昭和52年

年次経済報告

安定成長への適応を進める日本経済

昭和52年8月9日

経済企画庁


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8. 財  政

(1) 51年度の財政政策とその背景

51年度のわが国経済は前年度に引続いて景気回復が一層進んだ年であったが,その回復過程において財政金融政策が重要な役割を果たしたことはすでに本報告でみたとうりである。すなわち,51年度当初予算は景気の着実な回復をはかることに重点がおかれて編成された。また51年度予算成立の遅延による景気に対する悪影響を防ぐため40日間に及ぶ51年度暫定予算も公共事業の継続的執行を重視し,所要の措置が講じられた。さらに51年秋口以降の景気回復のテンポの緩慢化や雇用面での改善の遅れ等の問題に対処するため,51年11月に公共事業等の執行促進等を内容とすり7項目の景気対策が決定され,また,この7項目対策の効果を確実なものとするため,公共事業の追加等を主内容とする51年度補正予算が編成され52年2月に成立した。52年に入ってからは経済の先行きに対する信頼感を取り戻すことにより依然緩やかな景気の回復テンポを一層確実なものとするため,公共事業等の早期執行,金利政策の推進等を主内容とする4項目の景気対策が3月11日に決定された。

52年度予算は引続き景気の着実な回復をはかると共に,財政の健全化を推進することを主眼として編成され,4月16日に成立した。さらに4月19日において,52年度予算の成立を踏まえて,公共事業の上期中の契約率を73%とすること等,上記の52年3月の4項目対策を引続き推進することが決定された( 第8-1表 , 第8-2表 )

(2) 51年度当初予算の性格

51年度は景気回復過程の2年目に当たる年であったが,最終需要は伸び悩んでおり景気の回復力は必ずしも十分でなかった。51年度においては物価の安定を維持しつつ景気の着実な回復と雇用の安定を実現してゆくことが最も重要な政策課題とされた。このような考え方の下に51年度一般会計予算は24兆2,960億円の規模となり,50年度当初予算に対する伸び率は14.1%増,同補正後予算に対する伸び率は16.6%増となった。なかでも公共事業関係費は3兆5,272億円となり50年度当初予算に対する伸び率は21.2%増と大幅なものとなるなど,景気の着実な回復をはかることに重点が置かれた。

第8-1表 51年度における財政関係主要事項

第8-2表 財政規模の推移

歳入面では,一般会計予算における公債発行額が7兆2,750億円に達し一般会計予算の公債依存度は当初予算で9.4%となり,50年度当初予算の公債依存度9.4%,同補正後予算の26.3%を上回るものとなった。このうち,いわゆる特例公債(「昭和51年度の公債の発行の特例に関する法律」に基づき発行される公債)は3兆7,500億円であった。また,自動車関係諸税の引上げと租税特別措置の見直しも行われが,昭和36年度以降例年行われてきた所得税減税は困難な財政事情により見送られた。

なお,51年度予算の成立は遅れたが,51年4月から5月10日までの40日間にわたり,暫定予算が編成され,その規模は2兆9,223億円に及ぶものであり,しかも景気に対する悪影響を配慮し,暫定予算期間中に於ける公共事業等の継続的執行をはかるための一般公共事業5,093億円,災害復旧事業715億円,合計5,808億円の公共事業関係費が計上された。

(3) 51年度の財政面からの景気対策

① 7項目の景気対策(51年11月)

景気は51年1~3月,4~6月期にかけて急速な回復を示したが,51年夏以降回復のテンポは緩慢化するとともに,企業倒産は引続き高水準で推移するなど回復過程における摩擦現象が目立ってきた。このため,景気の先行き不透明感を取り除くとともに摩擦現象を緩和することを目的として11月12日,経済対策閣僚会議に於いて,次のような一連の対策を講ずることが決定された。

② 51年度補正予算と財政投融資の追加

上記の7項目の景気対策の効果を一層確実なものとするため,以下を主内容とする51年度補正予算が52年2月22日に成立した。

第8-3表 昭和51年度一般会計補正予算

③ 4項目の景気対策(52年3月)

52年に入ってからも,景気は基調として回復過程にあるものの,依然,そのテンポは緩やかであり回復過程における摩擦現象も残っていた。このような情勢に対処するため経済の先行に対する信頼感を取り戻すことにより景気の回復を一層確実なものとするため,3月11日の経済対策関係閣僚会議において,以下の4項目の景気対策が決定される。

このように51年後半から52年にかけて講じられた財政政策を中心とする3次にわたる景気対策は,景気を下支えすると同時に,その回復をより着実なものとし,景気の先行きに対する信頼感の回復に役立った,と言えよう。

(4) 財政資金対民間収支と租税及び印紙収入の動向

第8-4表 財政資金対民間収支

51年度の財政資金対民間収支は7,649億円の散超であり,散超幅は前年度を下回った。その内訳をみると,一般会計収入で租税,国債を中心に前年度を大きく上回ったため,一般会計全体の揚超幅は50年度を1兆8,299億円上回った。また,特別会計等では散超幅はやや減少している。以上に調整項目を加えた一般財政では2,121億円の散超と50年度の2兆4,890億円を大きく下回った。なお会計は外為会計は50年度の3,640億の揚超から51年度には5,528億円の散超に転じている。

租税及び印紙税収入は,50年度は前年度に比べ減少したのに対し,51年度は景気の回復に伴い法人税が増加したことを主因として再び前年度比で増加に転じた( 第8-4表 , 第8-5図 )。

(5) 52年度予算と財政投融資計画

52年度予算は52年2月3日に国会に提出され,4月16日に成立した。52年度予算及び財政投融資計画は,財政体質の改善を図りつつ景気の着実な回復に資するようその規模を適度なものとする,との方針の下に編成された。52年度一般会計予算総額は28兆5,143億円であり,51年度当初予算に対して17.4%,51年度補正後予算に対して15.7%の増加となっており,いずれも52年度済済見通しの名目成長率13.7%を上回っている( 第8-6表 )。

① 歳出の動き

歳出予算の動きを主要な経費についてみると次の通りである。

公共事業費の伸び率は51年度当初予算に対し21.4%増と52年度一般会計予算の伸び率17.4%を上回っている。内容的には,下水道環境衛生等施設整備費,治山治水対策事業費,農業基盤整備費,住宅対策費等が前年度に引続いて高い伸びとなっている。また,景気の回復をより一層確実なものとするため,上記の4項目の景気対策を受けて52年度公共事業等の上半期契約目標は73%とすること等が4月19日の閣議において決定された。

社会保障関係費の伸び率は51年度当初予算に対し18.4%増と同じく52年度一般会計予算の伸び率を上回っており,一般会計予算に占める割合も20.0%に達している。内容的には社会的,経済的に弱い立場にある人々に対する施策及び年金制度の改善に重点が置かれている。

第8-5図 租税及び印紙収入の推移(前年度比増加率)

地方財政関係費の伸び率は51年度当初予算に対し25.1%増である。52年度予算においても51年度予算及び50年度補正予算と同様に臨時地方特例交付金が計上されている。

② 歳入の動き

このような歳出に対して歳入は景気の安定的な拡大に伴い租税及び印紙収入は51年度当初予算に比べ2兆7,210億円増の18兆2,400億円(増加率は17.5%増)と見積もられている。一方,公債発行額は8兆4,800億円であり,一般会計予算の公債依存度は51年度当初予算等の29.9%から29.7%と僅かながら低下し,また,このうち4兆4,300億円は財政法第4条第1項ただし書の規定に基づく公債(いわゆる建設公債)であり,残り4兆500億円は「昭和52年度の公債の発行の特例に関する法律に基づく公債(いわゆる特例公債)である。

第8-6表 一般会計歳出予算の主要経費別分類(当初予算ベース)

また,52年度の税制改正では,所得税について各種所得控除の引上げにより負担の調整を行うことにりよ51年度においては見送られていた所得税減税を実施するとともに,租税特別措置の整理・合理化,交際費課税の強化等も行われた( 第8-6表 , 第8-7表 )。

③ 財政投融資計画

52年度の財政投融資計画は総額12兆5,382億円前年度当初比伸び率は18.1%増と,51年度の前年度当初比伸び率14.1%を大きく上回った。

52年度財政投融資計画の資金配分については,住宅,中小企業金融等国民生活の向上と福祉の充実に資する分野に対し重点的な配慮が行われている。

第8-7表 国債発行額の推移

また,52年度における地方財政の困難な状況に対処するために,地方債にあてる政府資金及び公営企業金融公庫資金の確保に特段の配慮が払われている( 第8-8表 )。

④ 地方財政計画

52年度地方財政計画においては,歳入については地方税は51年度を上回る伸びが見込まれているものの,歳出面において国民生活の安定等に必要な各種の歳出増が見込まれるため,財源補てんのため地方交付税において特例措置が講じられることとなった。この結果歳入に占める一般財源の割合は57.3%と51年度の56.9%を上回っている。なお,51年度に行われた特例法に基づき地方債の発行は行われなかった。

歳出においては51年度に引続き投資的経費が18.4%と高い伸びとなっているが,一方で50年度,51年度及び52年度の地方債発行に伴う利払費が多額になったこと等により公債費は51年度に対して23.7%増と高い伸びになった。また給与関係費の伸び率は51年度の16.5%に比べて9.3%と依水準にとどまった( 第8-9表 , 第8-10表 )。

⑤ 52年度予算修正等

52年度予算は52年2月3日に国会に提出されたが,3月9日に,社会保障関係費について予算修正を行う旨,与野党合意が成立した。これに基づき,政府は3月15日に一般会計予算の歳出において,各種年金,恩給等の改善時期繰上げのための所要額等634億円を修正増加すること等の予算の修正を行った。

第8-8表 財政投融資使徒別分類(当初計画ベース)の推移

第8-9表 地方交付税交付金

また,3月9日に上記の予算修正と同時に,3,000億円の追加減税を税額控除方式により行う旨,与野党合意が成立した。これについては所要の法案が議員立法の形で国会に提出され,5月2日に成立をみた。

(6) 財政政策の今後の課題

以上,51年度当初予算成立以降の財政政策を展望した。この期間に於ける財政政策については,景気回復をより確実なものたらしめた点において評価できよう。また,今後においても景気安定化政策の中に占める財政政策の役割は依然重要なものであろう。しかし,本報告第1部第4章でみたように今後,公社・公団等の公共工事や地方公共団体の公共工事等についても,全体としての景気対策の方向をも配慮することが求められよう。

第8-10表 地方財政計画

また,財政赤字の問題については,完全雇用の状態の下においても財政赤字は残ると推測されるが,このことは安定成長への移行に伴ない財政部門においても抜本的な構造の改革が必要とされるに至っていることを意味している。従って,今後,歳出の合理化,効率化に努めると共に,高福祉負担の原則に則り租税等国民負担の適正化を図ってゆく必要があろう。


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