昭和63年

年次経済報告

内需型成長の持続と国際社会への貢献

昭和63年8月5日

経済企画庁


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4. 企業経営

(1) 企業収益の業種別の動向

最近の企業経営の動向をみると,急速な円高の進行により60年度,61年度に減益傾向で推移した企業収益は,62年以降急速に回復し,・62年度の経常利益は大幅に増加した。

まず,日本銀行「主要企業短期経済観測」により,売上高の推移を業種別にみると,まず製造業では(第4-1図①),円高による輸出手取り額の減少と国内卸売物価の下落や石油価格低下等から売上高が急速に減少し,61年度は前年度比9.2%の大幅な減収となったが,62年度は円高の進行と輸出数量の低迷から輸出向け売上高は引続き低迷している一方,個人消費や住宅建設等の盛り上がりにより内需向け売上高は全ての業種にわたり大幅に増加し,前年度比3.9%の増収となーった。この62年度の輸出の低迷,内需の増加という売上高のパターンは,製造業のなかで輸出型,非輸出型をとわずほとんどの業種でみられた。中でも非鉄金属(前年度比12.8%増),金属製品(同10.5%増),化学(同6.7%増)の売上高の伸びが高かった。62年度が減収となった業種は造船(同6.8.%減),石油精製(同2.6%減),精密機械(同1.1%減)の3業種にとどまった。また,非製造業においても,61年度は前年度比12.0%の大幅な減収となったが,62年度は同8.6%の増収となった。

第4-1図 業種別売上高伸び率と経常利益伸び率の推移

次に,同調査により経常利益の動向を業種別にみると(第4-1図②),62年度の経常利益は料金改定の影響の大きい電力・ガスと船価・建造量の低迷の続く造船(欠損継続)を除いた全ての業種で増加した。製造業では,非鉄金属(前年度比85.7%増),繊維(同81.5%増),精密機械(同76.5%増)の伸びが高く,全体では前年度比44.3%の増益となった。鉄鋼は前年度の欠損転落から黒字に転換した。また素材,加工業種別では,素材業種(同60.1%増)が加工業種(同35.0%.増)の伸びを上回った。非製造業は前年度に引き続き堅調に推移し,運輸(同84.2%増),建設・不動産(同16.9%増)等の増益により,電力・ガスを除けば全体では同19.5%の増益となった。この各業種の全般的な回復は60,61年度において製造業の減益,非製造業の増益継続という二面性の見られた状況と対照的で,先述の内需の盛り上がりと円高による原材料価格低下,および企業の合理化努力が各業種の収益増加に寄与したことを示している。この結果,大蔵省「法人企業統計季報」によると売上高経常利益率も,全産業では62年度上期,下期とも3%台に乗せ,54年度上期以来の高水準となっている(第4-2図)。

第4-2図 売上高経常利益率の推移

(2) 企業収益の規模別の動向

企業収益の規模別の動向を,日本銀行「全国企業短期経済観測」の大企業,中小企業の経常利益によってみると,まず全産業では,大企業は61年度は前年度比9.1%の減益となったが,62年度は同19.5%の増益となった。また中小企業は61年度は同2.3%の減益の後,62年度は同38.5%の増益となった。業種別にみると,62年度は大企業製造業では同38.5%の増益,中小企業製造業では同63.0%の大幅な増益とな,った。また大企業非製造業では電力等の減益により同2.2%の減益となっ.たが,中小企業非製造業では同10.5%の増益となった。このように,62年度は大企業,中小企業ともにそろって増益となったが,なかでも中小企業製造業はここ数年のなかで大きな増益率を示しており,利益率も比較的高い水準を示し,ている(第4-2図)。

(3) 企業活動の積極化と財務体質の改善

このように,企業収益が大幅な改善を示すなかで,停滞感が続いていた企業の経営マインドは急速に改善しつつある。前記「主要企業短期経済観測」により,企業の各種判断指標をみると,まず業況判断D.I.(「良い」-「悪い」の構成比)は,製造業が大幅に改善し,63年5月は30%と50年代以降のピークに並ぶ高水準となっている。また非製造業でも,良好感が一層強まり,同じく63年5月は37%と48年以来の高水準となっている。次に,製品需給に関する判断をみると,引き緩み感は一段と後退し,「需要超」とみる業種が増加している。

また,生産設備の過剰感も急速に薄れてきている。前記「全国企業短期経済観測」により雇用面の判断指標をみると,雇用人員判断D.I.(「過剰」一「不足」構成比)は,このところ中小企業を中心に非製造業のみならず製造業についても人手不足感がみられる。

一方,企業のストック面,すなわち企業の財務内容の安定性という観点からみると(第4-3図),このところの収益好転と企業努力によって改善がみられている。企業の財務上の安全性(自己資本比率,流動比率,借入金依存度,インタレストカバレッジ)をみると,62年以降改善傾向にあり,中でも大企業の改善が顕著である。次に企業の効率性(総資本回転率,棚卸資産回転率)についても,大企業の棚卸資産の効率性向上がみられる。また企業の収益性も,先の第4-2図にみたとおり改善傾向を続けている。これらの企業体力の回復は金融緩和の寄与した面が少なくないと思われるが,各企業が今回の円高を乗り越える過程で財務体質の改善を図りつつあり,新たな積極的経営を展開する足固めを整えているといえよう。

第4-3図 製造業の財務指標の推移

(4) 企業倒産の動き

62年度の企業倒産は,60年度,61年度に引続き落ち着いた動きで推移した。これを全国銀行協会連合会の調べ(資本金100万円以上法人)による銀行取引停止処分者件数の動きでみると(第4-4図),件数は61年度12,699件(前年度比15.8%減)ののち,62年度は8,489件(同33.1%減)となった。負債金額は61年度は1兆9,661億円(同3.5%増)の後,62年度は1兆808億円(同45.0%減)と大幅に減少した。また,東京商工リサーチ調べ(負債金額1,000万円以上の法人企業)による企業倒産の動きをみると,件数は61年度16,886件(同7.8%減),62年度11,85.3件(同29.8%減)となり,負債金額は61年度3兆5,716億円(同19.0%減),62年度は1兆9,110億円(伺46.5%減)となった。

第4-4図 銀行取引停止処分者件数の動向

このような62年度の企業倒産の特徴として,次の二点があげられる。

① 倒産件数,負債金額の大幅な減少。62年度の銀行取引停止処分者件数は前年度比では件数,金額共に40年度以降最大の下落幅を示しており,また件数は47年度以来の低い水準にとどまった。また,負債金額も53.年度に次いで少ない金額に止まった。この企業倒産の大幅な減少は白書本文に述べているように,企業収益の急速な回復と金融緩和の継続および地価高騰という,企業の資金繰りを支える経済,経営環境が良好であったことによる部分が大きいと思われる。

② 61年度は,円高を直接,又は間接に倒産の原因とするいわゆる円高倒産が電機,機械,鉄鋼等の製造業を中心に発生したが,62年度後半より鎮静傾向に転じ,東京商工リサーチによると62年度の円高倒産は533件(前年度比31.1%減)となった。


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