昭和52年

年次経済報告

安定成長への適応を進める日本経済

昭和52年8月9日

経済企画庁


[目次] [年次リスト]

1. 国際収支

(1) 二極化目立つ世界の国際収支

(ジグザグ型の先進国の景気回復と二極化)

1975年前半に底を打った先進国経済は76年に入り前半に急回復を示したあと,年央以降停滞,ついで再上昇というジグザグ型の景気回復を示した。このように持続的な景気回復を達成出来なかった要因については本報告でみたとおりであるが,76年に入っての顕著な特徴としては,先進国の中でその経済パフォーマンスにおいてそれが良好な国と芳しくない国との明暗が際立ってきていることである(本報告, 第II-3-4表 参照)。特に国際収支面でも,イギリス,フランス,イタリアなどにおいて,貿易収支の赤字が続き為替レートが低下した。本来為替レートの低下は輸出の拡大を通じて国際収支の改善をもたらすはずであるが,こうした諸国においては為替レートの低下が輸入物価の上昇を通じてインフレ率が加速化し,輸出価格競争力が有利化する分をも相殺し,国際収支の悪化による為替レートの再低下という悪循環をもたらした。このように適切な国内総需要管理政策を伴わない為替レートの低下は自動的には国際収支均衡を導かない点がクローズアップされたのも76年先進国経済の特徴であった( 第1-1表 世界の国際収支と非産油開発途上国の貿易動向 )(明るさを増した非産油開発途上国経済とその中での二極化)。

第1-1表 世界の国際収支と非産油開発途上国の貿易動向

76年の非産油開発途上国経済は農業生産が順調なことに加え,先進国の景気回復に伴う輸出の増加と一次産品価格の高騰から景気は上昇に向かった。しかしこれら諸国においても景気回復のテンポや国際収支の改善幅の面で良好な国とそうでない国がみられた。たとえばブラジル,韓国,香港,アルゼンチン,台湾,などの中進工業国においては76年の貿易バランスの改善が著しい。その一方,エジプト,フィリピンなどでは悪化もしくは僅かな改善にとどまった(先進国の鉱工業生産との感応度を高めた-一次産品価格)。

76年前半における先進国景気の急回復により上昇した一次産品価格は,年央以降その回復テンポの鈍化により反落したが年末以降再び急上昇した。このように一次産品価格は原材料の主要消費国たる先進国の生産動向に強く影響を受けている。そこでエコノミスト指数のうち工業用原料について,日本,アメリカ,西ドイツの鉄工業生産との関係をみると 第1-2図 エコノミスト指数(工業用原料)の動きに 示すような関数が得られる。これによると,日本,アメリカ,西ドイツの三国平均の鉱工業生産が上昇し,そのトレンドからの乖離が1ポイント拡大(トレンドより下方にある場合は縮小)した場合エコノミスト指数は4ポイント弱上昇することになる(これを52年1-3月期を基準にして試算してみると三国平均の鉱工業生産が5.5%(年率)上昇した場合,エコノミスト指数は8.9%(同)上昇するという結果が得られる)。このことは先進国景気拡大がみられた場合,一次産品価格上昇の可能性が強いことを示している。

第1-2図 エコノミスト指数(工業用原料)の動き(原数値)

(2) 著しい改善を示した国際収支

(大幅な黒字に転じた総合収支)

わが国の国際収支は石油価格が高騰した48年度に総合収支で134億ドルの大幅な赤字を記録したあと,その後は貿易収支を中心に改善を続けてきたが,51年度は総合収支で33億ドルの黒字と,前年度の18億ドルの赤字から黒字に転じた。このような51年度の国際収支の改善は,貿易収支の黒字幅が引続き拡大したこと,長期資本収支が前年度を上回る流出超となったものの短期資本収支が流入超に転じたことによる( 第1-3表 国際収支の概要 )。

51年度の国際収支の動向を概観してみよう。まず貿易収支は111.5億ドルの黒字で前年度に比べ53.1億ドルの大幅な改善を示した。これは輸出が大幅に増加した一方,輸入がそれに比べて緩やかな伸びにとどまったためである。貿易外収支は貿易量の拡大から運輸収支の赤字幅が拡大(前年度比4.0億ドルの悪化)したことや,海外旅行者の増加(50年度254万人から51年度には293万人に増加)から旅行収支の赤字幅も拡大(同3.5億ドルの悪化)したことなどから,61.0億ドルの赤字と前年度に比べ7.3億ドル悪化した。移転収支はほぼ前年度並みの3.7億ドルの赤字にとどまった。

この結果,経常収支は46.8億ドルの黒字となり前年度に比べ45.5億ドル改善した。

長期資本収支は16.1億ドルの流出超過となり前年度に比べ13.5億ドル流出幅が拡大した。これは本邦資本で船舶,機械の輸出増加から輸出延払信用が10.4億ドルの供与超過となり前年度に比べ10.2億ドルの流出超過となったことによる面が大きい。また,借款は15.1億ドルと前年度に比べ2.2億ドル増加したが,直接投資は18.7億ドルで前年度に比べ僅かに減少した。一方外国資本による対日証券投資はほぼ前年度並みの流入超過(15.1億ドル)となったが,そのうち公社債(除く短期国債)の取得・処分をみると,本報告でみたように内外金利差や規制緩和等により大幅な流入超過(17.5億ドル)となった。さらに外債については前年度並みの13.8億ドルの流入超過となった。

短期資本収支は4.0億ドルの流入超過と前年度に比べ17.8億ドル改善した。これは船舶,機械の輸出増加から輸出前受金の引落しが前年度に比べ拡大した一方,原油の輸入増加などからBCユーザンス(輸出者が信用状に基づかないで振り出した期限付取立手形(B/C)を邦銀の海外支店が買い取ることによって代金の立替払をし,一方,輸入者からの代金取立を一定期間猶予する方法)等の輸入信用が大幅な流入超過となったことによる。

金融勘定をみると,外貨準備高は為替市場における円高傾向などを反映して51年度中28.2億ドル増加し,170.0億ドルと大幅に増加した。一方,為替銀行(為銀)の51年度末負債超過額は140.8億ドルとなり前年度末に比べ若干の改善となった。

こうしたなかにあって,わが国の開発途上国への資金の流れをみると,総額の対GNP比率は49年0.65%,50年0.59%のあと51年には0.72%に上昇した。このうち政府開発援助は49年11.3億ドル,50年11.5億ドルのあと51年には11.0億ドルと若干の減少となり対GNP比率でみても49年0.25%,50年の0.23%から51年には0.20%へと低下した。一方民間資金は49年10.5億ドルから50年に3.7億ドルに減少したあと,51年には15.6億ドルと大幅増加となった。

第1-3表 国際収支の概要

(高水準に推移した外債発行)

51年度の外債発行は,62銘柄,15.8億ドル(前年度は64銘柄,16億ドル)と前年度に引続き高水準であった。国際収支ベースでは償還等流出要因もあり13.8億ドルの流入となった。こうした高水準にのぼった外債発行の背景には,①海外起債市場が資金需要の低迷から低金利の余剰資金が豊富に滞留していたこと,②わが国企業活動の国際化につれて資金調達の多様化を図る一方策として外債発行のメリットが増大していること,③石油危機後とられた規制が緩和されたことにより,発行希望が累積していたものが許可,発行になったこと,などがあった。また,これを国内起債額と対比してみると 第1-4表 のようになり,次の点が指摘できる。まず,51年中(暦年)は外債は高水準を維待したのに対し国内起債額が減少したため外債比率(外債/国内起債+外債)は50年の18%から28%と大幅に上昇した。業種別にみると鉄鋼,一般機械,輸送用機械,精密機械などで外債比率の上昇がみられた。さらに51年には外債のうち転換社債が増加し,国内起債の転換社債を大幅に上回るようになったことが注目される。なお52年に入り国内長期金利が引下げられ内外金利差による外債発行インセンティブが減少している。

第1-4表 国内債・外債の発行(業種別)含む転換社債

(3) 対外資産・負債残高の推移

(短期調達・長期運用のパターン)

国際収支統計がフローとしての対外取引を表わしているのに対し,対外資産・負債残高表はストックとしての対外バランスを示しているが,ここで48年の石油価格高騰以降のわが国の対外バランスを,こうしたストックの観点から検討しよう。

わが国の純資産残高の推移をみると,43年から債権国に転じた後,経常収支の黒字幅拡大に伴い急増し47年末には139億ドルに達した。しかし48年秋の石油危機を契機とするわが国の経常収支の悪化が対外借入によってファイナンスされたため,48年以降は純資産が減少傾向にあった。しかしながら51年には先述のように既往最高の貿易収支黒字による経常収支の黒字への転化によって,51年末の純資産残高は96億ドルとなり3年ぶりに増加を示した。

この間の対外資産・負債の内容をみると,43年にわが国は債権国に転じて以来資本輸出国としての役割が国際的に要請されたこともあって,47年頃から海外直接投資,為銀の対外貸出は急増した。48年,49年には石油価格高騰から経常収支の赤字の下で長期資本収支が流出超が続いたため,これを外貨準備の取崩し,為銀の短期ポジションの悪化でまかなった。こうしてわが国の資金運用・調整の構造をみると,「短期調達・長期運用」という体質に変っていった。いま対外資産と負債を長期と短期とに分けてその構成を比較してみると,わが国の資産は長・短期資産がほぼバランスしているが,負債は短期負債の比率が7割を占めている( 第1-6表 )。

第1-5図 わが国の純資産の推移

(外貨準備を中心とする資産の増加)

51年の資産は年間97億ドル増加し,年末残高は681億ドルに達した。このうち,長期資産は45億ドル増加したが増加内訳では対外直接投資20億ドル,借款15億ドルの増加が著しい。また短期資産は年間51億ドル増加しているが,このうち38億ドルは政府部門の金融勘定,すなわち外貨準備高の増加であった。一方負債は年間71億ドル増加し,長期負債は非居住者による対日証券投資の増加を中心に年間48億ドル増加した。短期負債は民間部門の金融勘定,すなわち為銀の短期負債が20億ドル増加したため23億ドルの増加となった。

第1-6表 わが国の対外資産・負債残高

以上の結果わが国の51年末の純資産残高は96億ドルと前年比26億ドル増加した。このようにわが国の純資産は51年末に96億ドルとなったが,これを対GNP比率及び1人当たり純資産を先進諸国と比べると,わが国は西ドイツ,アメリカと大きな格差がある( 第1-6表 わが国の純資産の推移 )。

(4) 51年度の輸出の特徴

51年度の輸出(通関)は,総額705.9億ドルで前年度比23.9%増となり,50年度の減少(2.4%減)から著しい回復を示した。これを数量・価格要因別にみると,数量で17.0%増加(月の数量指数の算術平均による),価格で5.9%上昇(金額の伸び率÷数量の伸び率による)したことになり,上・下期別にみると上期は数量の伸びが著しく,下期は逆に数量の伸びは鈍化したものの価格の上昇が著しいという対称的な動きを示している。

以下,商品別,地域別動向をまじえて,51年度の特徴をみてみよう。

(先進国向け輸出が大幅増加)

51年度の世界輸入は,前年度に比べて金額ベースで16.6%増(数量ベースでは11.5%増)と,かなり高い伸びを示した。これを地域別にみると先進国の輸入は,前年度比17.4%増(数量ベースでは12.3%増)と高い伸びを示したのに対し,開発途上国の輸入は13.6%増(数量ベースでは8.3%増)となっている。このような世界貿易の動向を反映して51年度のわが国の輸出は,先進国向けを中心に高い伸びを示した。すなわち,前年度比でみると,アメリカ向け(36.6%増)が自動車,家電製品,鉄鋼などを中心に大幅に増加し,西欧向け(38.9%増)も自動車,船舶などを主因に高い伸びとなっている。また,東南アジア向け(14.2%増),中近東向け(23.3%増)ラテン・アメリカ向け(25.6%増)も比較的高い伸びとなった。一方,共産圏向け(2.1%増)は低い伸びにとどまった。

(機械機器の増加目立つ)

次に商品別に前年度比でみると,自動車(33.9%増)をはじめラジオ(53.3%増),テレビ(64.4%増)などの耐久消費財の伸びが先進諸国の個人消費の回復から著しい増加を示し,船舶も48年以降受注分の引渡しが51年度に集中したことから大幅に増加(24.9%増)した。また,一般機械(18.0%増)は原動機などを中心に,年度後半から急増を示している。とりわけプラント輸出については,承認統計ベースでは51年度80億ドルに達し,前年度比52.7%増と好調を続けている。通関ベースで資本財のなかの一般機械及び電気機械の輸出をみても大幅な増加(28.9%増)となっている。一方,鉄鋼は数量(16.0%増の3,583万トン)では史上最高を記録したものの,輸出価格が後半待直したものの前年度に比べて下落したことから,金額ベースでは緩やかな増加(11.9%増)にとどまった。また,繊維・同製品,化学製品は需要の低迷や石油価格高騰後の国際競争力の低下もあって,目立った増加を示さなかった。

(世界需要とわが国の輸出)

それでは,このように世界貿易の伸び(数量で11.5%増)を大きく上回った51年度のわが国の輸出(数量で17.0%増)の増加要因を輸出関数によって分析してみよう。

第1-8図 に示すように輸出数量は,50年度下期に急激な伸び(前期比16.9%増)を示したあと51年度上期にも増勢(同9.0%増)を続けたが,下期には若干減少(同0.7%減)した。この間の動きを要因別にみると,需要要因としての世界貿易の拡大が上期,下期を通してわが国の数量増加のプラス要因として働いたが,下期には世界貿易の伸びの鈍化(前期比でみて上期6.3%増から下期2.1%増へ鈍化)を反映して,プラス効果は半減している。次に輸出相対価格要因は,為替レートが上昇を続けたことから,年度を通して輸出増加にはマイナス要因となっている。また国内向け出荷の低迷から生じる輸出供給余力は年度を通して輸出増加にはマイナス要因として働いているが,下期には国内向け出荷の伸びの鈍化からマイナス効果が弱まっている。

第1-7表 商品別・地域別輸出動向

第1-8図 輸出(数量)の増減要因

第1-9図 生産能力と内外需別出荷の動き(45年=100)

(輸出供給余力は依然残る)

このように全体としての輸出供給余力は51年度には若干縮小してきているが,依然として国内向け出荷が不振であることから引続き高水準にある。これを業種別にみると, 第1-9図 が示すように,電気機械を除く多くの業種で生産能力の伸びに比べると国内向け出荷の伸びの弱さが目立っており,特に鉄鋼,一般機械ではそれが顕著である。

(5) 51年度の輸入の特徴

51年度の輸入(通関)は,総額673.0億ドルで前年度比15.1%増となり,50年度の7.1%減からかなりの回復を示したものの,輸出の伸びに比べて緩やかな伸びにとどまった。これを数量・価格要因別にみると,数量で11.9%増加(月の数量指数の算術平均による),価格で2.9%上昇(金額の伸び率÷数量の伸び率による)したことになる。このように51年度の輸入が比較的緩やかな伸びにとどまった要因としては,輸入総額の7割近くを占める輸入原材料を使用する業種の生産の伸びが緩やか(前年度比7.1%増)であったこと,輸入原材料在庫率の水準が年度間を通して高水準を続けたことなどがあげられる。

(原材料輸入は緩やかな増加)

いま輸入の動きを商品別に前年度比でみると,緩慢な国内景気の回復を反映して,原材料(12.4%増)は輸入全体の伸びを下回る緩やかな伸びにとどまった。特に輸入総額の33%(51年度)を占める原・粗油(12.6%増)が国内消費の伸び悩みを反映して数量要因(6.9%増)が働き低い伸びにとどまった。(価格は5.3%上昇)。また金属原料(12.0%増)は,鉄鉱石,非鉄金属鉱の数量の伸び悩みから低調に推移しており,繊維原料(26.8%増)も綿花,羊毛の値上がりを中心とする価格要因により増加したものの,数量では5.7%の増加にとどまっている。一方,木材(41.9%増)は国内の民間住宅投資の増加を背景に数量が増加(17.7%増)したことに加え,価格がかなり上昇(20.6%上昇)したことから大幅な伸びを示した。これら原材料以外の商品では,食料品が数量で大幅な増加(18.3%増)を示したものの,小麦をはじめとする穀類などの値下がりの影響が大きく,金額では低い伸び(7.9%増)となり,また,機械機器(14.5%増)は設備投資の不振(GNPベース,前年度比実質3.4%増)などから数量は4.7%増にとどまった。

(原材料在庫率は再上昇)

このように原材料輸入の伸びが緩やかであった背景の一つである原材料在庫率の動きを業種別にみると,ほとんどの業種で51年10~12月にかけて低下していた在庫率が,52年に入ると非鉄を除く鉄鋼,石油・石炭,繊維において生産の不振により再び上昇してきている。したがって,今後こうした業種の生産の増加がみられ原材料消費量が増加しても,それに見合った輸入の増加はここ当面はそれほど期待できないものとみられる。

第1-10表 商品別・地域別輸入動向

第1-11図 業種別輸入素原材料の動き(51年1~3月=100,季節調整値)


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