平成元年

年次経済報告

平成経済の門出と日本経済の新しい潮流

平成元年8月8日

経済企画庁


[目次] [年次リスト]

1. 国際収支

(1) 緩やかな拡大を続ける世界経済

1988年の世界経済は,87年10月の株価大幅下落のデフレ効果も軽微なものにとどまり,88年は予想を上回る拡大となった。アメリカではドル安を背景にして外需が伸びを高めるとともに設備投資を中心に内需も堅調であることから,実質GNP伸び率は88暦年で3.9%と高い伸びとなった。また,西欧では個人消費,設備投資など内需を中心に息の長い拡大が続いている。韓国や台湾では外需はやや鈍化したものの,個人消費など内需が堅調であることから,経済は引き続き拡大している。

こうした世界経済の動向を反映して,先進工業国の輸出数量(IMF「IFS」による)は87年4.6%増から7.0%増へと伸びを高めた。

一方,88年のドル相場は変動相場制へ移行して以来の小幅の変動を記録した。

原油価格は年初から軟調に推移し,10月には一時1バーレル11ドル台となったが年末にかけてやや上昇し,また,一次産品価格はなおその水準は低く,ほぼ横ばいに推移した。こうしたなかで途上国の累積債務問題や先進国間の対外不均衡問題は依然世界経済の不安定要素として存続している。

(2) 強含みに推移した輸出

(63年度の輸出動向)

63年度の輸出(通関額)は2,728.8億ドルで前年度比14.6%増となった。これを価格・数量に分けてみると,価格(ドルベース)が同8.3%上昇したことに加え,数量も同6.0%増と増加した (第1-1表)。また,円ベースでは,為替相場の円高率が小幅だった影響により価格が同0.3%の下落にとどまり,金額では同5.6%(62年度同4.4%減)の増加となった。次に,四半期の動きをドルベース(前年同期比)でみると,円/ドルレートが前年度に比べ比較的安定し数量が増加に転じたこと,輸出価格が上昇したこと,などから7~9月期にかけて増加率が高まった後,10~12月,1~3月期は低下した。

第1-1表 63年度の輸出動向

(ほぼ全品目にわたって増加)

輸出動向を商品別(ドルベース,前年度比)にみると,繊維・同製品(ドル0.3%増,数量9.3%減)は,東南アジア向け,中国向けなどが増加したが,アメリカ向けなどで減少したため,ほぼ横ばいとなった。化学製品(ドル17.3%増,数量3.9%増)は,世界的な需要増加からほとんどの地域で大幅に増加した。

鉄鋼(ドル21.3%増,数量7.9%減)も,全地域で大幅に増加した。一般機械(ドル22,1%増,数量10.8%増)はアメリカ向け,東南アジア向け,EC向けで事務用機器を中心に大幅に増加した。電気機器(ドル20.7%増,数量12.0%増)は東南アジア向け,EC向けで半導体等電子部品,映像機器,通信機を中心に大幅に増加した。自動車(ドル8.1%増,数量4.6%減)はアメリカ向けで減少じたものの,東南アジア向け,中近東向けで増加したことから,前年度(ドル6.1%増)とほぼ同じ伸びとなった。船舶(ドル17.4%増,数量1.2%増)は増加した。

(東南アジア向け,EC向けで大幅に増加)

次に地域別(ドルベース,前年度比)にみると,アメリカ向け(8.3%増)は自動車,自動車の部分品,VTR等が減少したものの,一般機械,半導体等電子部品,金属製品が増加したため,前年度(4.5%増)より高い伸びとなっている。EC向け(20.3%増)は電気機器,一般機械,自動車などが大幅に増加したことから全体でも高い伸びとなっている。東南アジア向け(23.9%増)はアジアNIEs等の高い成長を背景として,資本財を中心に大幅な増加となった。

特に,半導体等電子部品,鉄鋼,化学製品などの増加が著しい。中近東向け(0.0%増)は,原油価格の持ち直しも手伝って自動車が大幅に増加したことなどから,横ばい圏内の動きにとどまった。ラテンアメリカ向け(5.4%増),アフリ力向け(20.7%増)もほぼ横ばいの動きにとどまった。共産圏向け(17.6%増)は,一般機械,電気機器を中心に増加に転じた。

(3) 製品類を中心に増勢を続けた輪入

(63年度の輸入動向)

63年度の輸入は,景気拡大の動きをうけて,通関数量ベースで前年度比13.7%増となり,大幅に増加した62年度(12.8%増)を上回る伸びを示した(第1-2表)。輸入通関額は,1,940.0億ドル,19.7%増と2年連続の増加となった。円ベースでも,248,347億円,10.5%増と2年連続で増加した。通関価格はドルベースで5.2%上昇し,円ベースで2.8%下落した。四半期別の動きを数量ベースでみると,季節調整済の前期比で4~6,7~9月期が1.7%増,1.4%増と推移した後,10~12月期には,GNPの伸びの減速等から0.8%増と伸びにやや鈍化がみられたが,続く1~3月期には,消費税導入を控えての駆け込み需要の影響もあって,6.7%増と極めて大きな増加となった。

第1-2表 63年度の輸入動向

(増勢を続けた製品輸入)

商品別の動きを数量ベースでみると,食料品は,年度を通して着実に増加し前年度比10.8%増と拡大を続けた。内訳をみると,採油用種子(0.5%増),穀物(2.3%増)は低い伸びにとどまったが,肉類(18.1%増),果実及び野菜(13.4%増),魚介類(12.9%増)が大幅に増加した。

原料品は,2.0%増と昨年度より緩やかな伸びとなった。昨年度天然繊維ブームといわれ大きく増加した繊維原料が8.2%減となり,同じく昨年度には旺盛な建築向け需要がみられた木材も,0.9%増に留まった。また,金属原料やその他の原料品は,各々,2.9%増,4.2%増と堅調な伸びを示した。

鉱物性燃料は,主力の原粗油が旺盛な内需に刺激され,6.4%増と4年振りの増加になったのを始め,石炭も9.6%増と伸びを強めたため,石油製品の伸びに,9.6%増とやや昨年度に比べ減速が見られたものの,全体では7.8%の増加となった。原油輸入価格は,12月まで緩やかに下落し1バーレル当たり12.1ドルとなった後,3月にかけて,ほぼ年度初の水準まで上昇した。63年度平均は14.9ドルで,前年度比18.2%の下落となった。

製品類は,前年度比23.7%増と昨年度に続いて大幅に増加した。品目別にみると,航空機の減少等から輸送用機器が0.8%増にとどまったが,一般機械(46.6%増),電気機器(37.8%増),精密機器類(36.8%増)などの増加が目立った。

62年度に大きく上昇した製品輸入比率は,63年度も上昇し49.7%となった。

(増加続けるEC,アジアNIEsからの輸入)地域別輸入をドルベースでみると,アジアNIEs(26.9%増)からの輸入は,繊維製品,鉄鋼,電気機器などの製品類を中心に大幅に増加した。また,ECからの輸入も,繊維製品,医薬品などの製品類を中心に大きく増加した(30.0%増)。

一方,アメリカからの輸入は,木材,事務用機器などを中心に増加しており全体でも非貨幣用金を除くと25.8%増と堅調な伸びを続けたものの,アジアNIEs,ECに比べるとやや低い伸びにとどまった。

また,ASEAN(12.0%増)からの輸入も,原油価格下落の影響はあったものの,着実な増加となった。その他には,シェアは小さいものの,ラテンアメリカ(21.9%増),アフリカ(30.1%増)などからの輸入に,大きな増加が見られた。

(4) 縮小傾向に鈍化がみられた経常収支

(縮小鈍化の経常収支)

63年度の貿易収支は,上記の輸出入動向を受けて前年度より8,014億円黒字幅が縮小し,12兆2,181億円の黒字となった(ドルベースでは13億ドル拡大し,953億ドルの黒字)。また貿易外収支と移転収支は,支払額の増加によりともに赤字が拡大し,それぞれ1兆7,357億円(135億ドル),5,808億円(45億ドル)の赤字となった。この結果,経常収支の黒字は9兆9,018憶円と前年度より1兆7,918億円縮小した(ドルベースでも72億ドル縮小し,773億ドルの黒字)(第1-3表)。

第1-3表 国際収支の概要

貿易収支の動きを円ベースの季節調整値でみると,63年4~6月期には輸出数量が減少し,輸入数量が増加したことにより黒字幅が大きく縮小したが,7~9月期以降拡大した。

貿易外収支は,赤字幅が大幅に拡大し,3年ぶりに1兆円台となった。これは,前年同様に投資収益収支の黒字増加をそれ以外の収支の赤字増加が上回ったためである。対外純資産の増加による投資収益受取の増大の一方で,引き続き大幅に増加した海外旅行者等により,旅行と運輸で大きく赤字が増加し,また,本邦企業の国際業務活動の活発化により特許権使用料や手数料等の民間取引の支払いも増加した。

(長期資本収支の流出超過幅は小幅拡大)

63年度の資本収支についてみると,長期資本収支は1,214億ドルの流出超,短期の資本取引の合計(短期資本収支と符号を転じた金融勘定の合計)は448億ドルの流入超となり,59年度以来の長期資本の流出超,短期資本の流入超傾向が続いている。

長期資本収支のうち本邦資本は,証券投資,直接投資等の流出超過幅が拡大したため,前年度より拡大し1,531億ドルの流出超過となった。本邦資本の中で大宗を占める証券投資は,債券投資が内外金利差やアメリカの債券相場が概ね堅調に推移したこと等を背景として堅調な取得が行われたことにより,流出超過幅が拡大した。また,直接投資も年度を通してコンスタントに行われ,前年度の1.5倍に拡大し本邦資本全体に占める割合も23%と着実に上昇している。

一方,外国資本では,本邦債券相場が弱含み基調となったことから債券投資が大幅な処分(流出)超過に転じたものの,株式市場の活況を受けて株式投資が5年ぶりに取得(流入)超過となり,また,ドル建ワラント債を中心とした外債が活発に発行された。この結果,ネットで317億ドルの史上最高の流入超過となった。

短期の資本取引の合計は,為銀部門の短期借り増加幅縮小から金融勘定の流入幅が縮小したものの,短期資本収支が大幅流入超となったため流入超過幅は拡大した。なお外貨準備高は63年度末で993.5億ドルとなり,年度間で145.0億ドルの増加となった。

(落ち着いた動きを示した円レート)

外国為替市場における対米ドル円レート(インターバンク直物中心相場)を月中平均値で年度を通してみると,変動相場制に移行して以来,最小変動幅の動きとなった。63年1~3月期の128.0円の後,やや強含み4~6月期には125.6円となった。7~9月期には133.7円とドル強含みとなったが,その後,円は上昇し11月に一時120.80円の戦後最高値をつけた。しかし,10~12月期125.3円,元年1~3月期128.5円と円安が進み,元年度に入っては130円台から140円台の推移と,更にドル堅調の動きとなっている。


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