昭和53年

年次経済報告

構造転換を進めつつある日本経済

昭和53年8月11日

経済企画庁


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4. 中小企業

(1) 生産の漸増と在庫調整の進展

a. 製造業の生産・出荷動向

製造業の中小企業,大企業別の生産動向を中小企業庁「中小工業生産指教」(昭和50年=100)でみる と( 第4-1表 ),中小企業の生産は昭和50年3月を底に回復過程をたどっている。しかし,中小企業は52年度で116.2と前年度比2.5%増であったが,これは大企業の同年度の117.8,同前年度比3.8%増に比べやや低い伸びにとどまっている。過去の生産のピークとボトムの差に対する生産の回復率をみても中小企業は49年1月(126.0)のピークから,50年3月(96.1)のボトムに対して,53年1~3月(119.0)で回復率は76.6%であったが,大企業は49年1~2月(117.8)のピークから50年3月(96.6)のボトムに対して,同53年1~3月(121.7)で回復率は118.4%と大幅に中小企業を上回っている。

第4-1表 中小企業・大企業別の生産・在庫の動き

このように,52年度の特徴は,まず,①中小企業(製造業)の生産の回復が,大企業(製造業)に比べて遅れていることである。

四半期ベースでみると,中小企業の生産は年度前半,公共事業の拡大がみられたものの,円高に伴う輸出の伸び悩みや,消費支出,民間住宅投資,民間設備投資が低調のうちに推移したことから,4~6月期,7~9月期と落ち込んだ。しかし年度後半には生産が尻上がりに上昇している。一方,大企業の生産は四半期ベースでみると,52年度も一貫して生産が上昇している。

さらに,財別,業種別の生産動向をみると,②51年度に続き,52年度も業種間の跛行性がみられたのが特徴である。

財別をまず,最終需要財と生産財に大別してみると,ともに大企業が中小企業の生産水準を上回っている。しかし,四半期ベースでは中小企業も大企業もほぼ同様傾向をたどっている。すなわち,最終需要財では,52年度は4~6月期から10~12月期まで上昇をたどり,53年1~3月期は一服状態となっている。また生産財は一進一退を続けた。

さらに最終需要財のうち耐久消費財についてみると,52年度はジグザグ形をたどり,52年10~12月をピークとして,なお高水準にある。これは輸出の好調な伸びに支えられた面が強い。資本財は大企業よりも中小企業の生産水準が上回っており,電力等での設備投資や,非製造業を中心とする省力化投資などの影響から,ほぼ一貫して上昇している。しかし,建設財は在庫調整局面にあったため公共事業の波及効果がそれほど大きくなく,生産は伸び悩んでいる。さらに非耐久消費財では,大企業は比較的生産水準が高いものの,中小企業の生産は低迷している。

中小企業の生産の動きを業種別にみると,好調なのは,時計やカメラを中心とする精密機械で,輸出の増勢に支えられている。また電気機械も輸出増と一部商品での内需活発化により,比較的に好調である。

ところが,船舶を含む輸送機械では,船舶の輸出の大幅な落ち込みから生産は低調である。しかし,輸送機械のなかでも自動車は輸出の大幅増から好調である。また繊維は個人消費の伸び悩みや天候不順,輸出の停滞などから生産は不調である。木材・木製品や食料品も内需が振わないことから停滞している。

次に,52年度の特徴として,③中小企業の在庫調整が比較的順調に進展したことである。

四半期ベースで52年度の中小企業の在庫をみると(50年=100の指数),4~6月期以後,101.5→101.8→99.6→100.0と推移し,大企業が107.8→108.3→107.6→107.5と推移したのと比べるとその動向は若干異なるものの,順調に在庫調整が進展している。業種別には輸送機械,窯業・土石,パルプ・紙,木材・木製品,食料品などが50年水準を大きく下回った在庫水準となっている。しかし輸送機械やパルプ・紙は在庫が増加しているが,木材・木製品,食料品,窯業・土石は在庫は減少傾向にある。鉄鋼や金属製品,精密機械ではなお高い在庫水準にあるが,鉄鋼,金属製品は在庫は減少してきている。精密機械はなお在庫が増加しているが,これは出荷増に対応したものである。

b. 非製造業の動向

次に非製造業の動向を建設業と商業でみることにしよう。中小建設業の受注高は,公共事業の前倒し発注により,特に地方などにおいては中小企業への発注が優先されたこともあって,前年度比17.7%増とかなり高い伸びを示した(建設省「建設受注統計B調査」〔対象中小465社〕)。それに対し,大手建設業では中小建設業と同様に公共事業を中心に,官公需が前年度比25.0%増となったが,民間部門とりわけ製造業が振わなかったために全体では12.9%増にとどまった(同「建設受注統計A調査」〔対象大手43社〕)。

また商業販売額の推移( 第4-2図 )をみると,卸売業では52年4~6月期,7~9月期,10~12月期は水準はやや低かった。しかし,53年1~3月期は高い伸びとなった。52年度では前年度比9.0%の増加であった。百貨店を除く小売業は,卸売業とは動きが異なり,52年4~6月期,7~9月期は高水準であった。しかし,52年10~12月期,53年1~3月期はやや低い水準にとどまった。52年度の伸びは前年度比8.8%の伸びと卸売業よりも若干低い伸びとなった。

第4-2図 商品販売額の推移(前年同期比増減率)

第4-3表 売上高構成比の推移(製造業)

(2) 52年度下半期の収益上昇と資金繰りの好転

以上のように中小企業の生産に対する慎重さがみられるものの,在庫調整の進展やコスト削減,金利の低下から収益面,資金繰りでは改善がみられる。

大蔵省「法人企業統計季報」によって売上高経常利益率及び経常利益額をみると,次のような特徴がみられる。 第4-3表 から製造業の中小企業と大企業を比較すると,まず,①52年度の中小企業の売上高経常利益率及び経常利益額の伸びが大企業よりもかなり大きかったことである。52年度の売上高経常利益率は,中小企業では3.5%で,経常利益額は前年度比34.1%増となったのに対し,大企業はそれぞれ2.8%,1.4%増とほぼ横這いに終っている。

次に半期ベースで中小企業の売上高経常利益率の推移をみると,②52年度上半期よりもさらに下半期の方が売上高経常利益率が上昇していることである。中小企業の売上高経常利益率は50年度上半期3.2%であったが,下半期は3.8%へと比率が上昇し,経常利益額も上半期の7,730億円から下半期には9,145億円へと増加した。

また, 第4-4図 で,中小企業をさらに資本金規模別にみると,③中小企業でも資本金規模の下位層の方が,上位層よりも売上高経常利益率が高水準に推移していることである。資本金1千万円~5千万円未満層の方が,5千万円~1億円未満層よりも売上高経常利益率でも,総資本営業利益率においても高水準に推移している。

第4-4図 中小企業の収益動向

以上みてきたように,中小企業が大企業よりも利益率が高いという特徴は,次のような要因によるものである。

第一に,営業収益の対売上高比率も,営業収益の前年度比も,ともに中小企業が大企業を上回っていることによる。販売費及び一般管理費が,中小企業では,52年度で対売上高比率が17.7%で,前年度比も40.4%増と大幅に増大している。しかし,大企業は販売費及び一般管理費が12.4%と低く,前年度比も9.4%増にすぎない。ところが対売上高売上原価比率は大企業の83.2%に対し,中小企業は77.4%と低い。その結果,売上高営業利益率は中小企業が4.9%で,大企業の4.4%を上回っている。また営業利益額の前年度比は中小企業で17.6%増,大企業で12.6%減であった。

第二に,営業外費用では中小企業の方が大企業よりも下回っていることによる。支払利息,割引料が52年度で,中小企業では2.4%にしかすぎず,大企業の3.6%を下回っている。“借金減らし”など減量経営は大企業の方が中小企業よりも積極的に進められたにもかかわらず,中小企業はもともと大企業よりも自己資本比率が高いことや,借入金比率が低いことが反映しているのである。そのため営業外費用は前年度比で中小企業は0.6%減,大企業は5.0%減であったものの,対売上高比率は中小企業が3.1%で大企業の4.5%を下回っている。

第三に,減価償却費などを中心とする固定費の負担が,中小企業の方が相対的に低いためである。人件費比率は52年度で中小企業は16.1%で,確かに大企業の13.2%を大きく上回っているが,1人当たり人件費月額や従業員1人当たり給料月額では中小企業は大企業を下回っている。このように給与水準が大企業に比べて相対的に低いことに加えて,設備投資などを中心とする減価償却費が,52年度で中小企業が1.6%にすぎず,大企業の3.0%を大幅に下回っていることである。また減価償却費の前年度比も,中小企業は30.4%減で,大企業の14.4%減を大幅に下回っている。

第4-5図 中小企業の資金繰りと回収条件

つぎに中小企業金融公庫「中小企業動向調査」によって,中小企業の資金繰りと回収条件をみることにしよう( 第4-5図 )。

資金繰りD.I.(「好転」企業割合-「悪化」企業割合)は,52年度に入り7~9月期にやや窮屈感が増したものの,それ以降は窮屈感が和らいできている。短期金利の推移をみても,52年3月8.30%,9月7.67%,53年3月7.41%へと漸次低下している。それに伴い,借入難易D.I.(「容易」企業割合-「困難」企業割合)も,長期資金,短期資金ともに引き続き改善をみている。平均回収期間〔売掛期間+(1-現金収入割合)×受取手形期間〕は,図には掲載していないが,52年4~6月期108.5日,7~9月期110.0日,10~12月期110.4日,53年1~3月期110.9日とほとんど変化はみられない。しかし,回収条件D.I.(「好転」企業割合-「悪化」企業割合)は,52年7~9月期以降は改善がみられる。

以上のように,金融緩和基調を背景として資金繰りと回収条件は好転してきている。

(3) なお慎重な設備投資活動

収益面での改善や資金操りの好転にもかかわらず中小企業の設備投資は,以下にみるように,製造業ではなお慎重である。また小売業,サービス業は増加しているものの,卸売業は減少しており,商業全体ではなお大幅な増加には至っていない。

大蔵省「法人企業統計季報」によって,製造業の設備投資の動きをみると, 第4-6図 にみられるように,中小企業が大企業よりも先行した設備投資を示すという従来からのパターンはみられるものの,52年度は中小企業においても大企業とまったく同様に低調となっている。

第4-6図 設備投資の推移(前年同期比増減率)

中小企業金融公庫「中小製造業の設備投資動向調査」によると,52年度の中小企業(従業員20人以上300人未満)設備投資実績額は前年度比9.9%減で,最近時のピークである48年度実績を27%下回っている。

さらに半期別にみると,52年度上半期は前期比2.2%減で,下半期も同11.8%減と,51年度下半期以降3期連続の減少となっている。これは52年央以降,特に秋口以降の急速な円高も手伝って投資マインドが一層慎重となったため,設備投資の繰延べや一部中止が行われたことが影響している。

規模別では下位規模層の方が投資削減,繰延べを行っており,逆に上位規模層では増額修正を行っている企業が多く,動きが異なっている。

業種別では,前年度比で設備投資が増加しているのは化学工業(10.4%増),輸送用機器(0.6%増)の2業種のみで,他の業種はすべて前年度比でマイナスとなっている。特に家具・装備品(36.4%減),繊維工業(27.8%減),衣服・その他の繊維製品(24.4%減),電気機器(23.9%減)などの落ち込みが大きい。

つぎに非製造業の設備投資をみると( 第4-6図 ),製造業の動きと異なっており,また,製造業ほど明瞭な形で中小企業が大企業に先行して設備投資するというパターンはみられない。52年度に入って大企業は7~9月期以降,前年同期比で減少への傾向が現われているのに対し,中小企業は10~12月期はやや落ち込みがみられるものの,全体に増加傾向にある。

一方,中小企業庁・中小企業金融公庫「商業・サービス業の設備投資動向」によると( 第4-7表 ),商業計では中小企業,大企業ともに前年度比で減少しており,特に中小企業の減少が大きい。卸売業では投資マインドが弱く,中小企業は前年度比で13.8%の減少となっている。小売業でも投資マインドは安定しており,中小企業で4.0%増にとどまっている。またサービス業では大企業の伸び率が高く,16.1%増で中小企業の伸びの9.0%増を上回っている。特に「旅館」,「各種物品・産業用・事務用機械器具賃貸業」が高く,この2業種が大企業でも中小企業でもサービス業の設備投資を牽引している面が強い。

第4-7表 商業・サービス業の設備投資動向

このように,小売業,サービス業では前年度比で増加しているものの,卸売業では減少しており,全体になお設備投資の大幅な増加には至っていない。これは個人消費の低迷や,景気回復に対する見方がなお慎重であることなどが影響しているといえよう。しかし,この「商業・サービス業の設備投資動向」調査は52年度分は52年10月調査の計画額でみており,実績額は上方修正される可能性もある。その点を考慮すると,中小商業・サービス業の設備投資は全体に増加傾向になることも予想される。

(4) 過去最高の企業倒産も落ち着いた動き

このようななかで,企業倒産は52年度は前年度をさらに上回り,件数,金額ともに過去最高となり,50年度以来,記録を更新している。

しかし 第4-8表 にみるとおり,52年度で製造業,小売業,建設業は件数でなお前年度を上回っているものの,卸売業,サービス業,不動産業は前年度比で減少しており,山を越した感が強い。さらに四半期ベースでみると,前年比で全体でも52年10~12月期,53年1~3月期と件数で前年よりも減少してきており,産業別にみても,製造業,卸売業,建設業,サービス業,不動産業は10~12月期以降,前年水準を下回ってきている。

このように企業倒産にも高水準ながらやや落ち着きがみられるのは次のような背景によるものである。第一に,公共事業の進展による公共投資支出が直接,間接に企業経営にプラス要因として作用してきていること。また第二に,個別企業が景気回復過程にあっても慎重に処し,とくに生産抑制などによる在庫調整を進展させたこと。第三に,直接的には金融緩和による金利低下や借入金の削減によって金利負担が軽減されてきたこと,第四に,円高によって輸入原材料の価格が下降し,収益面でプラスに作用してきていることなどである。

第4-8表 倒産の業種別推移

(5) 円高と輸出中小企業

52年度は年央以降,円高基調が強まり,輸出中小企業に影響を与えた。

中小企業性製品(中小企業の出荷額が70%以上を占める業種)の輸出は,円建てで52年は前年比21.7%増で,大企業性製品の0.4%減に比ベ大きな伸びをみせている。中小企業性製品の輸出の業種別の動きでは,重化学工業製品が各業種で前年を大幅に上回ったが,軽工業製品は伸びが低く,食料品,繊維で前年を下回った。

しかし,さらに商品別に動きをみるとかなり異なっている( 第4-9図 )。ドルベースで輸出額が減少しているものは,それほど多くなく,まぐろ及びかつおかん詰,金属製がん具,メリヤス編物及びクロセ編物などとなっており,他の品目は円ベースでは減少していてもドルベースで増加しているか,あるいは円ベースでも増加している。

これは, 第4-10表 においてみられるように,輸出単価がそれほど落ち込んでいないことによるものである。もっとも商品名が同一でも,高品質化や付加価値を高めているケースが多いと思われ,商品内容が全く同一のものは必ずしも多くない。

このような中小企業性製品の直接的な輸出のほかに,大企業の下請中小企業としての間接的な輸出もまたみられる。これは機械工業が典型的で,電気機械器具や自動車などの輸送用機械器具,精密機械器具などで間接輸出の比率が高い。このような下請企業は円高に対応して合理化に努め,コスト削減を図っている。

(6) 中小企業の今後の課題

52年度を振りかえると,中小企業の生産は,大企業に比べるとなお回復が遅れ,業種間の跛行性も強い。しかし在庫調整は進展しており,収益面でも大企業に比べると好調である。また,円高下においても輸出単価を引き上げ,輸出額を増加させている中小企業も多い。

これらは,中小企業の積極的で弾力的な活動を物語っており,52年度の景気回復過程においてもなお厳しい経済環境に,中小企業が対応してきたことを示している。しかし,企業倒産では中小企業の件数,負債額の割合は大きく,充分に適応し切れなかった中小企業も数多い。

第4-9図 中小企業製品の輸出額の推移(ドルベース,季節調整済)

第4-10表 中小企業性製品の輸出単価(ドル建輸出額/輸出数量)の推移

これまで中小企業は,流動する経済構造,産業変革に素速く対応してきた。機械工業を中心とする輸出増にも,中小企業は下請中小企業として間接的に大きな役割を果してきた。また,需要の多様化や消費の高級化,豊富化にも,中小企業は経営の多角化や事業転換,新規開業を通じて弾力的に対応している。中小企業は,今後もこのような積極的な活動を展開することが望まれる。しかし,当面する課題も多く,またそれに対応することも必ずしも易しいことではない。輸出中小企業では品質,機能,デザインの向上によって発展途上国との競合を回避し,下請中小企業では合理化を通じた技術水準の向上を図るといった自助努力が期待されている。これら中小企業の経営活動が充分なものとなるよう,公的機関のサービスや中小企業施策をいっそう充実することが望まれているといえよう。


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