昭和33年

年次世界経済報告

世界経済の現勢

経済企画庁


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第四章 転機に立つ西独経済

四 貿易と国際収支-金・外貨準備は再び増加傾向

世界貿易に占める西ドイツの比重は近年著しく高まっている。西独の輸出貿易は一九五四年に五二・五億ドルに達してカナダを抜いて世界第三位になり,五七年の輪出額は八五・七五億ドルで二位の英国の九六・八四億ドルに迫つてきたばかりでなく,工業製品輸出額では五七年下期に英国を抜いて第二位を占めるにいたつた。世界工業製品貿易における西ドイツの比重も一九五三年の一三・二%から五七年下期の一八・四%へと高まつてきた。

しかしこの西独輸出の好調も最近はだいぶ衰えており,かつてのように力強い拡大要因ではなくなった。すなわち輸出の増加率をみると昨年上期の前年同期比増加率一九・一%,第三・四半期の一七・六%,第四・四半期の一一・四に対して,本年一,二月平均はわずか七・八%にとどまり,さらに一二月の輸出額は前年同月を五%下回つた。その結果本年第一・四半期全体としての増加率はわずか二・九%に低下した。すでにかなり前からみられた輸出注文の減少がいよいよ現実の輸出額にあらわれはじめたわけだ。輸出受注高は第4-10表に明らかなように昨年第三・四半期に著しく増勢を鈍化したあと,第四・四半期には前年同期を二一%下回ったが,本年一月と二月の受注高も昨年同月を八%および六%下回つた。

一方輸入は昨年末まで比較的高い水準を維持していたが,本年にはいってから増勢を停止,二月と三月の輸入額は昨年同月をわずかながら下回るにいたつた。その結果第一・四半期全体としては○・七%の増加にとどまつた。この輸入額減少の原因は一つには昨年の豊作で食糧輸入が減つたことや前述した在庫サイクルによる原料輸入の減少などにもあるが主因は輸入価格の低落にある。また昨年第一・四半期の輸入がスエズ問題の影響で膨脹した点も考慮する必要がある。ただし輸入数量でみると本年第一・四半期は前年同期比で七%の増加であった。

第4-11表 西独の対外貿易

第4-12表 西独の国際収支

昨年春から夏にかけて欧州の通貨不安と為替スペキュレーションを激成した西独の過大な国際収支黒字と金・外貨の吸上げ傾向は昨年一〇月以降著しく緩和され,ブンデス・バンクの金・外貨準備も一一月から減少に転じ,本年二月まで約七・三億DMを失つたが,三月には再び二・一億DMを増加した。ロンドン・エコノミスト誌によると四月と五月における西独の対EPU収支尻は再び多額の黒字となり,五月末の金・外貨準備は昨年一一月の水準にもどつたという(エコノミスト誌 五八年六月一四日号)。西独はOEEC内部の貿易自由化,対ドル貿易自由化,関税引下げなど輸入促進のために各種の措置をとってきたが,輸入の増加はつねに輸出の増加率を下回る傾向があり,慢性的出超を解消することもなかなか困難なようだ。特に最近では国内経済拡大の鈍化傾向と輸入価格の低落で輸入の大幅増加が望めない反面,輸出は一時とり外してきた各種の輸出奨励措置を最近復活している兆候がある(たとえば政府機関による輸出信用保証率を従来の七五%から八〇%に引上げた)。もともと国際競争力のつよい西独のことだから,世界的な景気沈滞期にもかかわらず比較的高い輸出水準を維持することができるだろう。本年第一・四半期の輸出額は前述したように前年同期比でわずか三%の増加にすぎなかったが,これは鉄鋼,石炭など基礎資材の輸出が大幅に減少したためであって,西独の得意とする機械,自動車,電気機械の輸出は一三%も増加し,化学製品の輸出も大幅に増加している。またドイツ連邦銀行月報も[輸出注文の減少が今後現実の輸出額に反映することは必至だとしても,最近一部にみられるような過大な悲観論は正しくない」と述べており,西独経済省の月報も「外国市場での販売情勢が急速に悪化する恐れは全くない。むしろ現状は輸出の正常化にほかならない」ときわめて楽観的である。

かかる楽観論の当否はともかくとして,もし政府筋の観測のように輸出の大幅な減少がないとすれば,国内需要は前述したように投資,消費,政府支出ともいぜん緩慢ながら上向きであるから小幅の輸出減少はそれで相殺されて,全体としての経済活動はさらに拡大をつづけることが予想される(五七~五九年度予算案の提出にさいして政府は本年度の国民総生産の伸張率を昨年の七・五%に対して七%と推定したが,民間の経済研究所ではこれは楽観にすぎるとして六%ないし六・五%の伸張率を予想している)。


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