昭和57年

年次経済報告

経済効率性を活かす道

昭和57年8月20日

経済企画庁


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第II部 政策選択のための構造的基礎条件

第3章 新しい国際分業と産業調整

第7節 対外的対応の方向

以上第3章で述べてきたことから,三つの結論的コメントをしておきたい。第1は,わが国の製品輸入依存度である。先にみたように,日本の製品輸入依存度は先進諸国に比し,相対的に低く,NICSからの工業製品輸入の内需に対する比率も必ずしも高くない。

もちろん,こうした製品輸入依存度の低さには,原燃料の輸入依存度が高いとった資源の賦存条件面での制約をはじめ種々の要因が影響しており,欧米諸国が指摘するような市場の閉鎖制と直接に結び付けて結論づけられない要素が多いことは言うまでもない。

しかしながら,既にわが国の所得水準が高くなり,また,2度に亘る石油危機に伴い原燃料コスト構造が大きく変化してきていることを考えれば,今後,製品輸入は,短期的な変動はあるものの,基本的には増加していくものと考えられる。

もっとも,製品輸入の一層の増加のためには,製品輸入が増加していく過程において生ずる構造変化や産業調整の困難さといった問題にわが国が積極的な対応を推し進めるとともに,輸出国側においても対日進出に関して一層の努力を傾注することが要請されることは言うまでもない。

第二は,安全保障の考え方についてである。貿易取引の規制はしばしば国家的安全保障の名の下になされるし,それに一定の合理的根拠がある場合も多い。ただ一般の経済的安全保障論はいざという場合の供給確保に重点が置かれ過ぎる傾向がある。いざという場合の安全保障と同時に,いざということにならないための安全保障も重要であろう。そのためには,相互の経済依存度を高めることが,むしろ安全保障を高める側面もあることを忘れてはならない。例えば,わが国のアメリカに対する貿易関係をみると,日本は必ずしも供給者としてのアメリカに強く依存しているわけではない。しかし日本にとって,アメリカという市場は他に転換することのできない重要なものである。このことは逆にいえば,市場としての日本の地位が高まるほど,日本に対する経済的評価も高まるという側面があるということである。さらにふえんして言えば,いくつかの国の間で相互の経済的依存度が深まるほど,「いざということにならない」ための安全保障の度は高まるということである。したがって,経済的安全保障の問題を議論する場合には,供給の確保という側面と併せて,相互に市場を与え合うことによる安全保障という側面を忘れてはなるまい。

第三は,世界的な保護貿易主義の圧力が高まる中で,わが国の対外政策をいかにすべきかという問題である。これまで述べてきたように,わが国としては,経済・社会の相対的な柔軟性を保持しているという利点を最大限に活用しつつ,硬直性を増した他の先進諸国と肩を並べて保護的色彩を強めることなく,自由貿易体制を堅持していくべきであろう。


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