昭和60年

年次経済報告

新しい成長とその課題

昭和60年8月15日

経済企画庁


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3. 設備投資

(1) 拡大局面を迎えた設備投資

59年度の民間企業設備投資は,実質GNPベースで41兆3,089億円となった。これを前年度比でみると( 第3-1表 ),57年度3.1%増,58年度5.4%増と57年度後半からの比較的軽微な調整局面から回復に転じてきた後,59年度は11.0%増と54年度(10.3%増)以来の高い伸びをみせる拡大局面となった。また,これを上・下期別に前期比でみると,58年度上期2.4%増,下期5.5%増,59年度上期5.2%増,下期5.4%増と順調に拡大してきた。これは58年後半より中小企業製造業を中心に顕著な回復を示したことに加え,59年に入り大企業も製造業を中心に活発化したことによる。

第3-1表 民間設備投資関係指

こうした動きを規模別・産業別に概観すると,まず大企業製造業では,電気機械を中心とした加工組立型産業が牽引力となり,紙・パルプ,化学などほとんどの業種で増加がみられた。その中で鉄鋼は引き続き前年度を下回っている。

一方,大企業非製造業では,電力や建設関連では減少がみられたが,リース業の高い伸びを中心に全体としては堅調に推移した。

これに対して,中小企業の設備投資は過去の回復期同様,今回も大企業に先行して回復し,59年度においても特に製造業で高い伸びを示した。ちなみに,日本銀行「企業短期経済観測」(60年5月調査)での中小製造業の設備投資をみると,58年度実績10.9%増の後,59年度(実績見込み)は29.1%増となっている。また,非製造業は,建設,消費関連業種等を中心に今一つ盛り上がりに欠けている。

(2) 設備投資拡大の要因

今回の設備拡大の要因をみると,主に次の3つの要因が考えられる。1つは,本報告でもみたとおり,回復期の牽引力となった輸出の増加が引き続き好調だったことである。特に,加工組立型産業の設備投資が活発化した。

ここで,過去の景気拡大局面における設備投資(製造業)と輸出との関係についてみると( 第3-2図 ),前々回の51年度には,世界貿易の拡大を背景に自動車,ラジオ,テレビを中心に輸出は盛り上がりをみせた。これに対し設備投資は,輸出好調業種以外は稼動率の低下,収益改善の遅れから盛り上がらぬままに終った。また,前回の回復期(53年度)には公共投資や電力等非製造業を中心に設備投資が引き起こされた。54年度になって堅調な世界貿易に加え円安による価格競争力回復から,VTR,IC,工作機械などを中心に輸出が増加するとともに製造業設備投資も増勢を強め,景気後退局面の55年度においても堅調に推移している。

第3-2図 景気回復下における製造業設備投資と輸出

これらに対し,今回の局面は回復時より輸出の増加に牽引されて設備投資が増加し,59年度の拡大局面を迎えるに至った。

2つは,技術革新の進んでいる業種においては,期待収益率が高く,活発な企業間競争の中で,それらの分野で積極的な投資が行われていることである。このうち,ハイテク製品の導入による情報化を中心としたハイテク化投資については本報告の第2章において詳しく述べられている。ここでは,ハイテク関連製品の製造部門(大企業)の投資について業種別にみてみよう( 第3-3図 )。59年度実績見込みのハイテク投資比率(全設備投資額に占めるハイテク関連製造部門の投資割合)は,製造業全体で32.4%と約1/3を占めている。内訳をみると,加工組立型では49%,素材型では21%となっている。この中でも,電気機械(72.5%),一般機械(42.2%),化学(37.2%),非鉄金属(33.0%)の4業種は特にハイテク色の強い投資動向が窺われる。これらの投資は,今後とも研究開発投資とともに景気独立的な投資要因として短期的な需要動向には必ずしも直接左右されない動きを示していくものと思われる。

第3-3図 ハイテク投資比率

3つには,企業収益が大幅に改善されたことが挙げられる。詳細は本報告等にて述べられているが,設備投資の資金調達面においてもこの要因は大きく,投資意欲の底固さを支えるものの1つと考えられる。

標の動向

(3) 業種別動向

次に,業種別の設備投資動向について詳しくみていこう( 第3-4図 )。まず,製造業全体の伸び率をみると,法人企業統計季報(大蔵省)の実質ベースの増減率は,57年度1.8%増と伸びが鈍化した後,58年度には4.7%増と回復に転じ,59年度は31.4%増と55年度以来の2桁増の極めて高い伸びを示した。

第3-4図 主要産業の設備投資

この製造業の大幅な伸びは,すでにみたように輸出増を背景として加工組立型産業の設備投資が本格化したこと,技術革新の進展によるハイテク関連投資需要が活発化したこと等の要因による。

こうした要因による設備投資の盛り上がりは,59年度に入りすそ野を拡げ,製造業のうちほとんどの業種で増加を示した。特に,電気機械は,電子関連が,電子計算機を中心とした産業用電子機器をはじめとして需要が好調であったこと,また家電関係も輸出好調なVTR,カラーTV,電子レンジ等を中心とした投資が活発であったこと,加えてより一層の技術革新を目指した研究開発投資も行われていることなどから,いまや製造業設備投資の主役となってきている。

一般機械もFA・OA化需要に支えられ,NC工作機械,産業用ロボット,事務機械等のOA機器などで増強が目立ち,59年度は一転して設備投資は回復を示した。自動車のFF化が一段落し弱含みで推移していた輸送機械も,カーエレクトロニクスの技術開発,ロボット導入による合理化・省力化投資を中心に年度後半より増加に転じている。

このようなハイテク関連投資の波は,素材型産業にも及んでいる。化学では,エポキシ樹脂,磁性材料などエレクトロニクス関連や医薬品分野などの設備投資を中心に増加している。非鉄金属,窯業土石においても,高純度シリコンなどの電子関連材料の増強投資,ファインセラミックス関連投資を中心に増加している。

また,紙・パルプでは,省エネルギー,代替エネルギーをはじめとする合理化及び品質改善を中心に積極的な投資が図られた。繊維もナイロン増強,ボイラー燃料転換工事により大幅増加となった。

このようにほとんどの業種で増加を示した中にあって,シームレスパイプ製造設備などの大型工事が一巡した鉄鋼は,需要伸び悩みもあって更新・合理化投資が中心となり,引き続いての減少となった。

一方,非製造業(大企業)の設備投資は,法人企業統計季報ベースでみると,57年度3.3%増,58年度10.0%増の後,59年度も7.4%増とリース業を中心に全体としては堅調に推移している。しかし,電力投資が58年度に前倒しで行われた影響もあり弱含みに推移するなど,製造業に比べると動きは鈍い。

こうした動きをいくつかの業種についてみると,まず,ウエートでみて電力を上回ったサービス業は,リース業が事務用機器,産業用メカトロ機器を中心として引き続き増勢を持続し全体として高い伸びを続けている。また,不動産業は,テナントビル投資や大規模再開発プロジェクトを中心に58年度同様高水準である。これに対し,卸・小売業は,小売業が百貨店の店舗改装工事等を中心として増加したのに対し,卸売業は減少しており全体としては減少となっている。

(4) 今後の設備投資動向

60年度の設備投資計画をみると,大企業では経済企画庁「法人企業動向調査」(60年3月調査)で3.7%増,前記「企業短期経済観測」で10.8%増となっている。このうち製造業の設備投資は,前者調べで4.1%増,後者調べで15.0%増となっており,非製造業では,前者調べで3.5%増(除く電力4.0%増),後者調べで6.1%増(同9.0%増)となっている。

一方,中小企業の60年度設備投資計画をみると,前記「企業短期経済観測」では全産業で15.2%減,中小企業金融公庫「製造業設備投資動向調査」(60年4月調査)では製造業で13.2%減となっている。いずれの調査においても59年度実績を下回っているが,年度全体の設備投資計画が十分固まっていない時期の調査であり,かつ59年度実績がかなり高い水準にあったことを考慮すると,この増減率がそのまま実現すると判断することはできない。

ただ,このところの輸出の伸び鈍化による影響もあると考えられ,個人消費をはじめとした本格的な内需拡大が期待される。以上より,今後の設備投資は,全体としては堅調に推移していくと考えられる。


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