昭和63年

年次経済報告

内需型成長の持続と国際社会への貢献

昭和63年8月5日

経済企画庁


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10. 労  働

(1) 労働力需給

(高まるパート求人比率)

本文第1章でみた通り,昭和62年度の労働力需給は年度を通して改善し,有効求人倍率は0.76倍と前年度を0.14ポイント上回った(第10-1表)。これを求人増の効果と求職減の効果とに分解すると,有効求人数が前年度比19.0%増となったことによって0.12ポイント,有効求職者が同4.0%減少したことによって0.03ポイント改善したことになる。

第10-1表 主な労働関連指標の動向

学卒・パートタイムを除く新規求人数は,前年度比21.6%増となったが,これを産業別にみると,鉱工業生産の伸びを反映した製造業では前年度比で34.2%増となったほか,運輸・通信業33.1%増,不動産業30.3%増などで大幅な増加となる一方,金融・保険業12.3%減,電気・ガス・熱供給・水道業5.2%減などでは減少した。製造業の内訳を更に詳しくみると,鉄銅1業65.6%増,輸送用機器63.9%増,電気機器50.4%増など,本文第3章でみた通り,需要の回復や前年度の反動もあって輸出関連業種で大幅な増加となった。また規模別にみると,輸出関連業種に大規模事業所が多いこともあって,年度当初伸び悩んだ大規模の求人も後半には高い伸びとなり,年度計では求人増加の規模間格差はあまりみられない。

次にパートタイム求人をみると,前年度比34.2%増と増勢が続いた。産業別に伸びをみると,製造業のほか,比較的パート比率の低い建設業,運輸・通信業での増加率が高くなっている。すなわち62年度のパート求人の増加は,求人全体に占めるパート比率の高い産業のウエイトが高まったことよりも,各産業においてパート求人比率を高めたことの効果が大きいといえよう。パート求人比率を産業別にみると,最近ほとんどの産業で高まっており,特に62年度においては金融・保険業での高まりが著しく,サービス業を上回るにいたっている(第10-2図)。

第10-2図 パートタイム求人の動向

(減少した中高年齢求職者)

62年度の新規求職者数は,前年度比で6.2%減と54年度以来の減少となった。

従業上の地位別には,1常用6.4%減,臨時・季節6.2%減,パートタイム3.8%減と常用での減少が大きくなっている。パートタイムを除く新規求職者についてみると,男子7.8%減,女子4.5%減と男子求職者がより減少し,年齢別には45歳未満で6.5%減,4:5歳以上で6.1%減と一般的に求職期間が長くなりがちな中高年齢求職者でも減少した。また,雇用保険事業統計により事業主都合解雇者数をみると,製造業の雇用調整が一段落したことなどにより,24.4%減と大幅に減少しており,求職面からみた労働市場の質的改善が窺える。

就職件数をみると,前年度比5.1%増となり,就職率も8.0%と前年度を0.7ポイント上回るなど,改善がみられた。

(2) 雇用・失業情勢

(女子労働力率は上昇)

労働力供給面をみると,62年度の労働力人口は6,105万人と前年度差74万人増加した。これを男女別に15歳以上人口増加要因と労働力率変化要因に分解してみると,男子では前年度差32万人増のうち15歳以上人口の増加によって50万人増,労働力率の低下によって17万人減,女子では同42万人増のうち15歳以上人口の増加によっで33万人増,労働力率の上昇によって8万人増と説明される。労働力率は62.6%と前年度差0.1ポイント低下した。男子の労働力率は49年度以降低下を続けているが,これは人口構成の高齢化により相対的に労働力率が低い高年齢層の構成比が高ま.っていることによっている。女子についても同様に年齢構成要因によって労働力率は下押されているものの,62年度は25~29歳層を中心に年齢階層ごとの労働力率上昇の効果がそれを上回ったために,女子労働力率は3年ぶりに前年度を0.2ポイント上回り48.7%となった。

(増加した非製造業の雇用)

労働力需要面については,年度後半にかけて急速に回復したことから,期を追ってみる必要がある。62年度の就業者数は,前年度差76万人増(前年度比1.3%増)となったが,年度前半には前年同期差55万人程度の増加であったものが,63年1~3月期には同101万人増と大幅な増加となっている。従業上の地位別にみると前年度差で自営業主1万人増,家族従業者3万人増,雇用者70万人増となっており,非農林雇用者のうちでは常雇48万人増,臨時・季節27万人増,日雇6万人減となった。

非農林業雇用者のうちパートタイム雇用者の動きを週間就業時間35時間未満の者でみると,前年度差6万人増となり,非農林業雇用者(休業者を除く)に占める割合は11.7%と前年度より0.1ポイント低下した。

産業別雇用者の推移をみると,内需中心の景気回復を反映してサービス業で前年度差34万人増,卸売・小売業,飲食店で同30万人増等となっており,運輸・通信業(同3万人減),製造業(同2万人減)等では減少した。しかし,四半期別にみると製造業では,回復に転じるまでに遅れがみられたものの,その後の改善テンポは速く,62年4~6月期に前年同期差24万人減であった製造業雇用者は63年1~3月期には同26万人増となり,また建設業でも62年4~6月期同2万人減から63年1~3月期同25万人増へと急増した。一方,卸売・小売業,飲食店では62年4~6月期同32万人増から63年1~3月期同31万人増と安定した増加をみせ,サービス業では62年4~6月期同50万人増から63年1~3月期同12万人増と伸びは鈍化している。

こうしたなかで,全国企業の雇用判断をみると,非製造業では62年11月より雇用不足とする企業数が過剰とする企業数を上回っており,人手不足感は中小規模になるほど強くなっている。また,63年2月には製造業でも雇用不足とする企業数が過剰とする企業数を上回るにいたっている。

(減少した深刻な失業)

62年度の完全失業者数は170万人で前年度より1万人減少したが,完全失業率は2.8%と前年に引き続いて過去最悪となった。しかしながら,62年5月に3.1%(季調値,以下同じ)と既往最高を記録した完全失業率も4~6月期の3.0%から7~9月期2.8%,10月以降は2.6~2.7%で安定的に推移するなど,期を追って低下した。

失業率を男女,年齢階級別にみると,男女とも15~24歳層および男子55~64歳層で高い傾向が続いているが,女子15~24歳層および男子55~64歳層の失業率は62年度には低下がみられた。一方,男子25~54歳の中堅年齢層では失業率が上昇している。

62年度の失業率は前年度と保合いであったが,失業の深刻度に一ついて,まず非自発的離職失業者でみると,前年度差2万人減少している。また,世帯主失業率をみると2.3%と,前年度と同水準ながら,世帯主失業者数同1万人減少していることから,これらの指標でみる限りにおいて,62年度における失業の深刻度は低下したとみることができよう。

さらに,一つの試算として労働力需給と労働市場における構造変化要因(第三次産業就業者の増大,高齢者の増加,女子労働力の高まり)から均衡失業率を求め,均衡失業率と需要不足失業率の動向をみてみた(第10-3図)。これによると,需要不足失業率は景気の動向を反映して循環変動を繰り返しており,62年後半から景気回復の浸透に伴って低下しているのに対して,均衡失業率は経済のサービス化,ソフト化の進展や高齢化の進展を背景に,基調として上昇傾向で推移してきている。しかし,62年度後半に限って上昇の要因をみてみると,製造業の雇用回復によって就業者の第三次産業への傾斜には歯止めがかかっており,高年齢労働力の増加の影響が大きくなっている。

第10-3図 均衡失業率と需要不足失業率の推移

(3) 労働時間・賃金

(所定外労働時間は高い伸び)

62年度の労働時間の動向をみると,景気の急回復に伴,って62年央から所定外労働時間が調査産業計,製造業とも前年比で増加に転じ,その後急テンポで伸びを高めた。この結果,年度計では調査産業計で前年度比6.8%増(61年度同3.7%減),製造業で10.5%増(同9.2%減)と前年度から一転して大幅な増加となった。しかし63年度に入ってからは,所定外労働時間は依然高い水準で推移しているものの,上げ止まりの傾向を示している。なお,総実労働時間は,所定外労働時間の増加によって調査産業計で0.9%増(同0.3%減),製造業で1.5%増(同1.0%減)となった。

(賃金の伸びは名目,実質とも低下)

62年度の賃金の動向をみると,62年後半から所定外労働時間の増加に伴って所定外給与が前年度比で増加に転じたものの,前年度の景気後退と物価の安定を受けて所定内給与および特別給与の伸びが減少したことから現金給与総額では前年度比2.0%増(61年度同2.3%増)と46年以降最低の伸び率となった。また実質賃金も1.7%増(同2.6%増)と前年度の伸び率を下回った。

現金給与総額の伸びを主な産業別にみると(第10-4図),製造業では所定外給与の増加が寄与して前年度比で2.3%増(61年同1.1%増)と伸びを高めたのに対して,非製造業ではサービス業で所定内給与の減少等から大きく伸びが低下したのをはじめとして,いずれの業種も縮小している。

第10-4図 産業別現金給与総額の推移(前年度比,項目別寄与度)

また,昭和50年代後半以降の給与総額全体の伸びは低下傾向が続いているが,これは生産性の上昇率低下に伴って所定内給与の増加が低く抑えられていることとともに,特別給与の伸びが停滞気味であることが影響している。


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