平成3年

年次経済報告

長期拡大の条件と国際社会における役割

平成3年8月9日

経済企画庁


[目次] [年度リスト]

12. 金  融

(1) 90年度の金融動向

90年度の我が国経済は個人消費,設備投資に支えられた内需主導の拡大を続けた。この間,金融面については89年度に引き続き90年8月に第5次の公定歩合引上げが実施され,6.0%となった。91年度に入っては91年7月に公定歩合引下げが実施され,5.5%となった。

マネーサプライの動向をみると,M2+CDの平均残高(前年度比)は,90年度は10.2%増とほぼ前年度並みの伸びとなったが,金融機関貸出の伸び率低下等から年度後半にその伸びは大幅に鈍化した。短期金利の動き(第12-1図)をCD新規発行レート(90日以上120日未満,最終週約定平均)でみると,90年4月以降おおむね横ばいで推移したものの,8月の湾岸危機とそれに伴う原油価格の上昇から再び上昇し,9月には8%台前半となった。年度後半に入っても市場における資金需給のきつめ感等から8%前後の水準で高止まりしたままとなった。一方,長期金利の動きをみると,国債流通利回り(指標銘柄)は90年に入ってから年初に大幅に上昇した後も4月までは緩やかに上昇を続け,5月以降はやや低下したが,湾岸危機等をうけて8月以降大幅に上昇し,9月には期末要因もあり一時8%台後半の水準となった。その後金利先高観の後退等から年末にかけて低下し,91年に入ってはおおむね6%台後半で推移している。この間,いわゆる長短金利逆転現象は90年9月には一時解消されるかに見えたが,その後長短金利差は再び拡大し90年度末には1%以上の水準となっている。

第12-1図 金融・資本市場の動向

株式相場の動向をみると,90年に入り為替相場の円安,長期金利の上昇を背景として大幅に下落した。4月以降やや回復したものの,8月の湾岸危機発生後再び大幅に下落し,一時回復する動きがみられたものの,その後年末までは弱含んだ。91年2月には米国株式上昇に伴いやや戻した。こうした中,90年度の売買高(東証第一部・二部計,一日平均)は大幅に減少した。

90年度の資金需給は,89年度の2兆9,540億円の不足から2,097億円の余剰となった(第12-2表)。これを要因別にみると,銀行券は発行超過幅が1,942億円と前年度に比べ大幅に縮小した(89年度3兆6,085億円の発行超過)。平均発行残高の前年比増加率をみると,89年度11.1%増の後,90年度は7.1%増となった。財政は,89年度の2兆958億円散超から,租税の受超幅が拡大したこと等により2兆1,525億円の揚超に転じた。

第12-2表 90年度資金需給実績

(2) マネーサプライの伸び率低下

マネーサプライの推移をみると,M2+CDの平均残高(前年度比)は,88年度10.8%増,89年度10.3%増の後,90年度は10.2%増とほぼ前年度並みの伸びとなった。しかし,四半期別にみると,前年同期比で89年4-6月期13.0%増,7~9月期12.0%増の後,10~12月期10,O%増,91年1~3月期6.0%増と,年度後半に伸びは大幅に鈍化した。この間の動きについてみてみると,まず金利の上昇にもかかわらず90年度前半まで高い伸びを続けた背景としては,①景気拡大の長期化や企業マインドの強さから借入需要が堅調に推移したこと,②90年初来の債券,株式相場の急激な変動,あるいは,90年4月以降の郵便貯金の大量満期到来によるマネー対象外資産からのシフトがみられたこと,③小口MMCの最低預入金額の引下げ等の預金金利自由化要因による需要の増加,等が考えられる。次に,90年度後半に伸びが大幅に鈍化した背景としては,①BIS規制等の影響により金融機関が貸出の伸びを大きく鈍化させ,CPの引受け等も抑制させたこと,②利付金融債等のマネー対象外資産へのシフトが見られたこと,等が挙げられよう。この間,広義流動性の前年同期比伸び率は,89年4~6月期10.7%増,7~9月期9.2%増,10~12月期8.1%増,91年1~3月期6.2%増と,M2+CDに比べ緩やかに鈍化した。一方,供給サイドについてマネーサプライ(M2+CD)の信用面での対応をみると(第12-3図),年度後半にはいって,「民間向け信用」の寄与度が大きく低下し,「その他」(金融債へのシフトが含まれる)がマイナスの寄与となっている。

第12-3図 マネーサプライの供給要因別寄与度(M2+CD末残)

(3) 全国銀行の実質預金,貸出の伸びの鈍化

90年度の金融機関の預貸金動向をみると,マネー対象外資産からのシフトなどや旺盛な資金需要などをうけて,実質預金,貸出とも引き続き高い伸びとなったが,年度後半に入って,都市銀行を中心に実質預金,貸出とも伸びの鈍化がみられた。

まず預金についてみると,全国銀行の実質預金残高(各年度3月中平均残高対比)の前年度比伸び率は,88年度15.5%増,89年度は15.3%増に続き,90年度は2.8%増となった。他方,信用金庫は,88年度11.2%増,89年度13.3%増に続き,90年度は9.7%増となり,業態により伸び率に差がみられた。また,貸出についてみると,全国銀行貸出残高(各年度3月中平均残高対比)の前年度比伸び率は,88年度10.6%増,89年度11.6%増に続き,90年度は4.9%増と伸びは大きく低下した。他方,信用金庫は,88年度11.6%増,89年度15.4%増に続き,90年度は12.O%増の高い伸びとなった。

全国銀行の貸出約定平均金利をみると,短期貸出金利は,市場金利が上昇する中で,短期プライムレートが,89年度に引き続いて90年度に入っても3度にわたって引き上げられたこと等により大幅に上昇し,90年度末には8.203%(89年度末6.249%)となった。また,長期貸出金利は,長期プライムレートが90年度前半には上昇し10月には8.9%と高水準となった後,年度末にかけて低下したこと等をうけて,90年度末には7.467%(89年度末6.525%)と上昇した。以上をうけて,総合の貸出約定平均金利は,90年度末には7.684%(89年度末6.431%)と上昇した。

90年度の企業金融をみると,金融機関の貸出態度は89年度に引き続き急速に厳しくなり,資金繰りの緩和感は徐々に後退した。この間,企業の手元流動性は高水準の状態を続けながらも,徐々に低下した。

企業の資金需要は,景気拡大の長期化をうけて年度を通じ製造,非製造業とも,また設備資金・運転資金とも総じて堅調に推移した。この間,住宅ローンを中心とする個人の資金需要も,投機的な需要を除いては堅調に推移してきたが,金利上昇の影響などから年度後半以降鈍化がみられた。

(4) 短期金利は高止まり

90年度の資本市場について,まず起債市場をみると,90年度の民間債,公共債の発行合計額(国内公募,非公募発行分で,金融債,円建外債を除く)は52兆9,483億円と前年度比15.1%増(89年度46兆191億円)となった。このうち,民間債は4兆2,307億円と前年度比56.2%減(89年度9兆6,504億円)となり,公共債は,48兆7,176億円と前年度比34.O%増(89年度36兆3,687億円)となった。民間債の大幅減少要因としては,89年初からの株価の下落により転換社債及びワラント債の起債が,89年度8兆5,545億円から90年度1兆3,060億円と大きく減少したことによる。公共債については,国債発行額が新規財源債,借換債ともに増加したことにより前年度を上回った。

次に,流通市場をみると,90年度の公社債売買高は東京店頭市場で3,286兆円と前年度比6.3%減(89年度3,507兆円)となった。このうち,一般売買高は2,134兆円と前年度比13.8%減(89年度2,476兆円),現先売買高が1,152兆円と前年度比11.8%増(89年度1,030兆円)となった。一般売買減少の背景としては,90年度前半長期金利が上昇し債券相場が下落したーこと,後半に入っても市場関係者のあいだで先行き金利低下が期待されつつも,なお不透明な状況が続き,模様眺め気分が強まったこと,などが挙げられる。なお,90年度の国債先物の売買高は3,125兆円と前年度比15.7%減(89年度3,705兆円),債券の新規オプションの売買高は164兆円と前年度比11.4%減(89年度185兆円)とともに減少した。

公社債相場の動きをみると,国債流通利回り(指標銘柄)は89年中はおおむね5%台前半で推移していたが,90年に入ってからはいわゆる「トリプル安」が始まり,年初に大幅に上昇した後も4月までは緩やかに上昇を続け7%強の水準となった。5月以降はやや低下しおおむね7%前後で推移していたが,湾岸危機等をうけて8月以降大幅に上昇し,9月には期末要因もあり一時8%台後半の水準となった(9月26日8.710%)。その後金利先高観の後退等から年末にかけて低下し,91年に入ってはおおむね6%台後半で推移している。90年度末の国債流通利回り(指標銘柄)は6.610%であった(89年度末7.350%)。

短期金利の動きをCD新規発行レート(90日以上120日未満,最終週約定平均)でみると,90年4月以降おおむね横ばいで推移したが,8月の湾岸危機とそれに伴う原油価格の上昇から再び上昇し,9月には8%台前半となった。年度後半以降も市場における資金需給のきつめ感等から8%前後の水準で高止まりしたままとなっている。90年度末のCD新規発行レート(90日以上120日未満,最終週約定平均)は7.97%であった(89年度末7.56%)。

この間,いわゆる長短金利逆転現象は90年9月には一時解消されるがに見えたが,その後長短金利差は再び拡大し90年度末には1%以上の水準となっている。

株式相場の動向をみると,90年に入り為替相場の円安,長期金利の上昇を背景として大幅に下落した。4月以降やや回復したものの,8月の湾岸危機発生後再び大幅に下落し,一時回復する動きがみられたものの,その後年末までは弱含んだ。91年2月には米国株式上昇に伴いやや戻した。90年度末の東証株価指数は1,970.73(89年度末は2,227,48)となった。こうした中,90年度の売買高(東証第一・二部計,一日平均)は505百万株と減少し(89年度は同731百万株),時価総額(東証第一部・二部計)は90年度末には前年度比9.7%減少し,432兆8,287億円となった。


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