平成3年

年次経済報告

長期拡大の条件と国際社会における役割

平成3年8月9日

経済企画庁


[前節] [次節] [目次] [年度リスト]

第1章 景気循環からみた日本経済の現状

第5節 外需の動向

90年度の外需は実質GNP成長に対しわずかながらプラスの寄与に転じたものの,86年度以降5年連続でいわゆる経済の内需主導型拡大が実現した。外需の内訳をみると,まず,輸出は,アメリカ向けが減少したものの,東南アジア,EC向けが伸びを高め,通関数量ベースで前年度の伸び率を上回った。一方,輸入も,製品類,鉱物性燃料等を中心に通関数量ベースで前年度を上回る伸びとなった。通関収支差は,原油価格上昇による交易条件の悪化が大きく寄与して,前年度比縮小し,貿易収支の黒字幅も引き続き縮小した。貿易外収支の動向をみると,投資収益収支の黒字幅縮小,運輸収支の赤字幅拡大等から前年度比で赤字幅が大幅に拡大した。更に,移転収支は,3度にわたる湾岸平和基金拠出金により赤字幅が大幅に拡大した。この結果,経常収支黒字は4年連続の縮小となり,また,縮小幅も大きく,黒字水準はピーク時(86年度)に比べ,約3分の1になった。また,経常収支の対GNP比率は,1.1%と,やはりピーク時(同)に比べ,4分の1になった。この間,長期資本収支は,経常収支の黒字幅縮小,国内金融情勢の変化等を背景に流出超過幅が大幅に縮小した。為替相場をみると,対米ドル円相場は,90年度平均ではほぼ前年並みの水準となったものの,年度後半にかけ円高に向かった。

(輸出はやや強含みに推移)

輸出の動向を通関統計(数量ベース)でみると,90年度中やや強含みに推移し,年度全体では前年度比6.4%増と,89年度(同2.6%増)を上回った。年度中の動きをみると,年度初の90年4~6月期に,前期著増の反動からアメリカ向け輸出が落ち込んだこと等を背景に前期比ベースで伸び率は鈍化したものの,7~9月期には上昇に転じ,その後は,イギリス,アメリカが景気後退局面に入るなど,世界経済が全体としては減速するなかで,伸び率は緩やかに上昇した。

それでは,このように輸出相手国の経済が全体として減速するなかで,なぜ日本の輸出はやや強含みに推移したのであろうか。この点を分析するために,輸出に対する所得要因と価格要因の寄与を推計してみた(第1-5-1図①,ただし,推計結果の各々の要因の大きさについては幅をもって見る必要がある)。これによると,89年度には大きな押し上げ要因となった所得要因が,90年度に入り減退する一方,相対価格要因が押し上げ寄与を高めたことがわかる。所得要因の減衰は海外景気の減速を反映し,相対価格要因の変動は,89年から90年前半にかけての円安による影響が大きいものと考えられる。すなわち,為替レート等の価格競争条件の変化は,やや遅れて数量ベースの輸出入にあらわれるのが通常であり,こうした円安の影響が年度中の輸出を押し上げる要因になったとみられる。このような円安は,後述するように対米ドルだけでなく,我が国の貿易相手国それぞれに対する為替相場を加重平均したいわゆる実効レートベースでもみられ,輸出全般に為替レートの変化を通じた価格競争力の強まりがあったと考えられる。

この間,90年度の輸出を地域別(ドルベース)にみると(第1-5-2図①),東南アジア向けが,同地域の設備投資,個人消費の好調等を背景に,前年度比二桁の高い伸び率となり,地域別シェアでアメリカを上回った。また,EC向けも,東西統一による需要の高まり等から輸入が拡大しているドイツを中心に高い伸びとなった。一方,アメリカ向けは,内需の年度後半にかけての落ち込みや,乗用車等の現地生産増加を背景に減少し,共産圈向けも,同地域の経済の停滞や,外貨事情悪化等から減少した。また,中近東向けも,90年8月の湾岸危機発生後,大きく減少した。

なお,90年度の輸出を品目別(数量ベース)にみると,電気機器,一般機械等が,東南アジアや,EC向け等を中心に増加した。一方,自動車輸出は,ドイツを中心とするECや,東南アジア向けが増加したものの,アメリカ向けが年度後半に向けて減少したことから,全体では微増となった。

(輸入は製品類等を中心に緩やかに増加)

輸入の動向を通関統計(数量ベース)でみると,90年度全体では前年度比6.8%増と,輸出同様89年度(同5.8%増)を上回った。年度中の動きをみると,原油輸入量の動き等を映じて多少の振れがあるものの,全体として,堅調な内需に支えられて緩やかに増加した。

このように,輸入が全体として緩やかに増加した背景について,輸出同様,所得要因,価格要因の寄与を推計してみると(第1-5-1図②),輸出の項でみたように,為替相場の89年から90年前半にかけての下落が,ややラグをもって輸入品の価格競争力を低下させ,価格要因が抑制的に働いたものの,内需の好調を背景に所得要因が堅調に推移し,この効果が上回ったことから,全体として輸入が緩やかに増加したことがわかる。

この間,輸入を品目別(数量ベース)にみると(第1-5-2図②),繊維原料等の原料品が減少したものの,機械機器,化学製品等の製品類,原粗油等の鉱物性燃料等が堅調な伸びを示した。もっとも,90年度中の製品輸入比率(ドルベース)は,原油価格上昇が響いて,49.6%と,前年度(50.3%)に比べやや低下した。

また,輸入を地域別(ドルベース)にみると,中近東からの輸入が原粗油の数量増に加え,価格上昇から,高い伸びとなったほか,ECからの輸入も,機械機器の増加等から高い伸びとなった。

(通関収支差は原油価格上昇等が寄与して縮小)

以上の輸出入の結果,通関収支差(ドルベース)の動向をみると(第1-5-3図),90年度は544億ドルと,前年度(596億ドル)比縮小した。これを四半期別にみると,90年10~12月期に原油価格上昇から大幅に縮小したものの,91年1~3月期には逆に原油価格が低下したことから,大幅に拡大した。結局年度全体としては,輸出入数量要因がほぼ相殺するなかで,年度平均しての原油輸入価格の上昇等による交易条件悪化要因が最も大きく寄与するかたちで,通関収支差は縮小した。

なお,国際収支統計ベースの貿易収支も,90年度全体で9.7兆円(695億ドル)の黒字と,前年度(10.0兆円,700億ドル)に比べ縮小した。しかしながら,通関収支差との間にはこのところ多少かい離が目立っている。これは,主として輸入の面で,通関統計に含まれない取引が90年前半にかけて増加し,その後急速に減少したことによるものとみられる。輸入金額(ドルベース)における国際収支統計ベースと通関統計ベースの比率(IMF比率)をみると,89年度には92.5%であったのが,90年度上期には95.6%にまで上昇し,同下期には87.3%へと急速に低下した。

(湾岸危機,アメリカの景気後退の影響)

以上のように,90年度の我が国の輸出入は,世界経済の拡大減速,湾岸危機の発生にもかかわらず,前年までとさほど変わらない安定した伸びを示した。この点を,①湾岸危機発生の影響,②アメリカ景気減速の影響,に分けて,もう少し詳しくみてみよう。

まず,湾岸危機発生の影響についてみてみよう。前述のように,湾岸危機に端を発した原油価格の上昇は,我が国の交易条件の悪化を通じて通関収支差を縮小させた。もっとも,原油価格自体は,91年度に入り湾岸危機発生以前の水準に戻っており,原油価格面を通じた対外収支への影響は一時的であったと判断できよう。次に湾岸危機の輸出入数量への影響をみると,まず輸入面では,原油の輸入量自体は,90年度中むしろ増加し,国内備蓄を取り崩すような事態は回避された(第1-5-4図)。一方,輸出面では,我が国の中東向け輸出は湾岸における武力行使後大きく減少したが,ウェイトが低い(ドルベース構成比,90年3.5%)ため影響は軽微であった。以上を総合すると,湾岸危機の対外収支や輸出入数量への影響は総じて一時的ないし軽微であったと判断される。なお,原油輸入価格を湾岸危機発生時点で固定し,輸入量は実績値と変わらなかったとして,原油価格上昇による産油国への我が国からの所得移転の規模を,高値原油の入着開始(90年9月)から91年3月までの7か月間について試算すると,同期間の名目GNP比で0.5%と,第1次石油危機における同じく高値原油入着開始から7か月間の試算値(2.0%)に比べ,規模的には遙かに小さかった。第2次石油危機について同様な試算を行うと,0.7%と,今回に近い値となるが,今回の場合,危機発生から1年弱後の91年半ばには原油輸入価格が危機発生時点以前の水準に戻ったのに対し,第2次石油危機の当時は価格上昇が2年余りに渡ったことから,両者の実質的な差は遙かに大きかったとみられる(第1次石油危機のときも高価格はさらに長期間続いており,今回との差は実質的に更に大きかったと考えられる)。

次に,アメリカの景気後退の影響をみてみよう。前述のように,アメリカ景気が後退局面へと向かうなかで,90年度中の対米輸出は減少した。もっとも,対米輸出に関しては,乗用車等の現地生産拡大による輸出代替効果など,構造的な低下要因が次第に顕現化しつつあり,90年度の対米輸出の減少は,両者の効果が合わさった結果と考えられる(対米輸出の最近の構造変化については第4章第2節参照)。ちなみに,対米輸出の日本の輸出全体に占めるウエイトは,このところ低下している(ドルベース,85年37.2%→90年31.5%)。以上を総合すると,90年度の対米輸出の減少については,アメリカの景気後退以外の要因もある程度作用しているとみられ,また対米輸出減少の我が国輸出全体への影響も,以前に比べれば低下していると考えられる。

(貿易外収支,移転収支の赤字幅は大幅に拡大)

90年度の貿易外収支の赤字は3.2兆円(225億ドル)と,89年度の1.8兆円(126億ドル)比大幅に拡大し,既往最大の赤字となった。

内訳をみると(第1-5-5図),投資収益収支の黒字幅縮小,運輸収支の赤字幅拡大等が全体の赤字拡大に大きく寄与した。投資収益の黒字幅縮小の内訳をみると,その大部分はウエイトの大半を占める間接投資収益収支の変動による。そこで,間接投資収益の受払の変動の背景を推計すると,まず,受取は,対外長短資産の伸び率鈍化,ドル短期金利の低下が響いて伸び率がかなり鈍化した。一方,支払は,ドル短期金利が低下したものの,ユーロ円インパクトローン借入増等の長短負債の増加から大幅に拡大し,これが収支の黒字幅縮小に大きく寄与したとみられる(分析の詳細については付注1-4参照)。このような対外負債の増加には,後ほど長期資本収支の項でも触れるが,国内金融の引き締まり,株価低迷による国内資本市場の調達環境悪化等を背景に海外からの資金の取り入れが増加したことが大きく影響したとみられる。また,運輸収支は,用船料収支の赤字幅が拡大し,また,旅客運賃収支の赤字幅も拡大したことから,全体の赤字幅は拡大した。この間,ここ数年大幅な赤字幅拡大を続けてきた旅行収支は,90年中はかなりの赤字幅拡大が続いたものの,91年1月の湾岸における武力行使以後の海外旅行者数急減から,90年度全体としては,前年度をやや上回る赤字にとどまった。

以上のような投資収益の動きは,国民経済計算のなかでは海外との要素所得の受払に分類され,その収支は,国民総生産(GNP)と国内総生産(GDP)の差となって現われる。そこで要素所得の動向とGNP,GDPの動きをみると(第1-5-6図),特にここ1,2年,要素所得の変動によってGNPとGDPのかい離が目立っている。この点の最大の要因は,我が国の経常収支黒字継続を背景とした対外純資産の急激な増加に基づく投資収益収支の黒字幅拡大であるとみられる。ちなみに我が国の対外純資産は,80年末には115億ドルであったのが,85年末には1,298億ドル,90年末には3,281億ドルと急激に増加した。また,純要素所得の対名目GNP比率も,85,89,90年にそれぞれマイナス0.03%,0.35%,0.71%とかなり上昇した。この数字は為替相場等に大きく影響されるので幅をもってみる必要があるが,90年における国際比較では,日本はイギリス(同0.94%)よりまだ低い水準にあるものの,アメリカ(同0.76%)にほぼ並び,こうした面での我が国の「債権国化」も進捗しつつあるといえよう。このような要素所得の動きについてもうひとつ注意すべき点は,その短期的な振れが大きいことである。名目GNPベースの輸出等に占める海外からの要素所得の受取の比率は90年度中で28.9%に達し,また同じく輸入等に占める海外への要素所得の支払いは27.4%となっている。要素所得の大きな振れは,短期,特に四半期ベースのGNPの動きに攪乱的な影響を及ぼす場合があり,実体経済動向の正確な把握のためには,GDPの動きと合わせてみることが,有用である。

次に,移転収支の動向をみると,湾岸地域における平和回復活動を支援するための湾岸平和基金への拠出金(90年9月1,229億円<9億ドル相当>,90年12月1,300億円<10億ドル相当>,91年3月1兆1,700億円<90億ドル相当>)の影響から,1.9兆円(136億ドル)の赤字と,89年度の0.6兆円(40億ドル)比大幅な赤字幅拡大となった。

(経常収支の黒字幅は引き続き縮小)

以上の結果,90年度の経常収支黒字は4.7兆円(337億ドル)と,4年連続の縮小となった(第1-5-7図)。89年度は7.6兆円(534億ドル)であり,90年度は縮小幅自体も大きかったといえよう。内訳をみると,上でみたように,貿易外収支の赤字幅拡大の寄与が大きく,前年度の貿易黒字縮小にリードされた黒字縮小とは若干異なるパターンとなっている。87年度以降の黒字縮小期のなかで,90年度の動きは,旅行収支の赤字幅大幅拡大にリードされた88年度にやや類似したパターンといえる。この間,経常収支の黒字幅は,絶対水準でみても,ピーク時(86年度,941億ドル)に比べ,約3分の1にまで低下している。更に,経常収支の黒字幅の相対的な大きさをみるために,その対名目GNP比率をみると(前掲第1-5-7図),90年度は1.1%と,前年度(1.9%)に比べかなり低下し,これも,ピーク時(86年度,4.4%)に比べると,4分の1に低下している。

なお,すでにみたように90年度の大幅な黒字縮小には,原油価格の一時的な上昇や,湾岸への拠出金等,一時的ないし特殊な要因による部分が含まれている点には注意を要する。長期的な趨勢を判断する場合には,こうした点は割り引いてみる必要がある。また,91年度にかけては,経常収支の黒字幅の縮小テンポに鈍化がみられる。

(長期資本収支の流出超過幅は縮小)

次に,資本取引の方に目を転じよう。90年度の長期資本収支は,2.8兆円(168億ドル)の流出超過となり,その大きさは,89年度(14.1兆円<997億ドル>の流出超過)に比べ,大幅に小さくなった(円ベースでは80年度<0.6兆円の流入超>以来の小幅の流出超,ドルベースでは82年度<119億ドルの流出超過>以来の小幅の流出超,前掲第1-5-7図)。また,長期資本取引の内訳をみると(第1-5-8図),90年度は本邦資本の流出超過幅が大幅に縮小し,また,外国資本の流入超過幅もやや拡大したことから,全体の流出超過幅が大きく縮小したことがわかる。

まず,外国資本の動きをみると,日本国内の金融引き締まり等を反映して中長期インパクトローンの取入増等から借款の借入が大幅に増加し,これが流入超過幅拡大の主因となった。また,年度末にかけて本邦株価の値頃感が台頭したこと等を背景に対内株式投資が増加し,年度全体で流入超過に転じたことも流入超過幅拡大に寄与した。一方,90年初来の株価下落による起債環境悪化から,本邦企業のワラント債や転換社債などのいわゆるエクイティ物の外債発行は急減した。

次に,本邦資本の動きをみると,まず,対外直接投資は,年度後半に向けてやや減少気味となったものの,年度全体としては減少幅は比較的小さかった。一方,対外債券投資は大きく減少し,これが本邦資本流出超過幅大幅縮小の主因となった。

対外債券投資減少の要因は,国内金利上昇に伴う内外長期金利差縮小,国内資金需要の高まり,ユーロドルワラント債等の還流の縮小であったとみられる。日米間の長期金利差についてみると,89年半ばから主として日本側の金利上昇から目立って縮小し,90年9,10月頃を境にやや反転したものの,年度全体ではかなりの縮小となった。これは,生・損保等機関投資家の円投型外債投資を減少させる大きな要因になったと考えられる。そのほか,生・損保等機関投資家の外債投資抑制要因としては,外債投資比率がすでにかなり上昇し,これ以上この比率を引き上げる誘因が乏しいことや,国内金融の引き締まりから国内からの資金需要(銀行融資からのシフトや銀行向けの劣後ローンの供与等)が強まったことも影響したと考えられる。一方,ドルファンディング型の外債投資を行う銀行・信託(銀行勘定)等も,資産の拡大に慎重になっている状況のもとで,短期調達・長期運用というかたちの外債投資に対する意欲が薄れているものとみられ,これも外債投資減少の一因となったと考えられる。

この間,対外株式投資も,海外市場の軟調,国内株式市場の低迷を背景に低調であった。特に90年秋から91年初にかけては,湾岸危機による株価下落,景気後退による企業業績悪化懸念等を反映して米国株式を中心に処分が増加した。

このように,90年度中は本邦資本の流出が大幅に減少したことを主因に,長期資本収支の流出超過幅が大幅に縮小した。しかしながらその内訳をみると,対外直接投資の減少が比較的小さい一方,対外債券投資の減少が大きいなど,対外投資戦略の長期的な変更というよりも,①運用しなけれならないポートフォリオの総額の増加幅縮小,②国内金融情勢の変化(国内金利上昇,金融引き締まり,株式相場低下等),等の環境変化に対応したポートフォリオの調整といった側面が比較的強いとみられる。

(外需の動向)

以上の結果,90年度の外需は実質GNP成長に対しプラス0.1%(前年度マイナス0.6%)とわずかながらプラスの寄与に転じたが,86年度以降5年連続でいわゆる経済の内需主導型拡大が実現した。これを輸出等,輸入等それぞれの動きに分けてみると(第1-5-9図),輸出等は,やや振れが大きいものの,総じて前年より低い伸び率となった。これは,前述のように,輸出数量の伸びがやや高まったものの,運賃等のサービス輸出や投資収益の受取が,鈍化ないしマイナスとなったためとみられる。一方,輸入等は,年度後半にかけて減少した。これは,一方では,通関輸入数量が堅調に増加し,また,運賃,保険料等の支払いが湾岸情勢緊迫化等により増加したものの,前述のような,湾岸における武力行使後の海外旅行の落ち込みが影響したものとみられる。

(為替相場は年度後半にかけ円高へ)

90年度中の対米ドル円相場(インターバンク直物中心相場)の動きをみると(第1-5-10図),年度当初,90年初来の傾向を引き継いで円安が進み,対米ドル相場で一時160円/ドル程度まで下落したが,夏場から秋にかけて急速に円高となり,10月には120円台にまで上昇した。その後,やや反落がみられたものの,おおむね130円台で推移し,90年度を通してみると,年度後半にかけて円高に向かったといえる。もっとも,年度平均では,141.30円/ドル(インターバンク直物中心相場,平均値)と,前年度(同142.82円/ドル)比ほぼ同水準となった。こうした円相場の動きは,対米ドル相場だけでなく,他通貨に対しても総じて同様であった。たとえば,円の対各国通貨相場を加重平均した実効レート(IMF算出のMERMレート)をみても,対米ドル相場とほぼ同様の変動を示している。このような為替相場の年度当初までの円安が,ややラグをもって,年度中の数量ベースの輸出入に影響を及ぼしたことは,すでにみたとおりである。