昭和59年

年次経済報告

新たな国際化に対応する日本経済 

昭和59年8月7日

経済企画庁


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第1章 昭和58年度の日本経済

第4節 財政金融政策の動向と景気の現局面

1. 金融政策の動向

(量的緩和続く)

金融政策は55年8月以降緩和基調で運営されてきた。量的な面をみると,58年度も都市銀行貸出増加額前年比は4~6月期3.4%増から次第に増加し,59年1~3月期には19.9%増となるなど金融の緩和基調が維持された。また,資金の借り手である企業サイドでも,金融機関の貸出態度を「ゆるい」とみている企業の割合は,「きびしい」とみている企業の割合を大きく上回った(日本銀行「主要企業短期経済観測」の貸出判断DIは58年5月調査の38%ポイントから次第に増加し,59年2月調査では44%ポイントとなった)。マネーサプライも7%台の比較的安定した伸びで推移している。

他方,金利面では公定歩合が58年10月に0.5%引き下げられ5.0%となったこともあり年度後半以降金利は低下傾向を示したものの,金融緩和期としては相対的に高水準にとどまっている。また,物価が安定していることもあって実質金()は高止まっているとみられる。なお,預貯金金利は,公定歩合引下げ後の59年1月に引き下げられた。

(短期金利の推移とその背景)

短期金利は58年度前半高水準で推移した後,10月の公定歩合引下げを受けて手形レートなどインターバンク市場の金利は低下したものの,CD(譲渡性預金)レートなどのオープン市場の金利が相対的に高止まった。この結果,短期金利は前年に比べれば低下したものの年度後半を通じて金融緩和期としてはなお高止まった。また,両金利は相互にかなり乖離することになった(第1-23図①)。

このように短期金利が金融緩和期としては高水準で推移したのは,ドル高(円安)修正が十分進展しない中で,日本銀行が為替相場の動向も勘案しつつ政策運営を行ってきたことが影響していると考えられるが,金融の自由化,国際化が進展する中で,CD,外貨預金等を中心としてオープン市場が拡大してきたことの影響も大きいとみられる。すなわち,日本銀行の政策運営の直接の場であるインターバンク市場の金利は低下したものの,取引がオープン市場に流れる一方,オープン市場においては,資金需要の回復等を映じ高めのレート形成が行われた。

この結果,短期金利は,年度後半以降低下したものの,オープン市場金利を中心に,従来ほど,公定歩合の変更に速やかに対応しなかったものとみられる。

(長期金利の推移とその要因)

長期金利の動向をみると,58年度前半高水準で推移した後,年度後半には低下傾向を示したものの,なお過去の金融緩和局面と比べれば相対的に高めの水準となっている。また,物価が安定していることもあって,実質長期金利は高止まっている。

長期金利が過去の金融緩和局面に比べ高水準にとどまっている主因としては,①アメリカの高金利が円資産とドル資産の裁定を通じて我が国に波及していること,②国債残高が増加しており,その民間金融資産残高に占める割合が高いことが国債流通市場への供給圧力となっていること,が挙げられる。また,短期金利が低下したものの,なおその水準が高いことは,短期資産と長期資産の裁定を通じて長期金利を押し上げていると考えられる。

なお,年度後半に長期金利が低下したことには,アメリカの金利は59年に入って上昇傾向をたどり,我が国金利の上昇圧力となっているものの,国債の銀行窓口販売が始まり,国債流通市場での売り圧力が低下したことがかなり影響しているとみられる。

(マネー・サプライト動向)

マネーサプライ(M2+CD)は58年度を通じて7%台で比較的安定した伸びを示した。もっとも,年度後半にはその伸び率はやや高まった(第1-23図②)。これを形態別にみると現金,預金通貨は金融の技術革新が進む中でM1以外の金融資産へのシフトもあり,伸びが鈍化したのに対し,準通貨,CDが伸びを高めた。なかでも法人準通貨及びCDの伸びが高かったが,これは景気回復に伴う資金需要の増大のほか,外貨預金が著しい伸びを示したことや,発行枠の拡大に伴いCD発行が盛んに行われたことから(第1-23図③),M2+CD以外の金融資産へのシフトが落着きを示したことも寄与していると考えられる。

経済全体の流動性水準を実体経済活動水準との関係でみる手がかりとして,名目GNPに対するマネーサプライの比率を表わすマーシャルのKをみると,金融緩和を反映してこのところかなりのテンポが上昇を示している。しかし,金融資産間のシフトの影響を除去するため,通貨のユーザーコストを勘案したフィッシャー指数によるマネーサプライ指標を作成し,マーシャルのKを計測してみると(詳細については第4章第3節を参照),その上昇テンポは緩やかなものとなっている。したがって,マネーサプライの水準は,過剰流動性の発生が懸念されるようなものではなく,物価の安定を確保しつつ景気の着実な回復を図る上で適切に維持されているとみることができよう。

2. 財政政策の動向

(財政政策の推移)

最近においては,厳しい財政事情のもとで一般会計予算は財政赤字を削減すべきことを旨として編成されてきた。58年度当初予算は,財政改革を着実に推進ゴるため一般歳出(一般会計歳出から国債費,地方交付税交付金及び56年度決算不足補てん繰戻を除いた部分)を前年度より減額し,一般会計歳出全体も前年度比1.4%増と低い伸びとなった。公共事業関係費(当初)も57年度同様前年度比横ばいとされた。また,地方においてもおおむね国と同一の基調により抑制的基調の下で地方財政計画が策定された。

こうした中で公共事業等の施行については,58年4月5日の経済対策閣僚会議決定の「今後の経済対策について」及び4月25日の公共事業等施行対策連絡会議の決定に基づき,上半期の契約済額の割合の目標を72.5%(57年度目標77.3%)として施行の促進を図ることとした。また,地方公共団体においても70%以上の執行促進を図るよう要請を行った。さらに10月21日の経済対策閣僚会議において1兆8,800億円の公共投資等の追加を含む「総合経済対策」が決定された。このうち公庫・公団事業については11月に貸付枠等の追加決定が行われたほか,災害復旧事業及び一般公共事業(債務負担行為)については59年2月成立の補正予算に盛込まれた。なお,GNPベースの公的固定資木形成(実質)は58年度下期は前年同期比横ばい,58年度全体では0.1%減となった。

(厳しく編成された59年度予算)

59年度予算も58年度同様財政改革を着実に推進するため厳しく編成され,一般歳出を前年度比マイナス0.1%に抑えるとともに,一般会計の歳出規模は0.5%増と昭和30年度以来の低い伸びに抑制された。またその中では,各種制度のあり方にまで踏み込んだ歳出の見直しが盛込まれた。また,地方財政計画においてもおおむね国と同一の基調にたち,経費全般についてその抑制が徹底して行われた。

一般会計公共事業関係費は前年度比2.0%減となったが,財政投融資等の活用により事業費,としては前年度を上回る水準を確保することとなった。また,公共事業等の施行については,59年4月17日の閣議において,上半期の施行においては,内需の振興に資するような施行を行うこととし,景気の動向に応じて機動的,弾力的な施行を推進するとともに,景気回復の遅れている地域においては必要に応じ施行の促進を図ることが決定された。これを受けて4月26日の公共事業等施行対策連絡会議において施行の促進を図るべき地域の基準が決定されるとともに,その他の地域においてもそれぞれ地域経済の実情に応じた機動的,弾力的な施行を図ることとなった。

歳入面では,社会経済情勢の変化に応じて所得税制全般を見直すことにより,初年度8,700億円に上る所得税減税を実施するとともに,現下の厳しい財政状況をこれ以上悪化さぜることのないよう法人税,酒税,物品税について税率の引上げ等の措置が講ぜられた。また,地方においても個人住民税について初年度3,100億円に上る減税を実施するとともに,法人住民税(均等割)等について税率の引き上げ等の措置が講ぜられた。

3. 景気の現局面

景気は58年1~3月期を谷として緩やかながら着実な回復を示して,回復2年目に入り,引き続き拡大を続けている。実質国民総支出(季調値)前期比増減率をみると,58年1~3月期に0.2%増と低い伸びとなった後4~6月期,7~9月期にそれぞれ1.1%増,1.5%増と伸びを高め,10~12月期には0.8%増とやや鈍化したものの,59年に入って再び伸びを高め1~3月期は1.8%増となった。

需要項目別にみると,まず輸出はアメリカ経済が着実に拡大し,世界貿易が回復するなかで堅調な増加が続いている。次に国内民間需要をみると,設備投資は中小企業を中心に順調に回復している。個人消費は緩やかに増加している。住宅投資は緩やかに持ち直している。在庫投資は全体としては実需の増加に応じて積増しの動きがみられる。一方,公的需要は財政改革下で厳しい歳出抑制が図られていることから,経済成長への寄与は小さなものとなっている。このように,国内需要は民間需要を中心に緩やかに回復している。

以上のように,輸出が堅調に増加しているほか国内需要も回復していることから,鉱工業生産や輸入は前回の拡大局面を上回る増勢を示している。

次に経済のバランスをみると,物価は引き続き安定基調を維持しており,企業収益も改善している。また,労働力需給はなお緩和した状態にあるものの,改善の動きがみられる。成長パターンをみると,58年前半の外需依存の高かった姿から,次第に内需の成長寄与度も高まってきている。こうした中で経常収支の大幅黒字が続いているほか,中央政府の財政赤字もなお大幅なものとなっている。

今後とも,景気の持続的拡大を確実なものとしつつ,財政改革を推進し,我が国経済の着実な発展を図るとともに,調和のとれた対外均衡の達成に努めていくことが日本経済の課題である。その過程において対外収支黒字を世界経済のために役立てていくことが求められている。


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