昭和63年

年次経済報告

内需型成長の持続と国際社会への貢献

昭和63年8月5日

経済企画庁


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12. 金  融

(1) 62年度の金融動向

昭和62年度の我が国経済は,国内需要の堅調さをうけて急速な景気上昇の年となった。この間,金融面については,前年度からの金融緩和基調が引き続き維持され,金融機関の貸出も引き続き高い伸びとなった。

マネーサプライの動向をみると,景気が回復し,金利自由化が進展する中で伸びを高め,62年度のM2+CD平均残高は前年度比11.2%増と54年度以来の高い伸びとなった。

企業金融の面では,資金需要は,経済が回復から拡大へと移行する中で,年度を通じて総じて堅調に推移した。

短期金融市場では,金利は年度当初低下した後,景気回復が明瞭となる中,オープン金利がやや上昇をみたが,年度後半には落ち着いた動きとなった。

次に,資本市場をみると,公社債市場では,年度当初急低下した利回りは,5月央以降」二昇に転じたが,10月の株価暴落以降は再び低下した。また,株式市場では,年度当初より上昇傾向で推移した後,10月の世界的な株価暴落をうけて急落したが,63年に入って回復している。

(2) 日銀券は高い伸び

62年度の金融市場は,61年度3兆866億円の不足から9,170億円の余剰となった(第12-1表)。

第12-1表 62年度資金需給実績

これを銀行券の動きについてみると,発行超幅は2兆8,979億円と前年比拡大した(61年度2兆313億円)。平均発行残高の前年比増加率をみると,61年度8.4%増の後,62年度は,個人消費の堅調をうけて10.5%増となった。これを四半期別前年同期比でみると,62年1~3月期9.8%増となった後,4~6月期10.9%増,7~9月期10.2%増,10~12月期10.4%増,63年1~3月期10.7%増といずれも二桁の高い伸びとなった。

また,財政資金をみると,62年度は,61年度の揚超(8,575億円)から,2兆5,557億円の散超に転じた。これは,国債償還増に伴う発行超額の大幅減少等によるものである。

このような資金余剰傾向に対し,日本銀行は,買入手形,政府短期証券売却等日銀信用の減少等による調節を行った。

一方,短期金融市場の金利は,インターバンク市場,オープン市場とも金融緩和基調を反映して年度初に既往最低水準まで低下した後,景気回復が明瞭となる中でオープン金利がやや上昇をみたが,年度後半には市場の需給実勢を反映しつつも,落ち着いた動きとなった。

(3) マネーサプライは54年度以来の高い伸び

マネーサブライの推移をみると(第12-2図),M2+CDの平均残高(前年度比)は,60年度8.7%増,61年度8.6%増の後,62年度は11.2%増と54年度以来の高い伸びとなった。この間,M1(現金通貨と預金通貨の合計)の平均残高も60年度4.5%増,61年度8.4%増の後,62年度は10.2%増と大きく伸びを高めた。この背景としては,金利低下による通貨保有の機会費用低下,資産取引の活発化による取引需要の増加,経済の拡大に伴う実物取引需要の拡大等があげられる。また,大口定期預金等の預入条件の弾力化により通貨の資産としての魅力が高まり,マネーサプライ対象外資産からの流入が生じで自由金利預金が大幅に増加するといった金融自由化要因もマネーサプライ増加に少なからず影響しているものと思われる。こうしたM2+CDの伸びも,63年度に入ってやや低まっており,63年1~3月期12.1%増の後,5月(速報)は11.4%増となっている。

第12-2図 マネーサプライの動向

また,この間のM3+CD(末残)の伸びをみると,62年度末(速報)で10.2%増とM2+CDの11.4%を下回る伸びにとどまっている。

(4) 全国銀行の実質預金は大幅増加

62年度の金融機関の預貸金動向をみると,金融緩和の浸透や金融自由化の進展をうけて実質預金,貸出とも引き続き高い伸びを示している。

まず,預金についてみると,全国銀行の実質預金残高(末残)の前年度比伸び率は,法人を中心とする大口定期預金の増加やオフショア勘定の拡大により61年度13.4%増の後,62年度17.8%増となり,増加幅を大きく拡大した。また,特別国際金融取引勘定(オフショア勘定)を除いた伸び率でも61年度の9.1%増から,62年度は12.1%増と伸びを高めた。

次に,貸出についてみると,全国銀行貸出残高(末残)の前年度比伸び率は,61年度13.4%増の後,62年度12.2%増と,年度末にかけてやや伸び悩んだものの,金融緩和基調が続く中で高い伸びを続けた。これは,景気の回復・拡大や資産取引の増加を背景に資金需要が増加したことに加え,金融機関の融資態度の積極化が続いたためである。

全国銀行の貸出約定平均金利をみると,短期貸出金利は,前年度の短期プライムレート引下げの影響等から年度当初に低下した後はほぼ横這いで推移し,63年3月には3.924%(62年3月4.275%)となった。また,長期貸出金利も,長期プライムレート引下げの影響等から概ね低下傾向で推移し,63年3月には5.721%(62年3月6.301%)となった。この結果,長期と短期を合わせた貸出約定平均金利(総合)は,63年3月には4.920%(62年3月5.286%)となった。

(5) 企業金融は引き続き緩和

62年度の企業金融をみると,資金繰り面での裕り感は,金融緩和基調が維持されていることもあって,緩和した状況が続いている。

企業の資金需要は,経済が回復から拡大へと移行する中で,年度を通じ総じて堅調に推移した。資金使途別にみると,運転資金は年度前半から堅調に推移しており,設備資金も,年度後半にかけて設備投資の増加をうけて伸びを高めている。業種別にみると(第12-3図),サービス業,不動産業を中心に非製造業では堅調に推移する一方,製造業でも,年度後半より設備資金等で回復の動きがみられる。この間,住宅ローンを中心とする個人の資金需要は堅調さを維持している。

第12-3図 金融機関貸出増加率の寄与度分解

(6) 株価は10月急落した後,回復

62年度の資本市場について,まず起債市場をみると,62年度の民間債,公共債の発行合計額(国内公募債発行分で,金融債,円建外債を除く)は36兆4,460億円と前年度6.8%増となった。このうち,民間債は,5兆9,700億円と前年度比31.2%増となり,公共債は,30兆4,760億円と前年度比3.1%増となった。民間債の増加要因としては,金利が引き続き低水準にある中で,年度前半の株式相場上昇から転換社債の起債が増加したことがあげられる。公共債については,国債発行額が新規財源債は前年度比減少する一方で,借換債の増加により,全体としては前年度を上回った。

次に,流通市場をみると,62年度の公社債売買高は,東京店頭市場で5,094兆2,923億円と,前年度に比べ1,604兆286億円増加(前年度比46.0%増)となった。内訳をみると,一般売買高が3,764兆1,265億円と前年度比37.6%増,現先売買高が1,330兆1,(;58億円と前年度比76.4%増となり,一般売買,現先売買とも活況であった。この背景としては年度当初に金利が急低下する中で,債券ディーラーを中心にディーリング益を狙った長期国債の短期売買が活発化したことが大きな要因であった。特に4月には単月で1,103兆円に上る売買が行われた。その後,金利が反転した5月央以降,売買代金の決済期間が短縮されたこと等もあって取引は減少し,年度後半には300兆円前後で推移している。また,現物売買の増加に伴い,債券先物の取引も活発に行われ,62年度の売買高(片道計算)は前年度比24.8%増の1,704兆7,654億円となった。

公社債相場の動きをみると(第12-4図),年度当初には,短期金利の低下,円高の進行を背景として根強い金利先安感が台頭し,活発な売買の下で利回りは急速に低下した。その後,景気が回復し,円相場が安定する中で,高値警戒感もあって,5月央以降は上昇に転じた。しかし,10月に株式の世界的暴落が発生し,さらにはドル相場が軟化する中で金利先高感が後退したため利回りは再び低下した。63年度に入っては,米国長期金利の動き等をうけて上昇している。

第12-4図 資本市場の動向

次に,62年度の株式市場をみると(前掲第12-4図),相場は,国内金融市場の量的緩和,金利低下,世界的な株高等を背景に,年度当初から既往最高値を更新するなど上昇傾向で推移した後,10月にはニューヨーク市場に端を発する世界的な株価の暴落が起き急落した。その後,我が国経済は順調な拡大を続けたこともあって,63年に入って相場は上昇に転じ,暴落前の水準を回復している。こうした中で,売買高は株式数,金額とも大幅に増加し,時価総額(東証)も63年3月末には前年比21.8%増加して421兆8,882億円となった。


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