昭和57年

年次経済報告

経済効率性を活かす道

昭和57年8月20日

経済企画庁


[目次] [年次リスト]

1. 国際収支

(1) 回復の遅れる世界経済

(インフレ抑制下の先進国経済)

昭和54年~55年にかけて発生した第2次石油危機により,主要先進国の多くは景気後退に見舞われる一方,物価の高騰と高水準の失業が併存するいわゆるスタグフレーション的傾向を強めた。56年に入ってからも,各国はこうした状況から脱け出すために55年に引き続きインフレの鎮静化を最優先とする厳しい緊縮政策を,金融政策を中心に展開した。こうしたなかで,各国においては戦後最高ないしそれに近い異例の高金利が出現した。特に,本論第I部で詳述したように,米国の金利が夏頃までの20%前後の高水準で推移し,各国との金利差が大幅に拡大したため,各国通貨の対ドル相場は持続的かつ大幅に下落した。このような対ドル相場の下落は自国通貨建輸入価格の上昇を通じて,インフレ圧力を再び高めるため,各国は,国内金利を高めに維持することにより自国通貨防衛に当らざるを得なかった。この結果,56年に入って石油価格が需要停滞等によりほぼ横ばいに推移するなど石油情勢が好転したにもかかわらず,各国では景気後退ないし景気回復の遅延が生じ,失業者の大幅な増大を招いた。

また,主要先進国では財政支出が財政赤字縮小のために抑制されていることも回復を遅らせた一因と言えよう。

一方,国際収支面をみると,石油需給の緩和等からOPEC諸国の経常収支黒字が急速に縮小する一方,OECD諸国の経常収支の赤字幅も石油節約や景気停滞により改善してきている。しかしながら,非産油開発途上国では,先進国向け輸出の不振や高金利に伴う対外債務利払いの増加から経常収支の赤字幅が拡大している。このため,非産油開発途上国の債務累積額は,56年末で約4,252億ドル(IMF)と推計されており,このような巨額な債務累積問題に対処し,世界経済の健全な発展を図るためには,非産油開発途上国への円滑な資金の環流が今後増々重要となる。

第1-1表 国際収支の概要

(2) 経常収支の改善と資本収支の赤字

56年度の総合収支は,前年度の4億ドルの赤字から79億ドルの赤字へと赤字幅が拡大した。これは,経常収支が3年振りに黒字に転じたものの,長期資本収支が前年度の44億ドルの流入超過から148億ドルの大幅流出超過となったためである。

(経常収支は3年振りの黒字)

経常収支は,前年度の70億ドルの赤字から59億ドルの黒字へと3年振りに黒字に転じた。これは,貿易外・移転収支が赤字幅を拡大させたものの,貿易収支の黒字がそれを上回って大幅に拡大したためである。

貿易収支が,前年度の68億ドルの黒字から204億ドルの黒字になったのは,年度上半期の輸出増加と省エネルギー等による原粗油輸入量の減少,一次産品価格の下落などを主因とする輸入の停滞による。

貿易外・移転収支が赤字幅を若干拡大させたが,この要因としては,貿易外収支において投資収益収支が海外の高金利に伴う為銀利子の支払増加や国債等の利子支払の増加を背景に前年度の黒字から赤字に転じたことに加え,その他(民間取引)において貿易規模の拡大に伴う代理店手数料など貿易附帯経費の支払いが増加したことによる。

(再び流出超過となった長期資本収支)

長期資本収支は,前年度の流入超過から一転して,148億ドルの大幅な流出超過となった。これは,本邦資本が過去最高の流出超過となったことに加え,外国資本が証券投資の流入幅縮小を主因に前年度に比ベ流入幅を大幅に縮小したためである。

第1-2図 わが国の長期資本収支

本邦資本は,大幅な内外金利差を背景に証券投資が債券を中心に流出幅を大幅に拡大させ過去最高の流出となったほか,直接投資が内外金利差や企業の国際化等から,また借款が内外金利差による為銀の円建シンジケート・ローンの増加や輸出入銀行,海外経済協力基金を通する円借款の供与拡大から,いずれも過去最高の流出となった。

他方,外国資本は,証券投資が年度後半の市況の不冴えから株式の流入が前年度に比べ大幅に縮小したうえ債券の流入低調もあって流入幅が大幅に縮小した。なお,外債は転換社債を中心に活発に発行された。

外為市場における円の対ドルレートは,56年1月以降,米国金利の高騰による内外金利差の拡大を反映して夏場にかけて大幅に下落したが,その後一時米国金利の軟化から円高に転じた。しかし,年末からは,内外金利差の拡大等を背景に再び下落している。

(3) 年度後半に増勢鈍化した輸出

(56年度の輸出動向)

56年度の輸出(通関額)は,1,519.5億ドルで前年度比10.1%増となった。これを価格と数量に分けてみると,価格(ドルベース)は同1.6%の上昇,数量は8.4%の増加となった( 第1-3表 )。しかし,四半期別にみると,年度後半に急速に増勢が鈍化し,57年1~3月期には,ドルベースで前年比減少となっている。これには,先進国の景気停滞にともない,世界貿易が引き続き伸び悩んだことと,円の対ドルレートが下落したにもかかわらず,輸出価格面での競争力は必ずしも強まっていないこと等が影響している。IMFの統計によれば,自由世界の実質輸入は,1980年に0.1%減少したあと,1981年も0.5%の低い伸びにとどまった。また,国連の統計によると,先進国の工業製品輸出価格(ドルベース)は1981年に5.1%下落したため,日本の輸出価格は相対的にかなり上昇した。以上の要因に加えて,アメリカ向け乗用車輸出について輸出自主規制措置がとられたこと,受注から出荷までの期間が長い船舶やプラントの輸出が56年7~9月期をピークとして減少していることも影響している。

第1-3表 年度後半に伸びが鈍化した輸出

第1-4表 商品別・地域別輸出動向

輸出動向を商品別にみると,繊維及び同製品(ドル9.7%増,数量8.8%増,前年度比,以下同じ)は,北米向け,中国向け等は高い伸びを続けたものの,東南アジア向け,西欧向け等が低調だったため伸び率が鈍化した。化学製品(ドル0.7%減,数量0.7%増)は,主力の東南アジア向け等が減少した。鉄鋼(ドル9.4%増,トン数0.1%減)は,アメリカ向けシームレスパイプが増加したものの,東南アジア向け等の減少から数量では減少となった。一般機械(ドル16.2%増),電気機器(ドル10.0%増)は年度後半に急速に伸びが鈍化した。一般機械については,金属加工機械やプラント関連機械の増勢鈍化が著しいが,建設・鉱山用機械や事務用機器は比較的堅調に推移した。電気機器については,一部家電製品でアメリカなどでの現地在庫の調整が行われたとみられているほか,電子部品等が東南アジア向けなどで伸び悩んだ。なお,好調を続けたテープレコーダー類(VTR)を含めると,電気機器は16.3%増加した。自動車(ドル2.3%増,台数5.3%減)は,価格は上昇したものの,西欧向け,アメリカ向けを中心に数量で減少となった。船舶(ドル48.7%増,トン数36.6%増)は54~55年度の受注好調により高い伸びとなったが,7~9月期をピークに伸びは鈍化している。

次に地域別の動向をみると,アメリカ向け(20.1%増,ドルベース・前年度比,以下同じ)は,年央の景気回復に加えて,円安もあって比較的高い伸びとなった。西欧向け(2.7%増)は,景気停滞と対欧州通貨での円高から,般舶を除く多くの商品で減少した。東南アジア向け(4.9%増)は,台湾向けが減少したほか,韓国,香港,シンガポール向けなども伸び悩んた。中近東向け(23.3%増)は高い伸びとなったものの,石油収入の減少により57年にはいって伸びが鈍化している。そのほか,ラテンアメリカ向け(4.6%増),アフリカ向け(9.9%増)は著しく伸びが鈍化し,共産圏向け(10.5%減)は中国及び東欧向けの減少により全体として減少した。

(4) 低水準ながら下期に増加を示した輸入

(56年度の輸入動向)

56年度の輸入(通関額)は,総額1,427.4億ドルで前年度比0.9%減となった( 第1-5表 )。ドルベースで減少したのは50年度以来である。価格と数量とに分けてみると,価格(ドルベース)は,一次産品市況の低迷などから0.3%の下落(前年度25.5%の上昇),数量は0.6%の減少(同4.8%の減少)となった。四半期別にみると,金額(ドル),数量とも56年10~12月期から前年比で増加を示した。その後生産の減少傾向から57年度に入って,再び減少している。

第1-5表 商品別・地域別輸入動向

財別のき動きをドルベースでみると,輸入全体の半分を占める鉱物性燃料(前年度比0.3%増,以下同じ)が原粗油の数量減を主因に低い伸びとなった。原粗油の価格は55年度の34.6ドル/バーレルから,56年度は36.9ドル/バーレルと上昇率が鈍化し,数量では国内経済活動の停滞や省エネルギーの進展などから前年度比8.2%減と,55年度に引き続いてかなりの減少となった。次に粗原料(16.3%減)は,住宅建設の低水準を反映して,木材が2年続いて大幅に減少したほか,金属原料,繊維原料も生産の停滞などにより減少した。製品類では,資本財(1.7%減),耐久消費財(2.6%減)は減少したものの,非耐久消費財(13.6%増)が衣類を中心に増加したほか,製品原材料(3.0%増)も化学製品や鉄鋼などにより増加した。また食料品(0.8%増)は,砂糖が大幅減となったものの,肉類や魚介類の増加により,微増となった。その他,非貨幣用金(2.5倍増)が,金価格の下落などを背景に大幅に増加した。

地域別にみると,共産圏(16.6%増)からの輸入が高い伸びとなった。これは,中国からの輸入が原粗油,石炭を中心に22.5%増となったためである。EC(5.2%増)からの輸入は,化学製品や非貨幣用金などにより増加した。またラテン・アメリカ(5.4%増),アフリカ(4.7%増)からの輸入は原粗油を中心に増加した。一方中近東(4.6%減)は,イラクからの原粗油の大幅減少などにより減少した。また東南アジア(2.1%減)もアジアNICSからは製品類を中心に増加したものの,インドネシアからの原粗油や木材の減少により減少した。アメリカ(1.2%減)からの輸入は,化学製品や機械機器,石炭などが増加したものの,木材,食料品などの減少により減少した。

(石油代替エネルギーの増加)

原粗油が減少する一方で,石油代替エネルギーの動きをみると,56年度も55年度から引き続いて石炭,LPG,LNGの輸入は増加し,いずれも数量でこれまでの最高を記録した( 第1-6図 )。このようなエネルギーの脱石油化の動きは産業部門を中心に,引き続き積極的な石炭,LPG,LNGの導入が図られているためである。具体的に,石油化学とセメントを例にとってみると,石油化学製品では原料用のナフサの消費が減少して,LPGの消費が伸びており,原料転換の進んでいることがわかる( 第1-7図 )。またセメント製品でもエネルギー源として重油から石炭への転換が進んでおり,最近では,重油の使用量はわずかなものになっている。さらには,電力業でも,石炭やLNGの使用量が増加しており,今後もこうした産業部門の脱石油化の動きは進んでいくものとみられ,これに伴い,石油代替エネルギーの輸入も一層増加するものと思われる。

第1-6図 増加した石油代替エネルギーの輸入

第1-7図 エネルギー消費構成の変化


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