昭和54年

年次経済報告

すぐれた適応力と新たな出発

昭和54年8月10日

経済企画庁


[前節] [目次] [年次リスト]

第2部 活力ある安定した発展をめざして

第2章 日本経済の体質強化

第3節 低生産性部門の合理化

以上でとりあげたイノベーションやエネルギー問題の克服は,日本経済が安定的な基盤の上に長期的に成長していくための条件である。しかし,長期的な問題としては,そのほかに日本経済をバランスのとれたものにしていくということ,換言すれば広汎に存在する低生産性部門の合理化を図っていくという問題がある。それは日本経済全体を効率化するとともに,物価の安定にも資するものである。

しかし,低生産性部門の存在は,別の面からいえばより多い雇用の場が提供されているということである。いわば,低生産性部門を経由する財貨サービスの値段が高いのは,雇用安定のために国民一般が負担しているコストという意味をもっている。低生産性部門を急激に合理化することは事実上困難であるうえに,雇用情勢が厳しいという事情も加わって,一斉に合理化するのは無理といわざるをえない。しかし,だからといって現状に甘んじることが正当化されるわけではなく,着実な生産性向上努力は不断に払われる必要がある。

本節では低生産性部門のうち,農業と流通をとりあげる。農業については,土地にかかわるもので,日本の国土の狭さに由来する面があり,画期的な改善は容易でない宿命をもっている。しかし,そうしたなかでも不断の努力は求められている。

また流通部門の生産性は低く,流通に従事する就業者の割合は国際的にみて比較的多い。そのため流通コストを高めている。第1部で指摘したように流通コストは上がり続けており,消費者物価上昇の一つの無視しえない要因になっている。その合理化が求められているゆえんである。ただ,この点についても,日本では外国にない多様なサービスを流通部門から受けており,それなりの効用があるのだがら,流通での多就業は問題にならないという見方がある。それも一理あるが,変動発展する経済社会のなかで,画一的に在来型日本的サービスを温存するのも無理なことであろう。有効・適切な競争関係のなかで,消費者のニーズに応じつつ,日本的サービスも残るし,効率的サービスも広がるといった形にならざるをえない。

1. 農業の体質強化

(1) 安定成長下の農業

日本経済の安定成長への移行のなかで,農業就業人口は減少率が鈍化し,農家の兼業機会も縮小し,耕地の非農林業用途への転用も少なくなるなど農業部門にも,かつての高度経済成長期とは異なる環境の変化がみられるようになってきた( 第II-2-22表 )。このため,多くの農家は農業での就業と所得を確保する必要性に迫られている。このように生産要素である土地,労働力などの減少も鈍化の方向に動いているが,農業部門の体質改善を進めるうえで特に次のような問題がある。

第1は,農業構造の改善が遅れ,経営規模が零細なままにとどまっていることである。

第2は,食料消費の伸びが全般的に鈍化していることである。

第3は,施設園芸,中小家畜などの施設型農業が発展しているなかで,石油を中心とするエネルギーの多量消費,環境汚染や地力の低下などの問題が生じてきていることである。第4は,農産物輸入に対する国際的要請の強まりや,国際価格との開差のなかで国内農産物の割高が認識されるようになってきていることである。このように我が国農業をめぐる内外環境は厳しさを加えている。

(環境変化を受けとめる農業)

このような環境変化を受けとめる農業の現状にも厳しいものがある。その一つは,他産業と比較して労働生産性がなお低いことである。長期的には日本農業の生産性も顕著に上昇してきており(昭和40年度に対し52年度は4.8倍),製造業との格差も縮小しているが,なお製造業の3割程度である。これは基本的には農業構造の改善が進まず,経営規模が零細なままにとどまっていることに由来している。北海道では小規模農家は減少し,経営規模の拡大が進んだが,都府県では在宅による他産業での就業機会の増大や地価の上昇を背景に農地の農業用としての流動化が進まなかったため経営規模の拡大はほとんどみられず,多くの農家は稲プラス兼業化の方向を強めた。もっともブロイラーなど土地の制約をあまり受けない施設型農業では,規模拡大は進み,欧米農業との生産性格差はかなり縮小した。これに対して,経営規模の拡大が進まなかったため,麦,大豆などの土地依存度が極めて高い作目では,生産性格差は縮小せず,我が国の麦,大豆の生産は大幅に減少した。日本(1977年),アメリカ(1973~77年平均)の投下労働時間当たりの生産量を比較してみるとアメリカは日本に対してブロイラーで0.8倍,鶏卵では1.1倍となっており,北海道の生乳では42年の3.4倍から52年に2.6倍へと縮小している。しかし北海道でも小麦では4.5倍という大きな格差がある(農林水産省「農産物生産費調査」,U.S.D.A“Agricultural Statistics”)。

もう一つは,食料消費が伸び悩む中で農業生産が活発化しているため,農産物需給が全般的に軟化していることである。特に,米については,水田利用再編対策が実施されているにもかかわらず。10a当たり収量の向上等により53年度には過剰基調を一層強めた。また,みかんも過剰基調にあり,畜産物,野菜等も一部を除き需給は緩和している。他方,麦,大豆等の生産は国内需要を著しく下回っている。

(体質改善の方向)

最近における環境の変化のなかで,我が国の農業は安定経済成長下の諸条件に耐えうる高生産性農業に脱皮していくことが要請されているが,それには次の側面が重要となっている。

第1は,作目別需要の動向に見合った生産構造を確立することである。過剰なものの生産を抑え,国内で不足のものについては,生産性の向上に努めつつ自給力を高めていく必要がある。こうした生産構造の再編には,相対価格関係の是正や収益性の改善など生産誘導対策の充実,地域の条件に即した自主的な生産の再編と併せて,水田についてはその汎用性を高めること,畜産では家畜の改良や日本にあった牧草の品種の育成など,生産基盤の整備や技術開発が期待される。

第2は,農業経営に意欲的に取り組もうとする農家への農地利用の集積をはかるなど経営規模の拡大である。52年現在,都府県の第2種兼業農家のうち7割近くの農家は職員勤務等安定した兼業に従事しており,すでに農外所得だけで家計費を十分賄える状態になっている。こうした兼業形態が質的に深化していること,農業の機械化が進み,稲作などでは経営規模間で収益性にかなり開きがある( 第II-2-23表 )ことなどから,土地利用の集積を進めるための条件も醸成されているものとみられ,最近,借地形態による農地の流動化の動きもみられる。すなわち,「農業調査」(農林水産省,52年)によると,都府県で年間差引き経営耕地を増加させた農家数のうち借地形態により増加させた農家の割合は40%(42年28%)であり,購入して増加させた農家の割合14%(42年29%)を大きく上回っている。

第3は,農業における省エネルギーの推進であるが,この点は後に詳しく触れることにする。

(2) 期待される農業技術の開発

(農業技術の開発普及)

我が国農業は過去15年間(35~50年)に就業人口は半減し,耕地面積は1割近く減少したが,農業生産はその間3割増加した。農林水産省調べ「農業及び農家の社会勘定」によると,この15年間に農業固定資本投資(実質)は,土地,農機具を中心に2.7倍にふえ,特に40年代後半には農機具投資が高い伸びを示した。こうした固定資本の増加の背景には,農業労働力の急激な減少に対応した労働節約的な農業技術の開発普及がある。農業生産技術の進歩は昭和30年代以降きわだっている。それは個々の農家の努力はもちろんのこと国,都道府県を通じた試験研究とその普及,さらに農業機械メーカー等の果たした役割は大きかった。いま公的農業関係試験研究機関の試験研究の特徴点をみると,耕種部門では優良品種の育成,肥料の改良と施用法,農薬による病害虫,雑草の防除,農業機械の開発と省力栽培体系の確立,畜産では家畜の改良,飼料,衛生対策,施設の整備などに関する試験研究が積極的に行われた( 第II-2-24図 )。

これらの結果,例えば,水稲については良質米品種耐冷品種や多肥多収性品種等の育成,肥料,農薬の新製品の開発肥料の施用法の改善が進み,早期健苗育成の方法や中小型トラクター,田植機,自脱型コンバイン等を組み合わせた機械化栽培体系が確立された。これにより水稲の収量水準の上昇と生産の安定が実現し稲作作業も著しく省力化された。水稲販売農家の10a当たり投下労働時間は172時間から81体5時間へと半減している(農林水産省「米及び麦類の生産費」)。他方,園芸等では温度調整等環境制御に関する技術開発の進展とビニールハウス,ガラス室などの普及により多くの作目で周年栽培が可能となった。また酪農では家畜改良搾乳施設等多頭飼養管理技術の開発普及によって飼養規模が拡大し生産性は著しく向上した。年間搾乳牛1頭当たり飼養時間は35年の633時間から50年には212時間へと3分の1に減少している(農林水産省「畜産物生産費調査報告」)。

(問題点と今後の方向)

こうした農業投資の増大や農業技術の開発利用は,農業の省力化や生産性の向上に大きな役割を果たしてきたものの,いくつかの問題を発生させた。

その第1は,水稲での早期栽培の普及が米の増収,生産の安定に大きな役割を果たした反面,これと作期の競合を強めた麦類,大豆等については生産が著しく減少したことである。生産力の高い水田に麦,大豆等を導入することは,国内資源の有効利用,農業生産の再編を進めて農産物の総合的自給力の向上をはかるうえで極めて重要となっており,これを可能とする圃場条件の整備栽培技術の開発が期待されている。

第2は耕種と畜産との結び付きの少ない農業の発展は,たいきゆう肥施用量の減少と相まって地力の低下,連作障害などの問題を発生させていることである。たいきゆう肥等の有機物の施用減少は耕土内の腐植含有量の損耗から地力を低下させ,化学肥料の効果発現を弱める可能性もある。また農薬では病害虫の防除により収量の安定,水田除草剤の利用による省力効果は大きいが,一部農薬の不適切な使用は,薬剤耐性菌,抵抗性害虫の発生を引き起こすほか,生態系に変化を与え,病害虫の発生相に影響を与えることも懸念される。もっともこれらの問題は,輪作,地域ぐるみの農業複合化によって解決しうるものも少なくない。例えば稲作と畜産を組み合せた場合,たいきゆう肥を水田に還元することによって地力の増強,化学肥料の節約が可能になるとともに,畜産経営における環境問題の解消にも役立とう。

第3は多額の資本の下を必要とする新しい施設,技術体系の導入は,労働生産性を高めるうえで大きな役割を果たしたが,その反面で生産コストの中の償却費部分の増大を招き収益を圧迫していることである。40年から50年にかけて主要農産物の物的生産性は米,みかんがそれぞれ約2倍に上昇し,そのほか,きゅうり(施設もの1.6倍),生乳(同2.3倍),肉豚,鶏卵(同3倍以上)の上昇率も大きかった。この間,農業労働10時間当たりの固定資本額はいずれも生産性の上昇を上回って増加している( 第II-2-25表 )。

最近では規模の小さい農家でも田植機やバインダーなどが普及しており,これらの農家では機械の稼働率は低い。本来,農業機械や施設が効率的に稼働するためには,一定の作業規模を必要としているので経営の複合化,農作業の受委託,借地やより一層の農業生産の組織化などを進め,経営規模の拡大と併せて農業機械や施設の効率的利用体系の確立を図ることが重要となっている。

(3) 農業におけるエネルギー消費

(投入エネルギーと農業生産)

既にみたような我が国農業の生産性の向上と生産の増加は,エネルギーの投入の増加によってもたらされた面も大きい。「産業連関表」によって農業部門へ投入された直接,間接エネルギー量を試算してみると,(間接投入の石油,電力部門を含む)主要農産物(合計)で35年の1.255×1010kcal(原油換算134万kl)から50年には6.569×1010kcal(同699万kl)へと増加している。これはビニールハウスなどの暖房,農業機械の燃料など直接的な消費が増加したほか,化学肥料,農薬,機械などの生産資材として間接的に投入されるエネルギーも増加した。この15年間,農業生産は1.4倍しか増えていないのに農業へのエネルギー投入量は5.2倍も増加しており,我が国の農業がエネルギー多投型の生産構造への傾斜を強めながら発展してきたことがうかがわれる。主要農産物について産出量に対するエネルギー消費量の割合であるいわゆるエネルギー投入係数をみると,米は35年から50年までに4.2倍に上昇しており,野菜は実に7.5倍にも上昇している。畜産は,飼料の多くを輸入穀物などに依存しているため他の作物に比べて上昇の度合いは小さいが,それでも若干ながら上昇している( 第II-2-26表 )。また,作目別に作付面積(家畜では飼養頭・羽数)の増減と,エネルギー投入係数との関係をみると,総じてエネルギー投入係数の高い作目で作付面積(飼養頭・羽数)が増加し,低い作目で減少しており,エネルギー多投型の農産物の需要が伸び,それに対応して生産が増加してきたことを物語っている( 第II-2-27図 )。もっとも,我が国全体のエネルギー消費の中で農業での消費はそれはど大きいものではないが,農業経営にとってエネルギーコストの負担は漸次増加してきている。

(農業における省エネルギーの推進)

このように我が国の農業生産は石油を中心とするエネルギーを増投してきたが,その結果エネルギー投入水準はかなり高水準に達しておりエネルギー投入量の増加による生産力引上げ効果も次第に小さくなっているものとみられる。また最近における石油価格の高騰は,エネルギー多投型の生産構造への傾斜を強めつつある我が国農業の生産コストに影響を与えている。こうしたエネルギー需給の変化の下でも安定した高位生産の維持を可能とする農業技術の開発が重要な課題となってきた。例えばその一つは消費者の多様なニーズに対応して発展してきた施設園芸における省エネルギー化である。

第II-2-28図 ハウス野菜と露地野菜の投入エネルギー試算,価格の比較

施設野菜は露地野菜に比べて多くのエネルギー投入を必要としており,地熱利用や施設の改良耐低温性品種の育成など省エネルギー技術の開発普及が重要となっている( 第II-2-28図 )。

第2はエネルギーの効率的利用を進めることである。このため経営規模の拡大,農場副産物の有効利用と田畑輪換を含めた水田の高度利用体系の確立が重要となっている。これとともにエネルギー投入係数の高い施設型農業と低い土地利用型農業のバランスのとれた発展は省エネルギーの観点からも重要である。

2. 流通部門の合理化

我が国の流通部門は低生産性が問題にされることが多く,従来からその近代化,合理化が強く求められてきたが,現在どの程度近代化,合理化が進み,またどのような問題点を抱えているのかをみてみよう。

流通部門には,卸・小売業とそれに関連する運輸,倉庫業などがあるが,ここでは卸・小売業に焦点をあててみることとする。

(零細店の比重の低下,法人比率の上昇)

我が国商業の低生産性の原因の一つとして店舗規模の零細性があげられている。いま従業員規模別生産性をみると,規模の小さい店舖ほど生産性が低い( 第II-2-29表 )。ところで過去20年間の従業員規模別の商店数及び販売額の推移をみると,40年代後半以降そのテンポは鈍化しているが,従業員1~2人規模の階層の比重が低下する傾向にある( 第II-2-30表 )。このように零細店舖の比重が低下していることから卸・小売業の生産性が押上げられていることがうかがわれる。

また,経営組織の面をみたのが, 第II-2-31図 であるが,これは昭和30年初めごろと比較して51年には常用雇用者のない生業的な個人商店の比率が下がり,近代的な法人経営の店舗の比重が高まっていることを示している。

(卸売経路の変化)

次に卸売経路の変化をみてみると( 第II-2-32図 ),第二次卸の地位はそれはど変化していないが,第一次卸は元卸や小売業者への直販卸を中心に地位が低下している。

他方,「その他卸」の地位が著しく上昇しているが,これは従来元卸業が果たしていた役割を製造メーカーや,大手小売業者(スーパーチェーン店等)が代位していることを示している。このように卸売業の分野に新しい主体が参入し,従来の流通経路を変革して卸売業の近代化を進めてきていることがうかがわれる。

第II-2-33図 小売業の業態別年間販売額割合

(小売業における新経営形態商店の出現と発展)

一方,小売業において新たな経営主体の展開が進んだ。その一つがセルフサービス店の比重増大である。昭和30年代初めには500店舖弱にすぎなかかったが,51年には約30倍増の14,543店に成長しており,販売額シェアでみても39年の4.7%から47年には百貨店のシェアを抜き,51年には12%を占めるに至っている( 第II-2-33図 )。このようにセルフサービス店が,30年代後半以降小売業近代化の担い手として活躍してきたのは,主にその労働生産性の高さと低価格による。中小小売店の労働生産性を100とすると51年においてセルフサービス店は232と2倍以上となっている。

このようなセルフサービス店の発展は旧来の中小小売店への近代化への刺激となり,共同購入等による規模の利益を求めボランタリー・チェーン化策が進展した。チェーン店舖は41年の11,059店から53年には41,430店(日本ボランタリー・チェーン協会加盟)に増加している。

このほか消費者ニーズの多様化に対応して低価格大量販売を行う専門店(家電製品,カメラ,紳士服,メガネ等)や,長時間営業を実施しているコンビニエンス・ストアも台頭するなど小売業における各種経営形態の多様な展開が注目される。

(設備の近代化)

加えて卸・小売業の近代化はハードの面でも進んでおり,例えば電子計算機の稼働台数は着実に増大しており,全産業のそれよりも伸びが高い( 第II-2-34図 )。また,このことから販売,仕入れ,在庫管理技術等のソフト面での合理化にも意欲的にとり組んでいる姿もうかがわれる。

(卸・小売部門の問題点)

以上のような近代化,合理化を通じて43年から51年の間に卸売業では労働生産性(従業員1人当たり実質販売額)が年率5.7%,小売業は3.6%と上昇したが(通商産業省「商業統計表」などによる),卸・小売部門の問題点をあげると,その第1はなお,生産性が低い点である。

我が国と所得水準の特に高いアメリカ,西ドイツの卸売業,小売業の生産性の比較をしてみると,卸売業はアメリカより低いが西ドイツよりは高い一方,小売業はアメリカ,西ドイツのいずれよりも低い( 第II-2-35表 )。生産性の問題に加えて,我が国の流通業は零細店が多く,かつ多段階であるという問題があり,我が国の流通業の合理化は,卸・小売業双方にとって重要となっている。

こうしたなかで小売近代化の担い手として発展してきたセルフサービス店の価格の割安感も近年になると薄れてきている。 第II-2-36表 は,46年と52年についてスーパー店と一般小売店の販売価格を比較したものであるがその価格差は52年にはほとんどの商品で縮小している。これは一般小売店での価格引下げによる対応という前向きの面もあるが,一方,確保された商圏のなかで競争意欲が薄れ,必ずしも適正な競争が続けられていない面もあると考えられる。

第2は流通コストの上昇である。いま商品の製造段階から始まるコスト構成の推移をみると年により若干の変動はあるが,昭和40年代以降流通コストは上昇傾向にある。その内容をみると卸・小売業とりわけ小売業における一般管理費の上昇が目立っている( 第II-2-37図 )。

一般管理費の上昇が小売業で目立っているのは,小売業が労働集約的産業であり,賃金上昇の影響を受けるところが大きいためではあるが,このような状況から流通部門の近代化,合理化の進展は流通コストの低下まではつながっておらず,ここにも問題点をみることができる。

また,物的流通の面をみると,例えば貨物の輸送距離については( 第II-2-38図 )過去5年間で平均して3割弱伸びている。平均以上の伸びを示しているものの多くは工業用品であるが,消費物資の輸送距離もある程伸びている。これには,産業及び入口の地域的配置等の変化によるところが大きいが,流通コストの低減及び省エネルギーの観点からは物的流通の合理化,物的流通体系の再編の必要性も示唆されている。

(流通部門の合理化)

以上のように卸・小売業の近代化,合理化はある程度進行してきたが,そうした中でも流通コストが上昇傾向をたどっており,なお,一層の近代,合理化が必要である。こうした状況下,各種経営形態の商店が,それぞれ生産性向上に努めることはもとより重要であるが,適正価格商品の提供という方向で相互間の有効競争が行われるべく競争条件の確保整備が重要な課題になっているといえよう。まだ物的流通体系の再編も必要である。流通部門合理化のためには多面的な取り組みが求められているといえよう。