昭和53年

年次経済報告

構造転換を進めつつある日本経済

昭和53年8月11日

経済企画庁


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13. 地域経済

今回の景気回復過程において,業種間の跛行性や同一業種内における企業間の格差と並んで,地域間の業況の跛行性が生じていることが特に注目された。

地域間の跛行性は,基本的には産業や企業が地域的に偏在していることにより,それらの業況の跛行性を反映するものである。特に,今回の回復過程では,企業環境の激変による企業間の跛行性や,中期的成長率の屈折のために,特に投資財産業,消費財産業間にみられた業種間の跛行性が大きかったため,地域間の跛行性も大きくなった。

52年度についてみても,以上の傾向が依然として続いたばかりでなく,急激な円高により,特定の輸出産地が大きな打撃をうけるという,新たな跛行性を生ずる要因も生まれてきている。

それではまず地域間の跛行性が,各地域における企業の業況判断にどのように表われているかをみてみよう。

(1) 地域間の業況判断の差

49年度以降における,企業の業況判断を日本銀行「全国企業短期経済観測」によってみると( 第13-1図 ),製造業においては,各地域とも,今回の景気後退局面にあたる49年から50年初にかけて,業況判断は悪化した。しかし,その後51年央まで,回復に転じた後,年後半より再び業況判断は悪化し,52年末にようやく底を打ち,以後持ち直し傾向にある。

このような動きの中で,地域的には,四国,九州では,他地域に比べて,業況判断の動きに遅れがみられ,51年における回復もはかばかしくなく,低迷を続けている。一方,東北,東海では,51年に,業況判断D.I.がプラスに転ずるほど企業の業況判断は好転をみていた。

(2) 鉱工業生産の動向

こうした地域の業況判断の相違の背景にある,鉱工業生産をとりあげてみよう。

第13-1図 業況判断の動向(製造業)

全国の鉱工業生産は,53年1~3月期にようやく今日の景気後退前のピーク時である48年10~12月期の水準にまで回復した。これは,49年1~3月期に生産が低下して以来17四半期目のことであった。

これを地域別にみると,東北のようにピークをすでにかなり上回っている地域もある一方,四国のように生産の低下が依然続いている地域もあり,地域間にかなりの跛行性がみられる。

第13-2図 鉱工業生産の地域別跛行性

これは,前述したように,各地域における産業構成の相違によっているほか,同一産業でも地域ごとに業績が異るという要因にもよっている。そこで,地域格差を産業構成の相違による「産業構成要因」と,その他の産業内の地域格差による「その他要因」とに分けて地域性をみてみると( 第13-2図 )のような結果が得られた。

これによると北海道では,52年度に入り「その他要因」が生産の減少要因になっている。これは,同地域の生産ウエイトの32%を占める食料品工業が,原魚不足による水産加工の落ち込みから,前年度に比べ大幅に減少したほか,機械工業が落ち込んだことによっている。

これに対して,東海,北陸をみてみると,「その他要因」は逆に生産増加要因となっている。これは同地域でウエイトの高い自動車を中心とした輸送機械が高い伸びを示したことに主によっている。

近畿についてみると,回復過程において,生産実績は,ほとんど「産業構成要因」で説明されていたが,52年度後半になって「その他要因」が,生産減少要因となった。これは,全国では比較的好調な機械が近畿では52年10月~12月に大幅に減少したことによるところが大きい。

最後に,四国についてみると,51年以降「その他要因」が一貫して,生産減少要因となっている。これは同地域でウエイトの高い一般機械が農業機械を中心として総じて大幅減少を続けていること,及び輸送機械の大宗を占める造船が,低迷していることによっている。

以上のように地域的跛行性は,産業構成要因である程度説明できるとしても,それ以外の地域的要因にも大きく依存していることがわかる。

(3) 厳しい姿をとった労働情勢

以上みてきたように,52年度中の生産活動は,年度末の53年1~3月期にかなりの盛り上がりを示してきたが,年度前半は総じて鈍い動きにとどまった。これを反映して,労働関係指標も,各地域とも,改善の遅れないし悪化がみられた。

まず,労働力市場における需給の状態を示す有効求人倍率をみると,全国平均では48年10~12月期に1.85とピークを示した後急速に低下し,景気の底である50年1~3月期を過ぎ,50年10~12月期にようやく底に達した。その後51年前半に一時雇用情勢は改善に向かったが,後半には再び悪化し,52年度中は有効求人倍率は0.5倍強の水準のまま推移した。これを,地域別にみると,まず水準自体に大きな格差があるほか,その変動にも跛行性がある。その地域において,景気変動に敏感な製造業のウエイトの大小が大きな要因となっている( 第13-3図 )。県内純生産に占める製造業の比率の高い地域ほど,有効求人倍率の水準も高く,また,ピーク時からの落ち込みも大きかったがわかる。これは,製造業の生産が,景気変動に感応しやすいうえ,その製造業の業況に第三次産業の生産も影響をうけるためと考えられ,これが,労働力市場の需給に反映されるのである。この結果,かつてのピーク時に水準の高かった地域ほど落ち込みも大きかったため,52年度における,地域別の労働需給の格差は縮まることになった。すなわち,48年10~12月期には,東海地方が5.52であった一方,九州では0.73と,ピーク時においては非常に大きな格差があったものが,水準の高い地域での落ち込みが大きかったため,53年1~3月期では,東海地方が0.92九州で0.27とその地域間の格差は,低い水準ながら縮まってきている。

第13-3図 有効求人倍率と製造業のウエイト

一方,景気変動に先行性をもつ,所定外労働時間をみると( 第13-4図 ),まず全国では,景気のピーク2期前の48年4~6月期にピークをむかえた後,50年4~6月期に底に達し,その後51年末まで回復し,52年に入って再び低下していたが,年末に至り回復をみせている。

地域別の動向をみると,48年4~6月期に北陸を除いてピークを経験したが,その後の動きには,跛行性がみられる。関東,東海,近畿などの組立型産業のウエイトの比較的高い地域では,50年4~6月期に底を打った後,51年末ごろまで回復に転じている。一方,北海道,九州では,底入れが,1~2期遅れた。また四国では,底入れ後の回復もはかばかしくなく,52年10~12月期には,前回の底の水準を割っている。

第13-4図 所定外労働時間の推移

(4) 消費と物価の推移

本報告第1章でみたように,52年度中の個人消費は,緩やかな伸びにとどまった。実質消費(全世帯)を前年同期比でみると( 第13-5図 ),北海道,関東では前年度比で減少となっている一方,中国,北陸では比較的堅調な伸びとなっているが,その他の地域では総じて緩やかな伸びのまま推移している。これは生産活動の低迷による所得の伸び悩みを反映したものである。しかし,後述するような52年年末から53年にかけて,消費者物価が落ち着いたこともあり,53年1~3月期には,北陸,中国を除き,いずれの地域でも実質消費は持ち直しを見せている。

第13-5図 実質消費支出(全世帯)の推移(前年同期比)

一方,農家世帯の消費をみると,51年度は冷害により,所得の伸びが低く,消費も伸び悩んだのに対して,52年度は,米が豊作であったこともあり,収入のうち米作のウエイトの高い北海道,東北,北陸及び中国,四国などで,いずれも前年度の伸びを上回る増加となっている。

次に,消費者物価の推移を地域別にみてみると,51年度後半に若干騰勢を強めたが,52年度に入り,騰勢は鈍化し,特に,年度後半に至ると,季節商品の落ち着き,円高の効果等もあって急速に安定化傾向を強めている。

第13-6表 都市階級・地方別消費者物価地域差指数

このような消費者物価の動きには,とりたてて地域性はみられない。しかし,水準自体についてみると,家賃や,食料品の物価の地域差により,都市と町村の間には拡差がある。そこで,これを総理府統計局「消費者物価地域差指数」でみてみると( 第13-6表 ),大都市と町村の格差は52年には9.9%あった。

これは,40年代における12,3%の格差に比べてみれば,縮小している。

第13-7図 生産設備判断D.I.(過剰―不足)

(5) 設備投資と住宅投資の動向

52年度の設備投資は総じて停滞気味に推移した。これは高度成長から中成長への移行期に当たって,日本経済がいまだにストック調整局面にあるためとみられる。そこで,企業が現存設備をどう判断しているかについて,日本銀行「全国企業短期経済観測」でみてみよう( 第13-7図 )。

製造業の生産設備判断は,49年度前半に,「過剰」とみる企業の割合が,「不足」とみる企業の割合を越えて,51年度に一時,改善したもののその後悪化し,過剰感が解消されずに推移している。これを地域別にみても,東海,北陸などではストック調整をせまられている素材型産業のウエイトが比較的低いこともあり,設備過剰感が低いものの,その他の地域,特に近畿,中国などでは,52年度中にかなり過剰感が強まっている。なお,53年初来の景気の好転により5月には四国を除いて,すべての地域で過剰感は若干改善した。

第13-8表 設備投資の動向(前年度比増減率)

こうした,設備過剰感を反映して,52年度中の設備投資は,総じて鈍いものとなった。これを,日本開発銀行の「設備投資動向調査」(53年2月調査)でみてみると( 第13-8表 ),全国では,50年度に10.3%減少となった後,51年度に5.9%増と若干回復したが,52年度(実績見込)には0.8%増と再び低迷することになった。地域別にみると,関東,中国,九州で減少となっている。これは,鉄鋼(関東,中国,九州),化学(九州)が大きく減少したことによるところが大きい。その他の地域では特に北陸,北海道,東海などで非常に大きな伸びを示しているが,これは,電力が大幅な伸びをしたことのほか,自動車(東海),鉄鋼(北海道),紙・パルプ(北海道)の伸びが高かったことによるものである。

第13-9表 地域別新設住宅着工戸数

第13-10図 地域別建築着工床面積の推移(前年同期比)

53年度計画をみると,沖縄を除く全地域で製造業が減少,電力を中心とした非製造業が増加という共通の姿をとっているが全国平均では,7.3%増となっており,設備投資は52年度に底をうった形となっている。しかし,その中で,地域別にみると四国,九州は紙パ(四国),鉄鋼,化学(九州)などで大幅な減少となり,設備投資全体はさらに減少する局面にある。

上記のような設備投資の低迷は,建築物着工床面積の鉱工業分についてもあらわれており,関東を除いて各地域とも通年前年同期比で減少となっており,最近の投資は能力増強のためのものが減っていることに照応している( 第13-10図 )。

次に住宅投資を新設住宅着工戸数でみてみると( 第13-9表 ),本報告でもみたように,51年に急増した後52年は前年とほぼ横這いの水準にとどまっている。これを地域別にみると,関東,東海,近畿の大都市周辺地域では,分譲住宅を中心として,堅調な動きをしている一方,その他の地域では,持家,貸家の低迷から,いずれも減少となっている。また,資金別にみると,近畿を除き各地域で民間資金によるものが減少しているが,公庫資金によるものが,九州を除き増加しており,前者の落ち込みを下支えしている形となっている。

(6) 円レートの急上昇と地域経済

本報告第1章でみたように,52年度においては,全般的な経済活動の停滞により,国際収支が大幅な黒字となり,円レートの上昇が,大幅かつ急激に生ずることになった。

円レートの上昇は,経済全体としてみれば輸出の不利化というデメリットを,輸入価格の下落によるコスト低下というメリットがある程度相殺しあうという側面を持っている。

しかし,地域的にみれば,輸入原材料使用産業と輸出比率の高い産業が均等に分布しているわけではないので必ずしもうまく相殺されない。特に,出荷に占める輸出の割合の高い輸出型産地では,円レートの急上昇の影響をかなり受けている。

輸出型産地は,広く全国に散らばっており,その業種も,繊維,雑貨,軽機械,金属,農林水産物と多岐にわたっている。これらの産地が,日本の輸出総額に占めるウエイトは,小さいが,その産業をかかえる地域経済に占める役割は大きいので,地域経済を考えれば,円高の影響は無視できないものといえる。

(7) 依然続く地域経済の跛行性

以上のように,52年度を中心として,地域別の主要な経済指標を見てきたが,最後に,これらを総合した地域の景気の状況を地域景気動向指数によって見てみよう( 第13-11図 )。これによれば,今回の景気回復過程において,各地域とも年前半に景気の立直りをみせた後,後半より52年にかけて停滞状態が続き,53年初にようやく持直し傾向がみられるということがわかる。

第13-11図 地域別景気動向指数の推移


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