平成7年

年次経済報告

日本経済のダイナミズムの復活をめざして

平成7年7月25日

経済企画庁


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第1章 自律回復を模索する日本経済

第13節 景気の現局面と展望

我が国経済は,93年,94年と円高が進行するなかにあって,建設ストック調整の遅れやバランスシート調整といったバブルの後遺症を引きずりながらも,93年第4四半期に景気の谷を迎え,緩やかな回復基調をたどってきたが,95年第2四半期以降円高等の影響が顕在化してきたため,これまで回復基調に足踏みがみられている。これまで緩やかな回復が可能となったのは,公共投資や住宅建設に支えられる形で最終需要が緩やかに持ち直してきたからにほかならない。今後は,これまでの回復基調に足踏みがみられている状況下,景気回復のけん引力をこれまでの公共投資や住宅建設から設備投資や個人消費へバトンタッチするなかで,景気回復基調をいかに自律的なものとしていくかが重要な課題といえる。その際,まず景気の自律回復に欠かすことのできない設備投資を展望すると,そもそも過去の回復局面と比べて本格的回復へのテンポは緩慢で,ある程度時間を要することが以下の理由から予想される。

第一は中小企業を中心にバランスシート調整,建設ストック調整の遅れが設備投資に対して依然として抑制的に働いていることである。

第二は価格破壊の進展は消費者にとっては実質所得の増加につながるものであるが,既存の流通業にとってはマージン率の圧縮によって収益の改善テンポが従来よりも遅れ,非製造業全体の設備投資が抑制される可能性がある。

第三は本年3月以降の急激な円高の進行が,短期的には,企業者マインドの改善の足踏みや企業の売上げ減等の径路を通じて設備投資を抑制する懸念があること等である。

こうした設備投資の過去と比べた緩慢な動きは,生産面で,資本財生産の増加テンポが過去であれば設備投資の自律回復を受けて加速するこの時期に加速せずに一服していることからも確認されよう。

このように,設備投資の自律回復への道が緩慢で,ある程度時間を要するとすれば,その間,いかにして最終需要を浮揚させていくかがポイントとなる。

このような点を踏まえると,生産誘発依存度の観点からは,外需が輸入の堅調な増加傾向を映じて当面マイナス寄与が見込まれる以上,個人消費,公共投資,住宅建設の3需要項目が設備投資需要が本格化するまでの間,どの程度の支えとなるかが問題となる。

ここで参考になるのが,今次局面と同様,設備投資が下げ止まりから増加に転じるまでに時間を要した第一次石油危機後の経験であろう。

確かに,今回と第一次石油危機後に関しては,第一に個人消費のけん引力が実質所得の伸びに見合って弱かったこと,第二に設備投資については,稼働率が過去に例をみない低い水準からの回復であったため,前年比で増加に転じ自律回復を示すにはある程度の時間が必要であったこと,第三に設備が増加に転じる前にそれまで景気をけん引してきた公共投資のプラス寄与が小さくなっていったために,需要面でのバトンタッチがうまくいかなかったこと,等の類似点が指摘できる。

しかしながら,他方今回の回復局面を当時と比べると,第一に日本経済の潜在成長力が当時のように大きく下方屈折したとはいえないこと,第二に円高のメリットを活かした実質所得の増加や実質資産残高の増加の消費に与える効果を今回は期待できること,第三は住宅建設も緩慢な推移ではあるものの最近で大きく下振れする可能性は少ないこと,第四は政策面からみると,公共投資については伸びの低下がみられるものの,4月14日の「緊急円高・経済対策」を踏まえた平成7年度補正予算での積み増し等もあって,引き続き最終需要にプラス寄与となっていくことが期待される。また最近における一層の金融緩和策の効果も期待できるなど,当時との相違点があることにも留意する必要がある。

それゆえ今後は,最近の急激な円高等によりこれまでの回復基調に足踏みがみられていることを踏まえれば,我が国経済の回復基調を後退させないとともに,現在みられている明るい芽を育てていくことが重要である。そのためには最近の最終需要の動向に引き続き十分注意を払いながら,先般の「緊急円高・経済対策」に加え,同対策の「具体化・補強を図るための諸施策」の実施など適切かつ機動的な経済運営を図っていかなければならな い。


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