昭和33年

年次世界経済報告

世界経済の現勢

経済企画庁


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第七章 東欧経済の動向

三 消費市場への圧迫

一九五七年の個人貨幣所得の増大はそれ以前の数カ年間より大きかつた。社会化部門の賃金の上昇,年金引上げ,社会保障の増大,農産物価格の引上げ,調達の増大は全て総所得増加に影響し,東独,ソ連では八-九%,チェッコスロバキア,ポーランド,ルーマニアにおいては約一二-一三%,ハンガリーにおいては二〇%に及んでいる。これらの増加の要因の詳細は第7-8表に示されている。

ポーランドでは一九五七年はじめの賃金引上げによつて,計画以上に増加した。また農業所得も計画以上に増加した。ただしルーマ二アの賃金比率はその年の第四・四半期まで延期され,農業所得は収穫良好にもかかわらず計画水準以下であつた。そこで個人所得総計は予想以下の低下を示した。八ンガリーにおける純可処分所得の増加がより少ないことは,国家に対する農産物の販売の収人がより少ないことを反映しているのと,農業税の復活と一九五六年度の未払資金の取立によるものである。チェッコスロバキアでは粗貨幣所得の増加は計画以下であった。しかし一九五七年計画で小売販売価格四・五%の引上とともに総粗貨幣所得を一三%たかめたことは,当局がかかる所得の増加を租税引上げと,物価騰貴によって適合させようとしたことにもとづく。

全ての国で,所得の実際の増加は消費財市場を圧迫する結果となった。それはとくに,東独,ハンガリー,ポーランドにおいて著しかつた。後の二国では輸入の大増加となり,国際収支を悪化させた。東独では十月通貨改革が行われたが,その意図するところは明らかに東独と西独の間の闇取引に融資していた現金保有を除去しようとするものであった。

しかしとにかく消費の実質的向上は目ざましいものがあった。その率は前年度の通貨を上回つたのである(第7-9表参照)。所得の増加は,ポーランド,ハンガリーにおいてのみ公表物価の著しい騰貴を伴つた。チェッコスロバキア,東独においては一九五六年の物価引下げによって一九五七年の全体の消費物価水準は前年度のそれより著しく低下するにいたつた。ポ-ランドの物価騰貴は農具,設備,建築材料,肥料,耐用消費財,高級製造品,アルコール,バターに及び,それは一般物価騰貴よりも約八-九%大であった。ハンガリーではこれよりも少なかった。闇物価が公開市場よりも騰貴したことはいうまでもない。ハンガリーでは生活費については闇価格が一九四九年以来毎年一-二%騰貴する傾向にあつたので,一九五七年にはこの傾向を阻止する手段が講ぜられた。

一九五八年の貨幣収入,支出の計画は公表されてないが,多くの国についてその増加率は一般に著しく引下げられる見込みである(ただしルーマニアとブルガリアは例外である)。ハンガリーでは賃金の統制を強化して騰貴をおさえ,東独でも賃金基金の上昇をおさえてその中で再分配を行い,チェッコスロバキアでは賃金騰貴を労働生産性の上昇の範囲内に止めようとしていを。ポーランドでは賃金率を実際に一定ならしめている。しかし次年度の個人所得の上昇を約三-七%の範囲内に止めんとすることは,消費財市場のあらゆる圧迫を排除するものではないであろう。


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