平成2年

年次経済報告

持続的拡大への道

平成2年8月7日

経済企画庁


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第3章 経済力の活用と成果配分

第5節 消費者への成果配分

ここでは,内外価格差という形で顕在化した物価水準の高さの問題を手掛かりにして,消費者への成果配分を阻害している構造的な要因について考察する。

すなわち,物価の水準,内外価格差や価格の伸縮性の状況とその背後にあると思われる公的規制や流通機構,商慣行といった市場の構造的枠組みについて点検し,これを通じて,日本の市場が真に開放的なものか,産業組織が競争的かどうか,生産の効率性や技術革新の成果が消費者に充分還元されているかどうかといった点を評価する。さらに,具体的な障害を指摘するとともに,それを是正するための方策についても検討する。

1. 内外価格差と消費者

生産活動の成果は,多くの場合市場取引を通じて消費者に配分され,競争的な市場経済システムでは,価格が需給調節のパラメータとして働く。しかし,市場経済システムが何らかの理由で機能障害を起こし,価格メカニズムがうまく働かなくなると,生産側の情報が消費者にうまく伝わらなかったり,消費者が高い買物をさせられるといった形で消費者の利益が侵害される可能性がある。

この意味で,物価水準や価格の伸縮性の程度は市場メカニズムが十分機能しているかどうかを判定するための一つのバロメーターであるといえる。

(全般的な物価水準の高さ)

まず,経済全体の総合的な物価水準が国際的にみて高いかどうかという点をみよう。これは,購買力平価と為替レートの比較によって可能である。たとえば,89年の国内総支出(GDP)の対米ドル購買力平価は,OECDの試算によれば1ドル=202円とされているのに対して,同年の実際の平均為替レートは138円であった(ただし,購買力平価の試算にあたっては,為替レートが需給関係などの変化によって短期的に大きく変動すること,現実には比較の対象となる国の間には生活習慣,料金体系,サービス内容,.税制等の相違があり,正確な推計には種々の困難が伴うことには留意する必要がある)。このことは,仮にGDPを構成する商品のバスケットが日米で同じだとして,日本で買えば202円する商品の組合せをアメリカでは138円で買える,すなわち,日本の物価はアメリカよりも46%程度高いということを意味する。同様に,イギリス,西ドイツ,フランスとの比較でも,アメリカほどの差はないが,日本の物価が高いことが推察される(第3-5-1図①)。

次に,国民生活により関係の深い民間最終消費支出の購買力平価を現実の為替レートと比較してみると,89年12月においては,為替レートが円安になったこともあり,若干価格差が縮小しているものの,日本の物価は,アメリカ,イギリス,フランスに対してそれぞれ35%,34%,10%程度割高であり,西ドイツとほぼ等しくなっている(第3-5-1図②)。

このように,購買力平価と現実の為替レートが乖離している(目下の例でいえば,現実の為替レートが購買力平価より円高)ということは,とりもなおさず各国の物価水準を現実の為替レートで換算して国際比較すると,内外価格差が存在する(目下の例では国内が割高)ということになる。実際,内外価格差の程度は,85年以降の大幅な円高の進行過程で拡大した。購買力平価が218円で,対米為替レートが239円であった85年においては,平均的には日本の物価はアメリカよりも安かったことになる。この限りにおいて内外価格差は短期的には円高によって顕在化したものといえる。

しかし,85年当時においても内外価格差が存在しなかったわけではない。習慣や制度に大きな違いがあることには注意する必要があるが,当時においても,民間最終消費支出をさらに費目別にみると,食料・飲料等,教育・レクリエーション・教養,交通・通信などは顕著な内外価格差が存在したのである。また,88年から90年にかけては円安の動きがあり,その結果,89年の価格差が88年のそれに比較してやや縮小した形になっているが,依然として格差は大きいという結果になっている(第3-5-1図③)。

このように,内外価格差は為替レートの短期的変動の影響を受けるとはいうものの,円安期においても費目によっては日本のほうが高いものがあり,また円高になった場合,数年たっても貿易財の価格差が縮小しないことは,消費者行動の要因に加え,市場機構の働きを阻害するなんらかの構造的問題点があると考える方が自然であろう。

(貿易財の内外価格差)

貿易財(輸出入が可能な財)については,もし輸出入に何ら障害がなければ,国際間の価格裁定によって,長期的な均衡においては,価格差はたかだが輸送コストと税制の差などの合理的な範囲内に収まるはずである(いわゆる1物1価の成立)。しかし,現実には,様々の理由から内外価格差の程度はその範囲を超えている。

同一銘柄及び類似の商品における国内と国外との内外価格差をみると,香水,口紅など欧米ブランドの輸入品についての価格差が著しい。これは,消費者のブランド志向が強いことや輸入総代理店の問題(後述)等に原因があると考えられる。また,その他にも内外価格差の大きい品目があり,これらの中には価格規制や数量規制等の行われているものもある。

国産品の国内価格と輸出価格についても,内外価格差がありうる。国内品と全くまたはほとんど同じ製品が海外で国内よりも安く売られるのは,まず,為替レートの変化に対する輸出品の価格改定(パス・スルー)が遅れたり,古い為替レートで取引された在庫品が市場に出回る場合などが考えられる。しかし,これらは一時的な要因であり,早晩解消する筋合いのものである。より永続的な要因としては,日本企業の国内市場と輸出市場との間の価格付けを反映していることが考えられる。これは,「市場に対応した価格付け(PTM=Pricing to the Market)」といわれるものである。一般に,複数の市場に製品を供給している企業は,競争的で当該企業にとっての需要の価格弾力性が大きい市場において高く,非競争的で価格弾力性の小さい市場よりも安く売るのが,全体としての利益を最大化するうえで合理的である。こうした輸出品の内外価格差は,最近では縮小の方向にあるとみられる。

(生産性と内外価格差)

内外価格差の問題は,購買力平価と為替レートの乖離と裏腹の関係にあることを上でみたが,その現実の為替レートは,生産性上昇率が高く,日本が国際競争力を持つ貿易財部門の購買力によって強く影響されると考えられる。

貿易財の購買力平価については,73年の為替レートを基準として(その年の経常収支がほぼ均衡していたとに注目したもの)計算してみると,89年でおおよそ132円となっている。そこで次の問題は,貿易財の購買力平価と全体の購買力平価のこうした開きが存在するのはなぜかということになる。昨年の年次経済報告でも指摘したように,その背後にあるのは生産性の格差である。日米間の比較で貿易財部門の生産性が132円にふさわしいものであるのに対して,非貿易財部門の生産性が劣っているということである。

ただし,現実に生産性の水準を部門間で比較してみると(第3-5-2図①),こうした説明をはっきりと裏付けるものとはなっていない。貿易財の中では化学,一次金属などでは日本の生産性が高いが,日本の輸出産業の中で最も競争力があるとみられる機械工業でほとんど差がないという結果になっている。これは産業によって分配率の違い(背後には資本装備率の違い)や賃金水準や原材料コスト,エネルギー・コストの相違があり,それが日米の各産業の産出価格に影響し,このように計った生産性は,必ずしも競争力を反映しなくなっているからである。しかし,生産性の水準ではなく変化率の産業間の違いは,価格の変化率の産業間の違いをかなり説明すると思われる。なぜなら,①賃金水準は産業間でかなりの差があるが,その変化率は,賃金は世間相場の働きや裁定により,あまりばらつきがない,②分配率の水準は産業によって区々であるが,景気の変動によって同方向へ多少ふれる以外は変動があまりない,③産出価格に占める原材料とエネルギーのコストの割合についても産業間では大きな違いがあるが,その変化の程度については,日米で同じ産業をとればあまり違いはない,といえるからである。

そこで日米の部門別の生産性の水準の比較ではなく,その変化率の比較を行ってみると(第3-5-2図②),貿易財部門の生産性の上昇率は,アメリカの同部門のそれを大幅に上回っているのに対し,非貿易財のそれはアメリカと同程度か,ものによってはアメリカを下回るものになっている。初期条件についての比較は行っていないが,全体としての購買力平価と現実の為替レートの間にあまり開きがなかった75年を基準としているので,それ以降の内外価格差の変化について説明できればよい。

ここで,生産性が国際的に低い部門,あるいは生産性の伸びがアメリカに比べて低く,それが内外価格差を拡大させる要因になった部門が問題なのである。

もちろん,物理的に貿易が不可能な財もなくはないが,そうした場合でも,生産性に問題がある場合には競争原理によってそれを改善することが一つの解決策であったはずである。また,一部の対個人サービスなどのように,産出物が労働そのものであって生産性が上昇しにくい性格のものもある。この場合は為替レートが円高になるにつれてほぼ自動的に内外価格差が拡がることになる。

しかし,それ以外の部門については,一般的に国際競争にさらされていたならば,生産性が上昇したはずの部門も多く,根本にはそれを妨げるような障壁が内外価格差の要因の一つになっているといえよう。

2. 内外価格差の構造的要因

こうした内外価格差を顕在化させた要因として,85年以降の大幅な円高の進行があることはすでに指摘した。しかし,円高前から内外価格差が存在したことからみても,物価が高い理由としては,もっと構造的な問題が背後にあると考えられる。以下では,他の条件にして一定ならば,市場競争が活発であるほど物価が低下するとの認識にたち,市場競争を阻害している要因の分析を通じて,内外価格差の原因を検討してみよう。

(市場構造と物価の関係)

物価の高さは市場集中や参入障壁といった市場構造と密接な関連がある。

まず,市場集中と物価変動の関係をみてみよう。これは,少数のメーカーによって供給されている寡占的な市場ほど,メーカーの価格支配力が強く働き,物価水準を下方硬直的にし,場合によっては押し上げる要因になることも考えられるからである。そこで市場集中度と物価変動の程度との相関関係を調べてみると,国内卸売物価指数は,市場集中度が高くなるほど,その分散が小さくなる(すなわち価格が硬直的になる)という傾向がかなり安定的に観察される。したがって,市場集中度は物価の水準や変動を考える場合の基本的な要因の一つといえよう(第3-5-3表)。

次に,参入が容易かどうかという点が重要である。仮に,第一の市場集中度の点からみて寡占的であっても,潜在的な競争者が,容易に参入しうるような市場構造になっていれば,既存企業もそれほど価格を高めに維持できないからである。このように,潜在的な競争者が独占抑止力を発揮できるような構造の市場はコンテスタブルな市場とよばれ,近年,市場が競争的かどうかの評価基準として注目されている。

こうした参入を困難にする要因としては,まず,初期における先行投資コストの大きさや,寡占による市場構造の硬直化があげられるが,そのはかにもブランド力がある。ブランドは,最も典型的には,広告宣伝活動によって消費者の間に浸透すると考えられる。広告宣伝費の売上高に占める比率を業種別にみると,医薬品,食品が3%前後と高いほか,サービス業,小売業などが比較的高くなっている。一般的に過剰な広告宣伝活動は,コスト面から価格上昇圧力になることはもちろんであるが,同時に,参入障壁を高める要因となりうるため,二重の意味で物価を押し上げる要因になると考えられる。

いま,ビールを例にとって,コスト構成に占める広告宣伝費と物価の関係をみよう。ビール製造業は典型的な寡占市場であり,その価格変更は従来より1社が先行し,他社がほぼ同一内容で追随する(いわゆるプライス・リーダーシップ)という形で行われてきた。こうしたビール製造業者の価格設定行動については,市場構造が寡占的であるという要因の他,酒税負担率が極めて高いことや製造方法等が各社類似していることも関係してきたとみられる。

ビールの価格(標準小売価格等)は,税制の変更による場合を除けば,83年以来改定されていなかったが,90年3月に,各社ほぼ一斉に同一の値上げを行った。その主要な要因として,流通業者の人件費,配送費等の大幅なコストアップがあり,今般の価格改定は流通救済型の値上げといわれるが,ビール製造メーカーにとっては流通業界と同様,人件費,設備費,配送費等のコストアップ要因に加えて,広告宣伝費の増加があるとみられる。そこで,ビール製造メーカー上位3社の広告宣伝費をみると,3社中2社で88年に大幅に増加しており,また,営業費用の増加の1つの要因になっていることがわかる(第3-5-4図)。

さて,市場構造が非競争的な財ほど物価が高いということは,非競争的であるほど利潤率が高いことを意味している。そこで,資本利潤率(総資本経常利益率)を,市場集中度および製品差別化と参入障壁の代理変数としての広告費/売上高比率で説明する回帰分析を行った。これによると,市場集中度が高いほど,また広告費支出性向が高いほど資本利潤率が高くなっており,市場構造が寡占的で製品差別化の進んだ市場では,超過利潤が発生しがちであることを示唆している(第3-5-5表)。

最後に,公的規制のなかで参入規制(市場への参入に関する許認可や輸入規制)は,それが実効的なものであれば,重要な参入障壁になると考えられる。

この点は,参入障壁以外の問題点も含めて以下でさらに詳しくみよう。

(公的規制と物価の関係)

我が国の公的規制は極めて広範囲にわたっており,公的規制の主要な部分を占める許認可等について総務庁の調査によると89年3月時点で10,441件にのぼり,88年3月時点の10,278件に比べ163件増加している。また公正取引委員会の試算によれば,経済全体の付加価値(すなわちGNP)に占める公的規制が行われている産業の付加価値の割合は,89年3月末現在で41%であると推計されている。このうち強い規制が実施されている分野の構成比は,24%となっている。

物価に影響を与える公的規制は,大きく価格規制と数量規制に分けられる。

価格規制としては,需給調節などによる価格支持と政府が価格決定に直接関与する公共料金がある。数量規制としては,輸入規制とそれ以外の市場参入規制があり,間接的には価格に影響を与えるものもあると考えられる。

こうした公的規制は,元来は,規模の経済性に伴う自然独占,企業と消費者の間の情報の非対称性,公害等外部不経済の発生などに伴い市場の失敗が生じる場合や,事業経営の健全性及び財・サービスの安定的な供給を図ること等を目的として導入されたものである。しかし,そうした規制のなかには,運用のいかんによっては目的を逸脱して,過度に市場競争阻害要因になったり,企業の活力を削ぐ可能性がある。こうした公的規制の緩和を推進しようとする動きは,公的部門の肥大を防止し,「小さな政府」を実現するための手段として,欧米諸国の中にみられるようになった。日本でも81年の臨時行政調査会の発足以来,簡素で効率的な政府を実現すること等の趣旨から規制緩和が提唱されてきた。さらに第二次臨時行政改革推進審議会の答申においては,国民生活の質的向上を実現する観点などから,規制緩和の重要性を指摘している。いまや日本経済の構造を生産重視から消費生活重視へ転換させることが求められており,公的規制の緩和も,こうした新しい要請を加えてさらに強力に進める必要がある。

消費者の利益という視点からみた時,過剰な公的規制の弊害としては,次の諸点が挙げられる。第一に過剰な公的規制は,価格を高くしがちであり,既存の企業に超過利潤(レント)を発生させる可能性がある一方,家計が消費者余剰をフルに享受する妨げとなる場合もある。第二に,既存の企業は,新規参入が制限され,競争が抑制されるため,技術革新の停滞等ダイナミックな企業の活力を減退させる可能性がある。そうした場合には,最終的には消費者の負担になる可能性がある。第三に,公的規制の実施に伴う行政コストは,少なくともその一部は,結局,税などの形で納税者である消費者が負担しなければならないが,規制緩和が,そうした行政コストを削減することになりうる。

公的規制の問題点は,具体的には,規制対象品目における価格の硬直性という形で現れている。例として,85年のプラザ合意以降の大幅な円高が進行する過程で,日本の輸入品について,輸入物価の低下が国内物価の低下にどの程度波及しているかをみると,国内物価の下がり方は,公的規制のある品目より,ない品目の方がかなり大きくなっている。このような円高局面における価格低下の阻害要因としては,消費者のブランド指向等種々のものが考えられるが,公的規制もその要因の一つになっていることも考えられる。しかしながら,規制の種類によって物価動向には大きな差がみうけられ,例えば価格支持制度の品目については,輸入物価が88年前半まで大幅に低下しその後大きく上昇したのに対し,国内物価は行政価格の引き下げ等の政策努力から低下ないし横ばいとなっており,国内価格を安定させる効果が認められる(第3-5-6図)。

(企業の消費をめぐる諸問題)

最後に,企業の社用消費が物価問題にどのように係わっているか考えてみよう。税務統計でみると,88年(2月から翌年1月まで)に企業が支出した交際費は4.5兆円,GNPの1.2%に相当する。各業種の付加価値額に占める交際費の比率をみると,建設業と卸売業が全産業平均より高い。また,従業員一人当たり交際費額では,不動産業,卸売業,建設業,鉱業,化学工業などが全産業平均より高くなっている(第3-5-7図)。交際費については,その支出の状況及びこれに対する強い社会的批判にかえりみ,原則として全額損金不算入とされているところであるが,交際費支出は多額なものとなっている現状にある。その背景には日本の商慣行における人間関係や長期的取引関係を重視するという特徴が関係しているとみられる。

こうした交際費支出,すなわち社用消費は,二重の意味で物価の押し上げ要因になると考えられる。第一は,交際費は,少なくともその一部は,最終的に製品価格に転嫁されうるからである。第二は,企業が購入する消費財・サービスは,高めの価格設定が購入側の企業によって受け入れられてしまう傾向があるという点である。

3. 流通機構の諸問題

(流通機構の特徴)

日本の流通業(卸売業・小売業)は,GNPの13.2%(88年名目ベース)を占め,就業者の17.6%を占める。

小売業については,小規模な店舗が多数存在するということが特徴として挙げられる。1店舗当たりの販売額,従業員数などでみると,ヨーロッパ諸国とはそれほど差がないものの,アメリカと比較すると零細であるといえる。また,小売業の規模別の生産性格差(従業員一人当たり販売額格差)は,日本の方が西欧諸国より大きいということがいえる(第3-5-8表)。このうち,従業員1人から2人の生業的な小売店は,販売額で全体の11.2%,従業員数で21.0%を占めているが,その数は82年以降減少しており,これは経営者の高齢化や後継者難,スーパー,セルフ店などの発達によるものと考えられ,小売業の零細性という構造的特徴も徐々に変化しつつあることを示唆している。

卸売業については,規模は比較的大きい業者が多いものの,多段階であるといわれている。流通機構の多段階性を捉えるものとして一般的に用いられる卸売販売額の小売販売額に対する比率(W/R比率)をみると,昨年度の経済白書によるとアメリカ,イギリス,西ドイツ,フランスが2かそれ以下であるのに対し,日本はほぼ4に近く (通商産業省「商業統計表」による),日本の流通機構はこれらの国よりも多段階である可能性が示唆される。ただし,これについては(1)各国の統計分類に若干相違がみられること,(2)我が国においては,製造業向け供給に広く商社が介在しており,これが卸売販売額に計上されていること等により,それがW/R比率を押し上げる要因となっていることには留意を要する。

最近では,流通業において,POS(販売時点情報管理)の普及,コンビニエンス・ストア,宅配,無店舗販売の増加や消費者の買い回り範囲の拡大などが進展しており,流通機構は大きな変革期にさしかかっていると思われる。

(流通部門の商慣行)

日本の流通システムには,建値制,リベート制などいくつかの独特の商慣行がある。現在のような市場の寡占化が進んだ「大企業体制」のもとでは,メーカーが,コストに一定の(しかし競争の程度や需給に応じて可変的な)マージンを付加して価格付けを行う場合が多い(フルコスト原理)。メーカーは,直接価格交渉を行うのは1次卸価格であるが,これに影響を与える流通段階の価格についても価格支配力を発揮しようとする傾向がある。以下にみる商慣行の多くも,そうした観点からみることができる。もとより,こうした商慣行は,継続的,安定的な取引を重視し,様々なリスクを回避するという観点からは,メーカーばかりでなく,流通業者などにとってもそれなりの合理性を持つと考えられる。しかし,それが意図するとしないとを問わず物価を押し上げる要因になっているとすれば,消費者の利益とは反する面があるし,また海外などからの新規参入を難しくする面もあろう。そこで,こうした観点から代表的な商慣行について検討を加えよう。

①流通系列化 流通系列化とはメーカーが自社製品の販売ルートを確保し,その価格政策等を流通段階まで及ぼすことができるよう販売業者を組織化することである。メーカーは,具体的な手段としては,建値制やリベート制などを系列化を促進するために用いることが多い。自動車,家電製品,医薬品,化粧品などの市場では,メーカーによる卸売,小売段階の系列化が行われているといわれる。通産省「商業実態基本調査」によると,アンケートに回答した企業の22%が系列に入っているとしている。業種別では,医薬品・化粧品卸,機械器具卸などが系列に入っている比率が高いという結果になっている(第3-5-9表)。流通系列化には,ブランド内競争の排除や流通業者の自主性の喪失をもたらすといった問題点があるが,一方で,アフターサービスの充実などのメリットも指摘されてきた。しかし,消費者の商品知識の向上,消費者ニーズの多様化,価格指向の強まり等を背景に,家電等の分野では,ディスカウント販売する量販店の増加がみられるなど,流通系列化は弱体化しつつある。

②建値制 価格設定に関する商慣行として建値制がある。小売段階ではメーカー希望小売価格などの形で価格が設定され,また,卸売段階では,業者間の建値が設定される場合が多く見られる。これは,メーカー等にとっては,値崩れを防ぎ,マージンが維持しやすい,消費者にとっても商品選択の目安になる等の利点があるものの,逆に価格が硬直化する恐れがあるなどの問題点が指摘できよう。

③リベート制 販売数量に応じて支払われる数量リベートや販売促進活動の規模に応じて支払われる報奨リベート等がある。リベート支出は,実質的に建値からの値引きとしての意味を持ち,取引の活性化に資する等のメリットがあり,いちがいに不当な慣行とはいえないが,リベート体系が高度に累進的な場合や支払い基準があいまいな場合には競争阻害的になる恐れがある。また,流通系列化を促進する手段ともなりうる。

④返品制 仕入れた商品が売れ残った場合などに返品する慣行である。これは,取引の双方のリスク軽減などに寄与するものの,取引コストを高めている可能性がある。

⑤輸入総代理店契約 これは,特定の輸入業者に独占的販売権を与える契約であるが,新規に日本市場に参入しようとする外国メーカーにとっては,参入を容易にするという面では,競争促進効果を期待できるものの,当該商品や当事者の市場における地位又は行動いかんによっては,逆に競争阻害要因となるおそれがある。特に,消費者によく浸透したブランド品については,輸入総代理店制が価格維持に使われる場合がある。特に注意すべきなのは,国内のメーカーが同時に同種製品の輸入総代理店になる場合である。こうした場合に,メーカーが輸入品の価格を高く維持することは,メーカー自身にとっては合理的行動であり,これにより,自社製品の国内マーケットを守るとともに,輸入品取引から超過利潤を得ることができる(内部補助の問題)。しかし,これは消費者の利益を著しく阻害することになる。

こうした商慣行は,流通を取り巻く環境変化に応じて,今後大きく変容する可能性を持っている。そうした変化とは,第一に,流通分野の情報技術革新である。POSやVANの普及など流通情報技術革新の進展は,流通業の生産性上昇をもたらすだけでなく,競争の活発化という観点からも好ましいと考えられる。また,顧客情報の管理が容易になると,数量割引を導入しやすくなる面もある。第二に,輸入経路の多様化である。並行輸入,逆輸入,開発輸入など輸入経路の多様化は,輸入総代理店制に対し競争圧力として機能すると考えられるところから,市場競争の促進効果が期待される。

(流通分野の公的規制)

消費者への成果配分という観点からは,流通分野の公的規制の見直しが特に重要である。流通分野の公的規制としては,第一に大規模小売店舗法による出店調整がある。この法律では,新たに店舗面積500m2を超える大規模小売店の出店を希望する事業者は,届出を行い,調整を経ることとされている。さらに,行政指導によって,事前に地元の中小小売業者に事前説明を行うものとされている。また,中小小売業者等への影響について,店舖面積,閉店時刻等について調整されることになっている(事前商調協)。地方公共団体がさらに独自の規制をしている場合もある。

この一連の調整手続きは,法本来の趣旨から逸脱して徒に長期化することがあり,そうした場合には出店コストが大きくなり,それが最終的には消費者に転嫁される場合もあったものと考えられる。また,新規出店に対する調整が事実上規制強化されていた中で既存の大規模小売店舗は,結果的に新規参入者との競争をまぬがれ,適切な競争が働かない場合もあったものと考えられる。一方,モータリゼーションの進展により,消費者の買い回り範囲が拡大するなど,大店法をめぐる経済社会情勢にも変化がみられる。

第二に,酒類,医薬品,米穀販売などの販売規制,事業規制がある。たとえば,酒類の販売については,酒税の保全の観点や酒類が致酔性飲料としての商品特性を有しているところから免許制が採られているが,酒税は庫出税であり,販売業者まで規制する必要があるのかとの指摘がある。また,医薬品については,薬事法に基づいて,店舗毎に試験検査設備器具の設置が義務付けられているが,品質を確保するためとはいえ,医薬品の販売業者に対するこのような規制は,新規事業者の参入の妨げになると指摘されてきた。これに対し,90年5月に,上記の試験検査器具を大幅に削減すること等を内容とする規制緩和措置が講じられた。

4. 消費者のための経済政策

戦後,日本の経済政策は,欧米先進国へのキャッチ・アップを目標に,産業の国際競争力を高めることを重視してきた。こうした下では,産業の保護・育成が優先され,消費者の利益の増進は,相対的に優先度の低い政策とみなされることが多かった。

しかし,時代は大きく変わりつつあり,生産重視の経済政策から消費生活重視の政策への転換が求められている。こうした要請に対して,消費者利益からみて,規制緩和,市場開放,金融自由化,競争政策の強化等の課題がどの程度達成されているか,今後の課題は何か検討する。

(規制緩和の進展と今後の課題)

まず,公的規制の緩和については,すでに第二次臨時行政改革審議会でも答申がなされ,緩和の基本的方向は示されている。しかし,現在までの進捗状況をみると,当面の改善に向けては前進しつつあるものの,制度改革を含め本格的な成果をみるには,なお今後一層の推進努力を必要としている。これにより消費者に規制緩和のメリットを還元することが重要である。また,社会的規制が必要な場合でも,超過利潤,既得権益を発生させがちな分かりにくい行政指導にもとづく自由裁量規制から明らかなルールにもとづく規制への転換を図ることにより,規制の透明性を確保することが重要である。これらにより競争環境を整備し,物価構造を是正する必要がある。

大規模小売店舗法については,90年5月に,出店調整処理期間を1年半以内に短縮したほか,いくつかの規制緩和措置を実施したところであるが,さらに,一層の規制緩和を図るため,法改正案を次期通常国会に提出するほか,改正後2年後にさらに基本的な見直しを行うこととしている。

酒類,トラック事業等の販売・流通の分野についても規制緩和が順次進められている。酒類販売業免許制度については,89年9月から,免許要件の緩和等の措置,制度運営の透明性,公平性を一層確保するための措置が講じられたが,今後は,その実施状況を踏まえて,酒類流通実態の推移及び酒類の商品特性をも考慮して酒類販売規則制度の在り方について検討する必要がある。米穀については,食糧管理制度のもとで,販売業者の許可制がとられている。しかし,その一方でその営業区域も限定されるなど新規参入が容易でなく,既存業者間でも競争が行われにくいという問題があった。このため,88年3月の米流通改善大綱に基づき,許可要件の緩和,営業区域の拡大等の規制緩和を行うとともに,卸,小売業者の新規参入を図っているところである。これらの措置を通して,今後より一層競争条件を導入する必要がある。また,物流では,トラック運送業への参入について,免許制から許可制へと規制緩和が行われたところであり,今後その運用面で規制緩和を実効あるものにする必要がある。

また,過大な景品及び不当な表示は,景品表示法と事業者の自主規制である公正競争規約に基づいて規制が行われているが,新規参入を阻害することのないよう,その内容の見通しが行われている。

(市場アクセス改善の現段階と残された課題)

我が国市場をより開放的なものにすることは,内需主導型経済成長を定着させるためだけでなく,日本の消費者にとって,選択範囲を広げ,またより安い商品を提供するうえで不可欠の条件である。日本の市場アクセスの改善はこれまでにかなり進展してきているが,まだ,十分とは言えない状況にあるという指摘もある。

ここで,市場アクセスの改善が国内物価に影響を与えると予想されるケースについてみてみよう。農産物のなかで,牛肉の輸入量と国内の牛肉価格との関係についてみる。牛肉の輸入については,84年の日米交渉により,輸入枠を87年度までの4年間に27,600トン増加することとされ,また,88年の日米・日豪協議では,88年度から90年度にかけて毎年6万トンずつ輸入枠を拡大し,91年度に輸入枠を撤廃することが合意された。

これに伴い,実際の輸入量が85年以降急増する一方,輸入価格は円高の影響もあって下落している。これに対し国産牛肉は,消費者の人気が高く,輸入牛肉との差別化が進んでいることもあり,卸売物価,消費者物価ともほぼ横這いで推移しており,輸入牛肉価格の下落は国産牛肉価格に殆ど影響を与えていない形になっている。しかし,90年に入り,国産牛肉のうち輸入牛肉と競合度合いの高い低級なものを中心に価格が下落しており,今後,輸入枠の撤廃により,牛肉の輸入が一層増加すれば,国産牛肉価格に対する影響が大きくなることも予想される(第3-5-10図)。

市場アクセスを改善することは,内外価格差の是正に寄与するばかりでなく,我が国の対外不均衡の是正,自由貿易体制の維持・強化にも貢献することになる。このため,参入規制の緩和,基準認証制度の見直し等を進めることが重要である。こうした意味では現在交渉が進められているGATT・ウルグアイ・ラウンド(第1章第7節参照)を成功させるために,積極的な役割を果たすことも重要である。

(金融自由化の現状と残された課題)

金融の自由化は,内外資金移動の自由化については着実に進展している。金利の自由化については,預貯金金利の自由化が段階的に実施されており,小口預貯金金利の自由化が当面の課題として残されている。

日本の金融市場では,価格の面で消費者にあまねくそのメリットが浸透しているとはいいがたい状況にあった。たとえば,送金手数料などの金融サービスの価格は,業態毎に,同一かまたは極めて類似した価格が設定されることが多かった。海外主要国の現状をみると,各種手数料には,金融機関によって価格体系が異なるのが一般的である。こうしたなかで,日本でも送金手数料については,各金融機関同一レートからの脱却が図られつつある。今後は,日本においても,各種金融サービスの価格についても,健全な企業間の価格競争が活発化することが望まれる。

(競争政策の充実・強化)

競争政策の適正かつ機動的な運営により市場競争を促進することは,①経済効率を高め,一般消費者の利益になるととも,に,②所得分配をより公平なものとし,③日本市場の開放性を高めるのにも役立つ。その中心となる独占禁止法は,戦後一貫して日本の競争政策の基本法として機能してきた。しかし,公正・自由な競争を維持,促進し,国際的により開かれた市場を実現するためには,独占禁止法の運用体制や,違反行為に対する執行力を一層強化するとともに,その運用の透明度を高めることにより独占禁止法等の厳正な運用を行うことが必要である。具体的には次のような点である。

第一は,独占禁止法で禁止されているカルテルに係る課徴金についてである。

これに関しては,違反行為を更に効果的に抑止するという観点から,その引上げを図ることとしている(次期通常国会に改正法案を提出予定)。また,独占禁止法違反について刑事罰の活用を図ること,独占禁止法違反行為による被害者が損害賠償請求を有効に行うことができるようにすることも重要である。

第二に,現行独占禁止法に対しては,様々な経済政策目的を達成する観点から,特定の分野における一定の行為について独占禁止法の禁止規定等の適用を除外するという適用除外規定が設けられている。市場メカニズムの機能を確保する観点から,適用除外制度については必要最小限のものとすべきである。この観点からこれらの適用除外制度については,経済社会情勢の変化を踏まえ,改めてその必要性を検討するとともに,制度を維持させる場合でも適用対象範囲について見直しを進める必要がある。

なお,著作発行物及び一部の医薬品,化粧品に限って例外として認められている再販売価格維持制度については,当面,限定的かつ厳正な運用を行うとともに,今後,その制度の在り方を検討することが必要である。

第三は景品付販売の規制である。「不当景品類及び不当表示防止法」は,不当な景品類の提供や不当な表示を規制し,,公正な競争を確保して一般消費者の利益を保護するため,公正競争規約の制度を定めている。この公正競争規約は,不当な顧客誘引を防止するため公正取引委員会の認定を受けて,個々の業界の事業活動の実態に即して設定される自主規制ルールである。しかし,このうち景品に関する公正競争規約が,我が国市場に参入しようとする海外企業にとって足かせとなる場合があるとの指摘がある。公正競争規約は,もとより外国事業者を含め新規参入を妨げる趣旨のものではないが,今後とも公正な競争の確保と消費者利益の増進のため,必要な範囲を超え新規参入を阻害することのないよう適宜見直しを行うことが必要である。

第四は,独占禁止法違反行為の事前抑止効果を高めるための透明性の確保についてである。勧告や課徴金納付命令等の法的措置や警告については,原則としてその措置内容を公表することが必要である。また,企業の取引慣行や流通取引などについて,独占禁止法の運用に関するガイドラインを作成・公表することは,違反行為の事前抑止という観点からも意義が大きいと考えられる。

(消費者自身の役割と企業・政府による支援)

消費者には,良質の商品を適正な価格で購入できる権利がある。しかし,市場機構のなかで,消費者の利益を擁護・増進するためには,消費者自身の努力がとりわけ重要である。例えば,輸入ブランド品の価格が下がりにくい原因の一つとして,日本の消費者のブランド信仰があることは,よく指摘されるところである。また,価格の高さについては,商品の安全性ほどには敏感ではないともいわれる。さらに,包装,付帯サービスなどが物価を押し上げている面もあると考えられる。このような現状からみて,学校における消費者教育の充実などを含め,消費者に対する啓発がとりわけ重要である。消費者が価格や品質をみる目が厳しくなり,より広範囲の商品を比較するようになるほど,特定のブランドに対する需要の価格弾力性が高くなり,価格上昇に対して抑止力が働くと考えられるからである。また,一人一人の消費者の市場対抗力にはおのずから限界があるため,健全な消費者の組織活動を促進することも必要である。

一方,企業が消費者の選択に役立つような商品の質やコストに関する情報を公開することを促したりすることも,消費者への側面からの支援として重要である。これに関して,日本ではいわゆる比較広告が自主ルールである公正競争規約によって自粛されていたものがあったが,最近それが解禁されたことは評価できよう。比較広告も比較情報として有用であるからである。

政府も,当然消費者の利益を擁護・増進するために責任を持つ。政府の役割の第一は,フェアな取引のための環境整備,ルール作りである。現代の複雑な生産システムのなかで,専門的情報に乏しい消費者は,取引上不利な立場に立たされることが多い。こうした中で,価格政策や品質管理などに関する企業責任を強化,明確化するための政府の方策はとりわけ重要である。

(経済効率を高め,成果を消費者へ)

本節においては,過剰な公的規制や協調的企業行動などによって市場メカニズムが十分に働かず,資源配分に無駄が生じて,結局消費者が高い買物をさせられている場合があるということを指摘した。こうした場合には,生産部門でいかに高い生産性を挙げて,生産の効率性を達成しても,その成果が消費者のメリットにつながりにくい,すなわち経済全体の効率性に結びついていないことを示している。さらに問題なのは,生産から消費にいたる過程で,またサービスの生産過程で,過剰な公的規制や協調的企業行動によって,特定の産業・企業に超過利潤(レントという)が発生し,成果配分の公平性をも歪めている可能性があるということである。しかも,規制の中には,それが設けられた後の社会・経済情勢の変化の中で見直しが行われないまま,既得権が守られがちで,結果としてこうした特定の産業・企業の超過利潤を維持する役割を果たしているものがある可能性がある。

経済政策の目標として公平性と効率性はしばしばトレード・オフ(二律背反)の関係にある場合が多い。しかるに,競争政策の適正がつ機動的な運用による市場競争の促進など消費者の利益を中心に据えた経済政策は,公平な分配と経済効率の向上,および適度な経済成長の一石三鳥を可能にするものといえる。

競争政策を通じた企業間競争の促進は,機会の平等を確保するとともに,効率性を高めることにも繋がる。さらには,勤労者,企業家双方の経済動機を刺激することを通じて経済成長を促進することにも貢献すると考えられる。

ここでは,機会の平等(公平な分配)と結果の平等(均等な分配)を明確に区別することが重要である。このうち,機会の平等の重要性については,ほとんど異論はないと思われる。たとえていえば,どのようなゲームであっても,すべてのプレーヤーにとってルールは公平でなければならず,ゲームへの参加に制限を設けるべきではない。

また,機会の平等を保障することが,勤労意欲を高め,経済活力を引き出すことについては,戦後日本の経済発展がそれを証明している。経済発展や生産性の問題の根源には教育の問題があることが最近の日米の構造的な問題の検討で再確認されてきているが,日本における教育水準の高さについても,機会の平等が確保されていることが貢献している。あるいは,第2章でみたような企業内のシステムの形成にも日本が比較的平等な社会であったことが関係ないとはいえないだろう。

しかし,残念ながら,地価高騰などを契機に,資産格差が拡がり,特に土地を持っているかいないかで,キャピタルゲインを含む所得やビジネスチャンスに相当程度の差が生まれており,この意味で機会の平等が保障されにくくなっていることは,本章のこれまでの議論でみたとおりである。したがって,今後,日本経済の潜在力を維持するためにも,公平性の維持,機会の平等の確保は,あらゆる制度・政策を評価する場合にますます重要な視点であり続けると考えられる。