昭和57年

年次経済報告

経済効率性を活かす道

昭和57年8月20日

経済企画庁


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第II部 政策選択のための構造的基礎条件

第1章 日本経済のバランスと成長力

第7節 わが国の技術水準

40年代後半には,既存技術の成熟化と技術革新のフロンティアの涸渇が指摘されたこともあったが,2回の石油危機を経て,現在,また新しい技術革新が進展しつつある。

以下では,わが国経済の成長力を考えるうえで,現在生じている技術革新の評価,及びわが国の技術水準ならびに技術開発力について検討する。

1. 最近の技術革新の特色

最近企業化が進展している技術革新のうち大きなものを掲げれば,省エネルギー・省石油型技術革新,メカトロニクス型技術革新,オフィス・オートメーション(OA)型技術革新があろう。

第1の省エネルギー・省石油型技術革新は石油危機を契機として,素材産業を中心に普及が進んだものであるが,鉄鋼業や窯業にみられるごとく,単にエネルギー消費原単位の向上を図るだけでなく,同時に生産性の大幅な向上を伴っている。

第2のメカトロニクス型技術革新は,エネルギー価格の上昇の影響を受けることが比較的少なかった自動車,家庭電機に代表される技術,労働集約型の加工型産業で生じたものである。このタイプの技術革新は,生産技術を根本的に変化させるというものではないが,既存の技術の中にエレクトロニクス技術が浸透し,生産技術の質を大きく変化させていくという特徴をもっており,生産段階でも最終需要段階でも新製品を生み出して需要を拡大している。

第II-1-53図 間接部門の生産性向上に対する意識

特に生産段階での産業用ロボットやNC工作機械等の普及には著しいものがある。

前二者の技術革新は,直接部門の生産性向上等にかかわるものであったのに対して,第3番目のオフィス・オートメーション(OA)型技術革新は間接部門の生産性向上にかかわるものである。第1次石油危機後の減量経営とその後における経営体質の強化の過程で,企業は直接部門の生産性向上に力を注ぎ,またそうした努力は引き続き行われているが,企業によっては,その余地が次第に少なくなったことや,企業内で企画・営業等間接部門の比率が人員の面でも経費の面でも増大してきていることもあり,間接部門の生産性の向上が重視されるようになった( 第II-1-53図 )。従来よりも間接部門の生産性向上に重点をおくとしている企業は全産業では約9割となっているが,非製造業では約8割とややその比率が低くなっている。しかし,これを販売,経理,事務管理等のソフト部門の生産性向上という視点でとらえれば,非製造業の直接部門の中にも多分にソフト部門が多いことから,この比率はもう少し高目に評価すべきであろう。

第II-1-54図 間接部門の生産性向上についての具体策

次に間接部門の生産性向上策をみると( 第II-1-54図 )。「オフィス・オートメーション(OA)などによる情報処理の機械化」が全産業で約7割であり,次いで「仕事自体の見直し,システム化」(55.0%),「一般経費の節減努力」(30.1%)となっている。特に「情報処理の機械化」では,その他製造業(85.0%),精密機器(80.8%),電気機器(79.0%)とならんで不動産業(81.8%)でも実施率が高い。

第II-1-55図 産業別電子計算機の実動状況

ちなみに,産業別電子計算機の普及状況からみると,金額べースでは,金融・保険,不動産,卸・小売業,電気機械,サービス業での利用が多く,特に,卸・小売業やサービス業では,金額に比して稼働台数が多いことから,相対的に小型機種が事務処理用として導入されている様子がうかがえる( 第II-1-55図 )。また,データ通信回線における特定通信回線数は,50年度末に約4万回線強であったものが,55年度末には約10万回線となっており,各事業所間を結ぶオンラインも金融業を中心に顕著な伸びを示している( 第II-1-56図 )。

こうした間接部門の機械化による生産性の向上は,従来あまり手がつけられていなかっただけに,いわば生産性向上のフロンティアとしての意味をもち,特に第3次産業の生産性の向上にも大きく寄与すると考えられる。

2. 日本の技術水準

1980年代は技術開発競争の時代といわれている。すなわち,エレクトロニクス,新素材,バイオテクノロジーなどの新しい技術革新が進展し,産業に大きな影響を与えつつある。

わが国の技術革新の過程を概観すると,40年前後までは,外国からの導入技術を中心にした技術革新が図られ,先進諸国への技術水準のキャッチアップが進み,その後石油危機までの時期には,技術の有効性を極限まで追求した大型技術が普及した。しかし,40年代から50年代にかけての海外からの技術導入の減少,国内での大型技術によるスケールメリットの追求もほぼ限界に達したこと,核融合などの超大型技術の実用化にはかなりの時間を要することなどから,当分の間は,大きな技術革新は生じないのではないかとの見方もあった。しかし,二度の石油危機は,企業に省エネルギー化や生産のより一層の効率化を促す契機となり,こうした状況の中で従来の蓄積の上に次々と新しい技術が開発・導入されている。正に必要は発明の母といえる。

3. わが国の技術水準及び技術開発力

これまでわが国の産業は外国技術の導入や,それに自己開発技術を加えて改良,改善を行い,新製品の開発や大量生産技術の充実・普及等,技術革新の導入を積極的に進めてきた。その結果,一部先端技術では世界のトップ水準に一歩譲るとはいえ,総合的にはわが国の技術水準はかなりの水準に達してきていると考えられる。一国の技術水準を総合的に評価することは仲々に困難であるが,55年度科学技術白書によれば,わが国の技術水準及び技術開発力は,1960年代後半に比ベて飛躍的に伸びたこと,また技術水準では西ドイツと並んでアメリカにかなりキャッチアップしてきたものの,技術開発力ではまだアメリカと大きな差があることが指摘されている( 第II-1-57表 )。

次に個々の企業が白己の技術をどう評価しているかをみてみよう。経済企画庁の「企業アンケート調査」によって企業が自己の技術をどう評価しているかをみてみると,ほぼ科学技術白書と同様の結論が得られる( 第II-1-58図 )。まず,技術水準については,「欧米企業なみ」とみる企業が,全産業で47.5%を占めており,「欧米よりややまさっている」が28.1%,さらに「世界の最先端」にあるとみるものも8.6%ある。つまり,以上の3者をまとめて「欧米水準以上」の技術水準をもつ企業の比率は全体の84.2%に達している。

ところが,技術開発力については「欧米なみ」39.7%,「欧米よりややまさる」16.1%,「世界の最先端にある」3.4%,であり,これら3者を加えた「欧米水準以上」の割合は59.2%であり,また逆に「欧米企業に劣る」とする者は40.9%となっており,技術水準の評価に比べてかなり低くなっている。

以上総合してみれば,わが国の産業は,技術水準ではほぼ欧米水準に肩をならべているが技術開発力の点に問題が残っているといえる。

ところで,一国の技術水準を向上させるためには,自主技術開発を進めるか先進諸国からの技術導入を行うかの二途がある。高度成長期を通じて,わが国の技術革新に対して導入技術の果した役割は大きいが,既にこれに大きく依存できる時代ではなくなってきている。その理由としては,第1に,わが国の技術水準が既に先進諸国に比肩しうるものになっていることにより,技術導入すべきものが相対的に少なくなってきていることである。第2は,先端技術の分野などでは技術導入に際しての付帯的条件が厳しくなってきていることや,技術を企業秘密として外部に出さないケースが出て来ていることである。

こうしたなかで,自主技術開発の重要性が増大しているといえるが,これに対して企業の側としても,自主技術開発に積極的にとり組む姿勢を示している。

すなわち,経済企画庁「企業アンケート調査」によれば,今後の技術戦略として技術導入よりも自主技術開発を重視している企業は,全産業で68.9%,製造業では77.7%となっている( 第II-1-59図 )。そして自主技術開発重視の理由として,「自主技術の方が総合的にみて収益性が高い」(64.4%)ことや「技術導入すべきものがなくなり自ら創造する必要がある」(23.0%)があげられているのは,すでに彼我の技術水準のキャッチアップがほぼ終了したことから生じていると考えられ,また,比率としては少ないものの「技術導入が難しくなった」とするものも電気機器や化学で目立っている。

自主技術開発を進めていく際には,人的資源とともに研究開発投資の拡充が,必要であるが,わが国の研究開発投資は55年度で約4兆7000億円(自然科学部門計)であり,国民所得に占める比率からみて国際的にもかなりの水準にある( 第II-1-60表 )。またその内訳をみると,55年度で基礎研究14.5%,応用研究25.4%,開発研究60.1%となっている。従来わが国では基礎研究の比率の低さが指摘されてきたが,少なくとも国全体でみるかぎりでは,先進諸国と比較して遜色は感じられない。まだ先進諸国の研究活動には国防関連等の占める比率も高く,直接的に産業技術の向上にかならずしも寄与しないものも含まれていることも考慮する必要がある。

しかしながら,企業ベースでの基礎研究費及び応用研究費の比率は,45年度の9.3%及び27.2%から,55年度の5.0%及び19.5%へとそれぞれ低下して来ており,開発研究のウエイトが上昇している。今後についても「企業アンケート調査」によれば,企業は開発研究を重点にすると考えており,生産活動に直接役立つような研究を重点的に行おうとする傾向は今後とも続くとみられる。

こうした背景には,研究開発投資がどの程度の期間で企業化できるのか,基礎研究,応用研究,開発研究の間でかなり異なり,企業は生産活動に直接役立つような効率的な研究投資を行わざるを得ないという事情がある。「企業アンケート調査」によれば,研究開発投資の企業化までの期間は,平均2~3年とみられるが,研究種別にみると,開発研究では2~3年以内が63.6%,応用研究では50.2%であるのに対して,基礎研究では22.0%しかなく,逆に基礎研究では企業化までの期間を特に定めないものが43.5%にも及んでいる( 第II-1-61図 )。

こうした状況下では,採算及びリスクの点から企業は応用・開発研究中心の研究体制を志向しがちである。

しかしながら,その点では,欧米の企業においても事情は同じである。ところが,研究開発から企業化までの期間の国際比較をしてみると( 第II-1-62表 ),わが国のそれは欧米に比してかなり短いといえる。

この点については,わが国では市場シェアを巡る企業間の競争が激しいことが,企業に研究開発の効率性により重点をおく姿勢をとらせたいということからある程度の説明もできよう。

たしかに,これまでわが国の企業は個々の分野での中心的な製品に開発研究努力を集中して投入し,その結果として効率のよい投資高い技術水準を生み出してきたといえる。

しかし,独創的,革新的な技術を生み出していくという点では,欧米の企業に立ち遅れている面もあるという指摘もあるのである。

その意味で,基礎技術の研究開発に従来よりも多くの人材と資源とを配していく必要が高まっているといえよう。

言うまでもないことであるが,第1に応用・開発技術そのものが広範な基礎研究の成果の上に成立するものであり,第2に,今後は海外からの導入技術への依存にも限界が生じる可能性が強いこと,第3に,新素材,バイオテクノロジー,新機能素子,光通信などの先端技術については自らの手で開発していかざるを得ないこと,等がこうした自主技術開発の必要性を強めている。

自主技術の開発に当っては,人的資源や研究費の投入を増加させていくこととともに,研究体制の確立も重要である。

わが国の技術開発の特徴の一つとして,大企業中心の研究開発が行われていることがある。これに対してアメリカでは,技術開発に対する中小企業の寄与がかなり高い( 第II-1-63図 )。

もちろんわが国においても自動車,エレクトロニクス,等で中小規模の企業が旺盛な技術開発を行って来た例は少なくなく,その結果大企業に成長した企業もある。しかし,アメリカの場合の中小企業の寄与の高さは,ひとつには,それが研究開発のみを目的とするベンチャービジネス的企業が多いということが大きく影響している。こうした企業が設立されるのは大企業の中の研究機関での非効率や制約を嫌うという面もあるが,成功時には当該企業の評価が高まることにより巨額の資本利得が得られるという面も無視できない。

わが国でも一部先端部門において小規模ながら高度の技術水準をもつものが出てきているが,大部分はかなりの規模をもつ企業の中で最終の商品化をめざして技術開発が行われているといえる。両者の体制には種々の得失があるといえるが,企業のわくにとらわれない積極性・柔軟性からいえば,ベンチャービジネス型に利があり豊富な人材と資本を投入できるという点では大企業中心の技術開発に利があるといえる。

したがって,かならずしもベンチャービジネス主導型の研究開発が優位性をもつわけではなく,要はどのような体制が研究開発の活性を維持向上させるのに望ましいかということであろう。

その意味では以下にみるようにわが国においても大企業中心の研究開発体制を維持しつつもその効率化をめざしている様子がうかがえる。

第II-1-64図 自主技術の今後の研究体制

わが国の企業では,近年,独自の技術研究所の設立等,専門の組織や機関を設置するものが増加している。

そしてこれと並行して共同開発研究も活発化している( 第II-1-64図 )。共同開発研究は通常,異業種間や大学研究機関との間で行われているが,超LSIの開発のように同業種の企業が共同して行った例もある。この背景には,近年技術開発に一つの業種の専門的知識だけでなく広範な知識が必要になってきたこと,また特に基礎研究などでは,多くの時間,人材,費用が必要とされ,かつそのリスクも大きいことがある。このように企業は共同開発研究を指向することにより,効果的な技術開発を進めているとみられる。