平成6年

年次経済報告

厳しい調整を越えて新たなフロンティアへ

平成6年7月26日

経済企画庁


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第3章 景気後退下での日本経済の長期的課題

これまで,今回の景気後退は,景気循環要因(ストック調整)とバブル崩壊の影響(その後遺症としてのバランスシート調整など)が重なったことによって長期化し,そのなかで今回の景気後退に特有のいくつかの動きが現れてきたことをみてきた。

こうして景気の後退が長期化するなかで,日本経済の短期的・循環的な側面だけでなく,長期的・構造的な課題が強く意識されるようになってきている。現時点での日本経済の状況を考えるとき,重要なポイントは,第2章まででみてきたような景気問題と長期的な構造問題の関連をどう考えるかということである。それは,景気問題とともにこうした長期的な課題の存在が,中長期的な視点から家計,企業に閉塞感を生み,将来への不透明感を生じさせているからである。

短中期的な景気問題とこれから検討しようとしている長期的な構造問題との関係について,二点を指摘しておきたい。

第一は,なぜ現時点で,構造的な課題が強く意識されるようになったかということを,どう考えるかである。景気後退のなかで,長期的・構造的な課題が強く意識されるようになってきたのは,近年になって構造的な課題が突然出現したからではなく,それに先立つバブル期には,内需中心の高成長が実現したことによって,多くの構造的な課題が覆い隠されていたのが,景気の停滞によってそれが明確に浮かび上がってきたためである。例えていえば,風邪を引いて体調が悪くなって医者に行ったら,かねてから悪かった高血圧が見つかったようなものである。

第二は,長期的な諸課題への取組と景気問題への取組との関係をどう考えるかである。まず,長期的・構造的な問題への対応は,必ずしも短期的に景気を回復させる特効薬だとはいえないことに注意する必要がある。高血圧の治療をしても,風邪が治るわけではないのと同じである。しかし,長期的な課題についての問題意識が高まっているこの機会をとらえて,長期的な諸課題についてにの認識を深め,経済構造の改革を進めていくことは極めて重要であり,それは景気の変動を越えて追求されなければならない課題である。

そこで,このところ目立ってきた長期的・構造的問題をいくつかのタイプに分け,それぞれの中から,本章でどのような問題を取り上げるかを整理しておこう。このところ議論されている,長期的・構造的問題は,次のようなタイプに大別される。

第一は,日本の対外的関係にかかわる問題である。その中から,本章では,円高の進行,景気後退の長期化の中で表面化してきた空洞化,内外価格差問題を取り上げる。

第二は,日本の長期的な経済システムにかかわる問題である。その中から,本章では,景気後退で長期化する中で浮かび上がってきた雇用を巡る長期的な課題を取り上げる。

第三は,日本の制度的枠組みにかかわる問題である。その中から,本章では,従来型の規制が経済活力を損なっているのではないかという問題意識の下に,規制緩和の問題を取り上げる。

第四は,日本経済の長期的な進路にかかわる問題である。その中から,本章では,技術革新という観点から日本経済のフロンティアを取り上げる。


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