昭和33年

年次世界経済報告

世界経済の現勢

経済企画庁


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第八章 第二次五カ年計画の発足と中国経済発展の見通し

四 「一五年で追いつけ」のスローガンと今後の見通し

「一五年でイギリスに追いつき追いこせ」という呼びかけが,当面の中国の経済建設を推進する支柱になつていることはすでにみたとおりである。ここでそのうちの鋼塊と石炭とをとつて中国側の資料により今後一五年間のイギリスと中国との発展の相関関係をみると(第8-1図)および(第8-2図)のようになる。(第8-1図には新長期経済計画によって推算した日本の鋼塊についての発展見通しも加えた。)

第三表の鋼塊についてみると,中国側はイギリスの一九四一-五六年間の年間平均増大率三・五%を基礎にして今後の増大率を三・五-四・〇%と計算し,一九七二年度の生産高を三,六〇〇-三,九〇〇万トンと推定している。このような推計はいくらか恣意的のようにも思えるが,一方イギリスのlion and steel Boardの資料によれば一九六二年の生産計画は二,八八三万トンとなつており,そのばあいの年率は五・〇二%である。(五七年七月二七日,”The Economist”による)これによつてみればイギリス自身の予想は中国側の推計よりやや高いが,それほど大差はなく,それによつてもやはり七二年前後に中国の銅塊生産高はイギリスに追いつくことになる。また中国が七二年には四,〇〇〇万トンに到達できる根拠として,まず第一次五カ年計画期間の年平均増大率が三一・二%であり,今後第二次五カ年計画では一八%,第三次では一〇・七%の増大率を達成すればよいということを指摘している。またさらにこの程度の増産はソ連の過去の五カ年計画で実際に達成されており,その可能なことは事実によつて証明されていると主張している。(主として五八年二月一日「人民日報」裴英武等の論文による。)石炭についてはイギリスの増大率が現実にかなり低いため(一九四一-五六年平均年率はわずかに○・五大)第一次五カ年計画期間の平均年率が一五・一%でありしかも資源の豊富な中国では,ほぼあと五年で追いつけるとしている。(主として五八年二月三日「人民日報」江華東の論文による。)鋼,石炭以外の部門をとつてみると,中国側はイギリスの一九四一-五六年平均増大率にもとずいて推算するという同じ計算方式をとつて,電力はイギリスが七二年度には,二,四一一・六億キロワット時に達し,中国がこれに到達するには今後年率一八・五%(第一次五カ年計画年率二一・二%)でよいとし,(中国側の稚算によれば,中国自身の電力は七二年に二,四〇〇像KWHに遠する,セメントについてはイギリスが七二年度に二,三三九万トンで,中国がこれに達するには今後年率八・七%(第一次五カ年計画期間の年率一八・五%)でよいとし,(中国側の推算によれば,中国自体のセメント生産高は七二年に三,〇〇〇万トンに達する),窒素肥料ではイギリスが七二年度に三六二・一万トンで,中国がこれに追いつくには年率一一・八%(第一次五カ年計画の年率二八・四%)でよいとしている。

(中国側の推算をもとにして計算すれば中国自体の窒素肥料生産高は七二年に二,二五〇万トンに達する)。いずれも今後必要とされる発展速度は第一次五カ年計画ですでに実現された年平均増大率よりかなり低い上に,豊富な資源,安定した市場,景気変動や恐慌がないことなどをあげて,一五年でイギリスに追いつくことが困難であることを力説している。事実こうみてくれば以上の重要工業部門の生産高で一五年間にイギリスに追いつくことはそれほど困難ではないであろう。一般的には鋼鉄・燃料・電力のような基礎資材部門の成長は工業生産の増加率全体をも,また重工業の増加率をも下回るのが普通だといわれているが,だとすれば中国の国民経済全体としての経済力が一五年後にイギリスの経済力に追いつくものと想定する根拠は十分にあることになる。

中国側の数字をとりまとめて,中国の今後一五年間における重要工業製品の発展の見通しを表にして示せば(第8-3表)のとおりである。

また,一九七二年度の生産高を,それぞれ人ロ一人あたりの生産高になおすと,(第8-4表)のようになる(中国の人口は一五年後には約九億になると推定されている)。

これによつてみると,一五年後総生産高でイギリスに追いついたとしても,その時期に九億にもなる人口を擁することになる中国としては,一人あたりの生産高ではなお先進国とのあいだにかなりのひらきがあることがはつきりする。ただ国の経済力の大小は,一般的にはその国の物資の総生産高の大小により多くかかっているし,社会主義国として国家の物力の重点的運用がかなり自由だという点も考慮される。いずれにしても中国経済の今後の発展いかんが国際的にも大きな影響力をもつて来たことは無視できないようである。


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