昭和60年

年次経済報告

新しい成長とその課題

昭和60年8月15日

経済企画庁


[目次] [年次リスト]

12. 地域経済

昭和59年度の地域経済の動向をみると,我が国経済が順調な景気拡大を続けた中で,関東が先行し,東海,近畿が順次これに従う形で大都市地域の景気が拡大した。その他の地域でも次第に景気回復が進み,特に遅れていた北海道の景気も,59年秋には緩やかながら回復に向かった。しかしながら,各地域の景気動向にはなおばらつきがみられた。

主な分野別にその特徴をみると,鉱工業生産は各地域とも輸出,内需の好調に支えられて,電気機械の増加が大きく寄与した。このため,電気機械産業のウエイトの多寡により,地域別の鉱工業生産の上昇格差が拡大した。また,民間企業設備投資は電気機械を中心に活発化し,こうした業種の少ない北海道や電力業の設備投資の減が響いた東北を除いて,各地域とも大きく増加した。これを反映して工場の新規立地も活発であったが,東北,東海,九州での増加が目立った。

地方,公共工事は,大型工事の続いている沖縄,四国などを除いて低調であった。特に北海道では,公共工事の減少が,住宅建設の不振,鉱工業生産の低迷などとあいまって,景気回復の足どりを鈍いものとした。

住宅着工は,関東,沖縄で前年を大幅に上回るなど,北海道を除く各地域とも増加した。また,個人消費は,セルフ店販売額が各地域とも盛り上がりを欠く動きとなったものの,百貨店販売額が東北,関東をはじめ各地域とも総じて順調に推移するなど,緩やかな増加を続けた。

以上のような動向を反映して,企業の業況判断は総じて好転したが,「明の関東」,「暗の北海道」に代表されるように,地域差も大きかった。

さらに,雇用状勢をみると,関東,東海,北陸,中国で順調に改善したが,他の地域ではそのテンポは緩やかであった。

(1) 拡大した鉱工業生産の地域別上昇格差

全国の鉱工業生産は,電気機械を中心に59年10~12月期まで一貫して上昇した。しかし,60年1~3月期にいたり,輸出の一服もあって前期比(季節調整済,以下同じ)0.7%減となった。

地域別の鉱工業生産の推移をみると,関東,東海,近畿の各地域では順調に上昇を続けており,東北,北陸,九州でも全国とほぼ同様の回復過程を辿っている( 第12-1図 )。他方,中国,四国の上昇テンポは全国を下回っており,北海道では低迷している。このため北海道,中国,四国と他地域との鉱工業生産の上昇格差が開いた。

第12-1図 鉱工業生産の地域別上昇格差

各地域における鉱工業生産の上昇に対する構成業種の寄与度をみると(四半期別),東北,関東,北陸,近畿,四国,九州の各地域では10~12月期までの鉱工業生産の増加は電気機械の増加によるところが圧倒的に大きかった( 第12-2図 )。

第12-2図 鉱工業生産の増減率と電気機械の増加寄与度

また,ほとんどの地域で60年1~3月期の鉱工業生産が減少したが,その主因は電気機械(特にIC)の伸び悩みないし減少であった。ただし北海道は素材型業種の減少や船舶の減少から4.1%減と落ち込み,北陸では化学(医薬品)の減少から2.9%減となったものである。また,中国では一般機械(プラント)の減少により,さらに四国では電気機械の伸びの鈍化に加えて船舶の減少が響いたことにより減少したものでである。

上に述べたことから類推されるように,いわゆる重厚長大型産業のウエイトの高い地域では鉱工業生産の伸びが他地域に遅れることとなった。これらの地域では,素材型業種のウエイトが50%を超えており,加工型業種のウエイトが小さい( 第12-3表 )。さらに,加工型業種の中でも電気機械のウエイトが小さく,北海道,四国では船舶,中国では一般機械(プラント)のウエイトがそれぞれ高くなっており,これらの業種の不振が鉱工業生産全体の伸びを鈍化させた。これとは対照的に,東海では,電気機械のウエイトが小さいものの,自動車,工作機械等のウエイトが高く,これら業種の好調が生産上昇の牽引力となった。

第12-3表 地域別生産指数業種別ウエイト

(2) 北海道,東北を除き拡大をした設備投資

昭和59年度の民間企業設備投資の動向を日本開発銀行の調査(60年2月調査)でみると,全国では前年度に比べて11.3%増となったが,このうち,製造業は20.3%増,非製造業は4.2%増の伸びとなった。

製造業の設備投資は北海道を除くすべての地域で大幅に増加している( 第12-4図 )。特に,IC,VTR等の生産能力拡大投資が活発であったため,電気機械が全国で55%増え,東北,東海,九州で倍増している( 第12-5表 )。北陸では新規工場の立地も加わって14倍と著増したほか,関東,近畿など既存の集積地でも3~4割増と極めて高い伸びとなった。各地域の設備投資増加率に対する電気機械の寄与度も高い( 第12-6表 )。他方,非製造業の設備投資は,北海道,東北を除くすべての地域で増加した( 第12-4図 )。北海道の設備投資は製造業,非製造業とも低調であったが,これは紙・パルプでは増加したものの,ウエイトの大きい電力が減少し,食料品が大幅に減少したことが主因である。また,東北の設備投資は,製造業で33.4%増と伸びたものの,非製造業のうちの電力が大きく減少したため,全体で5.7%減となった。

第12-4図 昭和59年度の地域別設備投資の増加率と構成比

第12-5表 全国設備投資の増加率に対する各地域の寄与度

第12-6表 各地域の設備投資増加率に対する電気機械の寄与度

(3) 東北,東海,九州で著増した工場立地

昭和59年の工場立地動向(通商産業省調査)をみると,全国の敷地面積1,000m2以上工場の立地件数は2,357件(前年比27%増),昭和50年代における最高となった( 第12-7図 , 第12-8図 )。

第12-7図 地域別工場立地件数の推移

第12-8図 工場立地件数の地域別構成比の推移

業種別にみると,電気機械,一般機械,輸送機械を中心に立地件数が増加している。

地域別にみると,四国は24%減少し(前年比,以下同じ),中国も前年並みにとどまったが,他の地域では2ケタの伸びを示している。特に東北(48%増),東海(38%増),九州(37%増)で著増している。また,技術先端型業種( )の立地動向をみると,電子関連工業を中心として453件(73%増),748ha(85%増)と大きく伸びている。これを地域別にみると,件数では各地域とも軒並みに伸びたが,特に東北,関東での伸びが大きく,それぞれ71%増,61%増となった。また,この2地域で全件数の約3分2を占めている。

(4) 低調に推移した公共工事

昭和59年度の全国の公共工事は,公共投資の抑制により,1.6%減(前年度比増減率,以下と同じ)と58年度(3.0.%減)に引き続いて低調に推移している。これを地域別にみると,近畿が7.1%減と減少幅が最も大きく,次いで東海が5.4%減,北海道,北陸,九州が3%台の減少となっている( 第12-9表 )。

第12-9表 公共工事請負金額の推移

このように,全般に低調であった公共工事ではあるが,大型工事が継続している地域などでは前年を上回っており,東北では宮城,福島両県の地方公共団体からの発注増などにより3.1%増となり,四国では本州四国連絡橋工事及び四国横断自動車道の工事を中心に6.2%増となった。沖縄も沖縄自道車道工事を中心に3.2%増と引き続き増加した。さらに関東では0.9%減,中国では1.7%増とほぼ前年並となった。このうち中国では,上期は災害復旧工事が継続していたため14.6%増となったが,下期は前年の反動減(前年は本四連絡橋工事,山陽自動車道工事等により増加)により,14.0%の減少となった。

このように,59年度の公共事業には,地域別の明暗がみられた。四国,沖縄が年度を通じ順調であったのに対し,他の地域では総じて低調であった。特に北海道では経済の公的支出依存度が高いため,公共工事の減少が,住宅建設の不振,鉱工業生産の低迷などとあいまって,景気回復を遅らせる原因となった。

(5) 北海道を除き増加が続く住宅着工

昭和59年度の新設住宅着工戸数は,全国では120万7千戸と前年度比6.4%増と5年振りに高い伸びとなっている。( 第12-10表 )。

第12-10表 新設住宅着工の推移

これを地域別にみると,沖縄が前年度比25.0%増,関東が同8.2%増となったのをはじめ,各地域とも回復しているが,北海道では前年並み(同0.4%増)にとどまっており,回復の遅れが目立っている。( 第12-10表 )。

四半期別の推移をみると,関東では貸家を中心に59年4~6月期以降前年を上回っており,60年1月~3月期も前年比11.0%増(前年同期比増減率,以下同じ)と好調に推移している。60年1~3月期には東北(12.4%増),東海(4.8%増),北陸(6.2%増),近畿(9.1%増)中国(7.3%増)でも貸家の増加から回復がみられる。

他方,四国(1.4%減),九州(1.8%増)では減少ないし伸びの鈍化がみられ,また北海道(12.8%減)では大きく落ち込み,年度を通じて回復の動きがみられなかった。

なお,沖縄の新設住宅着工は58年10~12月期以降,前年比2桁増を続けており,60年1~3月期も31.0%増と他地域と比べ突出して増加している。その要因は,那覇市を中心とする本島中南部において人口増加率が高いこと,ベビーブーム世帯が住宅取得期を迎えていること,このところ沖縄経済が順調であること,などをあげることができよう。

(6) 明るさが増した百貨店販売

昭和59年度の個人消費の動向をみると,全国の大型小売店販売額は3.8%増(前年同期比増減率,以下同じ)と前年をやや上回る伸びとなった( 第12-11表 )。これを地域別にみると,衣料品を中心に,北海道(2.5%増),東北(4.5%増),関東(4.8%増)では,前年を上回る伸びを示したが,他の地域では前年を下回っている。大型小売店販売額のうち百貨店販売額をみると,近畿(3.6%増)で伸び悩んだものの,東北(5.7%増),関東(5.4%増)では前年を上回る伸びにより,順調に増加している。四国(6.1%増)では前年度の伸び率を下回ったものの,全国平均(4.5%増)を上回る上昇率を示している。このように百貨店販売は総じて順調であった。

第12-11表 個人消費関係指標

これに対し,セルフ店販売額は,北海道(2.5%増),東北(3.2%増)を除くすべての地域で前年より伸びが低下するなど,盛り上がりに欠けている。北海道,東北では衣料品を中心に売上げが伸びているのに対し,他の地域では飲食料品の不振が売上げ全体の足を引っ張っている。

大型小売販売店を四半期別にみると,各地域とも猛暑の影響から,エアコンなどの家電製品や夏物衣料品などの売行きが好調となったため,7~9月期には,一時伸びが高まった。また,7~9月期以降は,婦人服の売れ行きが好調を続けた。

なお,乗用車の販売動向を新規登録,届出台数でみると,59年度はすべての地域で前年を下回っている(全国平均2.4%減)。

(7) 好転した企業の業況判断

企業の業況判断を日本銀行「全国企業短期経済観測」のDI(「良い」とみる企業割合「悪い」とみる企業割合)によってみると,地域別に水準の差が大きいものの,総じて好転した( 第12-12図 , 第12-13表 )。

第12-12図 業況判断「良い」とみる企業割合

第12-13表 地域別主要企業の業況判断

製造業についてみると,機械工業(電気機械,一般機械)のウエイトが高い関東,中部,近畿では,59年度を通して業況が「良い」とみる割合が高かった。

また,中国,九州においても,業況判断は改善した。これに対して,北海道,北陸,四国では「悪い」とみる企業が多かった。

他方,非製造業についてみると,年度初めから総じて変化がみられなかったが,「悪い」とみる企業はやや減少している。地域別にみると,関東,中部では「良い」とみる割合が高く,近畿,中国でも改善した。しかし,北海道,東北,北陸,四国では「悪い」とみる企業が多かった。

このように,地域別の業況判断は,鉱工業生産の動きなどにほぼ見合ったものとなっている。

(8) 改善テンポの著しい東海,関東の雇用情勢

労働力需給を有効求人倍率でみると,全国では51年度0.66倍と前年度に比べ0.05ポイント上昇した。四半期別にみると,59年度4~6月期の0.64倍(季節調整済み,以下同じ)から着実に上昇し,60年1~3月期は0.68倍となった( 第12-14図 )。

第12-14図 有効求人倍率の推移(前期比ポイント差)

59年4~6月期から60年1~3月期までの動きを地域別にみると,東海(59年4~6月期1.00倍→60年1~3月期1.20倍,以下同じ),関東(0.83→0.91),北陸(0.76→0.82),中国(0.64→0.71)では順調に増加しているが,その他の地域では改善テンポは緩やかである。

また新規求人倍率を四半期別にみると,全国では有効求人倍率と同様,着実に上昇している(0.95→1.01)。

地域別にみると,東海(1.63→1.86),関東(1.19→1.33)の上昇が著しく,中国(1.20→1.31),北陸(1.11→1.19)でも順調に上昇している。しかし,北海道(0.69→0.72),四国(0.87→0.89)では改善のテンポが緩やかであり,東北では横ばいで推移している。

以上のように関東,東海では生産の動向を反映し,労働力需給の改善が著しいのに対し,北海道,東北,四国の改善テンポは緩やかである。

第12-15図 使用統計の地域区分


[目次] [年次リスト]