昭和33年

年次世界経済報告

世界経済の現勢

経済企画庁


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第九章 東南アジア経済の危機的様相

東南アジアの経済にとつて,一九五七年は戦後最悪の年であつた。本年に入ってからの情勢はさらに悪化の傾向を深めつつある。インドネシアの本年第一・四半期の輸出額は,国内動乱の影響で,年率計算で見ると昨年の半分にちかい五億ドルにとどまつている。香港も四億八,五〇〇万ドルで対前年比では一億ドルの減少となっているし,シンガボールの本年上半期の貿易は一九五〇年下半期以来の不振であるとつたえられている。香港とシンガボールの貿易不振はインドネシアとの取引減少が大きな原因であり,したがつてインドネシアの国内紛争の一応の落着で景気は幾分回復するであろうと見る向きもあるが,六月二日のジュアンダ首相の語つたところによれば,こんどの紛争で失つた外貨は約三億ドルにのぼるといわれており,そう急速な回復は望めそうにない。

インドの外貨涸渇状況は,国外からの借款その他で四月にはいって若干足ぶみを示したが,赤字財政にともなう物価騰貴でいぜんとして憂色はぬぐいきれず,五月には,ついに懸案だった第二次五カ年計画の修正を実施するに至つた。

主要輸出商品の価格は本年にはいってからは比較的安定をたもつているが,欧米景気の最近の停滞状況からみて,本年のそれが昨年の水準を上回るという予測は無理であろう。したがつて,輸出額の増加は今後とてもそれほど大きな期待はもてそうにない。輸入はほとんどの国において抑制政策をとっているが,一九五七~五八年の食糧生産は概して凶作型を示しており,食糧輸入国における食糧輸入は当然増加することが予想されるので,外貨事情は現在の底をついた型から急に立直れるとは考えられない。いずれにしても,一九五八年の東南アジアの経済見通しは楽観材料に乏しいと見ることが至当のようである。以下,戦後から最近までの発展形態を分析しつつ,将来を展望することにしよう。


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