昭和52年

年次経済報告

安定成長への適応を進める日本経済

昭和52年8月9日

経済企画庁


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第II部 均衡回復への道

第5章 均衡回復への道

第3節 対外均衡への道

51年度は,世界の多くの国が国際収支問題に悩むなかで日本の輸出は大幅に増加し,一方輸入はそれに比べゆるやかな伸びとなったため貿易収支の黒字は大幅なものとなり,総合収支も4年振りの黒字となった。このことは,貿易取引に関して種々の国でさまざまの問題を引起こし,日本の製品に対する輸入制限の動きもみられた。これは,アメリカ,日本,西ドイツを除き各国の景気拡大テンポが緩やかで失業率が高水準にあるなかで,日本の輸出がアメリカ,EC諸国などの特定の地域に集中したことから,これらの国の経済に与える影響が大きかったことによるものである。

このような問題を引き起こさないようにするため,今後日本の対外政策はどのように進めるべきかを貿易取引,資本取引及び為替市場の3つの点から考えてみよう。

(貿易摩擦の解消)

まず基本的には国内需要の拡大を図っていくことが景気要因による貿易収支の大幅な黒字を縮小させ,貿易摩擦を取り除いていくことにつながる。とりわけ輸出については,特定地域に対する特定商品輸出の急増が相手国に与える影響を考え国内需要の拡大を図りつつ節度ある輸出を実現する必要がある。

一方,輸入においては,まず第一にその7割近くを占める原材料輸入は先にみたように輸入原材料使用業種の生産の緩やかな伸びに対応して従来ほどの大幅な増加はむずかしいとしても,今後国内需要の増大に伴い,次第に拡大することが期待される。しかし,わが国の原材料輸入は特定地域に集中しており原材料生産国の原材料生産に占める日本のシエアは高い。(例えば,1975年においてインドネシアのボーキサイト生産の99%,タイの天然ゴム生産の59%,ブラジルの鉄鉱石生産の33%,オーストラリアの鉄鉱石生産の16.9%(76年),石炭生産の49%を日本が輸入している)したがって,これらの原材料生産国の経済発展にとって,日本の安定的な原材料輸入が要請される。

第2に輸入の関税障壁や非関税障壁の軽減撤廃の問題については国内産業の現状に配慮しつつ相互主義に基づき他の先進国とも協調しながら東京ラウンドを積極的に進め,製品輸入の積極的な拡大を図る必要がある。

第3に工業製品の輸入拡大という観点からは,対外的に自由貿易主義を主張していくためにも国際的な競争力を失くしているものについては,国内産業の体質改善を進めるとともに国内産業構造の再編成を通じて水平的分業を進めていく必要がある。

(資本取引の拡大)

本年6月以降資本取引に関する為替管理の簡素化が進められているが,今後とも資本輸出を積極的に進める必要がある。まず民間部門の対外直接投資を積極的に進めることはわが国の輸出増加によって仕向地で生ずる摩擦を解消させるとともに対外バランスを回復するという観点からも望ましい。次に経済援助を積極的に推進し,ODA(政府開発援助)の目標を達成するよう,量的拡大を図るとともに質的にも条件の改善を図ることが世界貿易の持続的な拡大につながる。これは,経済援助によって援助受入国の経済体質の改善,国際収支問題の解決に協力することにもなるからである。

(為替市場の安定化)

為替市場の安定化は,貿易のみならずあらゆる対外経済取引の安定化の観点からも望ましいものである。今後この安定化を現行の変動相場制のもとにおいて実現していくためには対外均衡の達成及び国内経済の安定化と健全化を図っていくことが必要である。


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