平成元年

年次経済報告

平成経済の門出と日本経済の新しい潮流

平成元年8月8日

経済企画庁


[目次] [年次リスト]

12. 金  融

(1) 63年度の金融動向

昭和63年度の我が国経済は,国内需要の堅調さをうけて前年度に引き続き,景気拡大の年となった。この間,金融面については,前年度からの金融緩和基調力が引き続き維持され,金融機関の貸出も引き続き高い伸びとなった。

マネーサプライの動向をみると,金融緩和期のなかで景気拡大が続き,金利自由化が進展する中で伸びを高め,63年度のM2+CD平均残高は62年度前年比11.2%増からはやや縮小したものの,前年比10.8%増と引き続き高い伸びとなった。

63年度の短期金利の動きをみると,年央まで落ち着いた動きをたどっていたが,6月初以降円相場が下落傾向をみせたことなどから,金利先高感が台頭して9月初までオープン金利を中心に上昇した。しかし,秋以降円相場が上昇に転じたこともあって低下したが年末には上昇し,期末にかけて再び上昇した。

長期金利の動向をみると,概ね為替相場の動きを反映したものとなった。国債流通利回りは,ドル高傾向の動きをうけて6月初から上昇傾向に移り,8月には5%前後まで上昇した。その後は,円相場が上昇したこともあり,年末にかけて低下したが,年明け後再び円相場が下落するなかで上昇した。

株式の動向をみると,62年10月の大幅下落後,いちはやく回復し,4月にかけて上昇したが,その後は長期金利が上昇するなかで9月頃まで一進一退の動きとなった。しかし,11月には62年6月の東証株価指数の最高水準を回復するなどその後上昇基調をたどった。

63年度の金融市場は,62年度9,170億円の余剰から2兆4,067億円の不足となった (第12-1表)。

第12-1表 63年度資金需給実績

これを銀行券の動きについてみると,発行超幅は2兆7,214億円と前年に比べわずかながら縮小した(62年度2兆8,979億円)。平均発行残高の前年比増加率をみると,62年度10.5%増の後,63年度は,好調な景気拡大の持続をうけて10.9%増となった。これを四半期別前年同期比でみると,63年1~3月期10.7%増となった後,4~6月期12.3%増,7~9月期10.5%増,10~12月期9.7%増,元年1~3月期11.1%増といずれも高い伸びとなった。

また,財政資金をみると,63年度は,62年度の散超(2兆5,557億円)から,7,312億円の揚超に転じた。これは,景気拡大を反映した好調な税収の伸び等によるものである。

(2) マネーサプライの高い伸び続く

マネーサプライの推移をみると,M2+CDの平均残高(前年度比)は,61年度8.6%増,62年度11.2%増の後,63年度は10.8%増と引き続き高い伸びとなった。この間,Mエ(現金通貨と預金通貨の合計)の平均残高は61年度8.4%増,62年度10.2%増と大きく伸びを高めた後,63年度は8.5%増とやや伸びを低くめたものの,引き続き高い伸びを示した。この背景としては,経済の持続的な拡大に伴う実物取引需要の拡大や金利が引き続き低水準であったことによる通貨保有の機会費用低下,資産取引の活発化による取引需要の増加等の要因に加え,ストック化の進展にともなう資産の増大が寄与しているものと思われる。また1大口定期預金等の預入条件の弾力化により通貨の資産としての魅力が高まり,マネーサプライ対象外資産からの流入が生じて自由金利預金が大幅に増加するといった金融自由化要因もマネーサプライ増加に少なからず影響しているものと思われる。次に,供給サイドについてマネーサプライの信用面での対応をみると(第12-2図),高水準のマネーサプライの伸びは,専ら金融機関による民間部門向け信用によってもたらされていることがわかる。また,通貨種類別にみると(第12-3図),準通貨を中心に増加を支えており,大口定期等の自由金利預金の増大が寄与していることが窺える。

第12-2図 供給要因別マネーサプライ増加率寄与度

第12-3図 通貨種類別マネーサプライ増加率寄与度

(3) 全国銀行の実質預金,貸出は引き続き高い伸び

63年度の金融機関の預貸金動向をみると,金融緩和の浸透や金融自由化の進展をうけて実質預金,貸出とも引き続き高い伸びを示している。

まず,預金についてみると,全国銀行の実質預金残高(末残)の前年度比伸び率は,法人を中心とする大口定期預金等の増加により,62年度12.2%増からはやや伸びを低くめたものの,63年度は10.6%増となり,引き続き高い伸びとなった。

次に,貸出についてみると,全国銀行貸出残高(末残)の前年度比伸び率は,62年度12.1%増の後,63年度10.6%増と,やや伸び悩んだものの,金融緩和基調が続く中で高い伸びを続けた。これは,景気の回復・拡大や資産取引の増加を背景に資金需要が増加したことに加え,金融機関の融資態度の積極化が続いたためである。

全国銀行の貸出約定平均金利をみると,短期貸出金利は,市場金利の上昇や新短期プライムレートの導入等によりやや上昇し,元年3月末には4.016%(63年3月末3.924%)となった。また,長期貸出金利は,8月に長期プライムレートが引上げられたものの,引き続き既貸高金利の低利振り替わり等により概ね低下傾向で推移し,元年3月末には5.580%(63年3月末5.721%)となった。

この結果,長期と短期を合わせた貸出約定平均金利.(総合)は,元年3月末には4.962%(63年3月末4.920%)となった。

63年度の企業金融をみると,資金繰り面での裕り感は,金融緩和基調が維持されていることもあって,緩和した状況が続いている。

企業の資金需要は年度を通し総じて堅調に推移した。その動きをみると,景気の回復,拡大を受けて,設備資金・増加運転資金が増加している。業種別にみると,サービス業,リース業を中心に非製造業では堅調に推移する一方,製造業でも,設備資金等で増加がみられる。また,規模別には,都銀等で中堅,中小企業向けの長期貸出カ弓1き続き増加している。この間,住宅ローンを中心とする個人の資金需要は堅調さを維持している。

(4) 公社債の売買高は減少

63年度の資本市場について,まず起債市場をみると,63年度の民間債,公共債の発行合計額(国内公募・非公募債発行分で,金融債,円建外債を除く)は40兆6,897億円と前年度4.4%減となった。このうち,民間債は,8兆765億円と前年度比29.9%増となり,公共債は,32兆6,132億円と前年度比10.3%減となった。民間債の増加要因としては,金利が引き続き低水準にある中で,転換社債の起債が増加したことがあげられる。公共債については,国債発行額が新規財源債の減少により前年度比減少したことなどから,全体としては前年度を下回った。

次に,流通市場をみると,63年度の公社債売買高は,東京店頭市場で4,084兆6,655億円と,前年度に比べ1,009兆6,268億円減少(前年度比19.8%減)となった。内訳をみると,一般売買高が2,851兆6,511億円と前年度比24.2%減,現先売買高が1,233兆144億円と前年度比7.3%減となり,一般売買,現先売買とも不振であった。この背景としては金利の変動が小さく,債券デイーラーを中心にディーリング益を狙った長期国債の短期売買が手控えられたことが大きな要因であった。特に12月以降は売買高が細っており,金利の変動も大きく低下していることなどから,取引は減少している。また,一方,債券先物の取引は活発に行われ,63年度の売買高は前年度比12.8%増の3,844兆8,542億円となるなど,現物市場とほぽ肩を並べる規模となっている (第12-4図)。

第12-4図 公社債売買高の推移

公社債相場の動きをみると,概ね為替相場の動きを反映したものとなっており,国債流通利回りは,円相場の下落,短期金利の上昇等による金利先高感を映じて6月初から上昇傾向に移り,8月には5%前後まで上昇した。その後は,円相場が上昇したこともあり,年末にかけて低下したが,年明け後再び円相場が下落するなかで利回りは上昇した。

株式の動向をみると,62年10月の大幅下落後,諸外国に比べいちはやく回復し,4月にかけて上昇したが,その後は長期金利が上昇するなかで9月頃まで一進一退の動きとなった。しかし,我が国経済が順調に拡大するなかで11月には62年6月の東証株価指数の最高水準を回復するなどその後上昇基調をたどった。.こうした中で,売買高は株式数,金額とも大幅に増加し,時価総額(東証一部)も元年3月末には前年比20.3%増加して490兆311億円となった。


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