平成元年

年次経済報告

平成経済の門出と日本経済の新しい潮流

平成元年8月8日

経済企画庁


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第1章 昭和63年度の経済の動き

第6節 景気の現局面

(世界経済の現状)

1988年の世界経済は順調な拡大を示した。アメリカは輸出,設備投資の伸びから3.9%成長,西欧でも設備投資など内需中心に拡大が続いた。同時に,その過程で次第にインフレ懸念が生じ,88年度から,いずれも公定歩合引上げなど金融政策の転換が行われた。しかし,原油価格上昇などもあって,物価上昇率は徐々に高まり,これらに対して,89年に入ってから,各国は公定歩合をさらに引上げた。特に,アメリカの金利上昇がドル高を招き,欧州での金融政策にも影響を与えている。アメリカでは,金利上昇の影響が住宅や乗用車などに表れ,このところ内需拡大のスピードはやや鈍化しているとみられる。

このように適度なスローダウンによって,アメリカがインフレ抑制と景気上昇の持続に成功することが期待されている。この間,アメリカ経済の先行きに楽観的な見方が拡がるのを背景にして,ドル高が進行した。こうしたドル高は,各国にとっては輸入物価の上昇を通じたインフレ圧力となるほか,依然として大きい対外不均衡の是正に足踏みをもたらすことにもなりかねない。先進国は,インフレ抑制,景気上昇持続,対外不均衡是正の三つの課題が単純には同時達成できない難しい局面にさしかかっているといえよう。

(基調と不規則変動)

63年度後半から平成元年度にかけては,いくつかの特殊要因によって,経済指標が不規則変動を示した。一つは,昭和天皇の崩御前後の自粛ムードによる経済活動への影響である。二つ目は63年12月に成立した税制改革の一環として,消費税の導入と物品税等の改廃が4月から実施され,買い急ぎ,買い控えとその反動が生じたことである。なお,前年がうるう年であったことも前年比や季節調整値に影響を与えている。その結果,家計消費は,2月までの低い伸びが3月には一転大幅増加となった。また販売側からみると,百貨店販売額の3月の伸びは前年比30%を越えた。ただし,乗用車販売は1~3月には逆に買い控えから前年比5%減となった。4月に入ると反動から,百貨店販売額は前年比減少となった反面,乗用車販売は大幅増となっている。こうした需要面の変動の波及もあって,生産も3月の大幅増,4月の反動減という姿を示している。また,輸出入についても,3月の大幅増から4月には反動減の姿がみられる。

しかし,こうした不規則変動をならしてみれば,我が国経済は引き続き,順調に拡大していると判断される。例えば,3~5月の百貨店販売額は前年同期比平均12.8%増であり,同じく生産は平均8.0%増である。

(景気上昇の持続)

61年11月を底とする今回の景気上昇局面は,元年6月で31か月を迎え,神武景気と並んだ。現状においては,順調な拡大過程が持続している。

まず,需要面においては,個人消費の堅調な増加と設備投資の高い伸びが続いている。このところ雇用者数は前年を3%以上上回る増加を示しており,前年より高い春闘賃上げ率(労働省調べ5.17%増),大幅なボーナスの伸びと相まって家計の所得は着実な増加が見込まれ,これを背景に個人消費の堅調さは持続するとみられる。他方,平成元年度の設備投資計画は,各種調査によれば年度当初としては,積極的なものであり,企業収益が引き続き増益見込であることも盛り上がりを支えている。その他,公共事業も前年度並みの高水準であり,住宅建設も着工戸数がほぼ年率160万台と引き続き高水準で推移している。

物価面においては,国内卸売物価,消費者物価(全国)とも前年同月比2%台の上昇となっているが,消費税導入の影響があることも考慮すると,これまでの安定基調は変わっていないと判断される。ただし,原油価格の上昇,ドル高・円安の進行から輸入物価が上昇しており,こういった状況が続くとその波及が懸念される。また,製品需給,労働力需給の引き締まり基調の影響を慎重に見守る必要がある。国際収支面では,基調としては輸出は強含み,輸入は増加を続けているが,貿易収支の黒字は拡大しており,貿易外・移転収支の赤字幅拡大にもかかわらず結果としての経常収支黒字は一進一退で推移している。

こうしたなかで,日本銀行は5月31日,公定歩合を9年振りに0.75%引き上げ,3.25%とした。今回の引上げは,内外経済動向を反映して市場金利が上昇してきていた状況の下で,いわば水準調整を行ったものであって,需要動向等からみて景気の足取りに影響することはないと考えられる。むしろ,円安,原油高から生じるインフレ懸念に対して,心理的に抑制効果を発揮して,景気上昇の持続に寄与することが期待される。

このような,いざなぎ景気以来という今回の力強い景気上昇については,構造的な変化も影響していると見られる。それらを踏まえて,第5章でさらに,景気の持続力を検討することとする。


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