昭和56年

年次経済報告

日本経済の創造的活力を求めて

昭和56年8月14日

経済企画庁


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第I部 第2次石油危機を乗り越える日本経済

第2章 景気のかげりとその実態

前章では,第2次石油危機に伴う日本経済の動きを主として経済全体の視野,すなわちマクロ的にみてきたが,本章ではもう少し詳しく内容についてみてみよう。

55年度に入ってから「景気のかげり」現象が生じてきた。実質GNPの前期比伸び率は,55年4~6月期以降増勢は鈍化し,鉱工業生産も夏場にかけて停滞し,その後も緩やかな増加にとどまった。

しかし,今回の場合,前章で述べたように,不況と呼ばれるほど景気は落ち込まず,かげり現象が生じる程度でとどまった。それは前章に述べたように,基本的には総需要が前回石油危機後のような落込みを示さなかったからであるが,企業経営部門の対応にも第1次石油危機後の経験が生かされた面も影響していよう。ただ,最終需要面の動きをみると,前回と今回ではかなり異なっている面がある。すなわち,第1次石油危機後の場合,輸出はかなり増加したものの,その他の最終需要は総じて伸び悩みをみせたのに対し,第2次後の場合,前回と同様で輸出が増加したことに加えて,設備投資が堅調さを持続した点が特徴的である。つまり,輸出や設備投資の堅調に対して,個人消費,住宅投資及び公共投資の停滞といった型で,最終需要面に跛行性がみられたのが,今回の特徴であった( 第I-2-1図 )。

こうした最終需要面での跛行性は,まず,企業の生産・出荷動向に現われた。55年度の鉱工業生産は,前年度比4.6%増と政府経済見通し(4.5%増)をわずかながら上回った。四半期別にみると,55年1~3月期のいわゆる「前倒し生産」でかなりの増加を示したあと,4~6月期の0.2%増,7~9月期2.0%減と夏場にかけて減少に転じ,その後は10~12月期1.5%増,56年1~3月期1.7%増と緩やかな増加を示した。しかし,この間の動きを産業別にみると,かなりの跛行性が生じている( 第I-2-2図 )。これは,需要面での跛行性が産業別に強く影響したためである。すなわち,加工型産業は堅調な輸出や設備投資により,55年度中一貫して増加を続けた。一方,在庫調整の進展を背景に鉄鋼,化学などの素材型産業で生産の減少が著しい。加えて,個人消費及び住宅投資の停滞の影響を受けて,繊維,窯業・土石,などの業種でも生産の停滞がみられた。

当庁調べの「企業行動に関するアンケート調査」(56年2月実施)によれば,「全般的あるいはかなりかげりが生じた」とみる企業は44.5%にとどまり,残りは「一部にかげりが生じた」(39.1%)あるいは,「ほとんどあるいは全然かげりが生じなかった」(16.5%)企業となっている( 第I-2-3図 )。

これを業種別にみると,顕著な業種間跛行性がみられる。そして鉄鋼,化学,パルプ・紙,非鉄金属などの素材産業でかげりを感じた程度が高い。

以上のような状況は,経済各部門にも微妙な影響と変化をもたらしていった。以下,これらの諸点について,順次検討していこう。


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