびいている。

第54図 東南アジア商品相場指数と輸出額指数

他方,供給面では,たとえば,ゴムの優良品種への植替えの進展により,ゴムの供給量は増加する傾向にある。このことは,需要の減退期には供給過剰の度合いを強めるであろうが,新品種は合成ゴムに対する競争力が強いので,終局的には供給国側に対するプラス要因となるものと思われる。

このほか,パキスタンは,従来行なってきたジュートの作付け面積制限を1960/61年度について解除するなど,最近までの原料品市況の強調により,東南アジア諸国では一次商品の増産体制を強化しつつある。もちろん,輸出用作物の生産は,天候に大きく作用されるため,61年の生産高を予想することは困難であるが,工業原材料の輸出価格と数量は,主として需要側の要因によって決定され,しかも,数量と価格は同じ方向に変化する傾向がある。東南アジアは工業原材料を輸出の主体としているため,61年に,アメリカの景気後退,西欧の経済拡大鈍化が実現すれば,当地域の輸出にも敏感にはねかえつてくる。したがって61年の東南アジアの先進工業国向け原材料輸出は減少を示すのではないかと思われる。

一方,域内貿易で高い比重を占める米の貿易をみると,1959/60年度の収穫(第49表参照)は,米の輸出国を中心に前年度を上回る豊作が予想されている。したがって,61年初頭における輸出国側の供給力は増加するものと思われるが,61年全体の供給状況については,さらに60/61年度の収穫を待たなければならない。しかし,米の輸入国側では,61年の先進工業国向け輸出減少による輸入力の低下が懸念され,またインドに対するアメリカ余剰農産物の圧力もあって,当地域の米穀輸出は金額としては増加しないのではないだろうか。

輸入は主として輸出の動向に左右され,1957~58年の輸入減少期にも,せいぜい1四半期のタイムラグをもつて輸出の動きに追従した。1960年における東南アジアの輸入は,59年下半期以降に現われた物価上昇傾向に対処するため増加傾向にあり,60年下半期についてはパキスタンの輸入制限緩和,インドネシアの繊維品輸入緩和の実施等によりさらに増勢をたどるのではないかと思われる。しかし60年第1四半期まで改善をつづけてきた外貨準備も,第2四半期以降ビルマ,フィリピンをのぞけば横ばいないし減少を示しており,輸出の頭打ち傾向と相まつて60年末の外貨準備はやや悪化するおそれもある。

このようにみてくると,61年の輸入は減少を予想されるが,他方,外国からの公的援助は,インド,パキスタンに対する世銀調査団の好意的な勧告,低開発国援助グループの動き,インド債権国会議における先進国の好意的態度からみて,今後増加傾向をたどると思われる。民間外貨の導入も,外資に対する課税面での優遇,利子・元金の送金および国有化に対する保護措置など,東南アジア諸国における外資受入れ体制の整備が進展しており,今後の増加が期待され,輸入の減少も比較的小幅にとどまるのではないだろうか。

最後に,日本の東南アジア諸国への輸出をみると,近年東南アジアの輸入に占める日本の比重は10%前後に停滞しており,61年に当地域の輸入総額が減少すれば日本からの輸入も減るおそれがある。しかし開発の進展に伴い資本財輸入は削減されないであろうが,これは経済援助と密接な関係にあるので,日本としては輸出の減少を防ぐため,資本財の国際競争力強化と経済援助を総合した適切な対策を立てることが必要であろう。

(2) 新しい発展への出発

1961年はインドの第3次5カ年計画がはじまる画期的な年である。このほかセイロンが59年から経済開発10カ年計画を,パキスタンが60年から第2次5カ年計画の実施に入っている。また,インドネシアも最近,総額56億ドルにのぼる経済再建8カ年計画の概要を発表した。これらの新計画はもちろん東南アジア諸国の経済開発への意欲を反映するものであるが,第66表に示した二,三の例によって新旧計画を比較してみると,新計画では投資規模の大幅な拡大,農業部門の重視,外国援助期待の増大等の特徴が浮び上がつてくる。すなわち,投資規模の拡大は人口の急速な増大に対処するために経済拡大テンポ促進への要求がさらに高まったことの現われであり,農業部門の重視は,前にみた食用穀物の生産不振に対する反省の現われである。

そしてまた経済開発のためには大量の資本財の輸入が必要であるが,東南アジア諸国の主要輸出品としての一次商品は合成ゴムなどの代替品の進出によって圧迫をうけているばかりでなく,工業製品として競争力の高いインド,パキスタンなどの綿製品は先進国の保護主義によって自主規制を余儀なくされ,輸出そのものが伸び悩み状態にある。ここに東南アジア諸国として外国援助への期待が高まるゆえんがあるが,外貨準備が逼迫している現在,外国援助の受入れに遅れを生ずるようなことがあれば開発計画自体が大きな破綻をきたすことになろう。しかし,外国援助という点では,先進諸国でも最近この問題に対する理解を非常に高めており,低開発国援助グループや第二次世銀の設立等,従来の各国バラバラな直接援助に代わって共同援助の体制をしき,援助の効果を高めようとしている。

一方,東南アジア側でも,カシミールの領有権をめぐって激しい反目をつづけてきたインド・パキスタンの間におけるインダス河水利協定の締結,また実現の可能性はまだうすいとはいえ,東南アジア共同市場形成への動き等,従来の排他的ともいえる民族主義が相互協定にもとづく経済発展という合理性を示しだし,新しい国際協力の路線を開きつつあり,このことは,東南アジアの将来を明るくする1つの重要な要因といえよう。


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