昭和34年

年次世界経済報告

世界経済の現勢

昭和三四年九月

経済企画庁


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第二部 各  論

第三章 苦境に見舞われた東南アジア諸国の経済

第四節 むすび

一九五八年の東南アジア諸国の経済は,前節でみてきたように,一次生産品の輸出の不振,交易条件の悪化に加うるに,多くの諸国においては,悪天候による食糧生産の低下という偶発的な要因が,さなきだに,経済開発という負担の重圧にあえいでいるこれら諸国の上に,同時的に,相互に関連しあつて作用したことによるものであつた。しかし,一次商品の価格の低落も総合指数でみると,年央をほぼ底として,順次回復に向つてきつつあり,一九五九年の五月には,低落前の水準をとりもどしている。価格の回復とともに,輸出額もインド,パキスタン,セイロンを例外として,一九五九年の第1・四半期には多くの諸国では,前年の同期に比べると増加した。金・外貨準備高も,きびしい輸入削減の効果や,海外よりの援助などによつて徐々に増加しはじめ,一九五九年三月末には,フィリピンがわずかに年末の水準を下回つているのを例外として,いずれもかなりの改善ぶりを示している。さらに,一九五八~五九年度の米作は,各国とも,戦後の記録的豊作であつた。一九五六~五七年度につぐ好収穫であると伝えられている。

アメリカ経済の急速な立ち直りや,西ヨーロッパ諸国の経済の景気のひきつづく拡大すう勢を反映して,東南アジア諸国の経済も,最悪の時期は過ぎさつたとみてよいであろう。しかしながら輸出が若干回復しはじめ,金・外貨準備も増加しているとはいえ,これをもつて輸入制限を緩和するほどの好転は示しておらず,一九五九年の第1・四半期でみると輸入は,セイロンが前年の同期をわずかに超過しているのみで,その他の諸国では,一九五八年第2・四半期以降にとりはじめた,きびしい輸入制限措置を緩和してはおらず,いずれも前年置期の輸入額を大幅に下回る額を示している。先進諸国よりの一次商品の買付が増加して,東南アジア諸国の輸入量もたま,増加しはじめる貿易の拡大過程は比較的緩慢なものとなろうし,時期的には下半期,あるいは年末以降になるとみられている。

一九五八年を中心とする,世界経済の景気後退の地域別の波及ないし回復の過程を,貿易面よりみてみると,まず,アメリカが不況に入るとともに,国際商品相場は急速に軟化しはじめ,ひきつづいて西ヨーロッパ諸国が景気の停滞ないしは,下降局面に向つたが,この時期において,西ヨーロッパ諸国は,対米輸出が堅調であるうえに対東南アジア向輸出も初期においては比較的維持され,一方東南アジアからの輪入は,一次生産物の値下りによつて,輸入価格の面からかなりの利益をうることができた。このようにして,西ヨーロッパ諸国は,景気後退,あるいは停滞期においても,貿易面でば大いに改善されて,多額の金・外貨準備の蓄積が可能であつた。この金・外貨準備の蓄積が,西ヨーロッパ諸国の景気回復過程における有力な支持要因の一つをなしていることは明らかである。一方アメリカは自力の経済力で,景気の回復をむかえ,このような先進諸国の景気回復が,国際商品相場を引上げ,東南アジア諸国の輸出を緩慢ながら増加させているという一連の過程を認めることができよう。こうしてみると,この過程で,一番,苦境にたたされ,不況のしわよせをうけた地域は三地域についていえば,東南アジアであつた。

しかしながら,東南アジア諸国が,現在および将来にわたつて,当面している問題は,単に,世界景気の変動によつてもつーとも被害をこうむるということや,たとえば,一人当り年間所得が年間一〇〇ドル余にすぎぬといつたような低い生活水準にのみあるのではない。国際的不況のしわよせによる被害や,低生活水準もさることながらより重要な問題は,このような事態がもたらす,先進国対後進国の不均衡の拡大,すなわち先進国のますます加速化する経済発展に対する後進諸国の経済体制的な立ちおくれということである。前後の分析においても明らかなように,かぎられた一次生産物の輸出に依存しているモノカルチャ―的経済をもつてしては,経済の不安定性のみならず,世界貿易にしめる製品貿易の比重の拡大というすう勢から,相対的に世界市場から後退してゆくことになる。この傾向は,欧州共同市場,その他における先進工業諸国の経済統合による発達の気運と対比するとき,東南アジア諸国はますます,世界の経済発展から取残されることになろう。

一般的に「ある国がすでに到達している経済発展の水準が高ければ高い程,拡大効果はますます強くなる。…経済的拡張の遠心的波及の諸力を強め,もしくはその使用に対する障害を除去する傾向」にあるに反して,後進諸国の場合は,開発の低水準は,経済活動の波及効果を弱くし,これは地域間の,すでに存在している不平等をさらに増大させるよう作用する。

このようにして生じる経済的体制の立ちおくれをとりもどし,経済活動を多面化して均衡のとれた国民経済を造出し,拡大再生産の過程を軌道にのせるために,東南アジア諸国は前述のように,経済開発計画を採用して,その遂行に努力を傾けているのであるが,一九五八年におけるがごとく,開発計画の負担は貿易面の不振に遭遇したばあいには,これら諸国の経済を極度に圧迫して,経済悪化に拍車をかける結果となる。しかしながら,経済開発の規模や,実施面に問題があるとしても,経済開発そのものは,本来からいつて,一時的には不安定をもたらすけれども,後退させることはできない。「貧困の悪循環」といわれる悪条件を克服して,先進工業諸国に伍して経済的懸案を分かちあつてゆくためには,現在,遂行中の経済開発計画にますます拍車をかけてゆかなければならないであろう。


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