昭和34年

年次世界経済報告

世界経済の現勢

昭和三四年九月

経済企画庁


[次節] [目次] [年次リスト]

第二部 各  論

第三章 苦境に見舞われた東南アジア諸国の経済

第一節 一九五八年の一般経済事情

(一) 生  産

(1) 食糧および農業生産

一九五八年の東南アジア諸国の農業生産は一九五七・~五八収穫年度における天候不順のためにかなりの減産となつた。第3-1表によつてみると,ビルマ,インド,パキスタン,タイでは農業生産は低下している。なかでも,ビルマ,タイの減少は前年度比で,それぞれ,一一%,および一五%の減産を示しているが,これは,主として同諸国の米作不良を反映するものである。農業生産のうち,食糧の生産は,ビルマ,マラヤ,インド,パキスタン,タイの諸国で減収を示している。農業生産,および,食糧生産で,前年よりも増収を示している諸国はセイロン,インドネシア,およびフィリピンである。これらのうち,セイロンとフィリピンは一人当りの農業生産で,戦前の水準を回復しているが,その他の諸国では,なお,戦前の水準に達していないか,または,一九五七~八年度には,それ以下におちこんでしまつている。これらの数字は,開発計画による,多額の農業部門に対する投資にもかかわらず,農業生産は季節的要因によつてはげしく左右される状態から脱却しきれず,東南アジア諸国の経済発展にとつては,依然として農業が基本的な問題であることを示すものである。

次に食糧のうちでも,もつとも重要な米の収穫状況をみてみると,第3-2表のごとくである。すなわち,地域全体としてみると,一九五七~五八年度の収穫は八,一二九万トもみ)で,前年度に比べると約九%の減産である。

しかし,これは,前年がきわめて豊作にめぐまれているためでもあり,一九五五~五六年度に比べると,三%の減収である。減産のははだしかつた国は,インド,ビルマ,タイ,カンボジアの諸国である。インドは干害,および水害のため前年に比べて約一二%の減収,ビルマ,タイ,カンボジアは降雨不足による作付面積の減少で,それぞれ,一九%,三〇%,および一八%の減収であつた。前年に比して増収をみている国は,マラヤ,セイロン,インドネシア,フィリピンであるが,増加の割合はきわめて少ない。マラヤは天候が比較的順調であつたため,セイロン,インドネシアは作付面積が拡張されたためにいずれも若干の増収をみた。米以外の穀類の生産は大麦,小麦,とうもろこしなどについては各国とも若干の増産をみたけれども,米の収穫不良を相殺するには至らなかつた。しかるに一九五八~五九年度の米作は,いずれも豊作を示しており,米の輸出国にとつては販買が困難になるだろうと憂慮されている。タイにおいては,一九五九年第1・四半期の米の輸出はすでに大幅な減少をみている。

東南アジア諸国は,経済開発計画の立案,および実施にあたつて,このような農業生産の実情,から,いずれも,農業生産を重視して,農業部門に対しては多額の投資をしてきた。灌漑,化学肥料の使用,農作物の品種改善,農地改革等は各国とも少しずつ進歩をみせている。インドにおける硫安の生産増,各国における化学肥料の輸入の増加,耕地面積の拡大などから,これらのことは十分に推察しうるけれども,生産においてまだ,計画目標から程遠いところにあることは,第3-3表からも,不十分ながら推計することができよう。

戦後最大の収穫といわれた,一九五六~五七年の収穫をもつてしても計画目標を大分下回つている。第3-1表に示されているように,収穫が天候によつて大きく支配され,多くの諸国では,一人当り生産高で,なお戦前の水準に達していないということ,および第3-3表に示されるように,生産実績が,計画目標を大幅に下回つているということは,いずれも,農業問題が,経済の発展にとつて,今後とも容易ならぬ重要性をもつていることを示して余りがある。地域内各国の,年間一・五~三%に達するはげしい人口の増加率からみれば,現在の生産増加率位では,将来,一人当り食糧供給が悪化してゆくおそれなしとしない。

(2) 鉱工業生産の動向

東南アジア諸国の鉱工業生産は,農業生産から見れば,はるかによい状態にある。一九五八年に入つてからは,大部分の諸国において,工業生産はこれまでのような大幅な発展率は鈍化しているが,大幅な後退はみられなかつた。

綿布生産は,インドにおいては,一九五七年の第3・四半期頃から生産高は低下しはじめているが,これは,輸出の不振とともに農作物の収穫不良のため,国内の有効需要が大幅に縮小してしまつたためである。その他,インドネシアの綿布生産が一九五八年第2・四半期頃から主として輸入ひきしめによる原材料の入手難から,生産高が減少しはじめている以外には,地域内では生産高は横ばい状態かあるいは上昇を示している。ジュート製品も,インド,パキスタン,タイの諸国ではほぼ一貫して増産されている。地域内のほとんどの諸国で,セメントおよび電力の生産はめざましい発展ぶりを示している。開発計画による新設備が,この著しい上昇ぶりに寄与している。

工業生産高のうちで,もつとも打撃を受けた産業は,東南アジア諸国でも,やはり綿布産業であつた。しかも,その打撃は国内需要をある程度充足して若干の輸出余力のあるインドが,もつとも大きかつた。それに反してパキスタン,フィリピンなどの,新たに織物工場を設立して国内の需要を満たそうとしている諸国の生産は,それに比べる。

順調のようである。

鉱業生産は工業に比べると,より多く海外の不況の影響をうけている。すなわちマラヤ,タイ,インドネシアの選鉱場生産額は,国際錫協定による輸出制限によつて,いずれも前年水準よりも三~四割余の減産となつた。またマラヤ,フィリピンの鉄鉱石生産は,日本の買付減少によつて一九五七年の第3・四半期頃から,一九五八年の第2・四半期に至る期間に,前年にくらべてほぼ四割以上の減産がつづいた。しかし,年末に至つて,生産は徐々に回復に向いつつあるようである。インドネシアの石油生産も一九五八年は,前年の水準をかなり下回つている。一方,国内市場の大きいインドの石炭,鉄鉱石はかなりの増産を示している。

東南アジア地域の鉱工業生産は,絶対額がきわめて小さいため,極端な表現をもちいるならば,近代的設備をもつた製鉄所なり,綿布工場なりが,二,三単位生産を始めると,該製品の生産額が,倍も増加するといつた状態が普通であるから,生産額の増減率の大きさをもつて,鉱工業生産の動向を云々することはできないが,およそのすう勢として,一九五八年の東南アジア諸国の鉱工業生産は,一九五六年,一九五七年上期頃からみれば,発展率は鈍化しているが,増産をつづけたということができよう。

地域全体としての鉱工業生産高をみてみると,およそ,第3-4表のごとくである。

(二) 貿  易

(1) 輸出および輸入

一九五八年の東南アジア諸国の貿易状態は輸出入とも大幅な減少を示した。前述のごとく地域全体の輸出額は六一億二,五〇〇万ドルで,一九五七年の六八億三,二〇〇万ドルに比べると約一〇%もの減少であり,一方輸入額は七三億七,四〇〇万ドルで,前年の八五億し○○万ドルにべると約一四%の減少であつた。アメリカのリセッション,および西ヨーロッパ諸国の在庫調整による原材料買付の手控えの影響などが,東南アジア諸国の輸出額に大きく影響しはじめだのは,五七年第4・四半期頃からであつた。前年同期比でみた,輸出の減退は,五七年第4・四半期がもつともはげしく,以後,五八年第1・四半期もほぼ横ばいをつづけたが,第2・四半期以降は輸出額は少しずつ回復しはじめ,国によつては,前年末の水準をこえ,前年年平均額を上回る回復ぶりを示している国もみられる。輸入の方は,前述のように,計画的な資本財の輸入の増加や,国内物価安定のための消費財の輸入,また国によつては農作物の不作による食糧輸入の増加等のために,年初はさして輸入削減を実現されないでいたが,大幅な貿易の逆調,および急激な金・外貨保有高の減少に対処するために,第2・四半期,第3・四半期には,各国とも,きびしい輸入制限措置をとりはじめた。第3・四半期から年末にかけて,貿易の赤字は,かなり改善され,金・外貨保有高も増加しはじめた国もあるが,これは,前にのべたように,輸出が徐々に改善されはじめたということにもよるが,きびしい輸入引締の結果によるところが大きい。

国別にみた場合,輸出の減少によつてもつともはげしく悩まされた国はインド,パキスタン,ビルマ,タイ,インドネシアの諸国であつた。

インドの主要な輸出商品はジュート製品と茶である。茶の輸出は第E・四半期に.入つてからは好調であつたために,年間でみると輸出数量では前年比で一三%の増加,輸出額では一〇%の増加をしめした。しかしながらジュート製品の輸出がはなばだしく不振であつたので輸出額は,大幅に低下した。その他の輸出品をも含めた,全輸出数量は,前年よりも,九%ほど減少し,平均輸出価格も約一%下落したために輸出額は,対前年比で一〇%減少した。このような輸出の減少にもかかわらず,一九五八年第1・四半期までは輸入はほぼ前年の水準を維持してきたために,金・外貨準備高は一九五七年第1・四半期末の一四億三,〇〇〇万ドルから,一九五八年第1・四半期末には八億八,五〇〇万ドルと激減した。このために,不急消費財に対するきびしい輸入制限を実施した結果,年間の輸入額は対前年比で一四%余の減少となつた。,しかも,この間に,輸入品の価格は先進工業諸国の不況にもかがわらず,じり高の傾向にあつたために,輸入数量でみると,減少はいつそう大幅であつた。たとえば,第2・四半期の輸入数量は,対前年同期比で二二%減,同じく第3・四半期は二七%の減少となつている。年末に至つて,輸出は回復の徴候をみせてきているが,輸入も若干増加しはじめている。

パキスタンは,主要輸出品である綿花の輸出減少で,輸出は,前年よりも,一九%も減少した。綿花の輸出は,価格が一五%も下落した上に,数量でも約一三%も減少したために輸出額では約二八%も減少した。このパキスタン綿花の輸出不振は,綿花一般の海外市況が暴落している上に,パキスタン綿花は短繊維であるために需要が少いためである。また,国内における綿糸,綿布工場の操業開始によつて,国内の需要が増大したために,いつそう輸出を不振にしている。ジュートの輸出は,前年よりも,七%程増加した。一九五八年のパキスタンの輸出総額は一四億一,七〇〇万ドルで,前年よりも一七%減,輸入総額は,一八億八,八〇〇万ドルで,同じく約一〇%の減少であつた。

ビルマは主要な輸出商品は,米と綿花であるが,どちらも一九五八年には大幅に輸出が減少した。米は,農業生産のところでみたように,雨量不足による収穫減少で輸出余力が大幅に減少した。食糧生産は,近隣の食糧輸入諸国,インド,インドネシア,マラヤ等でも一般に不作であつたため,米の輸出価格は約六%もの値上りを示したが,輸出量が二〇%も低下したために,輸出額は大幅に低下した。一九五八年の輸出総額は九億二,一七〇万ドルで,前年よりも一六%の減少であつた。輸入額は九億六,九〇〇万ドルで,三一%余の減少である。このきびしい輸入制限によつて,貿易の赤字額は,三,八〇〇万ドルとなり,前年の赤字額,三億一,七〇〇万ドルを大幅に改善した。

タイも,ビルマとほぼ同様な状態にある。米の輸出は一億四,二六〇万ドルで,前年よりも一九%も減少した。ゴムの輸出も若干低下し,錫の輸出額は約半減した。輸出総総額は三億八七〇万ドルで前年の三億六,四六〇万ドルよりも一五%の減少となつている。輸入は,三億八,三四〇万ドルで,対前年比六%余の減少である。

インドネシアは,ゴム,石油,錫,ココナット製品が主要輸出商品であるが,これら一次商品の国際相場の下落によつてこうむつた損失に加えて,国内の治安不良によつてこれら商品の生産集荷等が阻害されて,輸出額をいつそう減少させた。すなわち,ゴムの輸出額は二億六,一〇〇万ドル(対前年比二七%減),錫の輸出額は四,九〇〇万ドル(対前年比二三%減),ココナット製品は二,一〇〇万ドル(対前年比五一%減)である。石油の輸出は二億八,二〇〇万ドルで前年より若干の減少にとどまつている。しかし,石油の輸出については,外国石油会社の協定によつて,その輸出代金の大部分はインドネシア側では管理できない。このような輸出不振によつて,輸出総額は七億五,五〇〇万ドルに低下し,前年に比べると,二〇%も減少している。輸入も大幅に削減され,五億一,王○○万ドルで前年よりも三五%も減少した。このようなきびしい輸入制限は,一部資本財の輸入にまで及び,原材料の多くを輸入にあおぐ,綿布工場やその他の産業は,部分品,原料の入手難のために操業停止状態におちいつている企業が続出しでいる。

これらの諸国のほか,マラヤ連邦,シンガポール,ブルネイ,サラワク,べトナム等はいずれも輸出は減少しているが,セイロン,フィリピンでは輸出はいずれも前年を若干上回つている。

セイロンの輸出は茶,ゴム,ココナット製品等がその主なものであるが,茶の輸出は一一億三,一〇〇万ドルに達し,前年の一〇億二,一〇〇万ドルを大幅に上回つた。価格の若干の低落にもかかわらず,輸出数量では,前年を一一%も上回つたためである。茶の価格は一九五八年には,他の一次商品の価格の低落とともに下落しているが,上質茶の価格,および需要は,ヨーロッパ市場における品薄状態を反映して,比較的,好調であつたためである。ゴムの輸出はセイロンのゴム圏の植換えが順調で生産も維持されたうえに,マラヤと中共の一時的食貿易中絶によつて,中共からのゴムの買付がセイロンに集中したために,ゴムの海外市場が一般に悪化しているにもかかわらず,セイロンのゴム輸出は,二億五,八〇〇万ドルと,約一三%位の減少ですんだ。この減少分は,茶,およびココナット製品の輸出増で十分に相殺されている。セイロンの輸出総額は一七億一,一〇〇万ドルで,前年よりも七%増え,一方,輸入額は一七億一い七〇〇万ドルで,前年よりも約七%切りつめられたため,前年は二億二,二〇〇万ドル余の貿易赤字であつたのが,一九五八年には収支はほぼ均衡した。

フィリピンも,一九五八年の貿易状態は非常に好調で,輸出額は九億八,八〇〇万ドルと過去の最高を記録した。前年よりも,一四%もの増加である。アメリカ向砂糖の輸出の増加,輸出量の減退にもかかわらず,コプラ,ココナット製品の価格の急騰による輸出額増加,その他,木材の輸出の好調などがその原因である。コプラはインドネシアと,フィリピンが世界市場に対する主要な供給源であるが,インドネシアでは内乱,フィリピンでは,天候不順によつて生産は減少したにもかかわらず,供給不足による価格騰貴によつてフィリピンの輸出額は増加した。

第3-5表 輸出および輸入額

第3-6表 金・外貨保有高

(2) 国際商品相場の動向

東南アジア諸国の輸出貿易の動向を決定するものは,十有余種の一次生産物に対する海外よりの需要と,価格の動向である。これらの一次生産物の輸出が,総輸出額中に占める比率は「輸出および輸入」の上ころでのべたが,このことは第3-7表の右端に示される比重の大いさによつても明瞭である。ここでこれら一次商品の価格の変動とその需給状態文ついて簡単にみてみよう。先ずロイター商品相場指数でみると,一九五八年の指数は八四で,前年の九七か,らみると,一三ポイントの下落である。しかし,ロイター商品相場指数では,市場がロンドンであることおよび指数の商品別ウェイトが,小麦,綿花,羊毛などに重いために,東南アジア諸国産の国際商品の動向を十分に示していないということがいえる。そこで,当庁では東南アジア諸国の主要輸出商品六品目(茶,綿花,ジュート,ゴム,錫,コプラ)について,原地市場価格をとり,一九五三年の輸出実績によりウェイトをおき,一九五三年を一〇〇とした,商品相場指数を作成している。この指数によると,一九五八年の(年平均)東南アジア商品相場指数は一一五で,前年の一二四に比べると,約九ポイントの下落を示している。第3-8表でみても,ココナット油,および米を除いては,いずれもかなり大幅に価格が低落している。このような大幅な価格低落をひきおこした,直接の要因は,いうまでもなくアメリカのリセッション,および西欧諸国の買控えに起因するものであるが,やや長期的な観察をするならば,国際市場における,一次商品の地位の弱体化とか,現在,一次商品は需給関係からみて,供給過剰気味にあるなどの諸点をあげることができよう。一次商品の世界貿易総額中に占める比率は徐々に低下してゆくすう勢にあることはしばしば指摘されている。技術的進歩による,加工段階の原料歩止り率は急速に改善され,また,天然ゴムに対する人造ゴムの進出,天然繊維にかわる合成繊維の進出,その他の合成品による天然原料との代替は,第一次商品の需要を相対的に縮小させている。このようなすう勢は,不況下において,第一次商品に対する需要を急速に減少させることになる。さらに,世界の第一次商品に対する需給関係をみると,第二次大戦終了後数年間は,戦後の復興需要,およびアメリカの戦略備蓄政策により原材料の買付によつて,生産能力はかなり拡張されたし,それ以後一九五六年頃までは,アメリカの戦略備蓄買付は大幅に減少してきたが朝鮮動乱,スエズ紛争などのため供給は不足気味で,一時的な変動を除け櫨比較的価格は好調を維持し,生産能力を遂次拡大されてきていた。一度,世界経済が不況になれば供給力はかなり過剰になつてくる状態にあつたといえよう。これはとくに鉱産原料についていうことができる。急激な相場の変動は,疑いもなく,第一次商品の生産が需要弾力性に乏しいこと,後進国の経済が弱体であるために,在庫保有力がなく,先進国に対する交渉力が弱いことなどのためである。多くの第一次商品,とくに農業生産物については,相場が上昇したからといつて急速に増産したり,価格が低落したからといつて生産を縮小したりすることのできる性質のものではない。また,高価格の時の利益を積立てて,低価格の時に補なうといつた余裕もなく,在庫として保有しているといつた経済力もないために,価格は先進諸国の需要に応じて,高値の時はさらに高値を呼ぶが,低値はさらに低値をさそうという結果となる。

東南アジアの主要輸出商品のうち,価格が前年よりも上昇した商品は,米,砂糖,コプラである。米の値上りは,大部分の生産地における収穫不良のための供給不足のためであり,コプラもおなじく,主要生産地であるフィリピンが早害のため収穫が減少したことと,インドネシアが内乱により,産地の集荷が困難であつたことによる,供給不足によるものであつた。フィリピンの砂糖は,砂糖相場が下落しているにもかかわらず,アメリカとの特恵貿易協定によつて輸出が順調に増加し,価格も若干の値上りをしめした。その他の商品は,みなかなりの価格低落をこうむつた。

とくにゴムは,共産圏よりの買付が著しく増加したにもかかわらず,輸出額のうち約三〇%を占めているアメリカの消費の減少によつて,価格は低落した。錫は,国際錫協定のパッファー・ストック制度と,輸出割当によつて,価格の低落は比較的些少であつた。

このような一次商品のはげしい価格の変動は,後進諸国の輸出額の大幅な変動となり,さらに輸出額のあまりに大幅な変動は,後進諸国の経済の安定的成長にきわめて不利に作用する。また,後進諸国の経済が不安定であることは,取引先である先進諸国の貿易の変動を大きくする結果になる。このように,一次商品の価格の変動率が大きいことは,後進諸国にとつても,先進諸国にとつても,経済の安定的成長という見地からすれば,きわめて有害である。

そこで,国際的な協定によつて,第一次商品の価格を安定させようという動きが,国連を中心として活発になりはじめている。現在あるこの種の国際商品協定としては,国際錫協定,国際小麦協定,国際砂糖協定の三つであるが,錫協定は協定加盟国は,錫の価格が一定の値幅以上に変動するばあいは,輸出割当制度や,加盟国が積立てた基金でもつてパッファー・ストックを設ける等の手段で,価格の変動の幅を一定に維持しようとするものである。小麦協定は加盟各国間の長期的買付契約を内容としている。また砂糖協定は加盟国間では輸出国別に基本輸出割合量をきめ,価格が一定より以上に騰貴すれば,割当制限を廃し,最低価格以下に下れば割当制限を減らすという手段をとつている。

錫協定のバッファー・ストック制度は,輸出国のすべてを加盟させる必要はなく,きわめて,有効のようであるが,バッファー・ストックをするための基金,運用のむずかしさ,および在庫費のかさばる商品には不適であることなどの欠点がある。また,砂糖協定のような輸出割当制度は,有力なアウトサイダーによつて,その効果が減殺されるため,輸出国の大部分を網羅しなければならないという不便さが生じてくる。現在,いくつかの他の商品についてもこの種の協定が研究されているが,各国の利害を調節することはなかなか困難なようである。しかし,第一次商品の価格を安定させ,価格の大幅な変動による被害をさけるためには,このような国際商品協定の拡充は是非とも必要であると思われる。

(3) 交易条件の変化

東南アジア地域の貿易は,輸出が主要輸出商品価格の暴落によつて大きな減少となつたが,さらに輸入価格の騰貴によつて,実質的には,貿易額による見かけよりもいつそう悪化している。東南アジア諸国が,第一次商品の輸出に対する見返りとして,先進諸国より輸入する工業生産品の価格は,不況下にもかかわらず若干の騰貴を示した。このような交易条件の悪化によつて東南アジア諸国がこうむつた価格上の損失は一九五六~五七年からみると約一〇%に達したものと推計されている。第3-9表でみると,輸出単位価格がさほど減少しなかつたフィリピン,セイロン以外の諸国では,いずれも一九五八年上半期には,交易条件は大幅に悪化している。

(三) 物価・生計費

後の第二節でくわしく検討するように,多額の開発投資のうち,かなりの額が,通貨の増発によつてまかなわれ,しかも,一方では投資の経済的効果が,おくれがちであること,外貨不足によるきびしい輸入制限,および農作物の収穫減少等によつて,各国とも,国内の物価は騰貴し生計指数は大幅に上昇しはじめた。とくに,農産物の国内価格の騰貴は,国民生活に直接影響するところが大きい。国別にみると,インド,インドネシア,タイが国内物価の大幅の騰貴をみせている。インドは,一九五八年の第3・四半期o総合物価指数は一一〇で,前年同期の一〇五に比べて五ポイント騰貴している。インドネシアは,内乱の影響もあつて,一九五八年度第2・四半期の総合物価指数は,二二六を示し,前年同期の一六六に比べて,実に四割近くの騰貴となつている。生計費指数もインド,パキスタン,フィリピン,タイ等の諸国では,騰貴しているが,各国とも,年を追うてかなり大幅な騰貴をみせていることは注目される。

東南アジアの生計費指数は,国内の食糧価格の上下をそのまま反映して,農作物の収穫期には,指数は急速に低下している。

第3-10表 生計費指数

第3-11表 卸売物価指数