平成3年

年次経済報告

長期拡大の条件と国際社会における役割

平成3年8月9日

経済企画庁


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第1章 景気循環からみた日本経済の現状

第3節 住宅投資と景気循環

90年度の新設住宅着工戸数の動向をみると,年度当初に一時的な盛り上がりがみられたが,年度後半には減少傾向となり,最近では大きく減少して高い水準とはいえない状況になっている。住宅投資は,金利水準などを通じて景気循環に影響される側面を持つとともに,人口要因などの構造的要因や建て替えサイクルといった独自の変動要因にも影響されている。また,地価上昇の影響も大きいものと考えられる。本節では,これらの要因が最近の住宅投資の動向に与えている影響について分析する。

1 今回の景気上昇局面における住宅投資の動向

(景気回復をリードした住宅投資)

今回の景気上昇局面では,住宅投資は公共投資と並び景気回復初期における国内需要拡大のリード役であった。GNPベースの実質民間住宅投資の動向をみると,86年度10.6%増,87年度26.3%増と高い伸びが続き,88年度以降は伸びは鈍化したものの,高い水準を維持してきた。実質GNPの伸びに対する寄与度をみると,86年度0.5%増,87年度1.3%増と大きなものとなっており,今回景気回復初期に住宅投資が内需中心の景気拡大を牽引する役割を果たしたことが判る。新設住宅着工戸数の動きをみると,86年度140万戸の後,87年度には173万戸と73年度以来の高い水準を記録し,その後も88年度166万戸,89年度167万戸と高い水準を保ってきた。

新設住宅着工戸数の動きを利用関係別,地域別にみると,住宅投資の盛り上がりは86年度の東京圏の貸家に始まったことが判る。東京圏の貸家建設ブームは87年度にピークアウトしたが,87~88年度には,大阪圏,名古屋圏で貸家が増加をみせ,88年度以降は,地方圏を中心に分譲住宅の増加が続いたため,その後も住宅着工戸数は高い水準を保っていた。また,89年度以降社宅建設ブームがみられ,戸数は小さいものの,給与住宅が高い伸び率を示した(第1-3-1図)。

88年度以降の新設住宅着工戸数がほぼ横ばいで推移しているにもかかわらず,実質民間住宅投資の増加が続いているのは,質的向上の寄与が大きくなっているためである。第1-3-2図で実質住宅投資の増加要因の内訳(推計)をみると,86年度からの住宅投資の盛り上がりは戸数の増加要因が中心であったことが判る。他方,一戸当たり床面積の要因は,面積の小さい貸家中心の盛り上がりであったためマイナスとなり,質的向上要因は小さなプラスにとどまっていた。これに対して,88~90年度では,戸数の増加はほとんどなくなった反面,質的向上の寄与が大きくなっていることがみてとれる。さらに,リフォーム需要の増加も実質住宅投資の増加に寄与している。

(住宅投資の最近の動向)

90年度に入ると,年度当初に金利先高感等から持家で駆け込み着工がみられたが,年度後半は貸家を中心に減少傾向となっている。90年度の実質民間住宅投資は前年比10.2%増と高い伸びとなったが,年度後半は減少が続いている。四半期の動きをみると,季節調整済前期比で4~6月期5.2%増,7~9月期5.9%増と年度当初の駆け込み着工を反映して高い伸びを示したが,その後減少に転じ,10~12月期1.6%減,91年1~3月期2.9%減となっている。90年度の新設住宅着工戸数は,年度当初の一時的盛り上がりもあり年度総計では167万戸と高い水準ではあるが,年度後半には減少傾向を続け,最近では大きく減少して高い水準とはいえない状況になっている。四半期の動向をみると,季節調整済年率で,4~6月期176万戸と非常に高い水準となり,7~9月期も171万戸と高い水準が続いたが,年度後半からは減少傾向がみられ10~12月期166万戸,91年1~3月期151万戸となり,最近は特に大きく減少して140万戸前後となっている。利用関係別にみると,90年度は分譲住宅,給与住宅が高い伸びとなったものの,貸家,持家が減少している。最近の動きをみると,貸家の減少が特に大きくなっており,それまで増加を続けてきた分譲住宅も減少に転じている。

2 住宅投資の変動要因

(景気循環要因と住宅投資独自の要因)

住宅投資は,設備投資や消費に比べて景気循環との関係が一定していない。住宅投資には,金利水準や建築コストの動向などを通じて景気循環に左右される側面があるが,そればかりでなく,人口要因や建て替えなど住宅投資独自の変動要因にも大きく影響されているからである。また,今回の住宅ブームの先導役となった貸家建設(東京圏)などは,地価上昇により影響された面もあるものと考えられる。

景気循環要因としては,金利水準の影響が最も大きい。住宅投資のなかでも貸家建設は金利水準の変化に対する反応が中小企業の設備投資と並んで最も敏感であり,中小企業設備投資と同様に需要項目のなかでは比較的景気拡大初期から盛り上がる性格をもっている。また,建築コストは一般物価に比べて変動が大きく,景気拡大とともに上昇率が高まる傾向があり,これが住宅投資を抑制する要因になる。したがって,景気循環との関係では住宅投資は景気回復期や拡大期の比較的初期に盛り上がり,景気拡大の後半にはむしろ不調になるという傾向がある。

住宅建設独自の構造的な要因としては,人口・世帯要因が大きいと考えられる。貸家は主に若年層を借手としており,若年層人口の増加は貸家建設の促進要因となるし,婚姻などによって世帯数が増加すると6~8年後を中心に持家志向とあいまって持家又は分譲住宅の建設を促進する要因になると考えられる。また,循環的要因としては,30年以上にわたる建て替えサイクルがあるが,建て替え時期は金利の影響を受けるし,生活様式の変化や土地利用の転換があると物理的耐用年数以前に廃棄される住宅があるので,必ずしも安定したものではない。

地価上昇は,土地を保有しない家計にとって住宅取得費用の増大を意味することから住宅投資を抑制する要因の一つである。しかしながら,地価上昇期待があると投機的動機による住宅取得を刺激したり,住宅取得を早めたりすることもあると考えられる。また,地価水準が著しく高くなると税負担の増加により,土地利用の高度化を有利にする効果が強まって,余裕地を持つ家計の貸家建設が促進されるということも考えられる。

(利用関係別,地域別の変動要因の分析)

以上のような要因の影響を定量的に分析するため,住宅着工関数を推計しよう。ただし,利用関係別に資産としての保有動機が異り,また,影響を与える人口要因も違うと考えられること,地域間の地価水準の差が著しく大きいことなどから,上記の諸要因が住宅着工に与える影響が利用関係別及び地域別に大きく異なる可能性があると考えられたため,持家,貸家(東京圏,東京圏を除く全国),分譲住宅(三大都市圏,地方圏),民間給与住宅に分けて住宅着工関数を推計した。また,今回の分析においては,住宅建設には土地取得を伴う場合があること等により,住宅建設と地価は相互に影響を及ぼし合う関係にあること,金利は地価上昇率に影響を与えており,金利と地価上昇率の間には相関関係があること,地価上昇率だけでなく,地価水準自体も住宅建設に影響すると考えられることについて,十分に留意する必要がある。

第1-3-3表の推計結果をみると,民間給与住宅を除いていずれも金利要因についてはマイナスの係数となっている。なかでも,東京圏の貸家,三大都市圏,地方圏の分譲住宅で金利の影響が特に大きくなっている。また,地価上昇率の係数は,持家,東京圏を除く全国の貸家,三大都市圏の分譲住宅についてはマイナス,東京圏の貸家,地方圏の分譲住宅,民間給与住宅についてはプラスになっている。係数がプラスとなった理由としては,東京圏の貸家については地価高騰が相続税制等による貸家建設促進効果を反映したと考えられ,地方圏の分譲住宅は地方中核都市やリゾート等での投資目的のマンション取得や地価の上昇,ライフスタイルの変化等によりマンション需要が増加したことを反映しているものと考えられる。また,給与住宅については,地価上昇で従業員の自家取得が難しくなったことや地価上昇期待による投機的な資産保有動機を反映しているものと考えられる。

これらの推計式を用いて住宅着工の変動の要因をみると,持家については,86~87年の盛り上がりは金利水準の低下,婚姻数の下げ止まり,実質貯蓄額の上昇などによること,88年の減少は地価高騰の影響によること,最近の減少は金利の高まりによることがみてとれる。東京圏の貸家については,86~87年の盛り上がりは金利の低下と地価高騰の影響によること,88~89年の減少は地価高騰の沈静化と建築コスト上昇によること,最近の減少はもっぱら金利の高まりによることがわかる。東京圏を除く全国の貸家については,86~87年の盛り上がりは金利水準の低下,その後の減少は地価高騰,建設コストの上昇によるものであり,最近の減少は金利の高まりに加え,若年層人口が減少に転じたことによるとみられる。三大都市圏の分譲住宅については,87年の増加は金利水準の低下によると思われる。なお,最近の高い伸びは中小の不動産業者が資金回収のため前倒し着工しているによるとも考えられ,推計式で用いた要因では説明ができていない。地方圏の分譲住宅については,87~88年の盛り上がりは金利水準の低下により,90年の高い伸びは地価上昇によると考えられる。民間給与住宅の最近の高い伸びは企業収益の増加と人手不足による求人目的の社宅充実を反映していると考えられる(第1-3-4図)。

以上の利用関係別,地域別の住宅着工の動きをまとめてみると,今回住宅投資ブームは金利水準の低下により増勢が始まったこと,金利の下げ止まりでその影響が小さくなる段階で一般には住宅投資に対する抑制要因と考えられている地価上昇が逆に促進要因として作用したと考えられる場合があったこと,建築コストが上昇するなか,金利水準の高まりとともに減少に転じたことがわかった。

(建て替え需要の影響)

現在,住宅ストックは4千万戸余り有り,毎年約80万戸,伸び率で約2%程度増加している。これに対して,新設住宅着工戸数は170万戸程度であるので,転地のケースなどを含む広義の建て替えが約90万戸あることになる。単純に計算すると更新率は2%弱で更新期間は50年余りということになるが,住宅ストックの平均年令が比較的若いことを考慮すると更新期間はこれより短いと思われる。新設住宅着工戸数と住宅ストックに基づいて,エコー効果(過去の一定時点における新設投資が一定期間後更新投資となってあらわれる現象)に基づく住宅の平均更新期間を求めたのが第1-3-5表である。これをみると,住宅の建て替え期間はこのところ短くなる傾向にあり,90年では平均して約34年となっている。80年代前半は建て替えが60万戸程度,平均更新期間が40年を超えていたのとは様変わりであり,このところの新設住宅着工戸数の増加のかなりの部分を建て替え需要の増加が占めている。これは,住宅の老朽化に伴う建て替えが増加したことに加え,一戸当たり床面積,浴室やキッチンなどの設備,内外装の質などの面で要求水準が高まったことも反映していると思われる。設備や内外装への要求水準の高まりはリフォーム需要からもうかがわれる。以上を踏まえると,最近の住宅投資が減少傾向にあるのは金利水準の高まりの影響が遅れを伴って現れているためと考えられること,最近は金利がやや低下していることを勘案すると,さらに,金利が住宅着工にマイナスの影響を与えるとは考えにくい。また,建て替え需要やリフォーム需要も住宅投資を下支えする要因になると考えられる。90年度後半に国内需要の増勢が緩やかになったのは住宅投資の減少によるところが最も大きいが,堅調に推移している個人消費や設備投資のプラスの寄与に比べれば大きいものではなく,今後も内需中心の景気拡大を続けていくのに障害にはならないものと考えられる。