平成2年

年次経済報告

持続的拡大への道

平成2年8月7日

経済企画庁


[目次] [年度リスト]

12. 金  融

(1) 89年度の金融動向

89年度の我が国経済は,設備投資,個人消費に牽引された内需主導の拡大を続けた。この間,金融面については,89年5月に9年2か月振りに公定歩合が引き上げられ,以降合計4次に亘る引上げが行われた。

マネーサプライの動向をみると,引き続き根強い資金需要に加え,金融自由化の進展年株式,債券市場の変動等により,89年度のM2+CD平均残高は88年度前年度比10.8%増からはやや縮小したものの,同10.3%増と引き続き高い伸びとなった。

89年度の短期金利は,ほぼ一貫して上昇を続けた。これは景気の長期拡大による製品,労働力需給のタイト化や為替レートの円安化を背景に,目先金利先高感が強まったこと,また,金融当局が公定歩合を引き上げるなどきつめの金融調節を行ったためである。一方,長期金利の動向をみると,89年初来6月央にかけて短期金利と歩調を合わせるかたちで上昇した後,6月末から8月初にかけて低下した。しかし,その後再び強含みとなり,さらに89年末以降年度末にかけて為替相場が大幅に円安になる中で米国金利の下げ止まり等を受けて,大幅に上昇した。以上のような金利情勢において,89年7月以降,短期金利が長期金利を上回るという,いわゆる長短金利逆転現象が現出した。

株式の動向をみると,89年末を境に大きく変化した。すなわち,89年度に入って上昇基調で推移し,11月末以降上げ足を速め,12月中旬には東証株価指数の最高水準となった。しかし,90年に入り,為替相場が大幅に円安となり長期金利が上昇する中で,一転して一時は大幅に下落した(第12-1図)。

第12-1図 金融・資本市場の動向

89年度の金融市場は,88年度2兆4,067億円の不足から2兆9,540億円の不足となった(第12-2表)。

第12-2表 89年度資金需給実績

これを銀行券の動きについてみると,発行超幅は3兆6,085億円と前年度に比べ大幅に拡大した(88年度2兆7,214億円)。平均発行残高の前年比増加率をみると,88年度10.9%増の後,89年度は,好調な景気拡大の持続をうけて11.l%増となった。これを四半期別前年同期比でみると,89年1~3月期11.1%増となった後,4~6月期10.3%増,7 ~9月期11.2%増,10~12月期11.6%増,90年1~3月期11.O%増といずれも高い伸びとなった。

また,財政資金をみると,89年度は,88年度の揚超(7,312億円)がら,交付金の規模増等により2兆958億円の散超に転じた。

(2) マネーサプライの高い伸び続く

マネーサプライの推移をみると,M2+CDの平均残高(前年度比)は,87年度11.2%増,88年度10.8%増の後,89年度は10.3%増と引き続き高い伸びとなった。この間,M1(現金通貨と預金通貨の合計)の平均残高は87年度10.2%増,88年度8.5%増となった後,89年度は2.O%増と伸びを低めた。M2+CDの平均残高(前年同期比)を四半期毎にみると,88年1~3月期12.1%増とピークを打った後,低下を続け,89年4~6月期9.7%増となったが,その後,再び伸びを高め,90年1~3月期は11.7%増とかなり高い伸びとなった。このように,金利の上昇にもかかわらず,マネーサプライの伸びが徐々に高まってきた背景として,①景気拡大の長期化や企業マインドの強さから借入需要が堅調に推移したこと,②小口MMCの創設や大口定期預金の預入条件の弾力化等の金融自由化要因による需要の増加,またこれに加えて年初来の債券,株式相場の急激な変動,さらには4月以降の郵便貯金の大量満期到来等によるマネー対象外資産からのシフト,などが上げられよう。次に,供給サイドについてマネーサプライの信用面での対応をみると(第12-3図),高水準のマネーサプライの伸びは,専ら金融機関による民間部門向け信用によってもたらされていることがわかる。また,通貨種類別にみると(第12-4図),準通貨を中心に増加を支えており,大口定期等の自由金利預金の増大が寄与していることが窺える。

第12-3図 マネーサプライの供給要因別寄与度

第12-4図 マネーサプライ増減の通貨種類別寄与度

(3) 全国銀行の貸出約定平均金利は大幅上昇

89年度の金融機関の預貸金動向をみると,金利自由化の進展や旺盛な資金需要をうけて実質預金,貸出とも引き続き高い伸びを示している。

まず,預金についてみると,全国銀行の実質預金残高(末残)の前年度比伸び率は,金利自由化の進展や金利上昇により,88年度10.5%増からさらに伸びを高め,89年度は11.8%増となった。

次に,貸出についてみると,全国銀行貸出残高(末残)の前年度比伸び率は,88年度10.6%増の後,89年度11.9%増と,引き続き高い伸びとなった。これは,景気の長期拡大に伴う設備・運転資金や個人住宅ローシ等の資金需要が引き続き強かったためである。

全国銀行の貸出約定平均金利をみると,短期貸出金利は,市場金利が上昇する中で短期プライムレートが,89年度に入って4次にわたって引上げられたこと等により大幅に上昇し,90年3月末には6.249%(89年3月末4.098%)となった。また,長期貸出金利は,長期プライムレートが7月がら5回に亘り通算1.8%引上げられたこと等により89年後半から上昇に転じ,90年3月末には6.525%(89年3月末5.681%)となった。この結果,長期と短期を合わせた貸出約定平均金利(総合)は,90年3月末には6.431%(89年3月末5.057%)となった。

89年度の企業金融をみると,金融機関の貸出態度は,年度後半以降,急速に厳しくなり,資金繰りの緩和感は徐々に後退している。

企業の資金需要は,景気の長期拡大を受けて年度を通じ総じて設備資金・増加運転資金とも堅調に推移した。業種別にみると,サービス業,リース業を中心に非製造業では堅調に推移する一方,製造業でも,設備資金等で増加がみられる。また,規模別には,都銀等で中堅,中小企業向けの長期貸出が引き続き増加している。この間,住宅ローンを中心とする個人の資金需要も堅調さを維持している。

(4) 年度末にかけては「トリプル安」

89年度の資本市場について,まず起債市場をみると,89年度の民間債,公共債の発行合計額(国内公募・非公募債発行分で,金融債,円建外債を除く)は46兆191億円と前年度比13.1%増となった。このうち,民間債は,9兆6,504億円と前年度比19.5%増となり,公共債は,36兆3,687億円と前年度比11.5%増どなった。民間債の増加要因としては,企業の旺盛な資金需要から転換社債の起債が引き続き活発に行われたことに加え,ワラント債が発行弾力化措置を受けて2年振りに発行されたことがあげられる。公共債については,国債発行額が新規財源債の減少により前年度比減少した一方,借換債の増加により全体としては前年度を上回った。

次に,流通市場をみると,89年度の公社債売買高は,東京店頭市場で3,506兆7,920億円と,前年度に比べ577兆8,735億円減少(前年度比14.1%減)となった。内訳をみると,一般売買高が2,476兆4,142億円と前年度比13.2%減,現先売買高が1,030兆3,778億と前年度比16.4%減となり,一般売買,現先売買とも不振であった。この背景としては,為替相場が円安基調となり,金利上昇懸念等から相場環境が不透明な状態が続いたため各投資部門とも売買姿勢が消極化したことが大きな要因であった。また,一方,89年度の債券先物の売買高は,前年度比3.6%減の3,705兆4,522億円となったものの,現物市場を上回る規模となった。

公社債相場の動きをみると,国債流通利回りは,89年初来6月央にかけて,為替相場の動き等を受け,短期金利と歩調を合わせるかたちで上昇した後,6月末から8月初にかけて低下した。この結果,7月以降,長期金利が短期金利を下回るという長短金利逆転現象が現出した。その後,長期金利は再び強含みとなり,さらに89年末以降年度末にかけて為替相場が大幅に円安になる中で,大幅に上昇し年度末には7%台前半となった。

株式の動向をみると,89年末を境に大きく変化した。すなわち,89年度に入って景気拡大の長期化や企業業績の好調等に支えられて,上昇基調で推移し,11月末以降上げ足を速め,12月中旬には東証株価指数の最高水準となった。しかし,90年に入り,為替相場が大幅に円安となり長期金利が上昇する中で,一時は大幅に下落した。こうした中で,売買株式数は,大幅に減少し,時価総額(東証一部)も90年3月末には前年同月比6.5%減少して458兆57億円となった。


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