昭和58年

年次経済報告

持続的成長への足固め

昭和58年8月19日

経済企画庁


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序章

5. 国内市場の新しい開発

一方,長期的観点から,効率性の成果を国内面で十分活かし,国内市場の新しい開発を通じて国民生活を一層充実させていくことが必要である。また,日本の高い貯蓄率を前提とすると,国内需要の拡大の中で投資は今後とも大きな役割を果すと考えられる。

投資項目の中で,生産的な設備投資は成長の源泉でありまた大きな需要部門でもある。しかし設備投資を増やすだけでは内需の拡大には限界がある。高い設備投資比率は生産能力の増大を通じてさらに高い成長を必要とするからである。したがって,経済の効率性を維持するため一定の高い設備投資水準を保つことは必要であるが,同時に住宅投資,社会資本投資,研究開発投資などが有効に拡大するようにしていかねばならない。また投資と消費が均衡のとれた形で拡大していくことが望ましい。

しかしそうした形で内需が今後着実に拡大していくためには,現在いくつかの大きな制約が生じている。第一は住宅土地問題である。現在日本で期待される国内市場の一つの大きな分野として,住宅建設や都市再開発が挙げられている。しかし,国民の多数が求めている居住条件の質的改善は,これまでの土地利用をそのままにして単に建築物をつくるだけでは解決しない。居住条件の改善のためには,第一に,居住空間の拡大が必要である。第二に居住環境を改善し,公共空間や録地,都市水面などを拡大しなければならない。第三は,職場を始め日常必要な各種施設への近接を確保しなければならない。日本は確かに人口に比して利用可能な可住地面積は少ない。しかしそれだけに最も合理的な土地利用を考えねばならないはずであるが,現実には日本の都市空間の利用方式は,他の先進諸国と比較しても決して十分とは言えない。都市空間を有効に利用すれば,オープンスペースの拡充など都市環境を改善し,しかも都市の人口収容力を高めることが可能なはずである。土地問題は,利用可能な国土面積が限られている以上,いわばゼロ・サム的な要素を有している。経済成長によって所得水準が上昇しても,土地価格もそれに伴って上昇するので,国民が享受しうる居住条件の改善のためにに土地の高度利用を促進してゆく必要がある。

今後居住条件の改善を進めながら,住宅投資や都市再開発の有効需要を拡大していくためには,土地利用のあり方に検討を加え,合理的な空間利用ができるようにしていかねばならない。それによって住宅需要や都市再開発需要を掘り起すことができれば,さらに耐久消費財や余暇市場の需要を増加させ,内需の拡大に資するであろう。

第二の問題は,内需が着実に拡大していくためには,中長期的に経済が効率性を保つことがひとつの条件であり,その観点から公共部門の支出および規制をより効率的なものにしていく必要があるということである。まず,経常的経費を一層効率性や合理性に適ったものにする必要がある。また,投資的経費についてもその配分が国民のニーズに合った効率的なものになるよう配慮する必要がある。さらに民間活動に対する各種の規制も変化した時代の要請に対応してゆく必要があろう。

例えば公共投資については真に公共部門のイニシアティブの発揮が期待され,かつ国民的ニーズの高い分野に重点をおいてゆくことが求められている。また,民間事業として投資活動が可能な分野については,公共的に必要なルールを明確化した上で民間活力を導入することは経済全体としての効率性の向上にも内需の拡大にも役立つであろう。

さらに第三の問題は,公共部門における受益と負担の関係の歪みである。公共部門は自ら行政サービスを提供するとともに,所得の公共的な移転を行なうが,それらの対価と経費は基本的にすべて国民の負担に依る。仮に一時的には公債発行によって経費を賄ったとしても,結局の負担は納税者に帰することになる。最近は財政制度や移転給付の仕組みが複雑化し,また借金を抱えた財政になっているために,受益と負担の関係が不明確となり,ともすれば一方で非効率な支出や行き過ぎた受益が生じ,他方で過度の負担が生じやすくなっている。こうしたことはそれ自体問題であると同時に,前記の非効率性と相まって国民の経済活動に歪みを及ぼし内需の健全な発展の障害となる惧れがあると考えられる。


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