昭和55年

年次経済報告

先進国日本の試練と課題

昭和55年8月15日

経済企画庁


[前節] [目次] [年次リスト]

第II部 経済発展への新しい課題

第3章 国際経済摩擦への対応

第4節 国際経済社会への貢献と国際交流の拡大

(国際機関への協力)

第二次世界大戦後の国際経済は,圧倒的な力を背景としたアメリカのリーダーシップの下に運営されてきた。しかし,アメリカの経済力の相対的低下に伴い,自由な国際経済秩序を維持し,国際経済社会のスムーズな運営と発展のため,わが国をはじめ各国の果たすべき役割は強まっている。こうした面からみると,わが国は,なお一層国際経済社会に貢献する必要がある。

第1に,国際機関への協力についてみると,わが国の資金面での協力は相当進んでいるが,人の面ではまだ立ち遅れている。

45年の国際機関に対する出資・拠出等の額は,42百万ドルで,DAC加盟国のなかで7.7%を分担しているにすぎなかったが,53年には6億84百万ドルに増大し,全体の1割を引き受けるようになった。

これに対し,職員の派遣という面では,54年現在で300人強で主要な国の合計に対しても7%弱にとどまっている( 第II-3-10表 )。これには,言語の障壁をはじめ文化的,地理的なハンディキャップも影響していようが,国内の人事慣習など制度面で改善すべき点もなお残されているものとみられる。

(経済協力の拡充)

第2には,経済協力の拡充である。発展途上国の健全な発展は,平和で自由な国際経済秩序の維持にも不可欠の条件であり,経済協力はこれを側面から支援するものである。発展途上の諸国は,新国際経済秩序の形成をめざすなど,現在の世界経済システムが発展途上国に不利なものであるという不満が根強い。このような不満は,基本的には,発展途上国の健全な発展によって解決される性格のものである。発展途上国の経済発展は,伝統的な社会との間に不調和をもたらす場合もあるにしても,それはその国の文化・伝統が生かされなかった場合や,発展の成果が国民生活に等しくもたらされなかった場合であり,長期的視野からみてこうした障害を克服し,発展途上国の経済発展が進められることは,国際経済の安定,世界の平和の維持につながる。

とりわけわが国は,東南アジアなど発展途上国との結びつきが深く,これら諸国の発展がわが国経済にとっても重要である。わが国の貿易に占める発展途上国の比重は,輸入では5割を超え,輸出でも5割近くに達しており,アメリカの4割,ECの2割に比べて極めて大きい。特に東南アジアの輸出入に占めるわが国のシェアは30%近くに達している。このことは,わが国の経済動向がこれら発展途上国の発展に影響するとともに,これら発展途上国の経済発展の消長がわが国経済の発展にも大きく関係することを物語るものである。OECDの研究(「インターフュチャーズ」)によれば,南北問題が深刻化した場合に最も大きな打撃を受けるのは日本だとされている。この研究における「将来のシナリオ」は,南北関係が良好に推移した場合には,わが国の世界経済に占めるシェアは1975年時点の6.8%から2000年には10%へ高まるのに対し,南と北が対立した場合には,わが国経済の発展も阻害され,シェアも5%に低下すると試算されている。

一方,わが国の経済協力の現状はどうであろうか。経済協力の規模についてみると,経済の拡大に伴ってDAC加盟諸国の中でのウエイトは大きくなってきた。しかし1978年時点で,わが国は,経済規模ではDAC加盟国全体の17.2%を占めているのに対し,民間資金を含めた経済協力総額では15.2%,政府開発援助では11.1%と相対的に小さい(前掲 第II-3-10表 )。わが国の経済協力は,55年までの3年間に政府開発援助の倍増を表明し,これを実行に移すなど,近年充実してきているが,発展途上国との経済的結び付きが深いことにも鑑み,今後ともその拡充に努力し,真に発展途上国の経済・社会発展に資する効率的な援助を心がける必要がある。なお発展途上国からの工業製品等の輸入も発展途上国の工業化を促進する等の開発効果を有するものであり,こうした観点も含めた総合的な経済協力に努めることが重要である( 第II-3-11表 )。

(国際交流の拡大)

貿易,資本の面での国際化とともに,学問,芸術,科学技術などの分野における人的交流の拡大も必要である。最近の出入国者の傾向をみると,観光旅行や海外出張など短期の出国者は急速に増えてきており,アメリカに近い水準になっているが,1年以上外国で生活する長期の出国者は,欧米諸国に比してはるかに少なく,傾向的にもほとんど増加していない( 第II-3-12表 )。また,わが国は学問,芸術などを海外から摂取することには熱心であるが,海外に紹介するという面では不十分で,こうした面での入超国であると指摘する声もある。こうした背景には,欧米へのキャッチング・アップ時代のいわば「受信型」国際交流システムが残っている面もあると思われる。

国際経済摩擦の背景には,社会や文化についての相互理解の不足が問題解決を一層複雑化していると思われるだけに,今後,一層の人的な交流,「送信型」国際交流の充実に努めていく必要があろう。


[前節] [目次] [年次リスト]