平成7年

年次経済報告

日本経済のダイナミズムの復活をめざして

平成7年7月25日

経済企画庁


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はじめに

市場経済システムはそれを構成する各経済主体の様々な経済的利害を調整しつつダイナミックに成長するメカニズムを内在化している。それをものの見事に実証してみせたのが戦後の日本経済の歴史であったといえよう。

しかしながら同時に市場経済はそのダイナミズムゆえに時としてバランスを欠いたり,時代とともに変化する内外の環境の中で経済構造の調整や枠組みの変容を迫られることがある。「戦後50年」,また,21世紀まであと5年を残す一つの時代の節目にある現在の日本経済はそのような局面変化の時にあるといえる。

こうした問題意識の下に本年度の年次経済報告はこうした局面変化の実相を,「景気動向」,「産業調整」,「公共部門」という三つの軸から分析し,日本経済のダイナミズム復活の視点を探ることにした。

第1章は当面の景気問題を取り上げた「自律回復を模索する日本経済」である。90年代に入って日本経済はそれまでの反動としてのストック調整に加え,バブルの崩壊,円高等という各種の下振れリスクが顕在化し,戦後最大の長期にわたる調整過程を経験することになった。そして,このような長期にわたる景気調整も93年末にはようやく終わりを告げ,94年の日本経済は回復過程に入った。しかし,そのスピードが緩やかだったところに95年に入って阪神・淡路大震災と急激な円高が生じたため,自律回復への緩やかな移行過程で足踏みがみられている。

こうした認識のもとに,第1章ではまずこうした本年当初予測し得なかった外生的要因による景気への悪影響の可能性を含め,景気の現状をどうみるのかという点を分析する。ここでの分析の視点はこれまでの景気回復局面と比べて何が違うのかという点である。また現在進行している価格破壊をどう評価するかという点や経常収支黒字問題に関連して,為替レートの経常収支調整機能をどうみるかという点,さらには金融面をめぐる幾つかのトピックスについても合わせて分析する。

第2章はやや中期的観点からの局面変化の問題を取り上げた「円高下の国内産業調整とサプライサイド」である。戦後の50年を振り返ると,日本経済は二度にわたる石油危機や度重なる円高などの幾度かの試練を乗り越えつつ,急速に国民の生活水準を上昇させるなかで,世界の経済大国にまで成長するに至った。この過程は国内産業の比較優位構造をその時代その時代の状況に合わせて変革させるなかで,先進国とのギャップを解消させた時代であった。そして,このようなギャップの解消に成功した日本経済がその成功ゆえに勝ち取った成果の一つが円の購買力の高まりであった。総じてみれば,円高は日本経済の実力を反映したものであったし,それは産業構造の高度化を反映したものであった。しかしながら,世界が市場経済を軸にいわゆる「大競争」の時代に入ったポスト冷戦下の時代背景の中で進行している今日の円高は,アジア新興国の台頭もあって,景気後退局面から緩やかな回復局面にあった我が国経済に対して厳しい調整を強いることになっている。そしてこのような厳しい調整は日本経済の先行きに不透明感を及ぼし,また日本経済の調整能力を越えているのではないかという懸念をもたらしている。こうした認識の下に第2章では,まず日本経済の価格競争力の推移の分析を出発点として,産業別均衡為替レートからみた貿易構造,内外価格差と非製造業の生産性,途上国からの追い上げと国内産業調整といった問題を分析するとともに,さらには日本経済の中期的な成長持続性を規定すると考えられるサプライサイドは本当に弱っているのかどうかといった問題を取り上げる。

第3章は公共部門をめぐる局面変化の問題を取り上げた「公共部門の課題」である。戦後の日本経済の成功の背景には,市場をベースとした民間部門の活力があったことはいうまでもないが,同時に公共部門が安定的な経済環境を造りだし民間部門の活力を引き出す上で大きな役割を果してきたことも忘れてはならない。しかしながら公共部門の役割も時代とともにその変容を求められる。その背景には特に日本経済の世界経済への統合(グローバリゼーション)と世界に類をみない急速な高齢化という内外の環境の変化がある。急速な高齢化については戦後「50年」の日本経済が成し遂げた成果として喜ぶべきことであるが,同時にいまだ誰も経験をしたことがない次なる「50年」への未知なる不安がある。高齢化社会の到来は将来の日本経済の重荷となって今後の成長を削ぐのではないか,また財政への大きな負担となって将来世代の負担の増大と生活水準の低下をもたらすのではないかという「期待の低下」懸念がある。こうした認識の下に第3章ではまずグローバリゼーションの下での財政政策をめぐる問題を始め,高齢化と公的負担,高齢者就業と公的年金の問題を分析し,最後に戦後50年における公共部門の変化を概観しつつ公共部門と経済成長等との関係を分析し,これらを踏まえて今後の公共部門の課題を展望する。


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