昭和54年

年次経済報告

すぐれた適応力と新たな出発

昭和54年8月10日

経済企画庁


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第2部 活力ある安定した発展をめざして

むすび

(活力ある安定した発展をめざして)

このようにして,当面の石油問題をのりこえるとしても,日本経済の新しい成長軌道が力強く,活力に富み,かつバランスがとれ,安定したものであるためにはなお解決を要する問題は少なくない。

まず第1は,中長期的視点でのエネルギー問題の克服である。これは今後の日本経済の安定的発展の基礎である。

我が国はエネルギーの海外依存度が国際的にみてもかなり高い。48年の石油危機のあと,54年にも原油供給の不安定性と価格の急騰という事態が生じている。おそらくこのようなエネルギー事情の不安定さは今後とも拭えないものとみられるので,我が国のエネルギーに対する脆弱性の克服は最重要の課題といえる。

エネルギー問題の克服は,①それが世界的な問題であるため,我が国一国のみの努力では不十分であり,まず国際的協調が不可欠である。②48年の石油危機以降の推移をみると,我が国の省エネルギー,石油代替エネルギー化は,特に産業部門において,かなり順調に進んでいる。これは,政府の誘導努力とともに,高いものは節約するという市場メカニズムが有効に働いていることを意味すと考えられる。今後とも省エネルギー策の基本の一つは市場メカニズムであろう。③しかし,それだけでは十分ではない。なぜなら,原油価格の上昇は間けつ的に大幅にもたらされたが,そうした場合事後的に市場メカニズムで適応しようとしても時間ががかるし,その間にインフレ,不況,国際収支赤字といった諸問題が世界的に起こってしまう。従って,事前的な対応も必要であり,その一つは,社会の構成員の合意による石油節約,すなわち石油消費の自粛である。④もう一つは,より積極的なもので,省エネルギー,石油代替エネルギーのための技術開発であり,経済の各部門を省エネルギー型の構造に転換していくための政策であり,まだOPEC以外に石油供給源を多様化する努力であり,より基本的には石油依存体質から脱却するための資源配分の変更である。これらを推進するためには政府の強力なイニシアティブが必要であるし,コンセンサスの形成も重要である。

第2は,技術革新の推進である。第1のエネルギー問題の解決も技術によるところが大きいが,一般的にいって我が国の技術水準は最近欧米主要国にキャッチアップしてきたこと,ドルで測った所得水準が急速に上昇して欧米主要国並になってきており,国際分業の観点からも産業構造をすみやかに知識集約型にする必要に迫られていること,高密度社会のなかで生活環境の改善を図っていくためには独自の技術開発が必要なこと,などの事情から,我が国において特に技術革新の重要性が高まっており,殊に自主技術の開発が重視されるべきであると考えられる。この面においての,民間の創意とともに,研究費の負担のみならず広く教育,研究体制の整備のために政府の役割は大きいといえよう。

第3は,雇用の安定確保である。経済が新しい成長軌道に乗り,エネルギー問題の克服などによりその軌道が力強いものになったとしても,経済成長率はかつての高度成長期よりはかなり低いものにとどまらざるをえないであろう。このような低い成長期待の下で,企業は殊に調整コストの高い常用雇用に対して慎重になっており,雇用調整が終わっても製造業において常用雇用が基調的に増加することは当面期待し難く,雇用情勢は楽観を許さない。要するに,減速経済に企業は適応したが,その結果問題が雇用において集中的にあらわれているのである。しかし,減速経済が必然である以上,そのような経済の下での雇用のあり方を改めて社会全体で考え直すべき時にきているといえよう。

雇用の安定確保の方途としては,①減速経済であるとはいえ,物価や資源情勢を勘案しつつ,適正な経済成長を確保すること。②産業における雇用の維持拡大にも資するよう労働時間の短縮を推進するとともに,定年制の延長により中高年齢者層の安定を図ること。このような雇用制度の改編を現実化するには賃金コストの増嵩との調整が必要になり,年功序列型賃金制度の変容にもかかわるものとなろう。③今後需要が拡大するとみられる第三次産業,ことに民間の活力を利用して文化的・公共的サービス部門の発展を助長するとともに,そこへの就職を容易ならしめるための教育訓練,資格制度,職業紹介機能の充実などを図ること,といったことが考えられる。

第4は,国際的にも国内的にもバランスがとれ,長期的な発展力を内に秘めた産業構造を構築し,資源配分の多様化を図っていくことである。

国際的にみて,輸出依存型成長が困難な段階に我が国経済が達している以上,内需中心に経済が運営されていくことになり,それに対応した産業構造ができ上がっていくことになろう。その内容としては,要するに国民生活中心のものであって,とくに社会福祉,生活環境の改善,高度の文化的サービスなどを提供する産業が拡大していくということになる。そのような方向は所得水準が上昇した国民の多様なニーズに対応するものとして然るべきものであり,生産力第一主義的なものから資源配分が多様化していくことにもなる。

また,国際的な水平分業をとり入れていくとすれば,比較劣位の産業は他国に譲り,比較優位の産業へ特化していく方向をたどらざるをえない。こうしたなかで製品輸入を中心とした輸入の拡大をはかっていくことが必要であろう。そして,このような国際競争に直接接しない産業分野においても,バランスのとれた価格で財貨サービスを国民に提供するためには,不断の生産性向上の努力が要請される。日本独自の条件があるとはいえ,農業や流通部門など低生産部門の合理化も必要である。

ところで,輸出依存型成長が困難になったとしても,それは輸出がなくなることではなく,恒常的に大幅な輸出超過型で発展するわけにはいかなくなっただけで,我が国経済にとって輸出は引続き重要な要素である。また,国民のニーズは,受動的に福祉サービスや文化的サービスを受けるだけにとどまるはずはないのであって,積極的に新しい文化や科学的進歩を生み出すニーズや能力もあるはずであり,それらを発揮させる環境の整備も重要である。すなわち,国民生活中心の経済,あるいは資源配分の多様化といっても,それはあくまでも物的生産の充実と革新に基礎をおいたものであり,長期的に能動的な発展力をも培養するものでなければならない。

日本経済は,石油危機という大きな衝撃を直接の契機として,それまでの高度成長路線からの変容を迫られ,苦悩に満ちた適応努力の末,ようやくにして新しい成長軌道の足がかりをつかむところにまで達した。しかし,未だ残された問題もあり,新しい石油情勢の悪化という問題も登場し,これからの成長軌道も決して平坦な道ではない。しかし,日本経済の構造的変化という難関を突破する目途をつけることに示された国民の適応能力の豊かさと努力は,今後の問題解決のためにも発揮され,活力あり安定した未来を切り拓いていくことが期待される。


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