昭和60年

年次経済報告

新しい成長とその課題

昭和60年8月15日

経済企画庁


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5. 建  設

(1) やや持ち直した建設投資

59年度の建設投資総額は名目で48兆6,500億円(見込み),前年度比2.3%増となったが,57年度の水準には及ばない見込みである。また,56年度以降安定的に推移してきた建設投資デフレーターが前年度比約2%の上昇となったため,実質では同0.3%増にとどまる見込みである( 第5-1表 )。48年度には名目GNPの24.6%を占めた建設投資は,その後シエアが低下傾向にあり,59年度には16.4%にまで低下すると見込まれている。

第5-1表 建設投資の推移

59年度の名目投資額(見込み)動向を建築と土木とに分けてみると,まず建築は,前年度比で非住宅投資が10.6%増と高い伸びを示し,住宅投資も4.1%増となったため,全体としては7.0%増となった。一方,土木は公共事業が1.9%減,公共事業以外も8.0%減となったため,全体としては,4.2%減となった。59年度は,前年度の建築,土木いずれも停滞という様相から,建築好調,土木停滞という状況となった。

投資主体別にみると,前年度比で政府投資が公共投資の抑制により2.6%減だったのに対して,民間投資は5.7%増と持ち直した。

建設投資デフレーターが前年度比プラスとなったのは,労務費指数が伸びたこと,建築部門の非住宅非木造のデフレーターが上昇したことによる。

建設資材価格の動きを品目別にみると,金属製品は上昇を続けているが,59年12月以降やや落ち着きをみせており,鉄鋼,窯業製品は緩やかな上昇,製材・木製品は前年度に引き続き低下傾向を示した。

(2) 公共投資の抑制つづく

公共投資の動向を一般会計の公共事業関係費予算(当初)でみると,56年度以降3年連続して前年度比横ばいを続けてきたが,59年度においては前年度比2.0%の減少となり,公共投資は引き続き抑制された。

こうした予算枠の中にあって,予算執行は機動的に行うこととされた。すなわち59年度上半期の公共事業等の施行については,59年4月17日の閣議において,内需の振興に資するような執行を行うこととし,景気の動向に応じて機動的,弾力的な施行を推進するとともに,景気回復の遅れている地域においては必要に応じ施行の促進を図ることが決定された。

予算執行状況を反映する公共工事請負金額の推移をみると( 第5-2図① ),59年4~6月期から10~12月期までは,予算現額の低下を背景に前年同期を若干下回る傾向で推移した後,60年1~3月期は,前年度の総合経済対策の反動もあって前年同期に比べて8.1%下回った。この結果,59年度全体では1.5%の減少となった。

第5-2図 公共投資の動向

公共工事請負金額の動向を発注主体別にみると,年度上半期の減少は国等が減少したことによっており,下半期の減少は国等,地方公共団体等いずれも減少したことによっている。

一方,公共事業の進捗を示す公的固定資本形成(実質)の推移をみると( 第5-2図② ),59年度は,前年同期比で4四半期とも減少し,年度全体では1.2%の減少となった。公的固定資本形成のデフレーターは落ちついている。60年度の公共事業関係費予算(当初)は前年度比2.3%減となり,公共投資は抑制傾向が続いている。なお,経済の持続的拡大に資するため,種々の工夫を行い,一般公共事業の事業費としては前年度を上回る水準(前年度比3.7%増)を確保することとなった。

(3) 民間建設投資は緩やかな増加傾向

建設投資のうち,民間建設投資は60.5%を占め,そのうち民間建築が86.7%であり,民間土木は13.3%である。また,建築着工総床面積のうち,民間建築主によるものは,89.0%を占めている(いずれも59年度)。そこで,ここでは民間建設投資の動向を大手43社の受注動向でみたのち,民間建設の中でもシェアの大きい建築の動きを建築着工統計でみることとする。

まず,民間建設の動向を大手43社の建設工事受注額でみると( 第5-3表 ),58年度は,第2四半期以降持ち直し,59年度に入ってからも緩やかな増加傾向を示し,59年度総計では前年度比4.7%増となった。

第5-3表 建設工事受注額の動向

これを業種別にみると,製造業からの受注は,機械工業が大幅に増加したのをはじめ,鉄鋼業,化学工業等幅広い業種にわたり増加したため31.1%増となった。一方,非製造業からの受注は,商業・サービス業・保険業,電気業等が増加したものの,不動産業等の減少により,1.8%減となった。

なお,民間からの建設工事受注額を大手83社及び中小465社についてみると,前年度比でそれぞれ5.7%増,11.7%増といずれも前年度を上回った。

施工高は,前年度比で大手83社は6.8%増,中小465社は2.4%増であり,年度末未消化工事高は,前年度比で大手83社は4.8%増,中小465社は5.1%増となった。

次に建築工事の動向を59年度の建築着工統計の床面積でみると,前年度比で非居住用が7.9%増と大きく増加,居住用も3.2%の増加となったために,全体で5.2%増と5年ぶりの増加となった。

居住用建築物の内訳をみると,居住専用,居住産業併用いずれも増加となった。また,非居住用建築物の内訳をみると,サービス業,公務・文教用が減少となったほかは,民間設備投資の拡大を背景にいずれも増加したため,全体として7.9%増の高い伸びとなった。

(4) 住宅建設は緩やかな持直し

59年度の住宅建設の動向を新設住宅着工戸数でみると,総戸数は120万7千戸で,前年度比6.4%増となった( 第5-4表 )。

第5-4表 新設住宅着工戸数の動向

これを資金別にみると,民間資金住宅は,分譲住宅が減少したものの貸家が好調であったことから,全体として11.7%増となった。公的資金住宅は,ウェイトの大きい公庫住宅が1.1%減だったことから,全体でも0.9%減となった。

また,利用関係別にみると,貸家が民間貸家の大幅増加により好調であったのに対して,持家は0.6%の微増,分譲は3.8%減と低調であった。

年度内の動きをその後の動きも含めてみると,貸家は60年に入って伸びの鈍化がみられるものの,依然として高水準で推移している。分譲住宅は,一戸建て,共同とも動きは鈍い。持家は,民間持家は,58年度まで8年間減少を続けていたが,59年度は下げ止まり60年に入ってからは前年水準を上回って推移しており,59年度後半に増加した公的持家は60年度第1四半期には減少を示した。こうした動きを反映して,住宅建設は,緩やかながら持ち直している。

なお,新設着工住宅の一戸当たり平均床面積は,59年度には84.1m2と前年度を2.8%下回った。これは,相対的に規模の小さい貸家の着工戸数が大幅に増加するなど,規模別構成比が変化したうえ(全体の前年度比に対する寄与度マイナス2.6),貸家の一戸当たり床面積も減少したこと(寄与度はマイナス0.9)による。こうした結果,新設住宅着工総床面積は,前年度比で3.4%の増加となり,戸数ベースの増加率をかなり下回った。

(5) 住宅に対する国民の需要の動向

58年10月に実施された総務庁「住宅統計調査」によると,住宅総数は3,861万戸,世帯総数は3,520万世帯であり,一世帯当たり住宅数は53年の1.08戸から1.10戸となった。

しかし,居住水準の面をみると,1住宅当たり延べ面積は53年の80.3m2から58年の85.9m2へと向上し,60年までに半数の世帯が確保すべき平均居住水準に満たない世帯は全体の50.9%と目標に対して順調に推移しているものの,60年までにすべての世帯が確保すべき最低居住水準に満たない世帯は395万世帯,主世帯(総世帯から同居世帯を除いたもの)の11.4%を依然として占めている。このうち民営借家が182万世帯,次いで持家100万世帯,公共借家88万世帯の順となっており,借家の比率が相対的に高い。

こうしたなかで,58年12月に実施された建設省「住宅需要実態調査」によって現在の住宅についての満足度を住宅利用関係別にみると,現在の住宅について「非常に不満がある」又は「多少不満がある」と感じている世帯は,持家では39.0%であるのに対して,借家では59.9%(うち民営借家では61.6%)と高く,特に借家に住む世帯の不満が相当量あることがわかる。

このような住宅事情の動向及び国民の住宅需要実態をふまえ,60年6月12日には,住宅宅地審議会から「新しい住宅事情に対応する住宅・宅地政策の基本的体系についての答申」がなされ,この中で,住宅政策の指針である居住水準のうち平均居住水準を見直し,新たに昭和75年までの目標である誘導居住水準を設定するとともに,最低居住水準未満居住の早期解消に一層の政策努力を行う必要があるとの指摘がなされている。

(6) 住宅金融の動向

住宅金融の動向を住宅ローン新規貸出額でみると,全国銀行及び相互銀行は前年比で58年10.2%減の後,59年には5.4%増となった。また,住宅金融公庫は1.4%減となり,住宅金融専門会社は4.0%増となった。以上の結果,全国銀行,相互銀行,住宅金融公庫,住宅金融専門会社の新規貸出額の合計でみると,前年比242%増となった。

(7) 地価上昇は2極化傾向

最近の地価の推移を地価公示でみると,全用途の全国平均の対前年上昇率は,57年7.4%,58年4.7%,59年3.0%と年を追って鈍化し,60年には2.4%となり,5年連続して伸びが鈍った。

60年の地価公示による対前年上昇率を用途別にみると,住宅地,宅地見込地,準工業地はそれぞれ2.2%,2.1%,2.4%であったのに対して商業地は3.8%と前年の上昇率を上回った。特に東京圏の商業地は7.2%となり,地価上昇の2極化傾向が明らかになってきた。また,これらの用途の上昇率は,市街化調整区域内宅地の1.7%,工業地の1.8%に比べて相対的に高いものとなっている。

地域別に全用途平均の動きをみると,三大圏の上昇率が2.5%と地方の上昇率2.3%を上回っており,なかでも大阪圏の上昇率が3.2%と三大圏の中でも最高となっている。地域別・用途別に前年と比較すると,上昇率は,東京圏と大阪圏の商業地を除き,三大圏,地方ともに横ばい若しくは鈍化している。


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