昭和61年

年次経済報告

国際的調和をめざす日本経済

昭和61年8月15日

経済企画庁


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第3章 ストック充実の課題

第2節 社会資本の形成

  社会資本の蓄積も,ストックの充実という意味で重要である。ストックの充実には一般に長い期間を要するものである。我が国は欧米を遥かに上回るスピードで社会資本投資に精力を傾注してきたにもかかわらず,社会資本の本格的整備の歴史の浅さ等もあり,世界第二の経済大国としては,現在の社会資本の整備水準は,下水道等に見られるように欧米主要先進国の整備水準と比較しても低い。

  財政制約の下で社会資本の蓄積をどのように進めていくかは,現下の重要な課題の一つである。本節では我が国の社会資本形成の歩みをたどり,その原則についていくつかの論点を述べた後,新しく重要なストック需要として出現しつつある分野に言及することによって,こうした議論に対する理解を深める上での手がかりとしたい。

  その際,高齢化に伴い貯蓄率の低下の可能性があり,そのような場合に備えて,社会資本の充実についても,真に国民のニーズに合った良質の資産を着実に形成していくことが重要であることを主張する。また通常余り議論されていない維持補修費などが重要であることも指摘する。

  ここで,社会資本の範囲について述べておきたい。社会資本としては,一般的には道路,港湾,鉄道などをまず考えるが,これらがすべて公的主体によって建設,運営されているわけではない。例えば我が国では都市部の交通機関として私鉄が重要な役割を果たしている。また多くの国で鉄道が民間部門により建設,運営されていた。

  こうしたことから,社会資本として何を含めるかはかなり複雑な問題である。統計上の制約から公的固定資本形成を社会資本と同一視している場合も多いが,ここでは一応政府の経済計画が,従来社会資本として取扱っていたものを対象とする()。しかしその中でも電信,電話は民営化されており,国鉄も民営化されようとしていることに見られるように,必ずしも公的部門が所有しているものに限っているわけではなく,私的主体が形成しているものでも,重要と考えられるものについては,随時言及した。

1. 社会資本形成の歩み

  (我が国の経済発展と社会資本形成)

  近代の日本は,産業基盤のためのインフラストラクチュア整備を中心に,積極的に社会資本形成を進めてきた。そしてその重点は経済発展に伴って,社会資本へのニーズ変化を反映して変化してきている。まず,明治以来の社会資本形成を振り返ってみよう(第3-16図)。

  明治政府の基本方針は,電信,鉄道,河川,道路,港湾等の整備を急ぐことであった。鉄道についてみると,政府は鉄道建設を急いだが,財政難による鉄道建設の立ち遅れに悩み,民間資金も導入して幹線鉄道の建設運営を進めることとした。例えば日本鉄道に対しては,利子補給,官有地の無料貸付け,払下げ等の援助が行われている。こうして鉄道の公的固定資本形成に占めるウェイトは明治30年代半ばまで特に高く,その後も戦前を通じて高いシェアを占めた。一方,道路投資は,自動車交通の発達や大恐慌期の失業対策事業を背景に昭和に入ってシェアを高めた。大恐慌等による農村の疲弊に対処するため,農林漁業施設へのインフラ投資も「時局匡救農業土木事業」(昭和7年から)の下に増額された。戦後に入ると,食糧増産等のため,さらにウェイトを増加させている。また,昭和30年代後半からは生産性向上のために投資が振り向けられている。戦時中の治山・治水事業の停滞による災害の増大に対処するため,戦後は災害復旧が大きなウェイトを占め,治山・治水も昭和30年頃まで高いシェアであった。また,道路投資は,道路特定財源制度の創設,道路整備5箇年計画の策定等により昭和30年代前半以来大きく増加し,その後も高いシェアを続けている。国鉄投資は戦後ウェイトを減じてきている一方,電信電話は戦前に比べてシェアを高めた。また,昭和40年代後半以降は,「その他」の中の都市公園,下水道等生活関連の社会資本がシェアを高めている。

  (最近の社会資本形成の動向)

  昭和50年代前半には,第一次石油危機からの経済の回復を図るために財政が積極的な役割を果たしたこともあり,公共投資は急速に拡大した。

  それに対し,50年代後半は,財政制約の強まりもあり,実質公的固定資本形成でみてやや減少気味に推移しており,毎年の公的固定資本形成の規模は名目GNP比7~9%程度となっている。(OECD資料によれば,1982年では一般政府固定資本形成のGNPに対する比率をみると,日本は5.93%で,アメリカ(1.53%),イギリス(1.62%),西ドイツ(2.98%)に比して高くなっている。)また,公的固定資本ストック(昭和57年度・経済企画庁総合計画局資料)の構成をみると,道路16.2%,文教8.8%,農業7.0%,治水5.8%,下水道5.5%などとなっている。さらに,公的固定資本ストック額と民間企業資本ストック額との対比をすると第3-17表のとおりである。

  なお,社会資本の整備水準を国際比較すると第3-18表のとおりである。上水道,医療施設,電話が諸外国とほぼ同水準であるのに対し,諸外国と比べ整備の歴史が浅い都市公園,下水道,道路では日本の整備水準は低いものにとどまっている。

2. 社会資本形成の原則

  社会資本サービスは国際的にも高い水準にある私的消費や民間経済活動に比べ遅れており,我が国の厳しい国土条件,本格的整備の歴史の浅さ等もあり,欧米主要先進国の整備水準と比較しても低い。一方,社会資本ストックの充実に対する国民の要望には根強いものがあり,また,急速な国際化の進展の中で,我が国の経済力,所得や消費の水準にふさわしい社会資本サービスの充実の必要性も指摘されている。

  (便益,費用の対応)

  社会資本のうち,民間の行う社会資本(それと同じ役割を果たすものを含む)の形成は,原則的には経済原則に従って行われる。一方,公的に形成されるものについては,毎年の予算決定のプロセスの中で,その大きさ,構成,さらに地域配分などが決定され,その中で公正,分配その他様々の配慮が働く。すべての社会資本形成が経済原則で行われることは可能でなく,又は適切ではないと考えられていることが,公的な社会資本形成が行われている理由であろう。

  ただし,社会資本といえども国民経済全体でみれば一種のストックであり,経済的に考えた場合その形成について一定の原則があることが考えられる。とくに,社会資本形成の行われたことによる現世代と将来世代の間の便益や負担の関係がどうなるかに,十分留意する必要がある。現在公的な社会資本形成は大部分公債により賄われている。このため,将来世代は建設された社会資本ストックから享けられるサービスの受益者であるばかりでなく,公債の元利,さらに社会資本の維持補修費などの大部分の負担者となる。したがって,次世代にとっての公平とは,政府によって行われる資本形成が,そのコストに十分見合う社会全体への便益を将来生むものであることと言えよう。もとより,ここで後代への便益という場合,教育や基礎研究等固定資本形成に分類されない支出でもネットで後代への便益をもたらす可能性があることにも留意する必要がある。

  負担と便益とのこのような関係については,数量的に確定することが困難な分野が多い。したがって公共投資の意思決定を,費用便益分析のみにゆだねることができないのはむろんである。しかし,こうした考慮が重要であることは否定できないし,具体的プロジェクトについてはいくつもの計測例がみられる。

  たとえば,ロンドン第3空港の位置に関し検討された例や,ロンドン地下鉄路線決定などの例が有名である。我が国では余りデータの公表された例がないが,建設省が,昭和41年開通の後に事後的に国道13号栗子道路について,単純な方法ながら計測した例がある。そこでは社会的便益として時間と距離の短縮による節約額を,社会的費用として建設費及び維持補修費を取り上げ,総費用と総便益を算定しているが,社会的割引率を6%として,着工後約13年,供用開始後約8年で建設費等を回収しているものと計測された。

  社会資本の便益・費用を事前に評価することは,必ずしも容易ではない場合が多い。これに対して,事業を開始し,サービスを提供するようになってからの評価はデータ的にもより正確を期待しうる。従って,事後も含めた評価システムを確立し,新たな社会資本形成の決定の参考に供することが検討されるべきである。

  (社会資本形成に当たっての留意点)

  以上のように,社会資本形成に当たって留意すべき点は多く,短いスペースで論じつくすことは不可能であるが,問題となっているいくつかのポイントを挙げてみよう。

  まず,経済社会の変化,国民ニーズの高度化,多様化に的確に対応し,投資分野の一層の重点化を図ることが必要である。経済社会の変化としては,情報化,高齢化,国際化が重要なファクターになろう。まず,情報化については,電気通信事業分野の規制緩和に伴いオンライン・ネットワーク作りが活発化すると考えられる。この点については後述する(5.新しいストック需要参照)。

  また,高齢化については施設面での対応が重要になろう。

  国際化については,今日のように国際化が進行した世界の中では,日本の社会資本整備水準は,国土条件の差などはあるにしても,我が国の国際的地位にふさわしいものを目指す必要があろう。同時に,世界に開かれた国土の形成という観点も重要であろう。例えば,本格的な24時間運用可能な国際空港は,1973~74年時点で既に,アジア(日本を除く)の主要57空港のうち63.2%,世界(日本・ソ連を除く)の主要128空港のうち49.0%に達していたが,我が国には,現在のところ無く,海外から24時間運用の国際空港を作ることの必要性が強く指摘されている。

  第2に,高齢化自体が社会資本形成に及ぼす影響にも注意すべきである。即ち,高齢化への対応は,同時に序説で述べたとおり,現在のように,従属人口比率が低く,貯蓄率が高く投資余力のあるうちに良質な住宅,社会資本ストックを整備しておくべきだ,という意味でも重要である。この場合の留意点として,一つは,今後社会資本ストックのGNP比が上昇するにつれて,当然維持補修費のGNP比が上昇してくる結果となり,貯蓄の大きな部分がそれに当てられることになる。そのことは,維持補修をなるべく必要としない良質なストックの充実を図ることが特に重要となることを意味する。二つには,現在の投資は社会資本ストックを増加させ,将来の更新投資につながるので投資の時間的配分についても,充分な配慮が必要である。このことは従来必ずしも議論されていなかったので,後に項を改めて論ずることにする。

  第3に,社会資本は着実かつ計画的に増加させていくことが重要である。真に国民のニーズに合った良質な資産が着実に充実されることは,経済社会の着実な発展に貢献し,国民の福祉の向上に資することは言うまでもない。また,社会資本投資の水準が,余りに大幅に変動したり,急増,急減を繰り返すなどのことは望ましくない。これは建設業などに不必要な負担を負わせることになり,非効率やむだを発生させる可能性があるからである。

  第4に,社会資本ストックの形成が行われる場合,それが他の必要なストック形成をクラウド・アウト(押しのける)せず,社会資本投資と民間投資が適当な役割分担にもとづき最も効率よく配分されることが重要である。クラウディング・アウトの形態には様々なものがある。まず,代替性を通して政府支出が民間支出を減殺(ダイレクト・クラウディング・アウト)する可能性は否定できない。次に,よりマクロ経済的に,財政支出の増大が金利の上昇をもたらして民間投資を押しのける場合である()。このクラウディング・アウトも理論的には多かれ少なかれ起こるものであるが,実際にどれほど重要かはその時々の経済環境によって差異がある。

  第5に,社会資本形成は様々の便益をもたらすが,同時に外部不経済をもたらす場合があることに留意しなければならない。これは,社会資本形成の際に,現実に大きな問題となっている。特に日本のように土地利用の密度の高い国においては,こうした問題は重要である。空港,新幹線の騒音問題などはその例であるが,こうした問題については,事後的な解決策にゆだねる場合もあるが,基本的には,先行的解決策(アセスメント等)を十分に行っておくことが必要であろう。また,ビッグ・プロジェクトについても,環境の保全等に十分配慮する必要がある。

  最後に,建設業の生産性も重要な課題である。建設業の労働生産性の測定はかなり困難な問題であるが,国民所得統計で昭和45年以降についてみると,実質労働生産性は横ばいである(第3-19図)。建設業は規模の零細な中小企業が多く,また単品受注生産,現地屋外生産という産業特性を有するため,その労働生産性上昇には,いろいろ困難な問題があることは事実である。しかし,こうした状況が改善されなければ,建設需要が増加しても,コストの上昇に吸収され,実質ベースの建設投資は増加せず,社会資本形成に支障が生ずるおそれもあり,生産性向上のための一層の努力が望まれる。

3. 社会資本形成と民間活力

  (社会資本形成の主体)

  社会資本形成に関して「民間活力の活用」が叫ばれている。これは,一方で財政バランスの悪化をきっかけにしたものではあるが,社会資本の全てを必ずしも公的部門が供給する必要があるわけではなく,民間部門により効率的に供給されることがむしろ適切な場合も多いことによる。我が国経済構造を変化させていく上でも,この点は極めて重要な部分を構成する。

  社会資本形成の主体としては,①中央政府,②地方政府,③公企業,④第3セクター,⑤民間企業,などがある。従来多くの社会資本形成は公的部門(①~③)によって担われてきた。最近注目されているのは④と⑤である。

  ⑤の民間企業が社会資本形成及び運営を行う場合には,いかにして公共性を担保するかとともに,採算性の確保が特に大きな問題となる。この点については後述する。

  第3セクターは,公企業の1カテゴリーではあるが,民間活力導入の余地も大きい注目すべき事業形態である。最近の例としては,ニュータウン鉄道,国鉄の特定地方交通線が転換したもの,等がある。第3セクターは,政策目的遂行や公共性の観点から本来公的部門が行うべきものとされてきた分野に民間資金や経営資源を導入し,また公共サービスや公益事業サービスに企業性を導入するために行われる。そのメリットとしては,①プロジェクト企画能力の向上,②資金,資材,人材の調達範囲の拡大,③公共性と経済性との調和,といった点が指摘されている。一方,問題点として,①経営の自立性が確保できるかどうか,②出資者間の立場の違いに基づく利害対立を調整できるかどうか,③経営効率向上のインセンティヴを一般民間企業ほど働かせることができるか,④人材の確保の問題,といった点が挙げられており,各事業体でそれぞれ工夫が行われている。

  (民間活力導入の条件)

  社会資本形成やその運営に当たって重要な政策課題となっている「民間活力の導入」とは,民間企業者が直接社会資本の形成やその運用等の事業主体となり,あるいは事業体に参画するもののほか,政府保証債や政府借入れなどによる民間資金調達まで含めて考えられるが,ここでは,前者すなわち民間企業等が事業主体となる条件について検討していこう。この場合,民間活力導入のためには採算性が前提となり,これが確保できなければ事業は成り立たないということが挙げられる。このためには,開発主体の外部に発生する利益(開発利益)をいかにして採算の中にとりこんでいくか,また,いわゆる「公共性」の部分をいかに公的に援助するか,といった点が問題になる。さらに次のような条件もある。第1に,公共的事業分野への民間活力の導入に関する制度面での整備が挙げられる。既存の制度の活用とともに,新たな枠組み作りが求められている。第2に,社会資本形成及びその運営の分野において,より広範な民間活力の発現を期するため各種規制を緩和していくことが挙げられる。とくに,近年都市整備分野における規制緩和が注目されている。

  (採算性と公的援助)

  民間事業者による社会資本形成は,基本的には一定の分野にとどまらざるを得ないと考えられる。民間事業が成立するためには,市場機構においてそのサービスの価格が決定され,その費用の基本的部分を料金として徴収し得ることが前提となるが,国土保全事業をはじめ社会資本形成はこの前提条件に該当しない分野が多いからである。したがって,このような分野においては,あくまで公的部門による責任ある取組が基本となる。このことを踏まえた上でここでは,民間部門による事業実績の多い運輸関係のうち,都市内軌道系輸送システムとして各地で事業化されているモノレール等を例にケーススタディを行い,民間事業主体等による都市基盤整備の採算性確保のための条件について述べる。

  整備方式は次の3通りを設定する。整備方式Aは,公的援助を受けずに全ての事業を実施するものである。整備方式Bは,建設事業費に係る借入金のうち市中銀行への支払利子を全額補給する形で公的援助するものである。整備方式Cは,建設事業のうち車両が走る下部構造(支柱,桁等のいわゆるインフラストラクチュア部分)の建設及び当該部分の建設に必要な用地の買収を公的部門が行う形で公的援助するものである。以上の三つの整備方式により,第3-20図②に示す前提条件を下に,ケーススタディを行った結果が第3-20図①である。この結果から,民間企業がモノレール等事業のみで採算をとる(整備方式A)ことは極めて困難なことが示唆されている。需要について条件の良いケースAlでも資金過不足額が累計黒字になるのは,着工後26年目,開業後20年目となっている。さらに,需要が30%減少すれば(ケースA2),着工後30年以内では黒字化できないことになり,極めてリスクが大きい事業であることが分かる。次に,利子補給を市中銀行分利子について10年間行った場合(整備方式B)でみると(ケースB),累計赤字の解消は着工後21年目,開業後15年目となっている。

  次に,整備方式Cの場合は,基本的な部分を公的部門が行うこととしており,民間事業者のみによる社会資本形成をとらえたものではないが,他の整備方式に比していずれのケースも累計赤字が解消されるまでの期間は短縮される結果となっており,条件の変化にも比較的安定している。しかし,この方式においても,周辺市街地整備の遅れ等の事情により建設工事がほぼ終了した後,開業が遅れるような場合には(例えば2年程度の遅れーケースC3),資金不足額が資本金を上回るまで急増し,資金繰が苦しくなることが分かる。このことから,鉄道事業においては予算制約上途中で事業がストップすることのないよう,事業化に当たって十分の検討が必要であるとともに,周辺市街地整備との調和等多くの関係機関との調整を円滑に行っていくことが重要であると言える。

  以上,モノレール等事業を例に若干のケーススタディを行ってきたが,モノレール等事業が民間企業のみの力では限界があることが示されている。一般に,モノレール等事業のような線的な根幹的都市施設は,多額の固定費を要し,連続して沿線の関係権利者の同意を得なければならず,部分開業のメリットも薄い上に,関係機関との調整にも長期間を要するものであり,採算に乗せにくい事業も多い。さらに,周辺市街地整備の遅れ等他の事業計画の進捗度により輸送量が大きく左右されるなど,経営的にも不安定な要素が大きい。その一方,周辺市街地への整備波及効果は極めて大きいものである。したがって,根幹的都市施設の整備に当たっては,民間事業主体のみでは採算性を確保することが困難な事業について,その公共性を十分勘案し,開発利益の吸収策等を一層検討していくことが重要である。そこで,以下に開発利益等の外部経済効果の内部化方策の方向について若干の事例を交えつつ述べることとする。

  社会資本を整備する場合,一般に事業体の外部に利益が発生する。例えば鉄道事業の場合,外部経済効果による周辺地価上昇が生じることが多く,これをある程度吸収できれば採算性を向上させることが可能である。

  こうした外部経済効果の内部化は,従来私鉄により行われてきた。即ち,私鉄は不動産部門(ないし不動産関係の系列会社)を持ち,私鉄の建設による地価上昇の利益を吸収していた。また,大都市圏の大規模宅地開発が行われる地域は,通勤輸送施設の整備が遅れている地域が多く,開発当初から通勤輸送施設を合わせて整備することが不可欠との考え方から,主としてニュータウンの住民が利用する鉄道の建設に当たって建設費の一部を開発者が負担する制度が47年度から実施されている。さらに,一般の大都市圏鉄道事業でも,一定の開発利益が発生することが予想される場合において,当該開発利益が鉄道事業者に還元される措置の必要性を指摘する意見もある。

  民間活力の活用による社会資本の整備は重要な課題であるが,特に根幹的都市施設整備については,民間活力のみに委ねた場合にはその着実な進展は難しい場合も多い。今後は,公的部門と民間部門が協力して効果的な整備方式,公有地の有効活用及び開発利益の吸収等,採算性向上のための種々の方策を講じていくことが一層求められている。

  さらに,民間活力を公共的事業分野に導入するに当たり公共性の確保が課題となると考えられるので,この点についても触れておく。

  (公共的事業分野への民間活力の導入)

  公共的事業分野への民間活力の導入について現在最も注目されているプロジェクトの一つに東京湾横断道路事業がある。民間主体による大規模な公共的事業であるこのプロジェクトは,民間の資金,能力を活用しつつ公共性を確保するため,「東京湾横断道路の建設に関する特別措置法」を制定し事業の着手を図ったところである。また,技術革新,情報化等経済社会の発展に対応するため,民間活力を活用した共同研究開発施設,高度情報センター,国際会議場等の整備を促進することを目的として「民間事業者の能力の活用による特定施設の整備の促進に関する臨時措置法」が制定された。このような立法措置による民間活力の公共的事業分野への導入の新たな枠組み作りは今後とも重要と言えよう。

  このほか,従来,公的セクターが実施すべきとされてきた公共的事業分野において,公共性を確保しつつ民間活力が導入された代表的事例として民間事業主体による都市計画事業がある。

  都市計画事業の事業主体は原則として地方公共団体又は国の機関とされているが,特別な事情がある場合等においては民間又は第三セクターが事業主体となることを認めている(都市計画法第59条)。東京における民間等事業主体の都市計画事業件数を示したのが第3-21表である。この表から東京都の都市計画事業においては公共的事業分野への民間活力の導入は既に相当の実績を積んでいることが分かる。とくに,駐車場等では公共用地を有効利用することにより安定的経営を20年程度続けている事例も多い。前述した新規立法による新たな枠組みづくりに加え,このような既存制度の活用も今後の検討課題と言えよう。

  (公的規制の緩和と民間活力)

  民間活力の活用に当たっては,官民分担等について見直しを行い公共的事業分野への民間活力の導入を図る場合と規制緩和による広範な民間活力の発現により社会資本整備を誘導していく場合がある。ここでは,社会資本整備と規制緩和との関係を都市整備の分野についてみてみたい。

  社会資本整備は,特に都市部においては民間の建設活動等を含めた広い意味でのまちづくりの中で考えていく視点が重要である。まちづくりの分野では,従来から,公共投資による都市基盤施設整備を進める一方で,都市に内在する旺盛な民間活力が発揮された都市開発(土地区画整理事業,市街地再開発事業等)により街路,公園等の基盤施設の整備が推進されている。近年,民間部門の成熟化,政府の財政制約の強まり等の中で,民間の創意・工夫を生かした魅力あるまちづくりを進めつつ都市基盤整備を合わせて行っていく必要性を増大させている。このためには,良好な都市環境を維持・形成するため適切な都市計画の下で,民間の活力を最大限に発揮させるべきであり,そうした投資活動が行われやすい環境を整えることが重要である。このような観点から,都市整備の分野においては,第3-22表に示すとおり種々の規制の見直しを行っている。

  以下では,都市整備に関わる公的規制のうち,大きなウェイトを占める都市計画,建築規制の見直しについて,その方向と課題について検討する。

  ① 用途地域の見直し等

  用途地域の指定については,土地利用の変化等に応じて的確な見直しを行うこととなっている。一般的に,土地利用規制は,都市における安全,衛生,環境等の確保を目的とするものであり,その見直しに当たっては,公共施設とのバランスや日照,プライバシー等住環境の保全などに十分配慮すべきことは言うまでもない。

  ここでは都市基盤整備との関わりの視点から,東京都環状7号線内の規制緩和を例に,土地利用規制の緩和が都市の高度利用にとって必要であるとともに,その効果が都市基盤施設の整備によって一層発揮されうることを指摘する。

  既成市街地においては,民間活力を適切に誘導しつつ,土地の高度利用を推進する必要があるが,特に大都市中心部等の住宅地は低層住宅としての良好な居住環境の維持のため必要な場合を除き,良好な中高層住宅地としていくことが適当であることから,環状7号線内においては,地域の環境等に十分の配慮を加えつつ,第一種住居専用地域から第二種住居専用地域への適切な指定替えを推進することとしたところである。

  第3-23図により,商業地・住宅地別に都心部からの距離帯別平均概算容積率をみると,商業地については都心部から離れるとともに概算容積率は大きく減少し,国電山手線のターミナル駅周辺でやや増加した後再び減少し,環状7号線周辺では約150%程度と住宅地並の利用強度となっている。住宅地については,都心部においても概算容積率は200~250%程度と商業地に比して低い利用強度となっており,距離帯別の土地利用強度の差が相対的に小さいことが分かる。このように,環状7号線内においても土地の高度利用が進んでいない地域が相当程度残存しており,地域の特性に十分配慮しつつ土地の高度利用を促進していくことが課題であると言える。

  この場合,規制緩和により土地の高度利用を進めていくためには,道路等の都市基盤施設の適切な整備も必要となる。環状7号線内における道路率と概算容積率との関係をみると(第3-24図),道路率が高いほど土地の高度利用が進んでいることが分かる。すなわち,道路率が高い地区は移動の自由度が大きく円滑な経済活動が行われやすいことから,土地のポテンシャルが高く,それに対応した高度利用が進んでいると考えられる。このように,土地の高度利用を更に進め,円滑な経済活動を保つためには,道路等の都市基盤施設の整備も重要であり,そうすることにより規制緩和の効果もより一層発揮しうると言えよう。

  ② 優良な再開発促進のための容積規制の緩和等

  前述したように,都市再開発の分野は,従来より民間活動により担われている部分も大きく,魅力ある都市づくりは民間の創意・工夫の発揮が不可欠である。この分野への民間活力の導入をより一層進めていくため,政府は種々の規制の見直しを行ってきた。すなわち,良好な都市環境の形成に資するプロジェクトについては,特定街区,総合設計の制度を弾力的に活用し,個別的な容積率の割増を積極的に行うことなどである。また,いわゆる空中権については,当面,特定街区制度及び一団地の建築物に対する建築基準法上の特例制度の活用により,その活用を推進することとなった。こうした規制緩和による民間活力の一層の活用に当たり重要なことは,その活力を都市全体として合理的かつ秩序ある方向に計画的に誘導していくことである。このため,一定の都市地域において,都市再開発のマスタープランとなるべき都市再開発方針を策定することとしており,今後,同方針の未策定都市における速やかな方針策定と,適切な運用が期待される。

4. 社会資本の維持・更新コスト

  (アメリカにおける社会資本の老朽化)

  将来世代に優良な社会資本を蓄積するという観点から,社会資本の維持補修や更新のコストは重要な考慮事項である。こうしたコストを将来世代が支払うことができず,放置されるようなことがあれば,社会資本は老朽化,あるいは陳腐化し,使用不能ないし極めて危険な状態になるかもしれないからである。

  こうした前例を,我々はアメリカにみることができる。アメリカでは1970年代には公的固定資本形成は実質でほとんど増加しなかった。1972年価格でみて,1970年に490億ドル(GNPの4.5%)だった公的固定資本形成は,1982年にも490億ドル(同3.3%)と横ばいを続けた(1984年には540億ドルとやや増加した)と推計される。この背景には,アメリカの政府支出の資金配分が経常的支出とくに社会サービス的支出に傾き,社会資本の蓄積や維持更新に十分回らなかったことが考えられる。アメリカの全政府支出(ダブルカウントを除く,名目)は1965年度の2,056億ドルから1983年度には1兆3,509億ドルヘ6.6倍に増えたが,うち国防・国際関係(1983年度はU.S.ServiceSchoolを含む)を除く資本支出は250億ドル程度から790億ドル程度へ,3倍程度に増えたにとどまっている。

  この結果,アメリカの社会資本ストックの状況は著しく悪化した。まず,ハイウェーについてみると,全米をネットワークする州際道路網42,500マイルのうち,年間2,000マイルもの再建設を要するスピードで老朽化が進んでいると言われた。また,連邦運輸省の議会提出報告()によれば,1980年から82年の間に,州際システムのうち2,067マイルが「良好又は悪くない状態」から「再舗装又は舗装のリハビリテーションが必要な状態」に悪化したが,同期間中に改良されたのは992マイルであった。すなわち,州際道路網の舗装は改良の2倍のスピードで老朽化しつつあった。同報告によれば,州際道路網の橋りょうのうち,欠陥のある橋りょうの割合は1982年の10.6%から1984年には13.1%へと増加した。なお,1982年に陸上交通援助法が成立した後は,州際道路網の舗装状況悪化は止まったとされている。

  (社会資本の維持・更新コスト)

  我が国についてはどうであろうか。我が国では,社会資本ストックは相対的に若く,アメリカでみられるほどの問題は起こっていないと考えられるが,必要な維持・修繕や更新投資を怠れば結局同様な状況を招くおそれがある。こうしたことから,今後の維持補修や更新投資のコストがどの程度のものになるかを検討しよう。

  まず,社会資本の維持補修費についてみる。社会資本の維持補修費を,分野別のデータから推計すると,55年度で約4.8兆円と試算される(付注3-2)。維持補修費は,社会資本の蓄積が進むに従って大きくなっていく。

  次に,社会資本の更新投資コストについてみよう。更新コストは社会資本の耐用年数に依存するが,戦後社会資本蓄積が進み,順次更新期に入ってくるところから,今後更新投資の著しい増加が見込まれよう。耐用年数が社会資本の種類によって大きく異なるため,更新投資の規模を厳密に計測することは困難であるが,社会資本の平均耐用年数が32年であると仮定すれば(),更新投資必要額(昭和55年価格)は65年度には1.6兆円,昭和85年度には23.5兆円と大幅に増加していくものと見込まれる。

  以上に述べた維持補修費(このうち一部は公的固定資本形成に含まれ,一部は経常支出となる)と更新投資を合わせた社会資本の維持・更新コストが社会資本形成の中でどの程度を将来占めることになるかを,種々の仮定の基に試算してみた。社会資本ストックの平均耐用年数を32年と仮定し,耐用年数に達したストックは完全に更新されるとする。仮りに新設改良費(新規投資+更新投資)の実質伸びが昭和57年度以降ゼロとすれば,昭和85年度に維持補修費と更新投資で公共投資(維持補修費+新設改良費)の99.4%を占め,新規投資が必要となる場合でもほとんど不可能となる(昭和89年度には100%になる)。また,新設改良費が57年度以降実質で年率3%で伸びる場合も,昭和85年度には公共投資のうち新規投資は41%にとどまり,更新投資31%,維持補修費28%と,維持・更新コストが過半を占めると試算される (第3-25図)。

  このように,良質の社会資本を維持していくためのコストは大きい。とくに耐用年数が共通であり,かつ,社会資本形成が無計画に短期間に集中しすぎた場合には,将来維持・更新の時期が集中し,高齢化社会を迎え投資余力が減少した段階で対応困難になることも想定しうる。このため,①今後の高齢化に備え貯蓄率が高く投資余力のある極めて貴重な期間に社会資本形成を行っていくにあたっても,維持・更新コストに十分配慮した計画的で着実な社会資本形成を行うこと,②(耐用年数の長い)良質の社会資本の形成,が必要である。なお,技術進歩によって耐用年数が長くなっている場合には,そうした技術進歩の成果を社会資本形成の場においても大いに活用すべきものと考える。

  (社会資本の運営費)

  社会資本ストックの多くは,その運営のためのコストが必要である。これは,鉄道の運営費,文化施設の運営費など,様々なものに該当する。十分な運営コストをかけないと利用されなくなるものも多いと考えられる。

  公共施設の整備に伴ってその運営費も増加する。これについてはデータが極めて限られているが,例えば自治体の運営する文化・体育施設の専任職員数をみると,最近の15年間に,市町村を中心に,2倍強に増加している。これに対し,総職員数は3割増程度となっている(第3-26図)。当然人件費負担も大きくなっていると思われる。こうした運営費の負担があって初めて,社会資本はその本来の機能を発揮し,良質なサービスのフローを提供することができるわけである。こうした状況の中で,会館等公共施設の設置及び管理運営の合理化の必要性があり,そのための努力が行われている。

  (公共物利用のモラルの向上)

  社会資本ストックを良好に維持していく上で,次第に大きなマイナス要因となってくる可能性があるものに,いわゆるヴァンダリズムがある()。近年欧米において社会問題化している。例えば,イギリスでは1985年に大ロンドンに10,700台ある公衆電話に対しほぼ66,000件の電話機荒らし等(窃盗又はその未遂を含む)があった。また,公共施設が犯罪の場となる可能性もある。

  我が国においては,ヴァンダリズムはまだ余り社会問題とはなっていないが,増加の兆しは各方面にみられる。例えば,電話機荒らし(公衆電話又はその中の現金を窃取するもの)が急増している。街頭用公衆電話の台数は55年度から60年度までに50%増えているが,電話機荒らしの認知件数(警察庁調べ)は55年の3,085件から60年には7,983件へと,2.6倍に増加しており,公衆電話数に比べても急増している。

  こうした危険を防止するためには,公衆電話であればBritishTelecomの進めているカードフォン化の他,犯罪を受けにくいところに設置し,あるいは一定の公共施設について必要に応じて有料にして監視人を置くなどの対策も考えられよう。また,それらにも増して,公共物を大切にし,より良く利用するような教育が必要である。例えば,森林林野を例にとってみても,59年時点で林野火災(59年で被害金額11億8,700万円)の発生原因の68.1%が,たき火,たばこなどの不用意な火の取扱い等で占められている。これらの大部分はヴァンダリズムによる故意のものではないが,こうした被害も教育により減少させることができよう。社会資本の整備,適切な維持管理と並んで,それを使用する人間のモラルもまた高められなければならないのである。なぜならば,社会資本を整備し利用することは,人類の文明の一側面にほかならないからである。

5. 新しいストック需要

  (新しいストック需要)

  社会資本投資に対する需要は大きく,内需拡大の観点からもその増加が求められており,民間活力の発揮が求められている。その中でも,今後とくに次のような分野でのニーズが拡大していくものと思われる。

  第1は,今後の経済活力の基盤を形成するものとしての,様々な意味でのネットワークの形成である。その一つは全国的な人,モノ,情報のネットワーク密度の向上である。とくに電気通信分野の規制緩和により,オンライン・ネットワークの拡充が予想される。二つめの大きなネットワーク需要は,主に民間活力を活用する形で動き始めている関西国際空港,東京湾横断道路,本四架橋(明石海峡大橋)など多くのプロジェクトである。これらプロジェクトは巨額の経済的便益を生み出すことが予想されている。

  第2は,国民の安全基盤,快適基盤の整備のための投資である。その一つは,災害など将来の不確実性に備えるべく,防災施設等のニーズが高いことである。

  二つは,生活環境の整備など快適基盤の整備のための投資であり,大都市を中心に上下水道が整備されてきた。公園等の整備も注目される。

  これらの分野について,順にみよう。

  (全国的な人,モノ,情報のネットワークと大規模プロジェクト)

  全国的な人,モノ,情報のネットワークづくりが盛んに行われている。例えば,全国的な光ファイバー通信網,高速道路網の建設,空港建設などは,その地域での産業立地などを促している。

  これらネットワークの中でもとくに注目されるのは,電気通信事業分野の規制緩和によって可能となったオンライン・ネットワークづくりの活発化である。

  即ち,60年4月の電気通信事業法施行以来,自ら電気通信回線設備を設置して事業を行う第一種電気通信事業者として,電気通信事業法に第一種電気通信事業者として規定されている日本電信電話株式会社及び国際電信電話株式会社以外に5社(61年6月25日現在)が許可を受け,地上系3社は61年夏から秋にかけてサービス開始を予定している。また,第一種電気通信事業者から電気通信回線設備の提供を受けて独自のネットワークを形成し,サービスを提供する第二種電気通信事業者も,特別第二種電気通信事業者(不特定かつ多数の企業等を対象とし,設備の規模が大規模なもの)として9社(昭和61年6月25日現在)が登録しており,一般第二種電気通信事業者として240社(昭和61年6月25日現在)が届出を行っている。これら事業が,多彩な事業展開を行って全国的な,あるいは地域的な,オンライン・ネットワークを形成していくものと期待される。

  また,航空路のネットワークについてみると,例えば,昭和40年代以降,空港のジェット化が強力に推進されてきており,60年度においては,女満別空港及び鳥取空港がジェット化の運びとなった。この結果,基幹空港3,離島空港31及び小型機の離着陸に使用されている空港3を除いた地方空港41空港についてみると,61年8月現在で30空港(73%)がジェット化されている。ジェット化による航空機の高速化は,航空貨物輸送能力の増加を通じ,空港周辺にIC部品等の技術集積型産業の立地を促進するなど,地域社会の発展に資する役割は大きい。

  また,最近,小型航空機による地域航空システム(コミューター輸送)の整備に対する要請が高くなっており,不定期航空会社の定期便により60年度は18万人が輸送されている。これも地域社会の発展に資するものと期待される。

  ネットワーク形成の一つの大きな柱としてビッグ・プロジェクトが注目されている。

  民間活力の活用によるビッグ・プロジェクトとしては,関西国際空港,東京湾横断道路,本四架橋(明石海峡大橋)などが進められている。

  関西国際空港は,初の本格的な24時間運用可能な国際空港になる。既に述べたように,世界に開かれた国土形成という観点から24時間運用可能な国際空港の整備は重要である。これとともに,近年国際航空貨物便の需要の高まりが著しいが,国際航空貨物は早朝,午後4時以降に発生が集中する。大阪国際空港は午後10時から翌朝午前7時までの間,原則として航空機の離着陸が禁止されているが,大阪国際空港の時間制限は国際航空貨物の荷主にとり極めて不利である。大阪国際空港では,路線,フライトスケジュール等の制約から,新東京国際空港ヘトラック輸送するケースが相当量にのぼるとされている。このため関西国際空港が開港された場合の国際航空貨物に対する需要は大きいとみられ,開港時で年間58万トンと見込まれている。

  東京湾横断道路(昭和61年度建設着手,70年度完成予定)は,総事業費約1兆1,500億円であり,日本道路公団の試算によれば,整備効果として,①交通混雑緩和効果(東京~千葉,市原断面約2~3万台の交通量の減少),②走行距離,走行時間の短縮(川崎~木更津間約80m2の短縮,現況道路網で約130分,将来道路網で約70分の短縮),③直接便益(2~6.8億円/日),④GNP,生産額の増大(GNP:1.3兆円/年の増加,生産額:南関東地域全体で5兆円/年の増加)が期待されている。とくに,首都圏の中心部をバイパスして本州の北部と西部を直結することの意義があると思われる。

  このように,現在動き始めているビッグプロジエクトの中には,既存のヒト・物資等の輸送ネットワークを強化し,新たなニーズに対応するとともにそれを堀り起こし,新たなビジネスチャンスをもたらすものが多いとみられる。

  (安全基盤の整備)

  災害など将来の不確実性に備えるための社会資本形成は,治山治水を初め従来から公的固定資本形成の中で大きな地位を占めてきたが,とくに大都市圏では人口や経済的価値が集積しているため,災害が生じた場合の被害は他地域と比較しても大きく,それらを被害から守ることの便益もまた大きいと思われる。

  大都市住民の防災施設へのニーズも高く,例えば内閣広報室「社会資本の整備に関する世論調査」(60年10月)によれば,防災施設(地震や火災の時に必要となる避難地や避難路など)について全国では「一応満足している」割合は55.4%,「不満がある」は26.7%であるが,11大市についてみると,「一応満足している」は47.7%,「不満がある」は35.6%となり,大都市でのニーズは高い。

  こうした状況を踏まえ,震災対策については,従来から行われている避難地や避難路などの整備に加え,大都市地域の既成市街地等を中心に,災害時は災害応急対策機能を果たし,平常時は防災に関する啓発・コミュニティ活動等の場となる防災拠点の整備などが進められている。

  こうした直接の防災施設の整備と並んで,安全基盤の整備として重要なのが,基盤的社会資本の一部が事故,災害等により機能を停止した場合の対応,すなわちフェイルセーフ機能である。これはとくに運輸・通信などの各種のネットワークにおいて重要である。電気通信設備については,基幹伝送路は多ルート化されており,災害時に回線の切替により通話が可能である。電力の送電系統においては,基幹送変電設備は送電ネットワークを形成しており,送電線,変電所等に万一事故が発生した場合にも瞬時に他のルートを通じて送電を行い,停電を回避し,電圧,周波数に変動が生じないような仕組みになっている。こうしたことについては,各種リスクの確率や起こった場合のコストの合理的計算は困難な場合も多いと思われるが,その機会コストとフェイルセーフ機構建設のコストとを比較しつつ最適な安全のための投資が行われるべきものと考えられる。

  (快適基盤の整備)

  次に快適な国民生活を実現するための基盤について述べる。前述の「社会資本の整備に関する世論調査」を時系列にみると,公園などの「体育・レクリエーション関係施設」に対して不満がある割合は,都市公園の整備の進展(47年1人当り2.9m2→60年4.9m2)によってある程度減少(47年45.6%→60年35.8%)してきている。また,「排水及び汚水処理」に対して不満がある割合は,一時上昇(47年17.8%→56年28.2%)したが,その後下水道の普及(総人口普及率56年31%→59年34%)もあって減少(56年28.2%→60年26.5%)している。しかしながら,我が国の下水道や公園は(最近の社会資本形成の動向)でみたとおり欧米諸国に比較しても立ち遅れ,また,前述の調査でも「居住地周辺の社会資本で整備してほしいもの」で下水道を挙げる者は21.4%,公園・緑地・体育・レクリエーション施設などをあげる者は21.3%とこの間に対してそれぞれ第2位,第3位となっており,なお整備が望まれている。

  特に,所得水準の向上,自由時間の増大,レジャーの大型化に伴い,公園に対するニーズは今後も高度化していくと考えられる。こうした中にあって,大規模な国営公園が昭和51年から制度化されている。例えば,国営昭和記念公園は計画面積約180ha(日比谷公園の約11倍)を有し,事業期間は10年余にわたる。同公園のテーマは「緑の回復と人間性の向上」であり,施設等にも工夫がこらされている。

  しかしながら,このテーマは何も国営昭和記念公園のみに限ったものではなく,住宅・社会資本全てに通じるものがある。我が国の経済は戦後の国民の努力によってかつてない繁栄に達している。今後はこの繁栄を基礎に,立ち遅れている住宅・社会資本の整備を図ることにより快適性の向上に努め,生活環境の「ゆとり」を回復していかなければならない。「ゆとり」の回復を通じて,明日の発展を支える「豊かな人間性」も生まれてくるのではないだろうか。