平成元年

年次経済報告

平成経済の門出と日本経済の新しい潮流

平成元年8月8日

経済企画庁


[目次] [年次リスト]

10. 労  働

(1) 労働力需給

(1倍を上回った有効求人倍率)

昭和63年度の労働力需給が前年度に引き続いて改善し,有効求人倍率が48年度以来久方ぶりに1倍を上回って1.08倍となったことは本文でみたとおりである。これを四半期別(季節調整値)の動きでみると (第10-1表),元年1~3月期で1.14倍と過去の最長水準に並ぶ9四半期連続の上昇を続けており,労働力需給は引締まり基調となっている。

第10-1表 主な労働関連指標の動向

学卒・パートタイムを除く63年度の新規求人数を業種別にみると,製造業で前年度比30.3%増と62年度に引き続き大幅に増加したのをはじめとして,サービス業同25.3%増,運輸・通信業同24.7%増,卸売・小売業同17.2%増,建設業同13.0%増となるなど,業種全般にわたって高い伸びを示した。これを四半期別に前年同期差でみると (第10-2図),61年末からの急激な増加の牽引車となった製造業の増勢が,63年度後半になって緩やかになってきたことを主因として,全体でも高水準ながらその伸びはやや鈍化してきている。

第10-2図 労働力需要の動向

他方,63年度の新規求職者数は前年度比8.9%減と62年度を上回る減少幅となった。その内訳をみると,常用では前年度比9.3%減少となったのに比べ,パートタイムでは同13.5%減と減少幅がより大きくなっている。

(拡がる人手不足感)

このように雇用情勢が改善を続ける一方で,企業の人手不足感には拡がりがみられる。第1-5-2図で示したように,日本銀行「企業短期経済観測」(元年5月調査)により全国企業の雇用人員判断D.I.をみると,各業種・規模にわたり人手不足感の拡がりがみられる。とくに建設業では従来雇用過剰業種であったものが,62年11月以降急速に不足感が拡がっている。

そこで,雇用者数に対する新規求人数の割合を欠員率とみなして業種別に最近の動向をみてみると(第10-2図),61年末を底として全体的に欠員率が上昇しているが,とくに建設業では,若干の変動はあるものの2%前後の水準に達している。63年度の建設業の雇用者数が前年度に比べ5.1%増加していることを併せ考えると,旺盛な建設需要を反映した求人意欲の強さが,大幅な雇用増を上回って建設労働者の不足感を拡大したということができる。また,労働省「労働経済動向調査」で産業別に職種別の人手不足事業所割合をみると,製造業では景気変動の影響を受けやすい「技能工」「単純工」,慢性的に不足傾向にある「専門・技術」が,卸売・小売業,飲食店では,慢性的に不足傾向にある「販売」,サービス業では「単純工」「サービス」で不足とする事業所割合が高い。

こうしたなかで,元年3月新規学卒者の2月時点における製造業の採用内定状況をみると,短大・高専卒を除き,過半数の事業所で内定者数が採用計画数に達しておらず,とくに大卒技術系を計画通り充足できた事業所は33%であった。このような学卒採用の未充足に対しては,約8割の事業所が中途採用で補うとしており,中途採用実施事業所割合は元年1~3月期に6割前後に達しているが,今後とも企業の強い採用意欲が維持されると見込まれる。

(2) 雇用・失業情勢

(15歳以上人口は増加傾向)

63年度の労働力人口は,前年度差81万人増の6,186万人と58年(同85万人増)以来の増加となった。労働力率は59年度以来低下を続けていたが,63年度は男子で前年度差0.3%ポイント低下,女子では同0.3%ポイント上昇した結果,全体では前年度と同水準の62.6%となり,15歳以上人口の増加(前年度差128万人増)が直接労働力人口の増加に結びついた。

年齢別人口の動向をみると,第二次ベビーブーム世代は,63年度には14~17歳であり近年,15歳以上人口は40年頃以来の増勢となっている。なお,第一次ベビーブーム世代は40歳にさしかかるところであり,それに続く世代の人口が急減することから,今後は35~39歳層人口の減少が見込まれる。

男女・年齢別の労働力率の動きをみると,男子労働力率は15~19歳,60歳以上で傾向的に低下しているものの,25~54歳層では95%強と極めて高率で50年代半ば以降ほぼ安定している。女子労働力率は,20~24歳と40~49歳をピークとするM字型を示しているが,その水準は15~19歳では低下,20~54歳層では傾向的に高まっており,55歳以上ではほぼ安定している(第10-3図)。

第10-3図 年齢別失業率と労働力率

こうした人口の動向と,労働力率の動向を併せてみると,第一次ベビーブーム世代が40~44歳層に移ることの影響は,女子の労働力率を引き上げる効果を持つ。しかし,人口の高齢化が引き続くことと,第二次ベビーブーム世代が労働力率の低い15~19歳層に加わることが全体の労働力率を抑える。中期的には,彼らが高校,大学の卒業を迎えるにしたがって若年労働力供給は増加し,労働力率を上昇させると見込まれる。

(失業率は全面的に低下)

就業者は年度を通して安定的な増加を続け,労働力需要は堅調である。産業別就業者の動向をみると,農林業では減少を続けており,第一次産業就業者の全就業者に占める割合は7.8%と前年度より0.4%ポイント低下した。第二次産業比率も低下傾向にあったが,63年度は建設業,製造業の就業者がそれぞれ前年度差24万人増,25万人増と堅調に増加したことから構成比は前年度を0.2%ポイント上回る33.6%となった。第3次産業比率は上昇傾向にあり,63年度もサービス業就業者が前年度差41万人増となったことなどにより,構成比は前年度を0.1%ポイント上回る58.1%となった。また,女子比率の高いサービス業の就業者増加が大きかったこともあって,就業者に占める女子比率は前年度を0.1%ポイント上回り40.1%に達している。

63年度の完全失業率は,前年度の2.8%から2.4%へと大きく低下し,56~57年以来の水準となった。男女別にみると,男で前年度差0.4%ポイント低下の2.4%,女で同0.2%ポイント低下の2.5%となった。

年齢別にみると全ての年齢層で改善がみられ,とくに15~19歳層ではその水準は7.2%と高いものの前年度差0.8%ポイント低下し,55~64歳層でも3.4%と引き続き厳しい水準にあるものの,前年度差では0.5%ポイント低下と顕著な改善がみられた。基幹的な労働力と考えられる世帯主の失業率も,前年度差0.4%ポイント低下の1.9%となった。

地域別にみても,全ての地域で改善がみられたが,失業率の水準の高い北海道,九州などで低下幅が大きいほか,中国でも顕著に改善した。

このように,失業の改善は年齢,地域をこえてみられており,相対的に水準の高い部分での改善が大きかったことから,年齢間,地域間のアンバランスも縮小している。しかしながら, 本文第5-1-15図にみるように,最近の失業率の低下は欠貝率のほぼ同程度の上昇を伴っていることから,労働力需要の増加によるところが大きく,労働力需給のミスマッチは依然として残されている。こうしたミスマッチの存在によって,企業の人手不足感は強められていると考えられる。

(3) 賃金・労働時間

(高まった賃金の伸び)

本文第1章でもみたように,63年度の現金給与総額(よ前年度比4.″2%増と57年度以来の高い伸びとなったが,その動きを四半期別にみると(第10-4図),ほぼ4%台前半の安定した伸びで推移した。これを給与項目別に寄与度分解してみると,所定外労働時間の伸びの鈍化にともなって所定外給与の寄与が減少傾向にあるものの,春闘の賃上げ率が民間主要企業(労働省調べ)平均で4.43%と62年を1ポイント近く上回るなど,所定内給与が安定した伸びで全体の伸びの過半を説明するとともに,賞与に代表される特別給与が好調に推移したことにより総額の伸びを1%以上高める結果となった。

第10-4図 現金給与総額の動向

業種別に63年度の動向をみると,前年度に比べていずれの業種でも伸びを高めた。なかでも建設業,運輸・通信業がともに6.0%増と目立って高い伸びとなる一方,卸売・小売業,サ-ビス業では全体の伸びを下回った。企業の人手不足感に拡がりがみられるなかで,全体としては概ね落ち着いた動きで推移した。

またパートタイム労働に対する需要が一段と増大しているが,労働省「賃金構造基本統計調査」により女子パートタイム労働者の1時間当たり所定内給与の動きをみると,63年は産業計で前年比3.0%増の642円となった。業種別では製造業(同2.7%増),卸売・小売業,飲食店(同3.1%増)に比べ,サービス業(同3.9%増)の伸びが高くなっている。

(労働時間は減少)

63年度の総実労働時間は2,100時間で,前年度比0.7%減,年間20時間の減少となり,減少率,減少幅とも49年度以来の大きさとなった。総実労働時間を所定内外別にみると,所定内労働時間は,63年4月に,法定労働時間を週48時間から当面週46時間へと短縮する改正労働基準法が施行されたこと等により,前年度に比べ1.3%減少し,1,912時間と過去最低の水準となった。所定外労働時間は生産活動が活発であったことから同5.6%増加して188時間となった。月間出勤日数は,うるう年要因等により21.6日と前年度差0.3日減少したため,出勤日1日当たりの所定内労働時間はわずかながら長くなった。

労働省「労働経済動向調査(元年5月調査)」によって元年5月以前1年間の労働時間制度改善の状況をその内容別実施事業所割合でみても,「年次有給休暇の付与日数の引き上げ」「週休日日数の引上げ」など出勤日数を減少させる方法で対応した事業所が「週所定労働時間の短縮」で対応した事業所より多くなっており,時間外労働の短縮で対応した事業所はさらに少なくなっている。

産業大分類別に労働時間の動向をみると,出勤日数は建設業,卸売・小売業,飲食店,サービス業の人手不足感のみられた産業で平均以上に減少している。

所定内労働時間は,卸売・小売業,飲食店(前年度比1.6%減)など従来から所定内労働時間が比較的短い産業で減少がさらに進んだ。所定外労働時間は,電気・ガス・熱供給・水道業(同4.7%減)等では減少したものの,設備投資の増加,個人消費の増加をうけて製造業(前年度比9.6%増),卸売・小売業,飲食店(同6.6%増)等で高い伸びを示した。


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