昭和35年

年次世界経済報告

世界経済の現勢

昭和35年11月18日

経済企画庁


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第1部 総論

第3章 世界経済の構造的,政策的な諸問題とその展望

5 共産圏経済と自由世界経済との交流の増大

1960年に入ってU2型機撃墜事件,パリ首脳会談の決裂,国連総会におけるフルシチョフ首相の高姿勢等,いわゆる東と西との間の溝はますます深くなったのではないかと思わせるような事件が相ついで起こつている。

しかし,このような表面的な動きにもかかわらず,経済の動きを注意深く観察してゆくと,それとは裏腹の東西交流の増大という現象が浮び上がつてくる。

まず,数年来のソ連の貿易の推移を調べてみると,第29図のように自由世界との間の貿易の方が共産圏との間のそれよりはるかに大きく伸びてきていることに気づく。

むろん,実額では対共産圏の貿易のほうがはるかに大きいとはいえ,55年には対自由世界の貿易額は貿易総額の約21%程度であったものが,59年には約25%とシェアーを拡大してきている。なかんずく,ソ連と西欧諸国との間の貿易は第11表のように,とくに59年に入ってからは軒並みに増大してきていることが注目される。

このような貿易を通じてみられるソ連と自由世界,ことに自由世界の工業国との間の接近ということが,すう勢的にここ数年つづいてきているということは何を意味しているだろうか。

第30図によれば,かつてはソ連経済開発のベースになっていた鉄鋼と石炭が,次第に機械,化学等と流体燃料にその座を譲つてきている経過がよくわかる。

すなわち,(1)エネルギー・ベースの変革(2)技術革新と近代化(3)機械工業と化学工業の発展,等といった特徴的な傾向が着実に進行しつつあることを物語るものである。

つぎに消費構造の変化であるが,一般に食糧消費の伸びよりも食糧以外の消費の伸び方が大きいという傾向はむろんのこと,食糧消費の面で畜産品などの消費が増し,食糧以外の消費では耐久消が増大してきていることは,次の主要商品の小売売上高の推移からもうかがい知ることができよう。

第12表 ソ連の主要商品の小売売上高費財の消費

さらに,ここで注目しなければならないことは,このようなソ連における産業構造の高度化や消費構造の変化に伴って,新しい機械などを国産化するよりも自由世界の工業国から輸入する方がコスト面で有利である場合には,進んでこれを輸入する傾向が漸次強くなってきているということである。たとえばイギリスの化学工業,軽工業,食品工業設備,ドイツの化学工業および建設用設備,フィンランドの船舶,木材製紙工業設備などである。

このような自由世界工業国との間の貿易の増大がどのような要因によってもたらされでいるかはさらに検討を要するが,もしそれが自由世界の工業国間の貿易増大をもたらしたと同じ要因によるものであるとすれば,それは興味深いことである。

中国の場合は,ソ連と趣を異にするが,それでも中国の地域別貿易構成の推移をみると,次の第13表のように,対西欧および日本の比重はここ10年足らずの間に2倍に増大している。

さらに自由世界の中で西欧および日本の比重がどうなってきているかをみると,第14表のごとく,輸出の比重は比較的安定しているのに対して,とくに輸入の比重がここ数年来,約2倍近くにふえてきていることが注目される。

これは中国が比較的にまだ工業化の初期段階にあるための必然的結果であろう。