昭和56年

年次経済報告

日本経済の創造的活力を求めて

昭和56年8月14日

経済企画庁


[目次] [年次リスト]

1. 国際収支

(1) 新たな安定を模索する世界経済

(世界の経常収支不均衡一層拡大)

第一次石油危機後の景気後退からの回復過程にあった世界経済は,1979年初から発生した第二次石油危機の追い打ちを受け,石油価格の上昇による実質所得の減少からインフレ圧力が高まり,79年には,各国で高率のインフレが発生したが,80年に入ると,生産,雇用等の面でデフレ効果があらわれ,景気は停滞した。

国際収支面をみると,79年に急増したOPECの経常黒字が更に増大し,国際的な経常収支不均衡は一層拡大した。

こうした経常収支の不均衡の拡大は,石油価格が78年末から1年強の期間に段階的に上昇し,石油輸入国の支払い代金が期を追って増加したことが主因であるが,イラン・イラク紛争によるイランの輸入の落ち込み,産油国の経済計画の見直し等により産油国の輸入アブソーブ力が期待できなかったこと,更には先進国経済が80年初まで比較的堅調であったため輸入数量の落ち込みがみられなかったこと等もその要因として挙げられる。

今後についても最近はかなり鈍化してきているものの趨勢的な石油価格の上昇,OPEC諸国の輸入アブソーブ力の停滞等を考えると,世界の経常収支不均衡の急速な縮小は期待し難く,こうした経常収支不均衡の調整の遅れが世界経済の安定に及ぼす影響が懸念される。

(スタグフレーションが進行する先進国経済)

石油価格の大幅な上昇は,交易条件の悪化を通じて実質所得の低下をもたらし,80年の先進国経済は停滞の色を濃くした。さいわい第一次石油危機後の景気後退に比し,各国とも設備投資の落ち込みが総じて軽微なものに留まっていること等から,景気の急激な悪化は避けられたが,物価面,雇用面では高水準の失業と高率の物価上昇が併存するいわゆるスタグフレーション的傾向を一層強めており,特に雇用情勢の悪化は深刻である( 第I-1図 )。

主要先進国の経済の動きをみると,アメリカ経済は,80年第II四半期に急激に落ち込んだ後,第III四半期以降再び緩やかな回復に転じ,81年に入って第1四半期には実質GNPが設備投資,個人消費が堅調であったことから前期比年率8.6%の大幅な伸びを示した。しかしながら,最近にいたり生産,消費が伸び悩みとなり,また住宅着工が大幅に減少するなど次第に景気の回復テンポは鈍化してきている( 第I-2表 )。

第1-1図 主要先進国の失業とインフレ

また,西欧経済は,イギリスが80年初から景気後退の色合を強めたが,フランス,西ドイツ,イタリアもイギリスに続き景気は下降に向った。81年に入っても西欧経済は生産面で若干下げ止まりのきざしがみられつつあるものの,雇用情勢の悪化,物価の騰勢は依然続いているといえる。

第1-2表 主要国のGNP・生産・物価動向

こうした状況下にあって主要先進国は,79年央以降石油価格上昇によるインフレの昂進を防ぐため基本的には引さ締め政策を堅持してきたといえる。特に,アメリカが,79年10月以降,金融の量的規制に重点をおいた新しい金融引締措置を講じたことから市中金利が乱高下し,各国の市中金利,為替相場にも少なからぬ影響を与えている。即ち,為替市場では,ドルが経常収支の改善,市中金利高騰を背景に,80年年央以降比載的堅調に推移したのに対し,他の主要国通貨は,円,ポンドを除き軟化基調で推移した。また,81年に入ってからは,円,ポンドも弱含みに推移している。

以上のように,一部に問題は生じているものの各国は短期的な需要管理政策に精力を傾注し,第二次石油危機によるショックの吸収に努めてきたが,一方ではアメリカ,イギリス,西ドイツを中心に設備投資の促進,労働生産性の向上,市場経済の活性化等より中長期的な観点からの対策を打ち出し,新たな発展への途を模索しつつあり,今後の成果が注目される。

(2) 大幅な改善をみせた国際収支

昭和55年度の総合収支は,前年度の190億ドルの赤字から4億ドルの赤字へと赤字幅を大幅に縮小しほぼ均衡した。これは,経常収支の赤字幅が半減したことに加え,長期資本収支が前年度の84億ドルの流出超過から44億ドルの流入超過と様変りとなったためである( 第I-3表 )。

(ほぼ半減した経常収支の赤字幅)

経済収支は,前年度の139億ドルの赤字から70億ドルの赤字へと赤字幅をほぼ半減する改善振りであった。これは,貿易外収支が赤字幅を拡大させたものの,貿易収支が前年度の赤字から一転して黒字となったためである。

貿易収支が前年度の24億ドルの赤字から68億ドルの黒字に転じたのは,輸出が自動車,家電,船舶を中心に前年度比28.4%増と堅調であった一方,輸入が原粗油を中心とした輸入数量の減少と輸入価格の高騰が落ち着いてきたことを反映して,同19.2%増と比較的緩やかな増加に留まったためである。

貿易外収支が前年度の101億ドルから122億ドルヘ赤字幅を拡大させた主な要因は,その他民間項目の赤字幅拡大と投資収益の黒字幅縮小をあげることができる。投資収益は,昭和45年以降高まった対外投資を背景に52年度に黒字に転じて以来その幅を拡大してきたが,55年度は,後でみるように外国資本の対日証券投資が大幅な流入超になったこと,海外の高金利を反映して為銀等の利子配当の支払いが増大したことにより黒字幅が縮小した。

第1-3表 国際収支の概要

(流入超過に転じた長期貿本収支)

長期資本収支は,前年度の84億ドルの流出超過から44億ドルの流入超過となった。長期資本収支が流入超過となったのは39年度以来16年振りのことである。

主要項目別にみると,直接投資が流出超過幅をやや拡大させたのに対し,借款の流出超過幅が大幅に縮小したこと,証券投資が対日証券投資の盛行を背景に大幅な流入超過になったことが特徴的である( 第I-4図 )。

借款の流出超過幅縮小は,本邦資本による円借款や為銀の中長期現地貸付の供与が,大幅に減少したためである。

一方,証券投資は,産油国のいわゆるオイルマネーや欧米年金基金等から大幅に流入した。こうした外国資本の大幅な流入には,産油国の保有資産の多様化の動きもあるが,むしろ我が国経済の相対的なパフオーマンスの良さに基づく面が強いと考えられる。

外為市場での円相場は,経常収支の改善等を背景に55年4月以降,それまで1年半近く続いた円安から一転して円高となり56年初まで上昇を続けた。しかし,56年1月以降は米国市年中金利の高騰等を反映して弱含みの推移となっている。

第1-4図 長期資本収支の推移

(3) 高水準を続けた輸出

(55年度の輸出動向)

55年度の輸出(通関額)は,総額1,380.9億ドルで前年度比29.0%増となった。これを価格と数量に分けてみると,価格は同10.1%の上昇,数量は17.1%の増加となった( 第I-5表 )。輸出数量は54年度に円安を主因に増加に転じ,55年度は,円相場が上昇するなかで増勢は鈍化したものの,年度を通じで堅調な動きを続けた。先進国の景気後退にともない世界貿易が伸び悩むなかで,わが国の輸出数量が高水準を続けたことには引き続き円安の効果が大きかったが,加えて国内需給の緩和の影響も寄与している(本報告 第I-2-42図 参照)。

輸出動向を商品別にみると,繊維・同製品(ドル28.1%増,数量18.1%増,前年度比,以下同じ)は,共産圏向け,アフリカ向けをはじめとして円安の効果もあって好調に推移した。一方,化学製品(ドル5.3%増,数量5.7%減)は主力の東南アジア向けの不振から,鉄鋼(ドル8.4%増,数量1.9%減)はアメリカ向け,中近東向けなどの減少からいずれも伸び悩んだ。一般機械(ドル28.4%増,数量20.4%増)は,原動機,加熱冷却機器等のプラント関連機器や工作機械,電子計算機械を中心に高い伸びを示し,電気機器(ドル32,8%増,数量23.8%増)も,カラーTVをはじめ多くの品目で,増加した。まだ自動車(ドル41.1%増,数量26.5%増)は,価格競争力が強いことに加えて,石油価格上昇を背景とする小型車ブームにも支えられて各地域向けとも急増した。船舶(ドル,44.6%増,数量27.3%増)は前年度からの受注好調により,52年度以来の増加となった。

第1-5表 高水準を続けた輸出

第1-6表 商品別・地域別輸出動向

次に地域別の動向をみると,アメリカ向け(18.8%増,ドルベース前年度比,以下同じ)は,アメリカの景気後退を反映して低い伸びにとどまった。西欧向け(35.5%増)は,自動車,電気機器の増加に加えて,船舶の寄与度(3.5%)も大きかったことから大幅な増加となった。東南アジア向け(20.3%増)は,産油国向けが好調であった反面,韓国向けが減少したことが影響して全体としては低い伸びにとどまった。ラテンアメリカ向け(47.1%増),アフリカ向け(62.5%増)は,産油国を中心に両地域の輸入が大幅に増加したことに加えて,日本製品の競争カが強かったことから高い伸びを示した。OECDの統計によれば,1980年にOECD諸国のこの両地域向けの輸出は前年比31.4%の増加を示したが,そのなかで日本が42.6%増,北米が37.7%増に対し,西欧諸国は25.8%増と比較的低い伸びにとどまった。もっとも,両地域向け輸出の金額シエアでは西欧諸国が54.5%と依然過半を占め,日本はその3分の1であった。一方,中近東向け(24.3%増)は対イラン経済措置,イラン・イラク紛争の影響で相対的に低い伸びとなった。

(新しい輪出商品の増加)

最近の輸出動向をみると,VTRに代表されるような高度の技術を応用した新しい商品が増加しているのが注目される。前回円高になる前の52年と比較して,55年に輸出が大幅に増加した商品を取り出してみると,55年の輸出総額に占める割合は10%を超えており,これらの商品が輸出構造に与える影響は小さくない( 第I-7図 )。そのなかでは,VTR,NC工作機械,電子計算機と周辺機器,医療用電気機器など電子技術と機械の結合した商品が金額で大きなウエイトを占めている。また,これらの機器に使用される記録用テープやフィルムなどの増加も見逃せない。こうした商品を中心に,輸出商品の多様化が進み加工度が高まっているとみることができる。

第1-7図 輸出構造の変化―最近輸出の急増した商品

(4) 停滞した輸入

(55年度の輸入動向)

55年度の輸入(通関額)は,総額1,439.8億ドルで前年度比19.5%増と,前年度(42.3%増)の伸びを下回った( 第I-8表 )。これを価格と数量に分けてみると,価格は25.5%の上昇(前年度34.5%上昇),数量は4.8%の減少(同5.9%増)となった。数量の減少は,原粗油や木材の落ち込みの要因が大きい。四半期の動きでみると,価格の上昇は原粗油が55年夏以降わずかな上昇にとどまるなど上昇幅は鈍化した。一方数量ベースでは,7~9月期に前期比で減少した後,その後は全体として横ばいの動きながら一部の品目で増加の動きがみられる。

財別の動きをドルベースでみると,鉱物性燃料(前年度比35.7%増,以下同じ)が原油価格の引き上げを主因に高い伸びとなった。内,原粗油は価格で54年度平均の23.1ドル/バーレルから55年度は34.6ドル/バーレルと約1.5倍になったものの数量では,国内経済活動の停滞や省エネルギーの進展などから前年度比9.5%減となった。一方石油代替エネルギーの石炭やLNGの数量は増加した。次に.粗原料(0.3%減)は,素材産業の生産の停滞に加え,住宅着工の不振などを反映した木材の大幅減少もあって低迷した。資本財(20.7%増)は設備投資の好調に支えられ前年度に引き続き増加した。一方,非耐久消費財(11.1%減)や耐久消費財(8.1%減)は,53年末から55年初めにかけての円安の影響や,個人消費の鈍化などから減少した。また食料品(4.6%増)は,年度前半は前年比で減少したものの後半には肉類や穀物の増加もあって前年度比微増となった。

地域別にみると,アフリカ(50.4%増),ラテン・アメリカ(34.5%増),中近東(28.1%増)からの輸入は高い伸びとなった。これは主として原油価格の上昇と新しく,メキシコ,エクアドル,アンゴラ,ナイジェリア,エジプトから原油が輸入されたためである。アメリカ(16.8%増)からの輸入は穀物類が増加したものの木材の減少や一部の機械機器の低迷により,伸び率は低下した。EC(6.7%増)からの輸入は,年度前半の製品類の停滞により低い伸びとなった。東南アジア(13.7%増)からの輸入は,原粗油の価格が上昇したものの木材や繊維製品の減少により伸び率が低下した。共産圏(21.8%増)では,ソ連からの輸入は減少したものの,中国からは原粗油を中心に増加した。

第1-8表 商品別・地域別輸入動向

(急増した一部の製品原材料輸入)

最近の輸入の動きの内で,粗原料から中間財としての製品原材料への輸入代替化の動きをみると,55年には,一部の製品原材料で輸入の急増がみられた。ここでは,アルミ地金と石油化学製品をとりあげてみよう。

まず,アルミ地金をみると53年の円高局面で輸入品が国内品に比べて割安となり輸入が増加したが55年に入り電力料金の上昇等によりエネルギーコストが増大するとともに4月以降の円高の影響が加わり,再び割安な輸入品が急増することとなった( 第I-9図 )。これを国内需要量に占める輸入量の割合でみると51~52年の30%から55年には,44%程度にまで高まっている。

次に石油化学裂品についても,原料ナフサの価格が第二次石油危機を経て大幅に上昇したことにより相対的に価格の安い天然ガスを原料とするアメリカ,カナダからの輸入が増加した。また,国際的なコスト競争力の差は,従来わが国からの主要な輸出先であった東南アジア市場において,輸出の不振となって表われている。これを主要商品の輸出入バランスの推移でみると,55年の輸入の増加により出超幅が縮小するとともに3品目は入超になっている( 第I-10図 )。以上の他にも,紙・パルプなどでも55年に輸入の増加がみられ,二回の石油危機によって,国際競争力に変化が生じ,わが国の産業構造の変化を促がす契機となりつつある。

第1-9図 アルミ地金の輸入量の増加

第1-10図 主要商品(化学製品)の輸出入バランス推移


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